IS学園において留年を回避する方法を100字以内で書きなさい。 作:その愛に解なし
「では、第1回『織斑君が勝つためにはどうするか!』を始めたいと思います!」
岸原さんが元気に宣言した。私は乾いた拍手を返した。
このヘンテコな集まりのメンバーを紹介しよう。
1人目は私。ISにも織斑一夏にも何ら興味もない参加する理由が危ぶまれる人間だ。2人目は夜竹さん。鷹月さんにほいほい着いてきたが、どういう集まりなのかすら把握していない様だった。果たして彼女が参加する意味はあるのだろうか。3人目は鷹月さん。IS学園において、パイロット以外の方法で実績を残してみたいらしい。この集まりの実質的主催者である。本人は有能だろうが、参加者の半数がやる気無しのお勉強会から得るものはあるのだろうか。4人目は岸原さん。私の同室というだけでこの会に参加させられている。本人にやる気があるのが幸いと言ったところだ。
「まず、状況を整理しましょうか」
鷹月さんがすらすらと喋り始める。
「決闘は一週間後、会場は第三アリーナ。勝負方法はISバトル───」
はーい。異議あーり。一般的なルールに則ったISでの戦いとは一言も行ってませーん。
勿論、こんな下らない茶々を入れたら白い目で見られるのは確実なので言わないが。
「織斑君の専用機の到着予定が2週間後。普通に行けば間に合わない。だから織斑君は訓練機で戦わなくてはいけない」
訓練機と専用機でどれだけの性能差があるのかは分からないが、性能差があるという時点で終わっている。オルコットさんはイギリスから来たエリートで、織斑一夏は試験場以外ではISで歩いたことすらない。操縦技術には天と地ほどの差があるだろう。それなのに、機体性能すら下回るという。私ならとっとと降参しているところだ。
「対してオルコットさんは第三世代の最新機。イギリス制だし射撃重視の機体じゃないか、とは言われているけど……詳しいことは分かってない」
「ん? 何でイギリスだと射撃重視なの?」
夜竹さんが首をかしげた。
前提知識じゃないことは夜竹さんが質問をしてくれるのでありがたい。その調子で前提知識についても質問してくれると嬉しい。その調子で私が何も喋らなくても情報を得られるようにしてくれると嬉しい。他力本願!
「イギリスはISの射撃武器に必要な内部機構設計の第一人者なんです。世界中のほとんどのISの射撃武器にイギリスが関わっていることになります。その中でも最近、特に力を入れているのはビーム系ですね。オルコットさんの専用機……『ブルー・ティアーズ』も恐らくはビーム系の武器をメインに据えるのでは、と言われています!」
元気良く解説してくれる岸原さん。スポーツ用じゃないせいか何度も眼鏡の位置を直していた。ぜひともその勢いで「私のデータによると、オルコットさんの勝率は99.9%です」とかフラグを建てて欲しい。
しかし、射撃とな。ISは空を自由自在に飛べるのでISでの戦闘は当然、三次元的なものになる。従来の人間の戦いと違い、銃撃戦の難易度も上がっていることだろう。素人がまともに目標に弾丸を当てられるようになるまで、いったいどれぐらいの時間がかかるのだろうか。
そういえば織斑一夏も武器は射撃系統なのだろうか。だとしたらだいぶヤバいと思うが。
「織斑君の機体って何になるの? やっぱり
夜竹さんがまたもや私の疑問を代わりに聞いてくれた。
文脈からして『うちがね』というのが機体名だろう。私はISにまるで関心がなかったので、機体名とか会社名とかパイロット名とかにピンと来ないのだ。
「そうなるでしょうね。織斑君の専用機は
「でも、ラファールの方が使いやすいんじゃないでしょうか?」
「んにゃ~……何か織斑君って不器用な気がするんだよね。やっぱり初陣だし打鉄じゃないかな」
「でも1対1ですし、もしブルー・ティアーズが高出力のレーザー武器などを持っていたらと考えると……」
「穂波さんはどう思う?」
急に私に飛び火してきた。正直、何を言っているのかちんぷんかんぷんだったので「どう思う?」と言われても何も返す言葉がない。
