キルアが斬る!   作:コウモリ

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第3話 ①

「…ということでいいんだな?大臣?」

「はい、陛下」

 

純真無垢な瞳を向ける幼き皇帝の問いに、下卑た笑みを浮かべながら大臣オネストが答えた。

その様子を一人の男が絶望的な表情で見つめていた。

 

「そ、そんな!!どうか…、どうか御慈悲を皇帝!!」

「連れていけ」

 

無慈悲な大臣の言葉。男は最後の抵抗とばかりに声を張り上げる。

 

「皇帝陛下!!あなたは大臣に騙されているんだ!!どうか、どうかその目をお覚ましに…」

「早く連れていけ」

「陛下ぁぁぁーーーーーーーー!!」

 

悲痛な叫び声を上げながら、男は屈強な兵士たちに両腕から持ち抱えられ、謁見の間から連れ出されていく。その様子を大臣は手に持った肉に齧り付きながらニヤニヤと眺めていた。男がいなくなるのを確認すると、皇帝は大臣の方へ顔を向けてニッコリと笑う。

 

「これでまたも我が国は平和になったな」

「ええ左様で。流石は陛下の御判断です」

「褒めるようなことではない。民の上に立つ者として当然のことだ」

「これはこれは。御無礼を申し上げまして大変失礼いたしました」

「よい。大臣のおかげで逆賊の企みは事前に阻止された。大臣はこの国に必要な人間だ。これからも頼むぞ!」

「ハハ!及ばずながら!!」

 

この一連のやり取りを一部の側近たちは苦々しげに見つめていた。彼らは知っている。ああして皇帝の右腕ぶっている男がその裏でどれだけ残虐な行いや汚いことをしてきたか。表情には出さないが、大臣に対しての不信感を内に募らせている。

先程連れていかれた男もそんな側近の一人であった。国を憂い、自らを顧みず大臣の非道を告発したのである。しかし、結果は見ての通り。必死の告発は証拠なき誹謗と見なされ、大臣への背信は国家への反逆と彼は極刑を言い渡されたのであった。

 

(あの大臣を何とかしなければこの国に未来は無い)

 

それがこの国の良識ある者たちの共通する見解であった。だが、その術も力もない彼らはただ顛末を見守ることしか出来ないでいた。明日は我が身と震えながら。

 

 

(全く、これだから先の見えない馬鹿共は…)

 

一方で大臣はそんな彼らの胸中などあっさりと見透かしていて、憤りと軽い落胆を覚えていた。

 

(揃いも揃って…その頭は飾りか?今のままでは、帝国など簡単に淘汰されてしまう。それ程迄に他国が力をつけているというのに、まだそんな甘い考えでいるのか?)

 

やれやれとばかりに大臣は肩をすくめる。

 

(連中はあらゆる手を尽くして我が国土を奪いに来る。和平だなんだと表向きは甘言たらしてな。連中にくれてやるものなど塵一つ無いが、野蛮な連中のことだ。帝国をただ古いだけの国と高を括って、今度は力ずくで来るだろう。そう遠くない未来にな!)

 

大臣は苛立たしさを隠そうともせず、荒々しく肉に齧り付く。

 

(だが、間もなく…、間もなく完成するのだ。連中との軍事力の差を埋めることの出来る兵器がな。ククク…)

 

クチャクチャと口内の肉を噛み締めながら、大臣は僅かに口角を持ち上げた。

 

(アレさえ完成して量産が行われれば、戦争になっても最後に勝つのは帝国だ。勝った暁には無能な連中は帝国を非難するだろう。が、愚民共の支持などいらん。全世界を治めるのが帝国だという事実、それさえあればな。我が帝国が世界地図を塗り替えてやる)

 

「どうした大臣?何か嬉しいことでもあったのか?」

「…いえいえ、これからあるのですよ陛下。近い将来、必ず」

「そうか。大臣が言うのだから間違いないだろうな。ならば期待しよう」

「ええ。是非とも御期待下され陛下」

 

(それまでは大人しく言うことを聞いていて下さいよ陛下…)

 

大臣は目だけは笑わずに幼い皇帝を見下ろした。

 

(クックック、あの男は素晴らしいものをくれたよ。アレと帝具の力を組み合わせれば、恐れるものは何もない。力を貸してくれたあの男に報いる為にも、是非ともアレは綺麗に咲かせてやらんとな。クックック…)

 

ゴクリ、と大臣は満足そうに口の中のものを飲み込む。まるでこれから世界をも飲み込むんだと言わんばかりであった。

 

「…ところで大臣。聞きたいことがあるのだけど」

「はい、陛下。何で御座いましょう?私めに答えられることでしたら何でもお答えしますよ?」

「うむ。この間、誰かが話しているのを聞いたのだけど…」

「はい」

「暗黒大陸って知っているか?」

「…………」

 

大臣の動きが一瞬止まる。

 

「申し訳ございません陛下。そのような名前は初めて聞きました」

「そうか。大臣が知らないなら大したことでは無いのだろうな」

「ええ、その通りで」

 

(チッ、誰が溢したかは知らんが、余計なことを…。後で問い詰めて処罰だな)

 

大臣は心の中で舌打ちする。

 

(…暗黒大陸なんぞに興味でも持たれたらたまったもんじゃない。あんなものに手を出すのは愚かな連中だけでいいのだ。あー、怖い怖い)

 

大臣は誰にも見られぬように身震いするような仕草をした。

 

(…まあ、連中は暗黒大陸にお熱のようだからな。その間にこちらは準備を整えさせて貰うとしようか。その為にも邪魔な革命軍とナイトレイドの連中を何とかしないとな。やれやれ、邪魔物ばかり多くて困るわい)

 

「どうした大臣?そのような顔をして…疲れたのか?」

「…いえいえ。そんなことはございませんよ」

「そうか…。大臣はこの国の要。大臣にはいつも元気でいてもらわないとな」

「ご安心を陛下。こう見えても私めは健康体でございます。そう易々とは倒れませぬ」

「そうか!」

「ええ、そうでございますとも」

 

二人は顔を見合わせて笑った。その光景が微笑ましいものに見えないのは言うまでも無い。


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