キルアが斬る! 作:コウモリ
ご了承下さると助かります。
キルアたちの前に姿を現した痩せ型の男は手を挙げて無害であるというアピールをする。
「この通りだ。俺は君たちの敵じゃない」
「それ、信じろって言うの?無理だね」
キルアは即答する。
「大体、敵じゃない。なんて、まんま敵の言う台詞じゃん」
「参ったな…」
痩せ型の男は頭の後ろをポリポリと掻いた。その表情からは本当にこちらへの敵意も危害を加えるつもりも無いように見える。しかし、慎重なキルアはその程度じゃ警戒心を解くようなことは無かった。
「…いや、このくらい慎重だからこそ、か」
それを見てとった男はそう呟くと、納得したように頷いた。そして、もう一度話し掛けてくる。
「…もう一度だけ言う。俺は君たちの敵じゃないし、君たちに危害を加えるつもりもない。それを証明する手段は無いが、取り敢えず話だけでも聞いて欲しい」
「そうやって話をするのが念能力発動の条件かも知んねーのに、ハイそうですか。って聞くわけねーだろ。大体、おめー誰だよ?」
「いやはや。本当に慎重なんだな、君は。恐れ入ったよ」
痩せ型の男は困り果てたといった様子で言った。だが、キルアの言うことも尤もなのである。念を使う者は、その人間の性質や性格などによって様々な能力になる。キルアが自身のオーラを電気に変えるのもその数多ある能力の一つでしかない。使う人間によっては、鎖を具現化したり、人を操ったりすることだって出来る。念能力には無限の可能性があるのだ。そして、念能力にはもう一つの特性がある。それは、制約。念能力の発動などに条件を設けることで、威力を莫大に増幅することが可能なのだ。キルアの友人であるクラピカはこれを用いることでその時点では格上であった相手と同等以上に戦うことが出来た。だが、制約には大きなリスクが伴う。発動条件であれば、それをクリアする前に相手にやられてしまうかも知れないし、禁止条項であれば、それを破ってしまった時の反動で命を落とすこともある。クラピカはとあるルールを破ると死ぬという制約を自らに課した。故にそれだけの力を得たのだ。制約はその条件が厳しくなればなる程に能力の上昇が大きくなっていく。高位の念能力を使う人間は必然とその制約を自らに課している場合が多い。
目の前の男もその可能性がある以上、余計なことをさせるのは命取りになる。だが、相手の正体も目的も分からない内に殺ってしまうのは逆にリスクが高い。キルアは相手を探りつつ、何時でも動けるように身構えていた。
「すまないが、何者かという問いについては答えることは出来ない。目的についても同様だ」
「あっそ。じゃ、死ぬ?」
「そ、それも困る。今、ここで無意味に死ぬわけにはいかないんだ。…何とか上手い折衷案は無いだろうか?」
「そんなものは無いね。信用して欲しければ、全部話せ。嘘偽り無くな」
キルアは冷たく言い放つ。痩せ型の男は観念したかのように大きく息を吐いた。
「…仕方無い。全てを話すわけにはいかないが、ある程度の情報は開示するとしよう。取り敢えずはそれでいいか?」
「それを判断するのはアンタじゃないけどね」
「やれやれ…、手厳しいな」
痩せ型の男は苦笑した。
「…それじゃあ話すが、まず君たち…というか君に接触したのは、君がプロのハンターだったからだ。そうだろ、キルア=ゾルディック君?」
「…俺のこと知ってんだ?それも、プロのハンターってことまで」
「ああ。知っている。何故知っているか…までは、まだ答えることは出来ないがね」
「で、俺がプロのハンターだったからって、何で接触してきたんだよ?」
「…プロのハンターならば一緒に仕事が出来るかも知れないと考えたからだ」
痩せ型の男は真剣な表情でキルアのことを見つめる。
「あまり詳しくは言えないが、俺はこの国の調査を行っている」
「調査?」
「…この国はV5に加盟していない独立国家だ。詳細な動きは中々伝わってこない。だからこそ、それを把握しておく必要がある」
「アンタはその調査員ってワケか。アンタ、もしかしてハンター協会の人間か?」
「ああ」
「随分とあっさり認めるんだな?」
「まあ、帝国を調査する必要があるのは何処か。そして、その場合は誰に依頼をするかを考えれば自然とそこに行き着くからな。そこを秘匿する意味は殆ど無いだろ?それに、逆に言えばここまで明かすことを覚悟しているということでもある。その意図は是非とも汲み取って欲しい」
「で、俺に何して欲しいワケ?」
「ああ。仕事、というのはその調査の手伝いだ。君をプロのハンターと見込んで依頼したい」
「…もしも断ったらどうすんの?俺たちはあくまで観光でこの国に来てるワケでさ。長居するつもり無いんだよね」
「別にどうもしないさ。俺は君たちのことを忘れるから、君たちも俺のことを忘れてくれればいい。それに仕事もそんな長期に渡るものじゃあない。二週間程度でいいんだ」
「二週間?随分短いんだな」
「…実は近く極秘裏でこの国へ視察が来る。その時に調査員の増員も予定されているから、それまでの臨時手伝いでいい」
