B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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前回のあらすじ

イバラ「どうやらグッピーが死にそうな温度差を作ったヤツがいるらしいな。どこのドイツだ」

いーちゃん「どう考えてもイバラちゃんでしょ!?あと、イバラちゃん」

イバラ「……さすがに衝撃のカミングアウトすぎた?」

いーちゃん「お父さんとお母さんのこと、パパとママって呼ぶんだ……」

イバラ「そっちぃ!?いいじゃん別に!」


バラドル・ザ・オリジン その2

 

 

「交通事故、って……」

 

「あー、その部分はそこまで複雑じゃないかなぁ。日本のどこにでもある、年に何十万人と巻き込まれてる交通事故の1つだったし」

 

 

事も無げに言うあたり、既にイバラの中では『片付いた出来事』なのだろう。

 

だがしかし、両親の死というのはそう簡単に乗り越えられるモノではないはず。人によってはその後一生引きずるナニカを残す事だってある。

 

そういう意味では、イバラも『片付いた事』ではあっても『吹っ切れた事』ではないらしい。

 

 

「アタシのパパ、翻訳家でさ。十ヶ国語以上がペラッペラの語学星人だったんだよね!

 ママと結婚する前は、それこそ世界中旅してたって言ってたし。

 仕事で貯金して旅に出て旅費無くなったら貯金して、みたいな」

 

「はぇー……あれ、じゃあお母さんとはどう出会ったの?」

 

「ママは結婚する前は有名な登山家だったらしくてさ、旅行先で意気投合したんだって」

 

「フィジカルはお母さん譲りかぁ……」

 

 

語学星人なインテリ自由人な父親と、そこに山があるからだ!な自由人の母親。

 

ステマ配合*1ばりにまぜこぜされた結果生まれたのが最強で無敵のバラドルなあたり、遺伝子の不思議を感じる。

 

なにはともあれ、そんな二人が旅先で出会い、愛し合い、結ばれ、生まれたのがイバラということらしい。

 

「ママは専業主婦と兼任で自伝を書いててさ。でも、マスコミとかは嫌いだったから。

 取材はゼ-ンブお断りだったらしくて……名前知ってるのは登山マニアぐらい。

 パパはゴリゴリに磨いた外国語パゥワーと培ったコネで翻訳家に専念。

 腰を落ち着けて日本でアタシを産んで育て始めた、ってわけ

 まあ、娘(アタシ)からすると結婚十五年目でも新婚気分なドロ甘両親だったけどさ」

 

(もうこの時点でだいぶ濃いんだけど、イバラちゃんの来歴……)

 

 

本人は軽い調子で語っているが、血筋だけ見ればインテリ×フィジカルエリートというサラブレッド配合だ。

 

もちろん血筋だけで全てが決まるわけではないが、イバラに関しては両親の資質を足して二で割るどころか足して二をかけるような成長をしているのだから。

 

 

「そんな家だからさ、そりゃーもう家には洋書がずらーっと並んでるんだよね!

 アタシが生まれる前に死んじゃったパパの方のおじいちゃんとおばあちゃんが家を遺してくれたから、仕舞う場所には困ってなかったけど」

 

「そ、そうなんだ……あ、もしかしてイバラちゃんがマルチリンガルになったのって!」

 

「まあ予想通りっていうか、パパのマネして家の洋書読みたがったりさ……。

 なんとなくパパやママと同じ言葉を喋ろうとしたのが発端なんだよね。

 パパっていう最高の教師がいたから、仕事の合間に教えてもらえたし」

 

 

語学星人な父親だけでなく、母親も海外の山に挑戦するためにある程度の外国語が読み書き会話できていたのだ。

 

子供が親のマネをしたがるのは当然というもので、最初は両親が共通して覚えていたフランス語から始まった。

 

その後は興味のある言語や読みたい洋書の言語を優先して覚えていったのである。

 

 

「で、偶然家にあった本で興味のある英語の本が無かったから後回しになってたんだよねぇ……」

 

「マルチリンガルになろうと思ってなったんじゃなくて、興味があるコトに手を出してたら自然となってた、ってこと?」

 

「そゆコト。トレーニングだって、元はママが引退後も続けてたヤツをマネしてただけだし。

 でもさ、外国語覚えるのも筋トレも、パパとママは喜んでくれてたんだよね。

 やっぱり、子供が親と同じジャンルに手ぇ出すのはうれしかったみたいでさ」

 

 

安定した体幹等はその賜物だが、それはそれとしてここまでのメスゴリラに育ったのは彼女の才能が主な原因である。

 

