IS学園において留年を回避する方法を100字以内で書きなさい。 作:その愛に解なし
お昼ごはんの場で思わぬ頭脳労働に襲われ、疲労と不慣れがアドレナリンを大量放出し始めたようだ。じわじわとテンションが上がっているのを感じる。
テレビや本の中でしかお目にかかれないハイテクな机にも、スーパースターの担任にも、いちいち驚愕することはなくなった。意外にも高い順応性が遺憾なく発揮されていた。
お昼後の1発目の授業はロングホームルーム。今は織斑先生が『クラス代表』についての説明をしているところだ。
クラス代表。文字通りクラスの代表。織斑先生の説明によると、中学校までのそういった役職と仕事内容は基本的には大差ないらしい。そういった役職というのは、学級委員だとか、室長だとか、クラス委員長とかのこと。
勿論、"基本的には"だが。
クラス代表になると
リーグマッチは、各クラスの代表による総当たりのリーグ戦のこと。
当たり前だが、サッカーやテニスで勝負することはない。クラス代表同士がISによる勝負を行うのだ。私はあんまり興味がなかったので詳しくは知らないが、テレビで何回か映像を見たことがある。ISが空中をブンブン高速で飛び回ってレーザーやらミサイルやらをバカスカ撃ち合っていたのが印象的だった。
競技ISはこれまでのスポーツと一線を画すド派手なバトルと、織斑千冬などの分かりやすいスター選手の存在もあって、一気に世間に浸透した。今や競技ISは日本で一番盛り上がるスポーツになっている。
そういう側面もあって、クラス対抗戦は学園外の人間がIS学園に入れる数少ないイベントのひとつだとか。
というわけでクラス代表は織斑一夏に決定だ。
そもそも織斑一夏がIS学園に入っているのは、IS学園が内からも外からも隔離された"世界一安全"な施設であり、男性操縦者という特大の爆弾をそっと置いておきたいからである。マスコミ対策が理由のひとつなのだ。
IS学園側としてはそれで良いし、何なら卒業までIS学園に閉じ込めておきたいぐらいだろう。ただ、世間はそうはいかない。
織斑一夏について何の情報も発信できません、なんてマスメディアの名折れだ。とにかく考え得るあらゆるチャンスを利用しようとする。というかしていた。
IS学園としても世論を完全無視するスタンスは取れないので、リーグマッチとかの学校行事を折衷案としてメディア露出の機会にしているようだ。
世論を踏まえると、クラス代表は織斑一夏しかあり得ない。織斑一夏の代わりにクラス代表になんてなった暁には、世間の全てから石を投げられアンチスレが爆速で立つことになるだろう。海外から来たエリート留学生とかなら尚更だ。もしクラス代表になってしまったら、少なくとも"広告"のタイミングをかっさらってしまうのは確定なわけで。他の国、果ては同国の敵対派閥とか何かその辺の色んな所からネチネチ嫌がらせを受けること確定である。
それどころか世論なんて踏まえなくても織斑一夏以外はあり得ない。織斑千冬信者は本人の目の前で「私は貴女の弟よりもクラス代表に相応しい人間です」なんて口が裂けても言えないからだ。まぁ、かの織斑千冬なら身内贔屓なんてしなさそうではあるが。
「はいはーい! 織斑君を推薦しまーす!」
最初に動いたのはブッチギリの陽の者確定の相川さんだ。他の人も相川さんの推薦に「よくやった」と内心感謝しているだろう。
そう。このクラス代表決めは自他推薦を問わないのだ。
談合して組織票を仕組んだり、推薦を貰うことで人望や力関係アピールするスクールカーストバトルの第一歩である。というか推薦制度がなければ織斑一夏はクラス代表にならないので、私が教師なら無理矢理にでも推薦制度を導入する。
急に自分が舞台に上げられて慌てる織斑一夏。実に小市民的な反応で親近感が沸く。彼がいなかったら私は普段通り猫背で椅子に座っていただろう。他人の振り見てなんとやら。
シンキングタイムを今にも打ち切りそうな山田先生。投票は挙手で行うそうだ。
「織斑、お前が1組の柱になれ」と思いを勝手に託す私。全ての興味のベクトルを一身に引き受けてくれ。それが世のため人のため私のため。
今、1年1組は織斑一夏という犠牲により完全に団結しているのだ。
「他に立候補者はいないな? では、クラス───」
「はい! わたくしが!」
まぁね? 人間がひとつになるなんて不可能だしね?
