IS学園において留年を回避する方法を100字以内で書きなさい。 作:その愛に解なし
読み飛ばしても(ry
『同じ構えで飯を食う』という言葉がある。嘘だ。ない。
同じ格好でご飯を食べることで、相手に踏み込みやすくなり、見知らぬ他人とも仲良くなれるらしい。そんなわけがあるか。見知らぬ他人と卓を囲んだところで気まずいだけだろう。
私は今現在、今日あったばかりの他人とお昼ごはんを共にしている。
「……だからxの同類項を纏めると因数分解できるようになるでしょ?」
「本当だ! タカヅキさんすごーい!」
「そですねー」
ご飯食いながら実力テストの振り返りをすな……!
流れにゆらりゆら揺れて食堂。
ヤタケさんが早速メニューに走り出そうとして、それをタカヅキさんが止めて、私が座席確保した方が良いんじゃないですかねーと進言して、メニューに興味のない人が席を確保することになって、私がポツンと待ちぼうけ。
こういった場所……というか、学食という概念がファーストコンタクトなので、どう行った行動がスタンダードなのかは分からない。が、よく考えればこれは私がハブられる流れである。まずタカヅキさんとヤタケさんがお昼ご飯を手に入れる。そして、私が確保していた席に座り、私は入れ替わりで食事を手に入れに行く。そして戻ってきた時には既に私の席はないのだ。悪いな、穂波。この座席2人乗りなんだ───。
タカヅキさんとヤタケさんは同じメニューを頼んできたらしい。
流石に天下のIS学園と言えど、学食にそこまで力をかけてないだろう……という私の考えはお砂糖のごとく甘い考えだったようだ。
目の前にはシンプルなパンとサラダ、デザートと思わしきオレンジ。しかし、このどれもがその辺のスーパーで適当に籠に放り込むようなものでないことは、一口で分かった。分かってしまった。これがタダだというのだから末恐ろしい。本当にお金というのは、あるところにはあるようだ。
ちなみに私も同じものにした。正直、押し寄せる人の荒波に揉まれて選ぶ余裕なんてなかった。あと席はちゃんと残っていたし、なんと私が戻るまで2人は「いただきます」をしていないのだ。なんと心優しい方々だろうか。
そうして、私が待たせた申し訳なさでヘコヘコしながらお昼ご飯タイムは始まった。
「そういえばさっきのテスト、どうだった?」
言いながらヤタケさんはパンを頬張った。多分、この話題を切り出しておいて「わたしできた!」はないだろう。ヤタケさんのこれまでの振る舞いからも、勉強は得意ではない……と、思いたい。
まぁ、できてないっても、私以下は絶対ないだろうけど。
「数学はそこそこ。英語の方はちょっと難しかったけど、分からない程ではなかったかな」
そういって、タカヅキさんがどこからともなく問題用紙を取り出した。
「夜竹さんは大問4解けた?」
「あぁ、オイラーのφ関数のやつね」
「具体値代入で無理矢理やったんだけど……」
「無理矢理っていうか。それが正攻法だと思うよー」
???????????????????
何をおっぱじめとんねん、あんた方は……!
「穂波さんはどうだった?」
飛び火してきた。
いやしかし、どうと訊かれましても。全然分からなかった、というのが正しいのだが、そんなことを言える雰囲気ではない。
「大問4できたー?」
私が返答に困っていると、ヤタケさんから助け船が送られてきた。
しめた。これはチャンスだ。
大問4はタカヅキさんも分からなかった的な会話してたし、多分難しい問題だったんだろう。これなら解けなかったとしてもセーフ判定のはず。
「できませんでした!」
「うおっ、元気だね……」
痛恨のミス。
どの程度ならできなくても許されるかのラインを探るのに夢中になっていたばかりに、声量の調整を失敗してしまった。
「どの辺ができなかったの?」
「いや、何か……問題の意味がよく分からないと言うか……」
「これは特徴的な問題だからねー。初見じゃあ、そうなっちゃうのも仕方ないところもあるよね」
セーフ! ここの答弁は"耐え"です……!
タカヅキさんが大問4を話題にしてくれて助かった。タカヅキポイント+1ですね、これは。
「夜竹さん、具体値代入が正攻法ってどういうこと? ちょうど穂波さんもいるし、ちょっと説明してくれない?」
タカヅキポイントー1です!