現役時代はより厳しいトレーニングを行っていた母親もここまでのメスゴリラではないので、イバラが若干の突然変異なだけだ。

 

 

「話を戻すけど、なんだかんだ言って仲がいい家族だったんだ……うん、中学二年の、冬までは」

 

 

『それじゃ、イバラ。パパとママは久々のデートだから、家でいい子にしてるんだぞ?』

 

『あんまり夜更かしはしないようにね?それと、お夕飯の後のお菓子もほどほどにする事!』

 

『わかってるって!それとパパ、明日からは英語教えてくれるって約束、忘れてないよね?』

 

『ああ、もちろんさ。アメリカ英語でもイギリス英語でもなんでもござれだ!』

 

 

「……結婚記念日だからさ、パパとママは久々にデートに行ったんだ。映画を見て、ちょっとお高いレストランで食事して、帰ってくるはずだった」

 

「もしかして……その時に?」

 

「ああ。ごくごくあり触れた交通事故。

 原因は居眠り運転のトラックが対向車線からはみ出してきて正面衝突。

 どっちの車も大破、互いに即死だった……らしい。正直、あんまり覚えてない」

 

 

気が付けば母方の祖父母に連れられて、病院へ行って、葬式をして……。

 

頭も心も空っぽのまま、事務的に全ての義務を終えた事だけは覚えているらしい。

 

だが、数年たった今でも当時の事を細かく思い出そうとするとぼんやりする程度には、イバラにとって両親の死は突然過ぎた。

 

 

「……友達も、先生も、とうぜんおじいちゃんとおばあちゃんも心配してくれたし、

 遺産とかアレコレはおじいちゃんが雇ってくれた弁護士さんが全部やってくれたよ。

 家も、維持費まで払って残してくれてるしさ……だけど、あの時はひたすら辛かったんだ」

 

 

無理に元気にふるまおうとしても、作り物の笑みを張り付けられるほど器用ではなく。

 

カラ元気すら長続きしない彼女に、元々の明るいイバラを知っている面々は気遣いと思いやりを持ち続けた。

 

だが、それこそがイバラにとって最もツラい時間になった原因なのである。

 

 

「パパとママとアタシの家は神奈川県にあったんだけどさ。

 どーしても思い出ばっかりちらつくから、整理がつくまではママの実家に行くことにしたんだ。

 ……事故の事も、心の事もさ。流石に熊本まで行けばパパとママの影もちらつかないし」

 

 

段々と、いーちゃんは『これは私が聞いていい話なのか?』という思いに囚われ始めた。

 

彼女とは友人だと思っているが、同じグループのメンバーとして一線を引いている自覚もある。

 

一方的に恩人とも思っているが、それを踏まえても、背負うには重すぎる過去だった。

 

 

「熊本についてさ、パパに教えてもらうはずだった英語を学ぼうとしたんだよ?

 なのに、勉強用の教材に目ぇ通しただけで頭ぐらぐらするんだよね、今も。

 アタシはさ、パパに英語を習う約束をして、あの日パパとママを見送った。

 

 自分で学び始めたら、もう二度とパパに教えて貰えないって、自分で認める事になるんだ。

 おかしいでしょ?とっくに死んでるって頭じゃ分かってるのに」

 

「……それが、今も英語だけは学んでない、理由?」

 

「うん。英語ドリルも英会話教室も、なんならビデオ学習もぜーんぶダメ。

 学校の英語の授業すら寝てやり過ごしてたから、おかげで英語の成績はずーっと『1』!」

 

 

『追試と補修でなんとか高校は出られたけどキツかったなー』と語る口調は、恐ろしいことにヤケになった風でも歪んでもいない。

 

【何か】があったのだ。全てを飲み込んで……とはいかないまでも、もう一度過去を背負って歩き出せる転換点となる【何か】が。

 

いーちゃんは確かに、あふれ出てくるイバラの過去に気圧され気味だ。

 

だがしかし、彼女がその状態から立ち直れた【何か】を知ることができれば、自分もまた変われるのではないかという思いをいだき始めていた。

 

 

「当時はふさぎ込んでたから、熊本の中学にも当然馴染めなくってさ。かといって家にいてもおじいちゃんとおばあちゃんに気を遣わせちゃうしで……まあ、勝手に針の筵を作ってたんだよね」

 

「それで、どうしたの?」

 

「とにかく『ここにはいたくない!』って思いが元の家にいた時からずーっとあったから、衝動的にお年玉貯金全部引き出して一人旅に出た。書置きだけ残して」

 

「ふさぎ込んでる人間の行動力じゃなくない!?」

 