しかし、この状況で立候補するとは何者なのやら。織斑一夏以外にクラス代表に相応しい人間はいないと思っていたが、私の浅い思考は外れていたか。
勢いよく立ち上がった立候補者さんに視線が集まった。
「わたくし、セシリア・オルコットが立候補しますわ」
流れるような金髪。青い瞳。スラリとしていて制服の上からでも分かる胸部装甲。それでいて動きのいちいちに上品さを感じさせる。確実に上流階級の人間だ。
どこの国の人だろうか。欧州系ではあるだろうけど。
私は机の下でこっそり学生証を起動する。こういう時、教卓型の机は便利だ。周囲から手元を隠すのにポテトチップスを必要としない。
学生証の中からクラス名簿を開く。
イギリスの代表候補生、という記述があった。
金髪ロールのお嬢様──セシリア・オルコットはイギリスからはるばるやって来た留学生とのことだ。代表候補生、という見慣れないワードがあるが、何かの代表の候補なんだろう。そもそもIS学園が世界的な学校と言っても、生徒のほとんどは日本人だ。そのことを踏まえると海外からの留学生の枠は想像よりも少ないことが分かる。彼女は初見の印象に相応しい超絶エリートなのだ。
ついでにヤタケさんとタカヅキさんも探した。【夜竹 さゆか】【鷹月 静寐】が見つかった。こんな漢字なのか。鷹月さんとか絶対読めないわ。
だがしかし、それがどうしてクラス代表に立候補するのだろうか。
果たして日本をはじめとした各組織に喧嘩を売るような行為をして、メリットはあるのだろうか。
……うーん。私の頭脳では全くもって分からないが、可能性なら多少は思い付く。
例えば、イギリスと日本が結託しているとか。この線を認めると、島国同盟という歴史に名を残す黒歴史同盟になるだろう。イギリスが仲良くしている国は……ダメだ、出てこない。都道府県すら怪しい私に世界情勢の把握なんて無理な話だ。
まぁ、多分ないだろう。日本はその立場上、どこかの国とズブズブの関係になるとうスタンスは対外的な理由で取れない。
私のうろ覚え世界地理によると、ISの各部品でもたらされたブレークスルーを発端として発電事情が急激に改善。アルミニウムを初めとした一部金属の需要が拡大。あとは……うーむ、忘れた。しかし、確固たることがひとつ。日本は余計に輸入頼りになった、ということだ。
いくらISという圧倒的な軍事力はあっても、食糧や資源が輸入頼りな島国はちょっとどこかから貿易を止められた瞬間におしまいなのだ。そもそも、貿易を止められるレベルまで世界がざわついているなら、確実に戦争が勃発しているだろうが。
色んな可能性や狙いが渦巻いているにしても、何か良い感じに表面上は纏まっていくのだろう。やっぱり私に頭脳労働は無理だ。考えても分からん。まぁ、喧嘩売ってるってことだけはないのは流石に分かるけどね。
「このような極東の島国の素人……しかも、男子がクラス代表? わたくしを差し置いて不相応な人間がクラスの代表になるなど許せませんわ。代表には相応しい人間が……そう、わたくしのようなエッッッルィイイイイトがっ! なるべきですわ。そこの極東のお猿さんなんかではなく、もっと優雅かつ大胆そしてエッッッッルェガントな人間がっ! なるべきですわ!」
ん"ん"ん"んんんんんっ!!? 喧嘩売っとるー!?
なんで? なんでこの人喧嘩売っとるの?
ま、まぁまぁステイステイ。織斑一夏はこんな挑発スルーするよね。
「は? 何言ってんだお前」
煽り耐性!
「何って……事実でしょう? わたくしは代表候補生、かくやあなたは男性というだけでIS学園の合格基準すら満たしていないズブの素人。どちらが相応しい人間かなんて考えるまでもないでしょう」
「代表こう……? それって何だ?」
「はぁー……こんなことも知らないのですか。つくづく呆れますわ。かのブリュンヒルデの弟と聞いてどれほどの存在かと思いましたが……これではたかが知れますわね」
突然始まったセシリア・オルコットによる口撃(誤字に非ず)に無知で応酬する織斑一夏。私も代表候補生なんて知らんかったけど。
いやしかし、セシリア・オルコットの意図が全く読めない。クラス代表になりたいなら普通に立候補すれば良いだけだ。そもそも織斑一夏は他者からの推薦で本人もやる気がない。それこそ投票の段階で……あぁ、私は馬鹿か。
投票の段階という多数に委ねたら織斑一夏に勝てないというのをさっきさんざん考えていたじゃないか。
私が障害物すらない平地で転んでいる間に口論はヒートアップしていた。
「そんなのやってみなけりゃ分かんないだろ」
「まさかとは思いますが、それはISのことですの?」
「当たり前だろ。他に何があるんだよ」
「笑止ですわ! イギリスの代表候補生であるわたくしに、IS稼働時間300時間オーバーのわたくしにISでの勝負をすると?」
「なんだ。すげー偉そうにしてる割に300時間ぽっちか。案外大したことないんだな、その代表候補生ってやつも」
300時間の差は普通に凄い大きいと思うけど。
デッドヒートの様相を挺してきた言い争いに、周囲もだんだん呆れたような空気を出している。
これ、本当に大丈夫だろうか。セシリア・オルコットはイギリスの代表なんちゃらだし、ちゃんと台本通りに進んでいるんですよね?
