IS学園において留年を回避する方法を100字以内で書きなさい。 作:その愛に解なし
多分、この世界は間違っている。
まず、私は間違っていない。ということは逆説的に世界が間違っているのだ。それ以外の答えはない。
私は手元に届いた『IS学園』の合格通知とその他諸々を見てそう思った。
両親はてんやわんやの大騒ぎ。そりゃそうだろう。定期テストの度に「自分達の出来の悪さが遺伝したんだ」と嘆いている娘が、まさか天下のIS学園に合格したのだ。フィーバー状態ブッチギリでサンバを急に踊り出してもおかしくないテンションだ。私も逆の立場だったらマハラジャを踊っているかもしれない。
だが、悲しいかな。明らかに手違いだ。筆記も実技も恥を晒して帰ってきた私に合格通知が来るなんてそれしか考えられないのだ。手違いじゃないなら、不当な採点でもない限りあり得ない。
そもそも、一次の書類審査を突破した時点で怪しい。「こんな機会、もう二度とないのよ」というお母さんの助言により、真なる意味で記念受験のために送った書類だったのに。それがどうして国家レベルのエリートや金持ちがひしめく狭き門を通ってしまったのか。内申総合32が逆に「天才タイプかも」とか勘違いされたのだろうか。
いや、それはまだ良い。一次審査を通る人は、何だかんだ言いつつ毎年この辺の中学からも出ていた。
それよりも問題は二次試験だ。筆記は当然のことながら点数で切られるだろうし、実技に至っては試験監督の目の前で行うのだ。どう手違えれば一般的な家庭で育った私がIS学園に受かるんだ。
両親はせっかく受かったんだから行っておけと言う。お金のことは気にするな、とも。こう言ってくれる家庭で育ったことは本当に感謝すべきだろう。IS学園は公立どころか国立だ。競技場ではない。入学や授業料は援助系のあらやこれやを差し引きしても費用は有名私立ぐらいにはかかってしまう。だから、そう言ってくれる両親は本当に子供思いなのだろう。
だが、些か楽観的過ぎる。
そもそも両親はIS学園が何足るか以前にISについての理解すら怪しい。さしてISに興味もなく、一般常識範囲のことしか知らない私から見てもそうなのだ。世間的にはかなり常識知らずのラインに当たるはずだ。
IS───インフィニット・ストラトス。
稀代の天才、
このあまりにも時代をフライングした発明を世界中に知らしめた『白騎士事件』辺りからも、ISがどれほど規格外の存在であるかは分かる。なんせ2000発以上のミサイルをたった1機で完全迎撃だ。こんな芸当、既存の兵器じゃ絶対にできなかった。
試しにお母さんにアラスカ条約について質問をしてみたが、反応は薄かった。おいおいおい、大事な一人娘がこれから入学する学校に関わることなんだぜ? もうちっと興味持ちましょうよ、お母さん。
アラスカ条約というのはISの兵器運用を禁止するという内約の条約だ。
これは当たり前だろう。たった1機で既存の兵器がほとんど完全に無力化できるものを開発理念通りの『宇宙開発』なんぞに使うわけがない。
当然、兵器運用は必然だし、それを禁止する条約に主要国は乗らないといけない。だから、ISは"兵器運用が前提"のテクノロジーなのだ。そもそもからしてインフィニット・ストラトスという名前なんだから。本当に宇宙開発を念頭において開発したものになら『成層圏』という名前はあまりにもナンセンス過ぎる。
そんなISを勉強する学校がIS学園。特別認可によりIS学園や学園敷地内はどこの国にも属さず──言うまでもなく形式上のことで実際には日本の管轄だが──ISのエキスパートと機体が在中している敷地内は"世界一安全な場所"と言われている。
ようするに、世界各国からエリートや金持ちが大量に集まるヤバい場所だ。そこら中に政治やら戦争やらの火種が転がっている庶民には縁のない場所だ。
私は自身の合格を"手違い"だと思いたいが、こんな世界的に重要な機関が手違いなんぞするわけがない。ということは私の合格には意味があるわけだ。そうやって考えていけば、馬鹿な私でも推測程度は立てられる。まぁ、立てたところでどうだって話ではあるのだが。
今のところの最有力候補はスケープゴート説だ。
IS学園は全寮制かつ外部からの介入を原則完全遮断する学園。そして世界各国からエリートばかりが集まっている。当然、毎日の生活にはストレスがつきまとうだろう。そんな時、何の後ろ楯も持たない一般庶民がいればどうなるか?