「何で臨時の手伝いがいるんだよ?今まで一人でやってきてたみたいだし、わざわざ俺に声掛ける必要無いんじゃないの?」
「…実は、これまた近い内にエスデスが帝国へ召集されるらしい」
痩せ型の男は深刻そうな表情を浮かべた。
「エスデスという人物は相当な実力者だ。並みの戦力じゃない。それが帝国に加わるのだから、今まで通りバレずに調査するのが難しくなりそうなんだ」
「で、俺の手を借りたいってワケか」
「ああ。とは言え、調査のメインは俺がやる。君は俺の補佐というか、仕事の分担を頼みたいんだ」
「で、俺に何かメリットあんの?」
「報酬、か。単純に金銭では君は動かないんじゃないか?」
「時と場合にもよるけど、今は金じゃ動かないね」
キルアはキッパリと言った。実際問題、キルアたちは現状金に困ってはいないのでそこに特別メリットは見い出せないのは確かである。
「…そうか。そうだな。例えばこういうのはどうだろうか?」
痩せ型の男はチラッとキルアの背後にいるアルカをチラッと見ると、そっとキルアに耳打ちした。と、キルアの表情が変わる。
「…それ、マジ?」
「ああ、善処しよう」
「…………」
キルアは考え込む。背後のアルカをチラッと見た後、コクリと頷いた。
「…悪くないな。分かった。その依頼受けてやるよ」
キルアは決断した。それを聞いて安堵したのか、痩せ型の男は初めて笑顔を見せる。
「良かった。君がいれば百人力だよ。…じゃあ、自己紹介をしよう。俺の名はカガリ。カガリ=レン=ラクターダノ。カガリでいい。ハンター協会からの依頼でこの国の調査及び報告を行っている。これからよろしくな」
そう言ってカガリと名乗った痩せ型の男は手をキルアへと差し出した。キルアはそれを握る。
「カガリ、ね。俺のことは知ってんだろ?」
「ああ。針人間事件を通して君のことは知っている。そして、後ろの子も恐らく何らかの形でその事件に関わってるんだろ?君のその常に庇っている様子を見て何となく気付いたのだが」
「それはノーコメントだね」
「肯定…と、受け止めさせてもらうよ。ああ、安心してくれ。これ以上の詮索はしない。さっきも言ったが、ここで無意味に命を落とすわけにはいかないからな」
そう言ってカガリは冗談っぽく笑う。尤も、本当に余計な詮索をすれば、冗談でなく消されてしまいそうだと内心ヒヤヒヤであったが。
「…早速、本題に入るとしよう。まず、仕事についてだが、その前にこの国の情勢については知っているか?」
「まあ、ある程度は。でも、詳しくは知んないよ」
「そうか。では今、帝国軍と革命軍が争ってることは知っているか?」
「まあ、その程度は(そういや、そんなこと言ってたな。あのナジェンダって女)」
「その二つの軍に潜伏して情報を得るのが、今までの俺の仕事だ。そして、君にやって貰いたいことについてだが、それはナイトレイドの監視だ」
「ナイトレイド…だって?」
キルアは丁度彼らのことを思い出したところであった。同時に随分と懐かしい名前を聞いたものだと思ったが、実際は彼らと別れて半日も経ってはいない。
「この国を騒がせてる暗殺集団だ。名前くらいは聞いたことあるだろ?」
「…まあね」
聞いたことがあるどころか、今朝まで一緒にいたのであるが、キルアはそのことを言わなかった。
「ナイトレイドは革命軍側の組織なんだが、俺は一つの軍と捉えている。そのくらいの実績を残しているからな」
「その口振りだと、ナイトレイドも調査対象だったの?」
「ああ。一応な。だが、先のエスデスの件で、これからは帝国軍と革命軍の二つに専念しないと下手すりゃ足下掬われかねないと俺は感じていた。だから、君に声を掛けたんだ」
「なるほどね。俺をナイトレイドに専念させることで、仕事がし易くなるわけだ」
「そういうことだ。理解してくれて助かるよ」
カガリはニヤリと笑った。
「自慢じゃないが、俺は戦闘能力は下の下だ。プロハンターでも無いしな。ぶっちゃけると、真正面からならこの国の警備兵相手にも勝てないかも知れない。だから、捕まって拷問…なんてことになったら、あっさりと情報を漏洩するのは間違いないと思う」
「…本当に自慢じゃねーな」
「自分を弁えてる、と解釈してくれたら助かる。尤も、捕まったらすぐに死ねるよう色々仕込んではいるがね」
「悪いけど、アンタ本当に死ぬ勇気あんの?」
キルアが尋ねると、カガリは即座に首を縦に振った。
「ハッキリ言って、それはある。死ぬこと自体はそれほど危惧してはいないんだ。だが、拷問は本気でヤバイ。死ぬことより辛いことの代表格みたいなものだからな」
(俺は別に平気だけどね)
幼い頃から拷問に耐える訓練をしてきたキルアには無縁の話であった。
「ところで、一つ気になってたんだけどさ」
「ん?何だ?」
「さっき報告って言ってたけど、どうやって協会と連絡取ってるワケ?ここ、ネットも電話も繋がんねーだろ?」
「ああ、それなら簡単だ。協会とは俺の念能力で連絡を取り合っている」
そう言うと、カガリはオーラを体に纏わせ始めた。
「…見せてやるよ。俺の念能力をな」
その瞬間、周囲の空気が変わるのをキルアは感じた。