「まあゲームやらマンガやらに結構使ってたから、移動費用節約のために徒歩だけど。

 まあなんとかその日の内には県境超えてたよ、線路の脇の道をひたっすら歩いてさ」

 

「スタンド・バイ・ミー!?」*2

 

「迷惑な撮り鉄みたいに線路には入ってないぞ、いーちゃん」

 

 

二人きりになると、どうにもいつもの調子が戻ってきてしまう。いや、あるいはこれでよかったのかもしれないが。

 

県境を越えれば、既に生まれ育った土地を遠く離れたイバラに、土地勘などあるはずもない。

 

コンビニで最低限の食事を済ませ、ひたすら先へ、先へ……なおかつ、人里から離れるように進んでいった。

 

街中で親子連れを見かけるだけで、死んだ両親と自分がそれらに重なって辛かったのだと言う。

 

 

「ところが、一晩中歩いた上に慣れない土地の山中まで行っちゃったせいで無理が出てさ。

 途中で足滑らせて、山中の段差で盛大に落下、足くじいて動けなくなっちゃって。

 キノコ狩りにきてたおじいちゃんに発見されて、近くの病院に連れてってもらわなきゃ死んでたかもねぇ」

 

「……イバラちゃんにも体力の限界ってあったんだね」

 

「そりゃそうでしょ、アタシだって人間だよ?今とはスタミナも体格も雲泥の差だけどさ。

 身長だってそこからオーディションまでに10㎝伸びたし、ベンチプレスの記録も増えたし」

 

(ああうん、つまりびっくり人間がびっくり人間になる前のお話なんだ、これ)

 

 

なにはともあれ、いーちゃんにもイバラが英語を学ばない/学べない理由はよくわかった……が。

 

それに付随するらしい『イバラがアイドルを目指した理由』について、ここまででさっぱり出てきていない。

 

母親はマスコミ嫌い、父親も別にドルオタというわけでもなし。

 

イバラの人生に、アイドルという存在へのフックがまるでないのだ。

 

 

「一応、頭打ってる可能性もあるから検査入院することになったんだー。

 おじいちゃんとおばあちゃんは、もう夜になるから明日迎えに来るってことになって。

 余計に罪悪感募ったけど、何にせよ検査終わったら帰ろうって思ってたんだけど……」

 

「? ……何かあったの?」

 

 

ここまでは、神妙な顔といつものノリの中間ぐらいで話してきたイバラの顔が、一気に神妙寄りに傾く。

 

肘を太ももについて、俗にいうゲンドウポーズを取りながら、ぽつりぽつりと語りを再開し始めた。

 

 

「……その日の夜、電気の消えた病室で、アタシは妙な気配を感じて目を開けた」

 

「え、なに?なんでいきなりホラーテイストになってるの?イバラちゃんオカルト苦手じゃなかったっけ?」

 

「明日会うおじいちゃんとおばあちゃんになんて謝ろうかと考えてたアタシは気づかなかった。

 6つのベッドがある病室で、いつの間にか備え付けのテレビが点いてるんだ。

 アタシが気付かない内に誰かが点けたらしいが……その前に、7人目の人影があった」

 

「いやいやいやまってまってまって怖い!語り口が怖い!?」

 

「ベッドは6つ、患者は6人。ならこの7人目はなんだ?

 両手に何かを持ち、よくよく見れば何事かをテレビに叫んでいるソレの正体は……」

 

 

ごくり、といーちゃんが生唾を飲み込み、イバラが覚悟を決めたように軽く息を吸い込む。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うおおおおおおおぉぉぉ!!アイ────ッ!!うおおおおおおおぉぉぉ!!輝いてるぞおおおおおぉぉぉ!!!』

 

 

「両手にサイリウムを持ち、何故か病室でB小町のDVDを見ながら器用に小声で愛を叫ぶアイ推しの医者がいたんだ」

 

「別の意味で怖いんだけど!!?」

 

「宮崎の病院ってすごいんだな……」

 

「宮崎県の人に怒られるよ!?」

 

 

*1
競馬用語。ステイゴールドという『頭が良くて性格凶暴で小柄で頑丈な馬』と、メジロマックイーンという『頭が良くて性格悪くて大柄な馬』の血筋を掛け合わせる配合のこと。 なお、大体の場合『すごい頭が良くて性格が凶暴かつ性悪なアンチクショウ』が誕生する。強いけど。

*2
1986年のアメリカ映画。『あるもの』を探して線路を歩いていく少年たちの青春映画。





悲報・グッピー全滅
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