そんなのいじめるに決まっている。
いじめはしなくても酷い目には遭うだろう。というか合格通知を送ってきやがった時点で既に酷い目には合っているが。
どうしようか。
考えれば考える程、IS学園入学への忌避感が強まっていくのを感じずにはいられなかった。
そうやって現実逃避をかましていると、親から呼ばれる。ほいほいと向かうと衝撃の一言。
「学校にね、合格通知が来たって言っちゃった~」
私は無言で倒れた。
しかし、現実というのは実に性格が悪いもので。
弱り目に蜂、泣きっ面蹴ったりだ。
それを知ったのは私の名前が中学校の校舎に張り出されているのを見て、思わず卒倒しかけた時だった。
お父さんから電話がかかってきた。
「もしもし。どうしたの?」
「大変なことになった。今すぐ帰ってこい」
私は切羽詰まったお父さんの声を聞いても「ふーん。大変なんだー」ぐらいにしか思わなかった。
IS学園に合格した、という事実がどこかから──というか学校からだろうけど──漏れてからというもの、家へのいたずらが絶えないのだ。家電は2回目のいたずら電話が来た際に電話線を引っこ抜き、窓は割られてもガラスが飛び散らないように新聞紙が貼ってある。どこの龍騎だよ。
そんなわけで『大変なこと』というのも軽く捉えていた私だったが、家でそのニュースを見た時には流石に認識を改めざるを得なかった。
"男性操縦者"が出たのだ。
両親はただ『女性にしか使えないISが男性に反応した』という点にしか注目していないようだが、これはそんな次元の話ではない。
そう。ISは女性にしか使えなかったのだ。
ISは時代を軽く500年は先取りしたスーパーロボットだ。当然、世界各国は『宇宙開発と技術研究』の名目でISを軍事利用するつもりだった。
しかし、現実にISの軍事利用はあまり進んでいない。その理由として、2つの大きなウィークポイントが挙げられる。
ISは総数に限りがあり、女性にしか扱えないという大きな弱点だ。
ISがブレークスルー足り得る一番の要因は間違いなく『コア』である。
ISは基本的な機能のほとんどを中心部のコアが統括している。中枢神経とか脊髄とか多分そんな感じの働きをしているらしい。つまり、コアがないとISはただの金属製オブジェと化すのだ。コアがないと、その超絶サイエンスパワーの全てを封じられてしまう。
コアは既存技術で例えるならAIのようなものらしいが、今でも詳しいことは分かっていないとか。あまりに飛躍的過ぎて、全く解析が進んでいないのである。
開発者の篠ノ之束に聞けば分かるだろうけれど、現在その開発者さんは行方不明になっている。
篠ノ之束の失踪は一大ニュースになった。時代をたった1人で塗り替える天才の自発的逃亡だ。世界中で捜索されているが見つかる見込みはない。それに、コアではない外付け部分のテクノロジーはちゃんと学会に提出していたらしいので、その際に技術の提供をしていないことからも取っ捕まえてもコアに関する情報を提供してくれるとは思えない。
ISのコアは未だ、ブラックボックス。だから、ISは新規作成ができない。量産化ができていないのだ。
それゆえに、ISの絶対数には限りがある。これが欠点その1。
2つ目の欠点は1に若干、関連するかもしれない。欠点その2は、ISは女性にしか扱えないという点だ。
先述した通り、ISのコア部分はAIのようなものらしい。自己進化や自己判断をするとか。かつ、ブラックボックス。そのため、理屈は不明だが「ISは女性にしか扱えない」のだ。原理、仕組みは一切不明だが。
扱えない、というのは「パイロットとして扱えない」という意味である。
ISは基本的にロボット──というよりモビルスーツの方が近いかもしれない──なのでパイロットが必要になる。パイロットと言っても、車や飛行機のようにハンドルをぐるぐるして操縦するわけじゃない。なんか凄いオーバーテクノロジーがいろいろと云々かんぬんして、最終的に脳の電気信号を受け取って機械ユニットを手足のように動かすらしい。この辺は専門的過ぎて意味不明だが、論点自体は単純だ。