改めて観察する。
セシリア・オルコットはウェーブのかかった長い金髪が実に美しい美少女だ。羨ましい。じゃなかった。凄そう。多分近くに行ったら良い匂いがすると思う。制服も私のものとはちょっと違う。若干、ドレスみたいな改造がなされている。IS学園は珍しく、制服の改造が許可されている学校である。
言い争いは私が意識を「セシリア・オルコットすげー!」と思っていた間にクライマックスへと達していた。
「決闘だ!」
「望むところですわ!」
どうやらヒートアップした口論の終着駅はISでの勝負でダイレクトに決着を付けるということで固まったようだ。セシリア・オルコットとしてはあまりに自分に都合が良すぎて驚き桃の木山椒の木だろう。
セシリア・オルコットに指を突き付ける織斑一夏。腕を組み、優雅に髪の毛を靡かせるセシリア・オルコット。
二人が容姿端麗なことも加わって、さながらドラマのワンシーン。
若干の沈黙のあと、織斑先生が口を開く。完璧なポーカーフェイスだが、今ばかりは内心、溜め息を吐いているのがありありと読み取れた。
「では、一週間後に第三アリーナで織斑とオルコットの模擬戦を行う」
「ふぅ~」
ようやっと一日が終わった。長かった。
大きく息を吐いて伸びをする。
IS学園は全寮制である。
父母に囲まれてそこそこ甘やかされて育ってきたごく普通の自堕落な人間に寮生活なんぞ耐えられるのだろうか。願わくばルームメイトガチャに成功しますように。私自身は相手からすれば大外れなのは言うまでもない。
とりあえず私物を受け取って運び込まないといけない。学生証から地図を出して荷物の受け取り場所を確認する。
「……よし、わからん!」
私は方向音痴なのだった。
しかも、IS学園はとても広大かつ立体的な構造をしているせいで余計に土地勘が掴めない。私は空間認識能力もずば抜けて低い。
こういう場合、周りの人間に付いていくのが最善である。
私は早速人脈を使うことにした。
「夜竹さん───」
「あっ、丁度良い所に!」
地図と睨めっこしていた夜竹さんが、私の呼びかけに超速で反応した。察するところ、彼女も未知の土地での行動には弱いらしい。
「場所わかんない!」
夜竹さんが期待の籠った目で私を見つめる。
ごめんね、私もわからないんだ。
「荷物の受け取り場所はどこですか?」
「えーっとね……3番だって」
「あー……私は5番なので……」
私は栄誉なき退避を選んだ。つまり、荷物の受け取り場所が違うことを言い訳に滑らかに問題を回避したのだ。ここで方向音痴であることを明かせば「役に立たない奴」と思われてしまうに違いない。張れる内に少しでも見栄は張っておこう。三重県民だし。
と、自分用の言い訳も揃えて私は夜竹さんから離れた。去り際に「鷹月さんが確か3番じゃなかったっけー」と白々しい嘘を吐いたので、アフターフォローまで完璧だ。
他力本願は大事。古事記にもそう書いてある。
右へ左へ。
適当に地図と睨めっこしながら歩くこと数分。
「……どこだここ」
迷子なう!