ここらで私元来の能力や無知を晒しておくのは悪くない。勘違いものはゴメンだ。まぁ、幻滅させるにはわざわざ手を抜くまでもなく全力で答えれば良いだけなので難しい話ではない。
でも、今の私、もとい全力の私がIS学園においてどのぐらいの立ち位置なのか確認はしておきたい。せっかくの機会だ。私もできる限りディスカッションには参加しよう。
えーと、今は何の話をしていたっけ。そうだ。織斑一夏が乗る機体の話だ。
専用機の完成が間に合わず訓練機に乗るしかない。じゃあ訓練機だったら何に乗るんだよ、という問題が出てくる、今はそれを話していた。
会話中に出てきていた『うちがね』『らふぁーる』は機体名だろう。先の発言から、『うちがね』よりも『らふぁーる』の方が癖が少ない機体っぽいが……いや、そうじゃないだろ、私。思考の道筋はそっちじゃない。
ここで大事になってくるのは会話中の情報を全部活用しないことだ。私程度の脳味噌で断片的な情報から具体的な内容を類推して知ったかぶるなんて芸当はできない。だから、会話中の具体的な情報はあまり拾わない。
私が使うのは意見のベクトルだ。
鷹月さんは『うちがね』が妥当だと思っている。理由は、専用機を『くらもちぎけん』が作っているから。ぎけん……技研。『くらもちぎけん』は名前からして日本の企業だ。『うちがね』も同様。『うちがね』の製造元が『くらもちぎけん』。オーケー。
織斑先生は「専用機は間に合わないから使えない」と言っていた。オルコットさんとの決闘は一般的なISでの試合を行う。織斑一夏の専用機は実験目的の機体ではないということだ。競技用のレギュレーションに即した"外に見せる"機体。
鷹月さんが『うちがね』の製造元を理由にしたのは、織斑一夏のスポンサーが『くらもちぎけん』だからだろう。織斑一夏はこれから『くらもちぎけん』の広告塔になるのだ。
さて、そんな織斑一夏が果たしてこれからお世話になる会社の機体を差し置いて他の機体に乗るだろうか。勿論、今はそういった立場上のあれこれではなくカタログスペック的な論点で議論しているのは私にも分かる。
つまり、私は、
「えーと……織斑君はこれから『くらもちぎけん』と一緒にやっていくわけだし、乗るとしたら『うちがね』じゃないかな」
話を逸らした。
「いや今はそういう話じゃなくない?」
速攻で夜竹さんに潰された。
「いやー……まぁ、そうなんですけどね……はは……」
はい、終わり! 解散!
思わず漏れた苦笑を手のひらでさりげなく隠していると、視線を感じた。鷹月さんだった。鷹月さんが私のことをじぃっと見ていた。
私は気付いていませんよーとさり気なく視線を逸らした。
結局、「打鉄しか勝たん」という結論が出て第1回『織斑君が勝つためにはどうするか!』会議はお開きとなった。眠い。
一日目の激動はどこへ行ったのか。二日目は特に変わったこともなく普通に授業を受けていたらいつの間にか終わっていた。
数学は三次式の展開と因数分解の公式を覚えられず(ナニアレ?)、物理はいきなり三つぐらい文字だらけの公式を覚えろとぶつけられ、国語は何か難しい言葉がいっぱいあって文章を読むだけで辛かったです。
IS関連の授業? あぁ、一日目の疲れを回復できましたよ。
しかし、放課後。
おいしいお昼をぱくぱく食べ、それとなく夜竹さんや鷹月さんと授業の振り返りをして、ねむねむしながらも二日目を終えた時に「意外とやっていけそうだなー」と何だかデジャヴな感想を抱いた私にIS学園の洗礼が襲いかかった。
私を覆う影。我らが担任、織斑先生だ。
「穂波、付いて来い」
突然のご指名。
織斑先生が有無を言わせず、私を連行。ビクビクしなが後ろをついて歩いた。
突然の呼び出しに心も体も縮こまってしまって、最早私に思考の余地はなかった。ただ凍てつく様な恐怖を感じるのみ。気付いた時には『第二相談室』と書かれたプレートが貼られた部屋の前に到着していた。私は第二相談室の放つオーラに震えた。
言われるがままにソファーに座る。対面することで織斑先生の圧倒的な存在感を初めて我が身で体験した。最前列の席じゃなくて良かった。
「お前にひとつ、特別な課題を課そう」
「……はぁ」
課題?
