自称最強チート転生者と忘却された勇者   作:ユフたんマン

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倉庫に眠っていた作品を書き足したもの。続くか分からない。タイトルとあらすじは変更するかも。


終わりと始まり

魔界に存在する禍々しい雰囲気を醸し出す魔王城。

その一室では3人の魔族たちが集まっていた。

 

「闇のサイ・ジャックがやられたようだな…」

「フフフ…奴は四天王の中でも最弱…」

「人間如きに負けるとは魔族の面汚しよ…お前もそうは思わんか、水のウォルボルクよ」

「……」

「フフフ…相変わらず無口だな…」

 

ウォルボルクと呼ばれた男は何も言わず、そのままその場から立ち去って行った。

 

「奴が動くか…勇者も終わったな…四天王最強の魔族、水のウォルボルクに目を付けられるとは運のない…」

 

 

 

 

△△△

 

 

 

 

俺の名はウォルボルク。スーパーの加熱用の牡蠣を生で食べたらいつの間にか転生していたただの一般人だ。

転生…それも魔族、人間と敵対している種族にだ。

更にはイケメン。

調子に乗った。もちろん調子に乗った。俺TUEEEEをやりにやりまくった。

俺の適性は水、よくある全属性とかでは無かったが、特化型だろうと水の魔法を鍛えに鍛えまくった。

そして遂には魔族最強とまで言われるようになり、四天王最強の立ち位置にまで上り詰めた。

そして始まるハーレム生活と無双生活。

 

 

 

 

と思いきや、そうはいかなかった。

 

まず、俺の顔には生まれつき、黒い切り傷のような痣がある。それはどうやら魔族の中では呪われた子、所謂忌み子なのだとか。

そのせいで親にも捨てられ、これまで1人で孤独に生き抜いてきた。

そのため、せっかくイケメンに転生したと言うのに素顔を晒せない。容易に晒してしまうと最悪他の奴らに追放、暗殺といった危険がある。

だから可愛い女の子に素顔を晒せない。キスすら出来ない。

 

そして次に、人間としての心が残っている事である。

日本でほのぼのと暮らしてきた奴がこんな異世界で敵対する人間をポンポン殺せる?そんなわけないだろう。普通に気分も悪くなるし、必要がないなら殺したくない。

ただ現世はそれなりに過酷だったため、殺さなければならない状況なら躊躇なく殺すことは出来るのだが、それでも嫌だ。

そのため何も無い時や、自分が出る幕ではない時は全て部下に任せている。魔物が敵なら無双出来たのだが味方なんだよなぁ…

 

 

そして俺が四天王になってから数年後。この世界に勇者が現れた。

名はテラシア。めちゃくちゃ可愛い女の子だった。

何故容姿を知っているのかって?

だって俺が直ぐに潰しに向かったからだ。

 

何故戦隊シリーズやプリキュアの敵は、序盤に脅威となるかもしれない組織を総攻撃しない?まぁ様々な作品にも言えることだが、そういう暗黙の了解を俺はぶち破り、勇者が出現したと報を受けたと同時に王国へと襲撃を掛けた。

 

だが無理だった。それも全て勇者の力のせいである。

まぁ実力といえば、大したこともなかった。

バーン様と初期ハドラーくらいの差があるのだから当然と言えば当然だ。

だがそのパーティは別格である。人類最強と呼ばれる剣聖、大魔道士、聖女、武闘家のパーティである。

ゲームよろしくバランス調整など一切ない。

Lv1の勇者に初めからLv99の奴らが仲間になるような状態である。

まぁ無論、俺もチートな訳で、正面から戦っても負けるはずもなく、崩壊寸前まで追い込んだ。敵だし脅威になるからしょうがないよね。

 

そして勇者にトドメを刺す直前、俺は周りにいた兵士の放った言葉を聞き逃さなかった。

 

『勇者は死んでも更なる力を宿して直ぐに蘇る』…と。

 