そんなに距離は歩いていないはずだが、気付けば人気は遥か彼方。中学の10倍は綺麗な廊下の壁に持たれて溜め息を吐いた。
とりあえず現在地確認のために地図を見ようとしたその時、人の声が聞こえた気がした。釣られる様に声の方向へ向かう。L字の廊下の突き当たりの先。
角を曲がって真っ先に目に入ったのは金色。
壁に背を付け俯く金髪縦ロールはどう見間違えようか、イギリスからの留学生、セシリア・オルコットだった。
彼女なら道を知っているに違いない。
私は恐る恐る話しかけた。
「あ、あのー……」
ビクッと肩を震わせてセシリア・オルコットはこちらを向いた。やたらと鬼気迫る表情だった。私はビビって一歩後ずさってしまう。え、こわ。
「なんですの」
「ぁ、えー……迷子、になって……道わかららなくて……」
むっちゃキョドってしまったが、意図は伝わったハズ。
セシリア・オルコットはずんずんと近付く。私は後ずさる。
「なんで逃げますの?」
「あっ、いえ、その……すんません」
ちょっとひとりの時間(迷子)が挟まったせいか、元来のコミュ障が再発していた。
気をしっかり持たねば。
びじねすらいく、びじねすらいく。
典型的な眼鏡っ娘だ。
ルームメイトの
「よっ、よろしくお願いします。
いきなり直角90°のお辞儀をかまされた私は、反射的に挨拶を返す。
「こちらこそよろしくお願いします、岸原さん」
相手がお辞儀をしていたので自分も。そう思ったが、普段していないことを急にできるわけがなかった。頭だけペコッと下げた。お辞儀がいきなりできたポッターはやはり英雄の素質があったのね。
結局、私がビビりすぎてただけで、オルコットさんは優しく道を教えてくれた。その際、良い匂いがして私はあまりの高級感に五感を全てやられていたので記憶はあまり残っていない。
ただ、分かったことがひとつ。いきなり現れた不審者(私)に優しく対応できるオルコットさんはまちがいなく優秀かつ優しい人間だということだ。う~ん、我ながらチョロい。
もう一生付いていきます! って感じで感謝して荷物を受け取り目的地に到着。そしてドアを開けたら眼鏡とエンカウント。そして今に至る。
にしても、岸原さんは典型的なカチューシャっ娘だ。
綺麗な角度で下がったショートカットにオーソドックスな赤いカチューシャが映えている。道行く人に眼鏡っ娘とカチューシャっ娘について質問して出来上がったパブリックイメージの様な見た目だ。
そのまま、沈黙。
何をすれば良いか分からずフリーズしてしまう。向こうも多分そうだろう。直角に折れ曲がったままフリーズしている。まだ肩にかけている重そうなバッグすら下ろしていない。
「えーと……とりあえず、荷物を置きましょうか」
通信制限を疑うレベルで静止していた岸原さんは、私の言葉を聞くと急に顔を上げた。ちょっとビックリした。「そうですね!」と岸原さんはパンパンに何かが詰まったバッグを床に下ろす。一瞬、床が揺れた気がした。
岸原さんのバッグの重量に若干の恐怖を感じながら自分のバッグを下ろす。床は揺れなかった。いや、当然だけど。
ふと、視線を感じると、岸原さんがこちらをじぃっと見つめていた。どうしたのだろうか。岸原さんは荷物を下ろすと言った通り、本当に下ろしただけだ。
……あぁ、そうか。どこに置けば良いのか分からないのか。そりゃそうだ。
ついさっきこの部屋には入ったばかり。どこに何があるのかすら把握できていない、それにひとつの部屋を二人で使うということは、どこの区画を使うかとかそういうのを最初に決めないといけないということだ。知り合いや友人ならいざ知らず、初対面の相手なんだから余計に、だ。
「二段ベッドですね。どっちを使いましょうか? 荷物もとりあえずそこの置いとけばぐちゃぐちゃにならないかと」
この部屋には備え付けの二段ベッドがある。あれなら分かりやすくお互いが使うスペースを区切れる。見るからに高そう……というより、実際高級なのだろう。まぁ、庶民には分かんないけど。
だから安心だとは思うが、岸原さんのメガトンバッグを上段に置いて安眠できそうにない。「寝相は良いので」と純度百%の真っ赤な嘘をでっち上げて私は上段を獲得した。ちなみに、寝相は悪い方なのでこれから毎晩ベッドから落ちる恐怖に震えながら過ごすことになる。
何気に人生初の二段ベッドにドキドキしながら荷物を広げた。下をチラ見すると、岸原さんはバッグをベッドの上に置いてなかった。よく考えなくても、ベッドで上段を使うからといって、そこにバッグを置く必要はなかった。当たり前以前だった。すると私は自ら進んで落っこちる可能性のある上段をゲットしたことになる。阿呆だった。
いやまぁ、何しろ今日は初めてのことだらけでとても緊張していたのだ。だからしょうがない。その他にも今日はいろいろとやらかした気もするが、私は悪くない。勿論、岸原さんも悪くない。消去法的に、あれもこれも全部IS学園が悪いということになる。
そう、何もかんも全部IS学園が悪い。
と、私がカスの責任転嫁をしていた時だった。
ドアがノックされた。
岸原さんがあわあわと扉を開ける。
「会議しにきたよ!!」
そこには今朝からの長い付き合いの夜竹さんと鷹月さんが。
「……かいぎ?」
と、突然の訪問に懐疑の声をあげる私なのだった。
会議だけに、なんちゃって。
何かじわじわ人が増えてますが、特に把握する必要はないです(光)(優しさ)(救い)
書き分けられてないので……(敗北)(闇)(悲しみの