前回のあらすじ
イバラ「感想欄でビスケビスケ言いやがってー!同じジャンプ漫画でもヒロアカのミルコぐらいの筋肉&ムッチリで済んどるわーい!」
アイ「……足はもっと太くない?」
イバラ「太くない」
アイ「太いって!!!」
イバラ「太くねぇって!!!!」
有馬かなにとって、苺プロダクションとの仕事は天狗の鼻をヘシ折られた痛い思い出の象徴である。
十秒で泣ける天才子役という肩書を重曹舐める天才子役と盛大に間違えられた挙句、
コネで採用されたと思い込んだ子役にケンカを吹っ掛け、よりにもよって演技でカウンターを食らって敗北した。
ある意味ハイレベルなメスガキ分からせを食らったとも言えるが、それだけで折れるようなら彼女も天才子役と言われていない。
生来の負けん気の強さがフルに燃え上がり、ライバル認定した『アクア』に負けじとレッスンに没頭した。
大御所ぶってスタッフをコキ使う悪癖も(気持ち程度だが)改善されたこともあり、間違いなくこの世代ではトップを張れる子役の一人。
そのかいもあって、とある歴史ドラマのレギュラーとして抜擢されたのだが……。
「いくぞ!毬栗(いがぐり)っ!!」
時代劇用の撮影所の中を、一頭の栗毛の馬がぱっからぱっからと疾走する。
その背に跨るのは、傾奇者風の衣装に身を包んだ米金 イバラ。
いや、今は演じている役名である『婆娑羅(バサラ)』と呼ぶべきだろう。
【婆娑羅剣風帳(バサラけんぷうちょう)】……とある文学賞を受賞した歴史小説、そのドラマ化作品だ。
戦国時代後期のIFである日本を舞台に、乱世の世をしぶとく、時におかしく、時に勇壮に生き抜く旅の女武芸者にして傾奇者・バサラの生涯を描く。
相棒である栗毛馬の『毬栗』と共に、旅の途中で拾った良家の少女『蜜姫』を、故郷である京の都まで送り届けるのが一応のストーリーの流れとなる。
蜜姫の身柄は時の政権・豊臣幕府の『ある重鎮』に狙われており、彼女が秘めた秘密を少しずつ解き明かしながら、各地で襲い来る刺客とバサラの剣戟が見どころだ。
小説の方はそれなりに長編であり、蜜姫を送り届けた後のストーリーも続くのだが……なにぶん全てをドラマ化したら大河ドラマ一本分ぐらいの尺が必要になる。
そのため、物語の第一章ともいえる『蜜の姫と金の蝗』のみを切り取ってドラマ化ということになったのだ……が。
『というわけでアクション映画並みのアクションできて女傑っぽさもある役者プリーズ!』
『そんな現代の巴御前いるわけねーだろ頭沸いてんのか』
こう言う問題が当然発生した。
スタントを混ぜてシーン切り抜きで対応する案も当然出たが、このドラマの成否は主役のアクションにかかっている。
原作小説にて、バサラは槍も刀も弓も扱える一流の兵法者、なおかつ馬術も達者で甲冑での組打ちは達人級ときた。
それに加えて細かい事を笑い飛ばせる度量もあり、故郷から遠く離れた場所に独りぼっちという環境から、過度にワガママになっている蜜姫の世話を焼くほどにお人よし。
そんなジェネリック巴御前の演技ができる女優が、この平和な現代日本でホイホイ見つかると……。
『このクソ牛がオラァ!絞め殺してローストビーフにしてやる!!』
な ん か い た 。
例のスペインにて行われた猛牛絞め落としの一件を聞いた『上』の人間が、彼女ならイケると猛プッシュ。
監督としても役者が自分でアクションできるならスタントマンの人数も削減できるため、これを承諾。*1
蜜姫役に売り出し中の子役である有馬かなを加え、刺客には看板役者と実力派を混ぜ込むことでメリハリをつける。
最終回で戦う刺客には、人件費に使える予算を吹っ飛ばす覚悟で大物を呼んだ、まさしく鉄壁の布陣だ。
そして、そんな『金のかかったドラマ』の第一話が撮影中。
そう、撮影中なのだが。
アクアにメスガキ分からせをさせられたあの時と同じ監督に、撮影風景を見て沸いてきた疑問をぶつける。
「ねえ監督」
「なんだ?」
「なんであの人スタント使わず自分で馬乗ってるの?」
「しらん、きっとバラドルだからだ」
そう、一話で撮る予定のシーンだが、流石にココはスタント必要だろ……って部分まで本人がこなしている。
