キルアが斬る!   作:コウモリ

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第3話 ②

「いただきまーす」

「いただきます!」

 

キルアとアルカは両手を合わせてそう言うと、目の前に用意されていた食事に箸をつけた。

 

「パクパク…美味しいね、お兄ちゃん!」

「ムグムグ…ああ、なかなかイケるな」

 

二人はそう言うと顔を見合わせながら笑った。これだけ見ていれば、本当に何の変哲も無い年相応の仲の良い兄弟である。

 

「まだまだありますから、いっぱい食べてくださいね」

 

眼鏡の女性、シェーレがにこやかに微笑みながら言った。その口振りから食事の用意をしたのは彼女のように思えるが、実のところ彼女は一切何もしていない。食事の用意をしたのはキッチンの方でこちらをチラチラ見ている茶髪の少年、タツミであった。

 

「じゃ、遠慮なく。お代わり頂戴」

「あたしも~」

「あ、私もいいですか?タツミ」

「…………」

 

タツミは何か言いたげな表情のまま三人へご飯をよそってあげる。そのすぐ側でタツミと同様に食事の用意をしていた黒髪の少女、アカメが大きな皿を持ってきた。皿の上には巨大な魚の丸焼きのようなものが乗っている。

 

「タツミ、ちょっとそこを退いてくれないか?」

「…………」

「タツミ、聞いているのか?」

「…あのさあ」

 

タツミはご飯をよそう手を止めた。

 

「何でコイツらに飯食わしてんのさ!?」

 

タツミはそう言ってしゃもじをキルアたちへ向けた。その行動を見てアカメが眉を八の字にする。

 

「タツミ!しゃもじを人に向けるな!行儀が悪いぞ!」

「いや、そうじゃなくてさ…」

「タツミ、マナーが悪いですよ」

「いや、シェーレまで…」

 

双方、それも味方から攻められて狼狽えるタツミ。

 

「そうだよ。俺たちお客様なんだぜ?丁重に扱えよな」

 

キルアがさも当然のような顔で言うと、タツミは「お前が言うな」と言いたげにわなわなと震えていた。

 

「あー、疲れた疲れたー」

 

そう言って食事場に入って来たのはツインテールの少女、マインであった。朝の訓練を終えた後の様で、彼女の言う通り顔に多少の疲れが見える。

マインはキルアの顔を見るなり、露骨に嫌そうな顔をした。どうやら彼女は自分の気持ちに素直な性格と見える。

 

「アンタ…!!」

「あ、ツインテの女」

「人を髪型で呼ぶな!!…アンタらここを出ていったんじゃ無かったの?」

「おいおい、食事くらいそんな険悪なの止めようぜ?」

「五月蝿いわね!いいから答えなさい!」

「お兄ちゃんをいじめちゃダメよう」

 

そう言って二人の間に入ったのはアルカであった。幼い瞳でマインのことをじっと見つめている。

 

「アルカ、お兄ちゃんは大丈夫だ」

 

キルアは優しくそう言うと、愛おしそうにアルカの頭を撫でる。それがとても心地いいのか、アルカは幸せそうな顔でキルアの方へ顔を向けた。

キルアはアルカを撫でながらマインへ向き直る。

 

「…俺もそうするつもりだったんだけどさ。飯くらい食ってけって言うから、せっかくだしそうさせて貰ったんだよ」

「誰がそんなこと言ったわけ?」

 

マインが問い質す。すると、シェーレが躊躇なく手を挙げた。

 

「私ですが…いけなかったでしょうか?」

「シェーレ…」

 

マインがジト目で見つめる。

 

「こいつが昨日何言ったか分かってんの?私たちを馬鹿にしたのよ!?」

「はぁ…そう言えばそうだったような気がします」

 

シェーレはそう言うと、人差し指を顎に当てながら首を傾げてみせた。そんな彼女を見て、マインは一気に肩の力が抜けていくのを感じた。

 

「…何かカッとなった私が間抜けみたいだからもういいわ」

「はあ…」

「タツミー!早くご飯よそってー!」

 

マインはドカッと席に座ると、そう言ってタツミを呼んだ。タツミはまだ何か言いたげにキルアたちのことを見つめていたが、少ししてからマインの分の料理を取りにキッチンへ戻っていった。

 

「…………」

 

食事が運び込まれるまでの間、マインはキルアとアルカのことを改めて見つめていた。キルアからは、昨日のような威圧的なオーラは感じられない。寧ろ、今なら難なく倒すことが出来るのでは?というくらいに、隙だらけである。こうして見れば、見た目通りの幼い兄弟なのだが、マインはどうしても昨日のキルアの姿を忘れられないでいた。彼女がナイトレイドに入って暗殺稼業を始めてからそれなりの年月が経っているが、キルア程圧倒的な相手は初めてであった。しかも、それが幼い子供であったのだから、彼女の積み重ね、築き上げてきたプライドが一瞬で粉々にされたかのようでショックも大きい。

 

(何なのよ…本当に)

 

自身に渦巻く感情を一言で表すならこれ以上の言葉はない。

そんなこんなで気が付くとタツミが食事を用意していてくれたようで、目の前に料理と食器が並べられている。

 

(フン!どうせもうすぐいなくなるんだから少しの辛抱よ!)

 

マインは気に入らないといった感じでプイッとキルアから目を背けると、一先ずは食事とばかりに箸を手に取り目の前の料理を口へ運び始めた。

 

 

「ごちそーさま」

「ごちそうさま!」

 

一通り食事を終えたキルアとアルカは先程と同じ様に二人で手を合わせて言った。

 

「いやー、食った食った!」

「お腹いっぱいだね。お兄ちゃん」

 

満足そうな顔で二人は顔を見合わせる。基本的には庶民的な料理ではあったが、取れたての食材をそのまま料理したかのような新鮮さで中々に美味であった。昨夜のこともあったので、最初は毒でも入っているのではとキルアも警戒はしていたが、特にそんなことはなく、普通におもてなしをしてくれたのは意外であった。

 

「ねえねえお兄ちゃんお兄ちゃん」

 

食後、少しして食器などが下げられる中、アルカがキルアの袖を掴んだ。こういう時は大抵遊んで欲しいというサインである。時々キルアより大人な態度をすることもあるが、アルカはやはり年相応の子供である。

 

「ん?何だ?」

 

キルアが尋ねるとアルカは満面の笑みで答えた。

 

「死んで!」

 

アルカは指をピストルの形にしてキルアへ向ける。その瞬間、和やかだった場の空気が緊張に包まれた。皆の動きが止まる。

 

「…ああ、いいぜ」

 

キルアは一切の躊躇なく言った。アルカは嬉しそうに指のピストルの照準をキルアの眉間へ向ける。思わずタツミは食器を洗う手を止め、二人の元へ駆け寄ろうとした。

 

「お、おい!おま…」

「BAN!」

 

タツミが止める間もなくアルカは口でそう言ってピストルを撃つ真似をする。と、次の瞬間キルアの首から上が消えた。頭部を失ったキルアの体は呆気なくバタンと後ろへ倒れる。

 

「!?」

 

タツミたちはその光景を信じられないといった表情で見つめる。自分たちを圧倒した少年がそんなあっさりと。それも彼が深く愛していた“妹”の手でやられるなど、想像だにしなかった。

 

「あはははは!」

 

場が静寂に包まれる中、アルカはとても楽しそうに笑い声を上げていた。


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