ちょっと待て。私に"特別"な課題なんて似合わないぞ。何せこの私。自慢ではないが特に取り立てて特別なところもない凡庸な一般人である。それとも私が気付いていないだけで、何かマズいことでもしでかしたのだろうか。授業を寝たことで個別連行されたというなら貴女の弟も同罪ですよ。
他に何か……あ、そもそも私がIS学園にいるのが特別なことだった。私は本来、どう逆立ちしてもIS学園に合格するはずのないエンジョイ勢。今ここにいること自体が何かしら特別な措置が私に適用されている証拠だ。
ということはこの課題とやらは私がIS学園にぶち込まれた理由に直結する可能性が高い。
私は織斑先生の言葉の続きを待った。
「織斑一夏を"手助け"しろ」
……はい? 手助け、とは?
私の困惑を余所に織斑先生は続けた。
「詳しいことは言えない。が、お前はその役目のためにこの学園に入れられた」
詳しいことは言えない、と。
いやちょっと待て。それ以前に。
「て、手助けって言っても……具体的には何をすれば良いんでしょうか?」
「織斑一夏が困っている時、率先して行動しろということだ。状況に応じて臨機応変に対応しろ」
「は、はぁ」
え、なにそれ。具体的にって言葉の意味知ってます? 抽象の極みなんだが。しかも"積極的"に"臨機応変"にって。つまり、それは何をやっても「えー? こっちはちゃんと指示出したからぁ~、実行できなかったお前が悪いよね~?」と返される無限の負け筋。『僕は悪くない』とか言って実務も責任も全部丸投げされちゃったわけである。
というか私が学園にいる理由だよねこれ。じゃあなんで当事者が教えてもらえないんだよ!
混乱。
私はあまりの情報の大きさ(情報量は少ない)に軽いパニック状態になっていた。そんな私に追い打ちをかけるが如く、織斑先生は言った。
「"赤点"には気を付けろ」
話はどうやらそれだけのようだった。
私は思考を全て停止させて第二相談室を後にした。ちょっと落ち着いて考えたい。
とりあえず一時的な避難所にはトイレが選ばれた。大きなドアを2回、キキィーと音を鳴らしながら開ける。中に誰もいないことを確認。やたらと広いトイレの個室に入って洋式便器の上にトイレットペーパーを敷いて座った。
「……勘弁してくれよ」
花も恥じらう乙女にあるまじき言語化し難い特大の溜息を吐いて頭を抱えた。
「……赤点かぁ。赤点取ったらどうなるんだろ」
「退学処分ではないでしょうか」
「あぁ、やっぱり? そうだよね。私を学園に在籍させる価値なんてないもんね」
「そう自己を卑下することはありませんよ。あなたは束様の───」
「いやちょっと待てよ」
私はハッと思わず目を見開いた。そしてそのまま固まる。
ここは個室トイレだ。そして中に誰もいないことは入る前に確認している。更にトイレに入るには2つ、ドアを開けなければいけない。洗面所と便座ゾーン前と2つ。そのどちらも開閉にはドアの開閉音がする。
つまり私は"このトイレの中に誰もいないこと"を確信していたからこそ、そして誰かが入ってきてもわかるからこそ、このトイレでひとり寂しくモノローグっていたのだ。
ならば私の独り言に返事をしたのは……?
私の脳細胞は思考と同時に視覚に頼った。つまり、見た方が早い。
顔を上げた。
会話相手はすぐ目の前にいた。
「どうも」
その人物はペコリと私に一礼。
プラチナのような銀色が視界の中で揺れた。
「壁面から失礼します。申し遅れました。私は『くーちゃん』と申します。以後お見知りおきを」
白銀の髪が綺麗だな、と私は場違いな感想を抱いていた。