撮影用にしっかり調教された馬とはいえ、着慣れない衣装を着たまま慣れた手つきで手綱を操るのは並大抵の事ではない。*2
なんで出来るのかと聞いてみれば、あっさり「実家の近くに乗馬クラブがあったので!」と笑顔で返され……。
「ふんっ!」
ヒュオン、と風切り音を立てながら放たれた矢が、セットの一部に追加された柱に突き刺さる。
捕まった蜜姫を助け出すため、刺客が雇った悪漢たちのアジトに火矢を放ち、それから突入するシーンだ。
流石に火事のリスクを考え、炎はCG処理で追加するのだが……。
「ねえ監督」
「なんだ?」
「なんであの人編集で火矢が刺さった感じにするはずのシーンで普通に柱に矢を撃ってるの?」
「しらん、きっとバラドルだからだ」
矢を放つフリだけして、直後に画面を切り替えて火矢が柱に刺さる……というシーンを撮るつもりが。
一応はリアルに見せかけるためにちゃんと弓の弦を張っていたらしく、そのまま矢筒に入ってたレプリカの矢を構えて撃って当てて見せた。
なんで出来るのかと聞いてみれば、これも「実家の近所に弓道場があったので!」とあっさり言い切られた。
お前の家の近所は武家屋敷か何かか?と聞いた面々がツッコみたくなるような状態である。
そして、肝心要、起承転結の転に当たるアクションシーン。
「やあやあ、女子一人に随分としてやられているな?魔羅をどこぞで落としたか!宦官は大昔のモノだと思っていたがな、ハッハッハ!」
「なんだとぉ!」「出あえ出あえ!コヤツを仕留めろ!!」
炎上シーン用のセットに移動し、実際の炎とCG処理の炎を混ぜることが前提の撮影上にて、クライマックスの殺陣が展開される。
屋内での戦いということもあり、刀を抜いて向かってくる悪漢に対し、バサラは短めの手槍を携える。
バサラが持つ特徴的な武具の1つで、ロケットペンシルのような構造で柄の長さを伸縮できるので手槍から長槍まで組み替えられる……というモノだ。
脇差と手槍を構え、迫りくる悪漢の刃をひらりと避け、逆に打ち倒し、通り過ぎざまに脇差が一閃。
数に任せて壁に追いたてられたと思いきや、なんと背後の壁を駆け上がり、壁を足場に悪漢の背後を取って一撃。*3
最初の刺客はチュートリアル的な小物であり、金だけが取り柄の悪徳商人。
自分が雇った悪漢・浪人達があっさり片付けられたと見れば、あっさりと仕事を捨てて逃げ出そうとして……。
その刺客が逃げる先の扉に、バサラが投擲した脇差が突き立つ。*4
くるくると回転して飛んでくるのではなく、ダーツのように真っすぐにすっ飛んできた。
「ひいっ……!?」
「餓鬼の命を啜って肥え太ろうとする下衆が……一人だけ逃げおおせられる道理もなかろう?」
天誅、の一言の後に画面が暗転し、第一話のシメとなる蜜姫とバサラの対面。
座敷牢に押し込まれ、初対面かつ返り血と煤まみれのバサラに、蜜姫は恐怖を抑え込んだ涙目のまま、それでも気丈に言い放つ。
「京の都まで……私を、守らせてあげる!」
「ハハハ!その胆力は気に入った! では精々、守らせてもらうとしよう!」
そして……燃える屋敷を後にした二人と一頭による、京の都までの長く短い旅が始まったのだった。
というのが一話のおおよその流れである。割とド王道な剣客モノといえばその通りだが、出演者である有馬かなの視点からすると。
「ねえ監督!?ラストシーンまで一切スタントどころかワイヤーアクションも使わずにやり切ってるんだけどおかしくない!?脇差投擲までほぼノーカット無編集なんだけど!?」
「それがバラドルだ、慣れろ」
「あんなバラドルいてたまるかぁ!」
蜜姫役を終えた後のかなが、盛大に監督にツッコミを入れに来た。
次々と襲い掛かる悪漢との殺陣も、手槍と脇差持ったまま壁を駆け上がって跳躍するのも、脇差をマンガみたいに投擲するのも、全て無編集。
せいぜい燃える屋敷での戦闘という要素のために、あとでCGで炎を追加する程度しか編集の余地が無い。
監督の方も別に受け入れているわけではなく、現実逃避交じりに「まあいい作品撮れるんだしいいか」と思ってる状態に近い。
