B(バラドル)小町と引き立て役B   作:ボンコッツ

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前回のあらすじ

イバラ「というわけでアタシのツテでいーちゃんに仕事を紹介するぜ!」

いーちゃん「えっ」

イバラ「ガンダムのチョイ役だ、今から演技指導行くぞ!」

いーちゃん「えっ、えっ!?」

イバラ「それと並行してガンダムシリーズを徹夜でマラソンして知識もつけるんだよあくしろよ」

いーちゃん「!!??」

※この後ジャブとして初代~Gセイバーまで時系列順に見せられました。


バラドルとプロデューサー

 

トレーニングというのは、アイドルにとって非常に厄介なモノである。

 

鍛えるのを止めればあっという間にボディラインは崩れるし、肌のハリツヤやダンスのキレ、歌うのに必要な肺活量も落ちる。

 

かといって、鍛えすぎれば筋肉の過積載により別方向に『アイドルらしさ』から離れていってしまう。

 

ダンスレッスン等で消費カロリーを稼ぎつつ、必要なトレーニングを計算しながら自身のスペックを上げていく。

 

一朝一夕、闇雲に積み上げただけでは破綻する。賽の河原の石積に等しい拷問のような作業。

 

しかし、これは白鳥が水の下で必死に足を動かしているのが見えないのと同じで、ファンに見せていい姿ではない。

 

血の滲むような鍛練を見えない場所で積み上げて、推してくれるファンにはその成果だけを叩きつける。

 

だからこそアイドルは輝く、だからこそアイドルに惹かれる。

 

この世界において嘘は武器だ、とどこぞのドルオタ医師は言った。

 

それはこういう側面……即ち、己の苦労や努力といった汗臭い部分を覆い隠す才能も含まれる。

 

 

(ああ、そうだ。だからこそアイツに『アイドルの才能』は乏しい)

 

 

鬼畜プロデューサー……本名『鬼瓦 祐樹(おにがわら ゆうき)』にとって、米金 イバラはどこまでいっても『アイドルとしては到底一流に届かない』素質の持ち主だ。

 

身長が高すぎる、体の線が太すぎる、顔立ちは整っているが可憐さはなく、それらを嘘で覆い隠す器用さもない。

 

無駄に頑丈な心身で、体当たり気味に芸能界という壁にぶつかっていき、大半が弾き返され落ちていく横でそれをブチ破り、よじ登り、駆け上がっていく。

 

そんな鬼瓦は、イバラの『心理』をこの上なく正しく理解していた

 

 

『笑顔が陰るのは嫌だ』

『自分も相手も笑顔でいたい』

『クソな世界をクソのままじゃ終わらせない』

『例え自分をピエロにしようが、誰かに笑顔を振りまけたのならそれでいい』

『どれだけ輝きが陰ろうと、日はまた昇るのだから』

 

 

(アイツをバラドルバラドルとバカにするようにハッパかけてきたが、おめぇは間違いなく天性のバラエティ向けタレントだよ、イバラ)

 

 

バラエティ番組、それも体を張るタイプの企画は、はっきりいって心身の消耗が非常に激しい。

 

日本全国、あるいは世界まで含めてお茶の間でピエロ扱いされながら、全力を振り絞って課題をこなさなければ先はない。

 

中にはあまりにハードな世界に心身を病み、薬に逃げたり自殺したり……という末路を迎えた芸能人もいる。

 

リアリティショー等はその筆頭で、アメリカやフランスでは自殺者が問題になった事もある……発祥地アメリカだし、フランスでは自殺者出てもシーズンやり切った番組もあるが。

 

その点において、ヘコんでもすぐ駆け上がってくるイバラはこの上なくバラエティ向きだ。

 

 

『英語』の件も当然把握しているので念のため精神科にも連れて行ったが、検査結果は『軽度の心的外傷後ストレス障害』。

 

両親の喪失と英語教育の約束がトラウマとして結びつき、英語を学ぼうとすると両親を失った時の虚無感や喪失感がフラッシュバックする……というわけだ

 

が、不意のフラッシュバックもなければ不眠症等もなく、英語を学ぼうとするとアウトなだけで字幕付きの映画を見ても何の影響もない。

 

なんなら本人の好きな映画の1つが『ハリー・ポッター』シリーズで、字幕バージョンで全作+ファンタビまで一気見してもピンピンしていた。

 

即ち『英語に関わる』事は何の問題もないため、日常生活の影響はごくごく軽微。英会話教室や英語教材を使って本格的に学ぼうとすると気分が悪くなるという状態だ。

 

PTSDの典型的な行動である『トラウマの原因になったモノへの回避行動』だけが残留している状態らしい。

 

 

(学習番組やらで英語を勉強させられる、みたいな超限定的なシチュエーションを除けば、アイツはどんなバラエティにも使える逸材だ)

 

 

そう、イバラはバラエティ番組で大概の事をこなせる。

 

新人芸人と共に司会にイジり倒されたり、芸能人料理対決でワイルドな手つきで中華料理を作ったり。*1

 

水着撮影も躊躇なくこなし、いろんな意味でグラマラスすぎる肢体でビーチを駆けまわったり。*2

 

