オウル・ワイズマンのコラム 翻訳:蔵王 武蔵(ライター) 作:ぼっちクリフ
やあみんな、ごきげんよう。オウル・ワイズマンだ。
来週からいよいよプロツアー・サンフランシスコが始まるけど、世間は2週間前の禁止改訂の話題で持ちきりだ。先日の世界選手権ファイナルで8選手中7選手が使用したトップデッキ「ブルードラゴン・ビートダウン」。その中核であり環境トップメタのカード「ブルードラゴン」が禁止された影響は大きい。これまでも「ブルードラゴン」禁止の噂は囁かれていたが、前々回の禁止改訂が「竜笛」のみだった事から今回も見送られるのではないかという観測が有力だった。けれども運営は「ブルードラゴン」の禁止に踏み切った。これに対する反応は様々だ。
「環境は安定していた、ブルードラゴンは必須だけどメタは回っていたし禁止する意味が分からない」
「禁止が遅すぎたしそもそも刷るべきカードじゃなかった。何考えてあんなカード作ったんだ」
どちらの言い分も僕はよく分かるし、ブルードラゴンというカードに対する評価は様々だろう。そこで今日は、この「ブルードラゴン環境」とも呼ぶべき半年を振り返り、ブルードラゴンとは何だったのか、僕の考えを記したいと思う。
結論から言えば、「ブルードラゴン環境」そのものは多様性もあり面白い環境だった。しかし、「ブルードラゴン」というカードのデザインは失敗だったのだ。
①そもそもブルードラゴンは何のために作られたのか
ACG史上最強の動物と言われるブルードラゴン。そもそも運営は何を意図してこの動物をデザインしたのだろうか。
思い出して欲しい、ブルードラゴン環境の前に何が流行していたのか……そう、「にゃんにゃんコントロール」全盛期だ。「にゃんにゃんコントロール」の流行に対し、運営はふたつの問題があると考えていた。
1、ファッティ(大型動物)の不遇
2、試合の長時間化
通常コントロールデッキは序中盤を妨害カードでしのぎ、後半ファッティを展開して場を制圧するデッキだ。しかしにゃんにゃんコントロールが選択したフィニッシャーは「母にゃんこ」。あくまでもトークンを産むのが主体であり、ファッティとは言えない。むしろ猫トークンを出し続ける事によって横展開し、アドバンテージを稼ぐ動物だ。「大将ライノ」をはじめとしたファッティたちの出番は無かった。
その他のデッキにもファッティの姿は見えない。「らくだビート」はヒトコブラクダを主力としたビートダウンデッキで、「ガン&ラン」はチーターを主力としたデッキ。わずかに「ライノシュート」がファッティとして大将ライノを採用していたけど、これもコストを踏み倒す事が目的だ。
そう、環境にファッティの居場所は無かった。主力となっている動物「母にゃんこ」「ヒトコブラクダ」「チーター」は全て除去耐性、あるいは疑似的な除去耐性を持っている中型動物で、ファッティが出るまで見逃してくれるような甘い性能ではない。
結果として運営が考えるファッティの花形――「序中盤耐えたあとにファッティが出てきて全てをひっくり返す」展開は無くなり、ファッティの冬が訪れた。
もうひとつの問題が試合の長時間化だ。にゃんにゃんコントロール全盛期の試合時間の長期化は各店舗で問題となっており、閉店時間までに大会が終わらない事もザラだった。コントロールが流行する事は良いが、試合時間はもっと短く、出来るならば終盤戦まで行かずに終わる事が運営にとっては望ましい。
このふたつの問題を一気に解決すべくデザインされたのが「ブルードラゴン」だった。中盤戦の終わりに突如降臨し、全てを焼き尽くし試合を終わらせる暴竜。
ブルードラゴンは運営の要望を完璧に満たしていた。
②ブルードラゴン環境には多様性があったのか、無かったのか
ブルードラゴンが語られる時に必ず話題になるのが環境の多様性に関してだ。ある人は環境に多様性はあったと言い、ある人は無かったと言う。僕は「ブルードラゴン環境」には多様性があったと思う。
