マブラヴ×こち亀 作:佳貴枝
はじめまして。
「両津、この馬鹿ものが!」
亀有公園前派出所に大原部長の大声が響き渡った。
最早毎日のことになってしまっているので、道行く人々は誰も気にした様子がない。精々鳩の群れが大空へと非難したくらいである。
「すいません部長!」
「もうお前の謝罪は聞き飽きた! いい加減にせんと今月も減給にするぞ!」
「そ、そんな~! 勘弁してくださいよ。これ以上給料を減らされたら、ワシはどうやって生きていけばいいんですか!」
「真面目に勤務していれば済むことだろうが! 全く、そもそも派出所というのはだな……」
また長い説教が始まるのか、両津がげんなりとしたその時、
「両津の旦那ァー!」
野太い声とバイクのエンジン音が聞こえてきた。両津の後輩、本田速人が愛機で爆走しながら派出所へ乗り込んできたのだ。
派出所に排気ガスがもうもうと立ち込める。そのことを気にした風もなく、本田はバイクから素早く降りた。
「本田! 派出所にバイクで乗り込んでくるな!」
「せぇんぱぁ~い、怒鳴らないでくださ~い」
先程までの雄々しい劇画調の顔つきはどこへやら。なよなよとした声本田は答えた。
本来ならばさらに叱ってやりたい。しかし今の両津にとってこの本田の起こした騒ぎは部長の説教をかわす格好のチャンスだった。
「部長! 後輩指導がてら、両津勘吉巡査長パトロールへ行ってまいります!」
言うが早いか両津はうじうじしていた本田をバイクへ乗せると、自分もその後ろへ飛び乗った。
「本田、出せ!」
「あいよ! 旦那ァ!」
愛機に乗ってキャラが変わった本田。アクセルを踏み込むと、二人を乗せたバイクは車道へと飛び出し見る見るうちに小さくなっていった。
当然、また派出所内には排気ガスが立ち込める。
「ゲホッ、ゲホッ! お前も本田君もベテランだろうが、戻ってこい両津……ゲッホゲホッ!」
後にはせき込む部長が一人残されただけだった。
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「よしよし、上手く逃げ出せたぞ。助かったぜ本田」
「なぁにいいってことよォ! それより旦那、どこかへ行くかい?」
「いや、適当に走ってくれ。ほとぼりが冷めたくらいで派出所に戻る」
「了解だァ!」
アグレッシブな運転をしている本田と後ろにまたがる両津。葛飾区でよく見かけるコンビである。
本田の運転は見ている側がヒヤヒヤさせられるほど危なっかしいのだが、死亡事故を出したことはない。あくまで死亡事故は、であるが。
そうしてしばらくドライブを続けていたのだが、予想外の出来事が起こった。
「旦那ァ、前だ!」
「どうした本田……なに、子供が!」
なんと、歩道から子供が飛び出してきたのだ。
先述のとおり、本田は大抵のアクシデントには対応できるほどの運転技術は持っているのだ。子供を避ける、それだけならばたやすい。
しかし、運が悪いことに本田のバイクの後ろを走っていたのは大型のトラックだった。自分が避けてはトラックに轢かれるのが目に見えている。
子供はこちらに気付いているが、足がすくんでいるようだ。これでは逃げてもらうこともできない。
どうしようか。本田は一瞬の思考の後、後ろの両津に声をかけた。
「旦那ァ! このバイクで衝撃を受け止めるぞ!」
「ってことはワザとトラックにぶつかるのか!? 止せ、早まるな!」
「しっかり掴まっててくれよォ!」
ドリフトを巧みに使って急停車する本田のバイク。トラックの運転手も慌ててブレーキを踏み込んでいるようだが、ぶつかる前に停車してくれることはなさそうだ。
衝撃と轟音。
二人の乗るバイクは空へ打ち上げられ、同時に二人の意識は闇へと落ちていった。
――――あのガキは助かった。それだけでもよかったぜ。
打ち上げられてなおハンドルを手放さない本田が、意識が落ちる直前に考えたのは飛び出してきた子供の事だった。しかし両津は、
――――事故なんて起こしたらまた部長に怒られる。減給はもう嫌だぁー!
と、鬼部長の説教のことを考えていた。どこまでもブレない男である。
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南海に浮かぶ無人島。
国連軍の演習場として使われているここでは、今まさに横浜基地207B分隊の 総合戦闘技術評価演習が行われているところだった。
鎧衣、榊、御剣訓練兵で構成される第一分隊と玉瀬、彩峰訓練兵で構成される第二分隊がチェックポイントまでたどり着かねばならない。
作戦行動時間の144時間のうち、20時間が経過しようとしていた。
「これだけ来て全体の1/8かぁ……まだまだ先は長いわね」
「そうだね。あ、榊さん足元気を付けて!」
「! ありがと。助かったわ鎧衣。私も大分注意力が落ちてるみたい」
「ここまで大休憩を取らなかったのだ、無理もない。もうじき日も暮れるし、何処か休める場所を探した方が良いのではないか?」
「そうしましょうか。鎧衣、何処か休めそうな場所を探して来て」
「わかった、ちょっと待ってて!」
鎧衣はジャングルの中へ消えて行き、数分で戻ってきた。
「ちょっと行ったところにほら穴があった。なかなか運がいいよ」
「じゃあ、そこまで行きましょう」
「了解した。分隊長」
着いた先にあったのは、まさに「2,3人で使って下さい!」と言わんばかりのサイズのほら穴であった。
「本当におあつらえ向きの大きさなのだな……」
「まるで誰かが使ってたみたいね」
「あはは。二人とも、ここは無人島なんだから……罠がないことは確認してるよ」
都合のいいほら穴がすぐに見つかったことに二人は戸惑っていたが、鎧衣は大して気にしていないようだ。
サバイバルの達人の鎧衣が言うなら大丈夫だろう。二人がそう納得しかけた時、背後の密林からガサガサと音が聞こえた。
追跡者だろうか? それとも野生の動物? 一瞬で銃を構えた三人が目にしたものは……
「ワシの家に何の用だ! 猪か、鹿か? どっちにしろ今夜はご馳走……って人間か?」
葉っぱの腰布に即席の槍。
原始人もかくやという格好の両津勘吉であった。
物理法則を気にしてはいけない。ご都合主義はすべてに優先する!
それでは二話でお会いしましょう。