クイズ番組で名回答と珍回答を連発したり*3、某逃げ切ったら賞金の番組で一回出演したら殿堂入り扱いされたり。*4

 

体当たりな海外ロケでの放送事故寸前なトラブルによるお宝映像ばかりではなく、そういう『マトモな』バラエティにも縁深い。

 

 

(そうだ、苺プロダクションに入ってすぐのオーディションでお前を『推した』時から分かってたさ)

 

バラエティ方面にも販路を広げようとした斎藤社長の采配でスカウトされた、何人ものバラエテイ向けタレントを育て上げてきた元有名プロデューサー。

 

現在はフリーと言う名のFIRE生活を送っていたが、いい加減退屈な隠居に飽きて暇つぶしにスカウトを受けてしまった結果、入社してすぐにこの『原石』を見つけてしまったのだ。

 

流石にクセが強すぎると採用を渋る斎藤社長に『俺ならコイツを日本一のバラドルにできる!』と猛プッシュしたのが三年前。

 

コネをフル活用して捻じこんだ海外ロケから一気にスターダムを駆け上がり、今ではB小町においてアイに次ぐ売れっ子、苺プロダクションにおける二本柱の一角にまで成長した。

 

 

 

(だからこそ、お前ならこなせるはずだ……やって見せろよ、イバティー!)

 

「なんとでもなるはずだァー!!!」

 

『上がったー!上がった上がった上がりました!

 なんと自身の記録をさらに塗り替える【220㎏】

 女子ベンチプレス日本記録【210㎏】を、ついに更新いたしましたーッ!!』

 

 

人気バラエティ番組【益荒乙女(マッスラーオトメ)】

 

流行りの女性アスリートを招いてパフォーマンスを披露してもらったり、時には無茶ぶりじみたチャレンジに挑戦させたり。

 

芸能人チームとのハンデ戦や、専門外のスポーツを体験させて驚異の身体能力を発揮させたり。

 

スポーツ全般を総合的に『娯楽』として扱うバラエティ番組である。

 

当然だがイバラは何度もこの番組に招かれているが、それだけではなく。

 

なんと番組の撮影中に女子日本記録を2つ叩き出したことで、番組内のレジェンドとなっている。

 

『女子ベンチプレス日本記録(210㎏)』

『女子100m走(11秒00)』

 

これら二つをよりにもよって生放送二時間スペシャルで達成した

 

その回の最高視聴率はなんとジャスト30.0%

 

テレビ離れが進みつつあるこのご時世では*5、当然人気バラエティ番組と言っても異常すぎる数値であり、今でもぶっちぎりの番組最高視聴率記録である。

 

その後も番組関係者から『呼ぶと2~3%ぐらい視聴率が変わる』と言われる幸運の招き猫扱いをされており、

 

海外ロケ等で日本国内にいない時や本業であるアイドル業を除けば、苺プロダクション内でもかなり優先的に出演スケジュールを確保している番組なのだ。*6

 

そして今回、自身が達成した記録に挑戦!という事で、あの時と同じレギュレーションでベンチプレスと100m走に挑んだのだが……。

 

 

『行ったーッ!!まさに韋駄天の生まれ変わり!100m走の記録は【10秒74】

 日本記録更新ッ!文句なしッ!これが日本が誇る最強で無敵のバラドルだーッ!!』

 

「誰がバラドルだ司会者この野郎!アイドルだっつってんだろ!!」

 

 

息を切らしながら放送席に突っ込んでいくイバラを「なーにやってんだか」と見送りつつ、カメラマンにあのアホの愚行もきっちり撮っておけと指示を出す。

 

いつも通りの数字が取れるハプニングを見送りつつ、ぼんやりと考える。

 

 

(あれでアイドルとしてのスタイル保つためにトレーニング制限してるから意味わかんねぇよな……)

 

 

本気で鍛えたら今度こそビスケ(真)*7になりかねないので、筋肉が付きすぎないようにトレーニングしていて、これだ。

 

そりゃあ全日本柔道連盟から抗議来るわ、と納得してしまった鬼瓦なのであった。

 

なお、手放す気は当然ない模様。

 

 

*1
本人曰く、世界で一番尊敬している偉人は『陳健民』氏。著書は何冊も家に揃えているらしい。「お茶の間に料理で笑顔を届けられる、リスペクトすべき先人」とガチ語りしたこともある。

*2
おそらくファンの少年たちの性癖を盛大に歪めた。本人は「グラビアの仕事とかこねーかなー!」と言っていたが、そのせいか後にスポーツウェアのカタログ撮影の仕事が来た。

*3
なんだかんだ教養はある方だしサブカルにも強いのだが、ド天然なのでド忘れしたり勘違いしたりが絶えない。

*4
ハンター三人に囲まれた状況から壁走りで包囲網突破してそのまま逃げ切った。

*5
他に視聴率30%超えを達成したバラエティ番組は、その殆どが70年代後半~90年代後半までの番組である。

*6
出られるかどうか怪しい時は斎藤社長の所にチーフディレクターが土下座しに来るのがもはや風物詩である。社長の胃薬の量は増えた。

*7
ハンター×ハンターのキャラクター、主人公と相方の女師匠ポジ。普段は可憐な美少女ロリババアだが、真の姿はゴリゴリマッチョの巨女。

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