「ええっとね。まずこの問題における f(n) の意味を理解するところからだね。問題文の具体例を見てみよっか」
タカヅキさんが机の上に広げた問題用紙を見る。そういえばこんな問題だったな、と記憶が想起されるが、それよりも右端に書いた4コマ漫画のことが脳内に出てくる。
1.f(75)を求めよ.
2.f(αβ)=32となる素数α,β(α<β)の組み合わせを求めよ.
やっぱり何を言っているのかサッパリだった。そもそも見慣れない表示形式が多すぎて、その時点で解く気になれない。これ本当に中学生に解ける問題か?
「そもそも、f(n)ってのが嫌らしい表記だよね。これは高校で習う書き方なんだけど……f( )はとある関数で、( )の中の文字が『今回は何番目』なのかを示してて……まぁ、具体例見た方が早いねー」
具体例、というのは『n=12の場合~』以下のことだろう。恐らく、ここから何らかの法則性を見い出すべきなのだろうが、そんな法則性とやらはまったくもって見えてこなかった。やっぱり最近は規制が厳しいからね。チラ見え程度でもNGなんだよね。なんもかんも政治が悪い。
「『最大公約数が1』……これは素数という解釈で良い?」
「素数じゃなくて"互いに素"かな」
たがいにそ。
うーむ。また知らない言葉が出てきた。
素数の方は流石に分かるが。たがいにそ……お互いにニーソックス…………うん、この思考はやめとこう。
「互いに素っていうのは共通の約数が1だけの2つの数を指す言葉だよ。5と9とか、3と7とか」
5と9とな。少し考えてみる。
確かに、5は(1,5)でしか割れなく、9は(1,3,9)でしか割れない。どっちも割れる数は1だけだ。3と7は考えるまでもないだろう。
なるほど。互いに素、理解した。
ヤタケさんの言う通り、問題文にある『最大公約数が1』は『互いに素』というわけだ。
でも、互いに素な数の個数を調べるのは大変だ。問題文にあるf(12)なんかだったら余裕だろうが、f(75)とかになると途方もない。なにせ1~75まであるのだ。
「まぁ、補集合だよね。全体から『互いに素じゃない数』を引けば良いだけだし」
ほしゅうごう。
また知らない言葉だが、今度は何となく分かる。『全体から引くこと』だろう。
ヤタケさんは問題用紙の余白に簡単な図を描いていた。
「互いに素じゃない数ってのは、最大公約数が1じゃない数。例えば、f(12)の場合だと 12=2×2×3 だから2の倍数と3の倍数がそうだね」
12と互いに素になる数は、12が2と3で出来ているので、2と3以外の数のかけ算で出来上がっていないといけない。ヤタケさんの図は見慣れないが、分かりやすかった。これを見ればどこを求めれば良いのかが一発だ。
だけど、ここで疑問が1つ。
「6がダブってる……?」
図の紫色にあたるところのことだ。
2の倍数は(2,4,6,8,10,12)
3の倍数は(3,6,9,12)
このまま数えると6と12がダブってしまう。
「そだねー。2の倍数+3の倍数 をすると……」
ヤタケさんが図に数字を書き加える。赤と青のところに1。紫色のところには2。
「紫の部分が重複してるから、紫色……6の倍数を1回"引く"のね」
タカヅキさんが2を1に書き換えた。すると、丸で囲われた部分の全てが1になった。重複がなくなったのだ。
全体からこれを引くと、残るのは灰色の部分だけになる。この灰色部分がf(12)にあたるのは、流石に私でも理解できた。
ということは、だ。
f(75)の場合、『75=3×5×5』だから考えるのは、3の倍数と5の倍数。そして、15の倍数。私が指を折りながら数えていると、ヤタケさんに止められた。
「わざわざ1個づつ数えてたら日が暮れちゃうよー」
「えーと……あー、確かに」
問題はここで終わりではないのだ。続く第2問は文字が絡む問い。確実に指を折っていても解けないだろう。しかし、どうやって数えれば良いものか。
私が首を捻っていると、見かねたのかタカヅキさんがアドバイスをくれた。
「穂波さん、12の中に3は何個ある?」
「4個……です」
「それ、どうやって出した?」
「12÷3 ……あ! あぁ……」
どうやら私が単なる阿呆だっただけのようだ。
3の倍数も5の倍数も、ひとつずつ数えるなんてしなくても、75を割れば良いのだ。
ヤタケさんは嬉しそうに頷くと、問題用紙の余白に式を書いた。
『f(75)=75 ―75/3 ―75/5 +75/15』
『f(75)=40』
なるほど。解き方は把握した。
ということは第2問もこれと同じようにやれば良いだけだから……もっと言うと、ヤタケさんが書いた式の『75→αβ』『3→α』『β→5』に置き換えれば良いだけだから、
『
f(αβ)=αβ ―αβ/α ―αβ/β +αβ/αβ ……①
f(αβ)=32 ……② 』
となる。
……あれ? この式で本当に大丈夫なのか?
