銀髪美少女にTSして適当に生きる。   作:キンカク

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それは、適当に生きること

 俺が自分の死を自覚したのは、来世で物心がついた時だった。

 それは“私”にとっての初めての記憶で、“俺”が私になった瞬間でもあった。

 

 水晶のように透き通った銀髪と、細い硝子細工のような腕。

 私は、美しい少女だった。

 

 転生モノは世にごまんと存在するが、私のそれはただの転生ではない、TS転生だ。

 

 色々と前世の未練や性別の違いに対する困惑はあったものの、なんとかその事実を受け入れて私は成長する。

 幸いだったのは、私にはチートと呼ぶべき魔術の才能があったことだ。

 この可憐な容姿がTS転生の転生特典ですよ、とか言われても困るからね。

 

 ある程度大きくなった私は故郷の村を出た。

 なんてことのない、長閑な村だった。

 悪い場所ではなかったのだけど、そこで一生を終えるのはあまりにももったいないと思ったのだ。

 後ずっと村にいると、周囲からの結婚しろ圧がキツイのもある。

 男と結婚して子供を作るとか冗談じゃない。

 

 経歴にすると、私の原点はそんなところだ。

 はっきり言って、特に面白みもない。

 転生者ならもっとドラマチックで、複雑な過去をもっているものじゃないかと思わなくもない。

 

 なんて適当でありきたりな過去なんだと思ってもらって結構。

 私の人生は、適当でいいのだ。

 

 

 ◯

 

 

「“炎よ、敵を穿け”!」

 

 手をかざしながら、言葉に魔力を込める。

 すると手のひらを中心に、私の周囲に火の玉が浮かび、それらは凄まじい勢いで敵へ向かって突っ込んでいく。

 

「ぎゃ!?」

 

 悲鳴を上げるまもなく、一匹のゴブリンが火の玉の直撃を受けて燃え盛り倒れた。

 その場には数匹のゴブリンがいたが、最初のゴブリンが燃え盛るのを見て恐怖している間に、続けざまに放たれた炎弾でもって彼らは塵に変わっていく。

 

 戦闘は一方的だった。

 言うまでもなく、私が一方的に蹂躙する側である。

 

 ゴブリン、すなわちどの世界にも存在する雑魚モンスターの代表格に、遅れをとる転生者はいない。

 いるとすればそれはすなわちRが18な世界に転生してしまった転生者くらいだ。

 この世界のゴブリンは、人間と交配したりしないので、そういう危険はない。

 残念だったな。

 

「制圧完了」

 

 ふっ、決まったな……みたいな心境で、燃え尽きたゴブリンたちを見る。

 周囲に魔物の気配なし、私の勝利である。

 

「さて、そろそろお宝の一つでも見つかってほしいんだけどな」

 

 今、私がいるのは迷路タイプのダンジョンだ。

 ダンジョン、それは神々が作り給うた人への恵み。

 同時に、邪なる魔物を封じる檻でもある。

 

 具体的に言うと、宝箱と魔物が自動でポップするゲームライクなよくあるダンジョンだ。

 さっきの説明はこの世界におけるダンジョンがどういうものかを説明する言葉。

 要するに、神様が作ったから、恩恵として宝箱が無から生み出され、同時に魔物を閉じ込める檻としても機能するから魔物が出現する……という感じ。

 

 まぁ、現地人にしてみれば存在することが当たり前の代物だ。

 転生者にしても、転生モノらしくて実にわかりやすい場所である。

 

 つまり、冒険者として冒険するには最適な場所。

 私はそこで宝箱を漁っていた。

 

 何故そんなことをしてるのかといえば、特に理由はない。

 だって冒険者だもの、宝箱の一つくらい漁りたいときもある。

 まぁ問題は、

 

「ぜーんぜん見つからん」

 

 これに尽きることなんだけど。

 とにかく見つからない、こんなに見つからないものだったっけ? って考えちゃうくらい見つからない。

 あまりに見つからないものだから、だいぶ諦めも入ってきているけれど、とにかく見つからない。

 見つからないったら見つからない、さっきから何回見つからないって言えば気が済むんだよお前。

 

「せめて、せめて一つ見つかるまでは帰らないぞ……!」

 

 こういう時、たとえどれだけ成果が出なくても、深入りは絶対に禁物だ。

 ダンジョンには常に魔物と鉢合わせになる危険性がある。

 もしも逃げられない状況で魔物と遭遇してしまった場合、一つのミスが死につながるのが異世界だ。

 だから絶対に、無茶は禁物。

 どれだけ成果が出なくて焦れていてもだ。

 

