キルアが斬る!   作:コウモリ

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第8話 ①

「元帝国大臣のチョウリが殺された…」

 

神妙な面持ちでナジェンダが告げた。そのニュースに、ナイトレイドのメンバーはナジェンダ同様に表情を曇らせる者、イマイチピンと来ていない者とに分かれていた。

キルアは当然、後者である。

 

「そのチョウリって何者なわけ?」

 

キルアは率直な疑問をぶつける。その背後で密かにタツミもキルアと同調していた。

 

「…チョウリ殿は腐った帝国において数少ない良識派で、まず第一に民を思いやる善良な人間だった」

「そんな人が殺された…って、それ明らかに大臣の差し金じゃないですか!」

 

タツミがそう言うと、ナジェンダはコクッと頷いた。

 

「惜しい人間を亡くしたということもそうだが、それよりも厄介なのがコレだ」

 

ナジェンダは何やら一枚の紙を一枚取り出す。それは、ナイトレイドのマークが入ったものであった。

 

「それ、ウチのマークですよね?それがどうしたんですか?」

「…革命軍によると、これが現場に落ちていたそうだ」

「!!」

 

今のナジェンダの言葉に、今度はナイトレイドのメンバー全員が同時に反応する。

 

「それって…でも、そんなあからさまなもの、普通は偽者の仕業だと思うんじゃ…?」

 

タツミがそう言うと、ナジェンダは首を振る。

 

「普通ならば…な。だが、残念ながら普通ではないんだ。殺害には帝具が使われていた」

「!?」

「お前たちも知っての通り 、帝具使いは数が限られている。革命軍の中には我々の仕業だと疑う者も出て来ているようだ」

「そんな…」

「まんまとナイトレイドの仕業にされてるってことかよ!」

「…………」

 

皆が一様に多少なりとも不快感を示す。

 

「…つーかさあ」

 

キルアが口を開いた。

 

「そんくらいで疑われる程度の関係だったら、ちょっと革命軍との同盟を考え直した方がいいんじゃないの?」

「ハァ?アンタ何言ってんの?」

 

マインが突っ掛かる。昨日の今日ということで、あちらこちらに包帯を巻いていたが、どうやら動けるまで回復したようだ。

 

「何言ってんの、はてめーだよ。ツインテ女」

 

キルアが反論する。

 

「…あのなあ。新入りが言うようなことじゃねーと思うけどさ。今の俺らの立場を本当の意味で理解してんのか?」

「…どういう意味だ?」

 

タツミが尋ねた。キルアはやれやれと肩をすくめる。

 

「革命軍にとっての俺たちって何?って話だよ。こんなあからさまな偽装工作で疑うレベルの関係性だったら、仮に大臣ぶっ殺して全て解決した時に革命軍がどう出るかって、考えたことあんの?」

「…どう出るって言うんだよ?」

「いいか?平和になった時、連中にとって俺らの存在は百パー邪魔になる。当然だよ。俺らは手配書レベルの暗殺集団なんだから。それと繋がりがあったなんて、当然バレたくは無いよな?だったら、その後どうするのが一番手っ取り早いと思う?」

「!!お前、まさか…」

「…俺が革命軍のリーダーなら真っ先にナイトレイドを消すね。終戦のどさくさに紛れて跡形も無くさ」

 

キルアのこの発言に場の空気が変わる。メンバーに多少なりとも動揺が走っていた。その中でナジェンダただ一人が不動であった。キルアが言った可能性を予め想定していたからであろう。

 

「…ああ、言っておくけど俺は別に革命軍を疑えって言ってるわけじゃないぜ?そういう可能性も考慮して動かねーと、何時足元を掬われるか分かんない立場に俺たちはいるってこと。革命軍が俺らを疑う以上はそれを覚悟した上で行動しねーとって話だよ。なあ、ボスさんよ?」

 

キルアはナジェンダへ視線を移した。ナジェンダは煙草を一本咥える。

 

「…無論、その可能性を無視していた訳じゃない。そうならないことが理想だが、もしもそうなった時でも出来得る限りの手は打ってるつもりだ」

「そ…。ま、そう言うんなら何かしら考えてんだろーな」

(どっちみち俺には関係ねーしな)

 

冷たい話だが、キルアがナイトレイドにいるのはあくまで仕事である。ここに骨を埋めるつもりも、ましてや心中するつもりもない。いざとなったらあっさりと見捨てるつもりであった。それでも敢えてこうして問題提起しているのは、深入りしてみせることでそういう考えを感じさせないことや、わざと憎まれ口を叩くことで悪感情を植え付けさせ、キルアが裏切っても後腐れなくさせるなど様々な思惑があったのだ。そこまで配慮をしているということは、ある意味ではキルアは甘いのかも知れない。

 

 

「なあ…」

 

タツミが口を開いた。

 