これが主役以外のアクションなら『主役を食っちまうからカットしないとなぁ』と頭を悩ませているところだが、主役だったらむしろドンドン目立ってもらわないと困る。
「あ、監督!どうでした、アタシのバサラ!」
「ん?ああ、100点だ。いやまあお前以外にアレやれそうな女いねぇからどうやっても100点未満がないんだが」
「なんてお得な仕事……!これでギャラもいいとかすごいなドラマ!!」
「今の一連の無茶ぶりをこなしたうえで『お得』と言える神経はすげーよ……」
そんなボケツッコミをカマしている二人の元へ、歌舞伎衣装を脱いで私服に戻ったイバラが走って来た。
蜜姫用の衣装はシンプルな和装だが、バサラ用の傾奇者風衣装は少々着脱に手間がかかるのだ。
気軽に会話する監督とイバラをよそに、かなの心中は穏やかではない。
前回はコネとバーターで入って来たと思われた『アクア』に演技で負け、今度は上の人間が推薦してきたイバラの超人っぷりが現場を支配している。
負けず嫌いな彼女にとっては、(一応は)ヒロイン役である蜜姫のポジションは大役なのに、完全にイバラ/バサラに食われてしまったのだ。
「どうしてあの双子といい、苺プロダクションは役者以上に役者やれるヤツばっかりなのよー!【アイ】のバーターで出て来ただけだと思ったのにー!!」
「ん?あれ、かなちゃん苺プロと仕事したことあんの? ってか、双子?」
「あー……俺もちょっと目ぇかけてる子役がいてな。ソイツに対抗意識燃やしてるらしい」
ふぅん、と軽い調子で返しつつ、イバラは僅かな違和感を覚えた。
(……かなちゃんは間違いなく今の子役世代のトップ勢だ、それと共演してるのに『なお監督が目をかける子役』?並みの子役ならかなちゃんに存在感食われて印象も残らないはず……しかも『双子』なんてわかりやすい特徴持ち。んでアイが最近出た映画となると……ああ、そういえばホラー映画の撮影があるとかチラっと言ってたな。アタシホラー苦手だから詳しく聞かなかったけど)
米金 イバラは決してバカではない。いや、ちょっと頭蛮族なところはあるが、間違いなく頭は回る方だ。
小・中学生の時点で翻訳家だった父の影響もあって七ヶ国語を覚え、馬術や弓道に関しても感覚ではなく知識でしっかり学習している。
IQテストの結果は『125』。凡才と天才でギリギリ天才側に踏み込める程度には出来の良い脳みそを搭載して生まれて来た。
そんな彼女なので、当然事務所の『次に来そうな候補』なんかもチェックしていたのだが……。
(『無い』。そもそも苺プロダクションは弱小事務所、そう人数も多くないし、かなちゃんに匹敵するような子役がいたら顔か名前ぐらい覚えてるはず。何よりアイのバーター?素質のありそうな子役をアイが出る予定の映画に突っ込んだ?)
実際は『その子役の方がメインでアイをバーターにした』上に、それをやったのは目の前にいる監督なのだが、流石にソコまでは思い至らない。
なにより、今のイバラにとって重要なのは、何度もクソみたいなトラブルの起きる海外ロケに巻き込まれたことで得た『厄介事の予兆』を感じ取るカンが、ちりちりと首筋を這っていることだ。
まあ、そもそもロケに出発した時点では働かず、例のコモドドラゴンの時もロケ地である南国の某島に到着して初めて働いた程度のカンなので、精度はお察しだが。
「ねえ、かなちゃん?その子役の名前って憶えてる?」
「なによ、同じ事務所でしょ? ……確か、アクアって芸名だったわよ。本名は知らない」
「なんだ、何か気になる事でもあったのか?」
「いやー……アイドルのカン的なモノが、なーんか厄介事の気配を感じ取っちゃって」
「「ああ、じゃあ外れてるわ。アイドルじゃなくてバラドルだし」」
「言ったなコイツら!?」
(アクア、かぁ。今度ちょっと調べてみようかな。日本でこのカンが働いたの、北海道ロケでヒグマが出てきて以来だし)
うがー!と監督とかなに襲い掛かり、必殺の『七福神になるまでほっぺ抓り』を食らわせながらも、自分のカンが働いた『双子の子役』が頭の隅をチラついていた。