「あああああああ見つからないーーーー!」

 

 まぁそんな事言ったって、見つからなくてイライラするのは人の悲しき性なんだけど。

 まぁ、私が今いる階層で遅れを取ることはないので、そういう定石は気にせず進む。

 どうせ出てくるのは新人でも冷静に戦えば一対一で負けることなんてないゴブリンやスライム、毒ラットあたりの雑魚魔物だけだ。

 

 しかし、だからこそ苛立ちは募る。

 そもそも私は、ガチャを回したいけどガチャ石がなくて、石を使わないで回せるノーマルガチャでガチャ欲を満たすくらいの気持ちでダンジョンの上層に入った。

 手軽かつ、数を回せなければ意味がないのに、そもそもその数が零のまま動かないのでは、むしゃくしゃして道行く魔物を葬り去る手も進むというもの。

 

 そうして、探索すること数時間!

 

「頼むよー、何でもいいから出てきてくれよー……私が悪かったからさ……下着を上下違うものつけたりしないからさ……」

 

 怒りが泣き言に変わりつつあったその時。

 ふと、視界の向こうにあるものが映った。

 何が? 言うまでもない。

 

 ――宝箱である。

 

「…………あった!!!?????」

 

 思わず冷静じゃないせいで疑問符が浮かんでしまった。

 幻覚を疑ってしまった。

 でもあった、宝箱だ!

 あったぞ!

 

 私は一目散に駆け出していた。

 アレは私のものだ、見つけたぞ! 誰にも渡さないぞ! これで大金持ちだぞ!

 

 開ける。

 

「あ、アーーーッ!」

 

 変な奇声を上げながら開けて。

 

「あ。」

 

 私のテンションは、崖から落下するかのように、

 

「あぁ……」

 

 急降下した。

 

 

 ◯

 

 

「……というわけで、これがダンジョン上層の宝箱から発見されたものだ」

「――呪具ですか」

 

 場所は変わってギルドの受付。

 顔なじみの受付嬢さんに、私は見つけたお宝の中身を見せていた。

 

「まず、あなたみたいな高ランク冒険者が新人の狩り場に出入りするのは恥ずかしくないのですか? とお聞きしたいところですが……結果オーライですね」

「いいじゃないか! 今日は安息日だぞ!? 休日に宝箱ガチャを回してもいいじゃないか!」

「落ち着いてください」

 

 説明しよう、私が見つけたのは呪具と呼ばれる文字通り呪われたマジックアイテムである。

 手に持つと呪具に操られて人を殺し始めたりする、厄介な代物だ。

 ちょうど、私が見つけた呪具のように。

 

「ダンジョン内の瘴気が許容値を越えている可能性がありますね」

「新しい“主”が湧いたか……“決壊”が近いのかも」

「なんにせよ、これが新人冒険者に見つからずに済んでよかったです、ありがとうございます」

 

 主だの決壊だの、瘴気の許容値だの色々と言っているが、要点は単純だ。

 こういう呪いのアイテムは普通、ダンジョンの上層部では出ない。

 そして、そういう上層部を探索する新人冒険者に、呪具の判別はできない。

 私みたいな存在が、ガチャ欲を抑えきれずに上層部に潜りたくならない限りは何かしらの被害が出てしまうのである。

 

 いやホント、ある意味めちゃくちゃ運が良かったね、新人君たちは。

 ……新人君たちにとっては。

 

「――シルハさん」

 

 シルハ。

 私の名前だ。

 

「はい」

「ギルドとして、Aランク冒険者の貴方に依頼を出します」

「はい」

「この呪具が出現した要因を調査してください」

 

 私にとっては?

 言うまでもない、面倒くさいに決まってる。

 でも――

 

「……解りました」

 

 引き受ける。

 若干の沈黙に、めんどくさいなぁという行間を三十行ほど詰め込んで。

 でも、引き受ける。

 だって、断る方が面倒くさい。

 私は適当に生きたいんだ。

 それは、決して全部を適当に投げ出してしまいたいというわけではない。

 

 人にはある程度好かれていたい。

 承認欲求は程々に満たしたい。

 周囲からの注目はある程度でいい。

 

 そういう、適度に充実していて、ストレスにならない程度の立場で生きていく。

 それが私の言う、“適当に生きる”ということの意味なんだから。

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