「だったら、尚更誤解を解いて悪評を広めさせない方がいいんじゃないのか?いい印象を持って貰った方が革命軍だって俺たちをそんな消そうとか思わないと思うし」

「とっくに国の要人や関係者を何人も手に掛けてんのに、今更汚名返上したって無意味だろ。どの道、俺らは臭い存在に変わりねーよ。尤も、それも覚悟の上で行動してると思ってたけどな」

「…………」

 

タツミは今更ながらに自らの立場を思い知る。大臣さえ倒せば平和になり、全てが上手くいく。無条件でそう思っていた。だから、同胞である革命軍に討たれる可能性までは考慮してはいなかった。

それは、他の仲間たちもそうであった。言われてみれば、革命軍がずっと自分たちの仲間でいてくれる保障は無いのだ。そういう覚悟も無いままいきなり背中から刺されれば、如何にナイトレイドが手練れ揃いでもあっさりとやられてしまうことは想像に難くない。

 

「……そうならない為にも、今は仕事の話だ」

 

ずんと重くなった空気を変えるかのようにナジェンダが口を開いた。

 

「その偽者から予告状が来た。疑われている我々としてはこれを見過ごすことは出来ない」

「予告状…!」

「…予告状には殺害予定時刻と具体名は書かれて無かったが、良識派の文官を殺すとあった。その時間に外出予定のある文官は二人。これらを隠れて警護しつつ、現れた偽者を討つ。これが今回の任務だ」

「では、二つの部隊に分かれるということでしょうか?」

 

シェーレが尋ねた。彼女もマイン同様に満身創痍であるが、会議に参加していた。

 

「いや、三つだ」

「三つ?」

「…実はエスデスがとうとう帝国へ戻って来た」

「!!」

 

エスデスのことを知っているであろうブラートは、ナジェンダのその言葉に少し緊張を見せる。一方で、キルアはカガリより既にその情報を得てはいたが、特に感じることも無かったのでノーリアクションであった。

 

「もう一つの部隊にはエスデスの様子を見て貰いたい」

「ハイ、ハーイ!それ、あたしがやる!」

 

真っ先に手を挙げたのはレオーネであった。

 

「…いいのか、レオーネ?」

 

ナジェンダはレオーネの顔を心配そうに見つめる。

 

「大丈夫 、大丈夫!」

 

レオーネは笑顔で自信満々に胸を張ってみせた。

 

「噂のエスデスってのをこの目で見れるんだろ?だったら願ったり叶ったりだね。それにさ…」

 

レオーネの目が一瞬、鋭くなる。

 

「チャンスがあったら、いいんだよね?殺っちゃっても」

「……ああ。チャンスがあれば、な」

「よっしゃ!」

 

レオーネはガッツポーズを取った。相当な自信があるのだろうか。

 

「無理だけはするなよレオーネ」

「分かってるってボス」

「あ。俺も行きたい」

 

キルアもそう主張する。エスデスを一目見ておくのはこの先の為にもなる。また、カガリやナジェンダらが畏れるエスデスとやらに興味があるのも事実であった。

 

「いや、キルアにはブラート、タツミと共に竜船へ行って貰いたい」

 

ナジェンダがそう言ってキルアの主張を蹴った。

 

「あれ?挙手制じゃないんだ?」

 

キルアが不満げに言った。

 

「竜船はその名の通り、竜のように大きい船だ。可能ならば、なるべくそこに人数を割きたい。分かってくれるか?」

「…ま、いいけどね」

 

主義主張への個人的な反論はともかく、ボスからの特に理不尽でも間違ってもいない命令に逆らうと、後々に支障が出て来そうだ。と、キルアは渋々納得した。

 

「もう一人の文官はアカメとラバックで頼む」

「はい、ナジェンダさん!…お前と組むのは久々だな。よろしく頼むぜアカメ」

「ああ」

 

ラバックとアカメは互いに頷き合った。

 

「マインとシェーレはとにかく体を休めろ。万全にして、何時でも動けるように回復しておけ」

「はい!」

「はい!」

 

マインとシェーレは包帯姿のまま答えた。この状態だと彼女たちが任務に参加するのは難しいだろう。待機命令は妥当であると言えた。

 

(…取り敢えずキルアをこっちの命令に従えさせたか。悪いが、お前の主張を軽はずみに尊重は出来ない。何が目的か、まだ分かっていないものでな)

 

ナジェンダはそう心の中で呟くと、キルアへ視線を移しながら煙草の煙を吐いた。

 

「…これ以上、優秀な人材が失われてしまうのはこの国の未来にとっても大きなマイナスだ。革命軍の信頼を取り戻す為にも、偽者の好きにさせるな!必ず討ち取れ!……では行け!!」

「ハイ!」

 

キルアを除く全員が声を揃えた。

 

 

 


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