疑問はあった。が、とりあえず①の式を整理してみると、
『f(αβ)=αβ ―β ―α +1』
となった。やっぱりだ。文字が2つあるから、解けない。
「まぁ、αとβは大小関係のある素数だし、後はしらみ潰しに具体値代入で良いね。3パターン程度だし」
ヤタケさんが当たり前のように言って、タカヅキさんも当然といった表情で頷いた。私は今回も首を捻った。
はて。こっから具体的に数字を入れて、f(αβ)=32に出来るのだろうか。
私がとりあえず2を代入して無謀な計算をしていると、ヤタケさんが新しく表を作っていた。
| α―1= | 1 | 2 | 4 |
| β―1= | 32 | 16 | 8 |
どういうことだ。隣を見るとタカヅキさんの顔は「そうなるよね」と言っていた。私にだって、上の数字と下の数字を掛けたら32になることぐらいは分かるが、これが何を意味するのかは掴めなかった。
タカヅキさんが「一応確認しとくけど」と前置きした。
「ヤタケさん、これは『αβ ―β ―α +1=(α―1)(β―1)』に因数分解出来るからってこと?」
「そゆことー」
因数分解出来るのか。試しに展開してみる。おぉ、ちゃんと元の式に戻る。
そうか。かけ算の形になったから、後は「かけて32になる数」の組み合わせを書いていけばフィニッシュなのか。理解理解。
ヤタケさんが続ける。
「αとβが素数になるのは (α―1, β―1)=(2,16) の時だけ。よって α=3, β=17 でおしまーい」
テスト中は意味不明の極みだった数学の問題が、なんと驚くべきことに今は理解できている。私でも解説を聞けば分かるんだな。
「ありがとう、夜竹さん。おかげで疑問は解消された」
「……あっ、私もありがとうございます。分かりやすかったです」
「いやぁ、そんな凄いことはやってないよー。分かって見ればどうってことないって!」
分かって見ればどうってことはない。それはそうだろう。小学生の時は「中学生なんて大人だなー」と思っていたのに、いざ自分がなって見ると年を取っただけだった。高校でも同じことが起きている。複雑に見えるものでも、ひとつひとつ紐解けばパーツ自体は単純なのだ。きっと、他ならぬ私自身も周りから見れば、複雑な体系の中に組み込まれている。
「IS学園の受験の時も、最初はビクビクだったけど、やってみたら大したことなかったしね」
ヤタケさんはそう言い放った。それはどうなのか。本当にそう思っていたとしても不特定多数の前で言うべき台詞ではなかった。
「それは……」
「それはない」
タカヅキさんと被った。思わず顔を見合わせて、何だかおかしくなって、笑ってしまった。釣られたのかタカヅキさんも笑った。ヤタケさんだけが急に笑い出した私達に困惑していた。
なぜかその時、私は思った。
「(この人達も私と同い年の、ただの女子なんだ)」
何だか、IS学園でもやっていけそうな気がした。
「───なんだ。国の代表だの何だの偉そうなこと言ってるけど、聞いてみれば大したことないじゃねぇか。これなら俺でも勝てそうだな」
「はぁ? まったく……無知というのはここまで恐ろしいのですか。やはり、あなたのような極東のお猿さんにクラス代表は務まりませんわ」
「そんなの……やってみなくちゃ分かんないだろ!」
「それはわたくしに"ISでの決闘を申し込む"ということですの? まさかとは思いますが」
「勿論そうに決まってんだろ。決闘だ!」
うぉぉおおおおお……!
やっていけねぇ…………!!
Q 世界レベルのエリートが解けない問題か? 簡単じゃね?
A まず、小説なのに本当に問題解説を初めていることに疑問を持とう!