女性じゃないとコアがIS自体の起動命令を受理してくれないのだ。つまり、コアは女の子以外を断固拒否する。週刊少年ジャンプは読まないが、きらら系は読み漁るタイプのオタクに近しい。
ISが女性にしか扱えないことは『男女平等』を掲げる面倒臭い団体の目を輝かせた。ただでさえ、女性の権力拡大が過剰になりかけていた現代日本にこれは劇薬過ぎたわけだ。日本はあっという間に『女尊男卑』の国になっていった。
といっても、そういった思想を持つ人間や団体が前よりちょっと幅を利かせるようになっただけで、国民の意識自体はほとんど変わっていない。現に、過剰な女尊男卑なんて庶民や田舎の世界ではほとんど見ることはない。何ならその辺の女子中学生が『女尊男卑ネタ』で笑いを取っているぐらいだし。
まぁ、男性操縦者というのはこの時代において、ありとあらゆる方面を揺るがしてしまう。いろんな意味でヤバい存在だということだ。
ここ10年で日本の上層部は完全にひっくり返った。ひっくり返してようやく「さぁ、これから世界は女性が中心になるぞ」と意気込んでいたのに「男性操縦者でーす。ISは男性にも使えましたー」と来るなんて、誰が予想しただろう。想定内ではあるだろうけど、予定外であるのは確かだ。日本が混乱するのは目に見えている。
いや日本どころか、世界中で大騒ぎになるのは確定だ。3日も経てば、世界中で男性の一斉IS適正チェックが入ることだろう。事の次第によっては、ワンチャン戦争にも発展するかもしれない。
IS発表以前なら日本はアメリカサイドではありながらも「武力持ちません」スタンスであり、完全に戦争弱者の立場だった。が、今は違う。
数で戦う戦争に、ISという個人で数を圧倒する兵器が投入されるとなると、世界で一番強いのは当然の帰結として、IS保有数が世界最多の日本になる。
上層部が軒並み入れ替わって基盤のない新体制に挑もうとしたところで前提が覆された国。国民の意識も低く、資源力やIS以外の軍事力や競争力をほとんど持たない日本だ。
この状況。私が他国の人間だったなら暗殺者を送り込んだりするだろう。ISの絶対数は約500機。軍事配備がおおよそ半分として250機。アラスカ条約加盟国が21ヶ国。日本のIS保有数が世界最多としても20~30が限界なんじゃないかと予想。優秀なパイロットが"うっかり事故"でお亡くなりになるだけでパワーバランスなんて簡単にひっくり返ってしまう。世界の中心なんて録なもんじゃない。ロマンでも叫ばせてくれよ。
しかし、それは全体の話。私個人に関連する話としてヤバいのは『男性操縦者が同い年』ということだ。
当然、男性操縦者はIS学園にぶちこまれる。
IS学園は世界で一番"安全"かつ形式上はどの国にも属さない中立だからだ。しかも都合良く新高校一年生と来た。ついでに件の男性操縦者は日本人だ。これで入学させない手はない。
となると世界各国としては当然、男性操縦者との繋がりを作っておきたい。しかし、IS学園は外部干渉を受けない。したがって、自国の人間を生徒として送り込むしかないのだ。ただでさえ上流階級の民がたむろするワイルドエリアなのに、今年からはよりダイレクトに世界情勢が関わってくるときた。
そんな"世界一安全"な場所に3年間缶詰め?
もう私の人生詰みだ。私の人生だけではない。迂闊に地雷を踏めば、第三次世界大戦勃発だ。かのアインシュタインは「第四次世界大戦では石と棒で戦うことになるだろう」と予測したらしいが、現実味を帯びてくるとなると笑い事じゃない。
ヤバさがオーバーフローして「もうどうにでもなれ」みたいなヤケクソ思考まで働いてきている。
あぁ、齢15にして人生の詰みが確定した。
「男性操縦者の子と一緒のクラスにでもなったら大変ね~」
「歴史の証人になってしまうな」
両親がこれ以上ないぐらいにお気楽な会話をしていた。
もし、そんなことになったら不幸を飛び越えて絶望だ。
だから、せめてもの望み。
これぐらいのちっぽけな願いなら神様だって許してくれるだろう。
この程度のお願いだったら、神様だって不幸な状況に同情して叶えてくれるかもしれない。
願わくば、
───件の男性操縦者とは同じクラスにはなりませんように。
そして、教室で挙動不審になっている男子を見て私は思わず笑った。