ブルードラゴンはオーバースペックを持ちながらも、実に計算されたデザインをしている。それはありとあらゆるデッキとのかみ合わせが良く、どんなデッキにも投入可能だという点だ。ビートダウンやコントロールのフィニッシャーとして採用しても良い、ウィニーが足を伸ばしてブルードラゴンまでコストを伸ばす事も視野に入る、コンボデッキにだって入れられる。ブルードラゴンは必須だが、ブルードラゴンによって環境がビートダウン固定となる事は可能な限り避ける。
だが、当然ながら環境は煮詰まり、ブルードラゴンはメタの中心に君臨してその力を活かす「ブルードラゴン・ビートダウン」へと収束する。ここまでは(多少時間が早かったとしても)運営の想定通りだったと思う。
世界選手権ファイナルのデッキ、8つのうち7つがブルードラゴン・ビートダウンだった事は環境の多様性が無いと言えなくもない。しかし、運営には考えがあっただろう。
「ブルードラゴン環境は成功した。あとはこのレベルの動物や、それに対応するカードを追加していけば良い。環境を流動化させ多様性を生み出しながら試合時間を短縮できる」
現在の環境は一定の多様性を生み出した。
過去の環境は一掃されたが、それはある意味「動物たちの進化の過程」であり、仕方のない側面もある。Top環境にパワーが追い付かなくなったデッキは過去いくつもあった。
しかし、ブルードラゴンには致命的な欠点があった。この動物は、ACGの未来から多様性を奪ってしまったのだ。
③ブルードラゴンは何故禁止されたのか
ブルードラゴンの罪は強すぎた事ではない。現在の環境の多様性を奪った事でもない。ブルードラゴンは、「次の環境」を生み出す事を阻害してしまったのだ。
想像してみて欲しい、君はACGのデザイナーだ。「青嵐の軍勢」は様々な評価があるものの売り上げは好調。デザインチームの想定した通りの試合時間短縮化、華のある対戦、そして煮詰まった環境を生み出した。さあ、次はこの暴竜を脇役へと追いやり、新たな主役の登場するパックをつくるのだ。新しい環境をプレイヤー達は心待ちにしている。
では、ブルードラゴン以上の環境を動かす動物を考えてみよう。まずは除去耐性は必須だ、これが無いとブルードラゴンに除去されてしまう。次にファッティと呼べるだけの大きさを与えて、回避能力……そうだな、有翼をつけるのが手っ取り早いか。出るだけで仕事をするCIP能力をつけないと返しで全体除去を打たれてアドバンテージが取れないぞ、さぁこれらに相応しいコストを考えると……
もうお分かりだろう。環境を動かす動物を考えた時、ブルードラゴンに対抗する為にもっとも必要となるのがブルードラゴンなんだ。なんと完成された動物だろう! ブルードラゴンに対抗するのにもっとも必要な動物を考えた時、自然にブルードラゴンへと行き着いてしまう! ブルードラゴンはそれくらい自己完結したカードなんだ。
断言しても良いが、どんなカードを刷った所でブルードラゴンが環境から落ちる事は無い。環境どころかゲームその物を破壊するようなカードを作らなければ、暴竜は新カードを喰らいさらに環境を煮詰めるだけだ。それどころか、新カードはブルードラゴンとの相性で評価され、どのブルードラゴンデッキに入るかのみが話題になるだろう。
これがブルードラゴンの罪だ。ブルードラゴンはACGの未来を文字通り破壊してしまった。
もし、ACGが「青嵐の軍勢」以降新カードを作るのをやめ、ブルードラゴン環境がACG最後の環境となるならば僕はこのカードを全肯定しただろう。しかし、現実はそうじゃない。ACGはこれからも続く。未来を考えた時、運営の取れる手は二つしか無かった――
ブルードラゴン以上の動物が跋扈するカオスへと漕ぎ出すか。
ブルードラゴンを禁止して失敗を認めるか。
ブルードラゴン亡き今、プレイヤー達は新しい環境と向き合っている。そろそろ僕も筆を置いて、新しい環境と向き合いに行こうと思う。青い竜よ、その名の通り嵐のような半年をありがとう。もう二度と戻ってくるんじゃねぇぞ。
※「竜笛」禁止改訂により内容を一部変更しました