俺はそれを聞いて直ぐに撤退した。下手に殺せば奴は俺以上に強くなるかもしれなかったからだ。

俺は直ぐに王国に人間に変装し、潜入し情報を集めたが、更なるチートを知る事になるのであった。

 

『勇者の宿す魔力は光。闇以外の全ての属性に特攻と耐性を持つ』である。

 

化け物かよ、と顔を手で覆ってしまった。

この世界の魔力にはそれぞれ属性が宿っており、それぞれ相性の有利不利が存在する。炎が水に負けるように、基本、相性有利不利が戦局を変えることなどよくある。

そんな中、光は闇以外の属性に有利なのだ。耐性は勿論、相手の属性に関係なく弱点を付けることになる。某ポケットなゲームで言うならさばきのつぶての上位互換である。

最強と言われる俺でさえ、中堅程度の実力の魔道士に無防備の状態で雷魔法を撃たれると結構辛い。真水で電気を通さないようにして防ぐから無傷だけども、それほどまでに相性というのは魔法というものの中で重要視されている。

 

そんなチートにも弱点はある。それは闇属性の魔法だ。先程も言った通り、光は闇以外の全ての属性の耐性を持つ。だがしかし、唯一と言ってもいい弱点が闇である。

逆に闇は、『光以外の属性に耐性を持たず、逆に光以外の他の属性に耐性を持たれている』

 

つまりは完全に光特攻な属性と言うわけだ。

闇は光を全て飲み込む。魔法は無効化、初級魔法であっても勇者からは上級魔法と遜色ない威力を発揮するわけである。

そして闇魔法で勇者を殺せば、勇者は生き返れないというのが1番でかい。唯一勇者を殺すことの出来る手段なのだ。

 

早速俺は協力を取り付けるべく、闇魔法を極めた四天王の1人、サイ・ジャックに声を掛けに行ったのだが時既に遅し。功を焦った奴は既に勇者達に特攻していた。

元々四天王最弱と呼ばれていた男だ。そこで四天王最強とも名高い俺が勇者を殺せず帰ってきた。なら自分が勇者を殺せば俺を越えられるとでも思っていたのだろう。

まあ結果は冒頭の通り敗北したわけだが…

 

こうして闇魔法を使える中で最も強かったサイ・ジャックが死んだ。闇魔法が一子相伝というものであり、既に闇魔法を使えるものは彼の息子のみ。まだ幼く魔法は多少齧った程度。

勇者への勝ち目はほぼほぼ無くなったと言っても過言ではない。

 

そんなこともわからず「奴は四天王の中で最弱…ククク…」とか言ってる馬鹿共を置いて、俺は生き残るために亡命することにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで魔族と人間の戦争が激化し、他の四天王が駆り出される程の戦場となった隙にこっそりと魔王城を抜け出してきた。

 

夜の森の中。そこらにいた魔物をサクッと殺し、丸焼きにしていると、ばったりと勇者一行に出会ってしまった。

 

「貴様は…魔剣士…水のウォルボルク…!!何故貴様がここにいる!?」

 

「………」

 

俺は外していた仮面を一瞬で取り付け彼女達の方を見る。人間の姿に擬態していたが、剣聖と大魔道士と賢者と武闘家には意味を成さない。というか全員に意味ねぇじゃねぇか!勇者は知らん。

武人は俺のオーラや勘、魔法使い共は魔力で判断しているのだろう。限界まで抑えている筈なのに気づく当たり、流石は人類最強とも呼ばれる面々である。

ここにいたのは恐らくだが魔王軍の戦力のほとんどが戦場へある今、ガラ空きの魔王城へ奇襲を駈ける為の別働隊…というところだろうか。

 

因みに俺は無口だ。無口を装っている。決してコミュ障ではない。決してだ。馬鹿だから話したらボロが出るとかそんなんじゃないぞ。

 

「ぜりゃあッ!!」

 

「………ッ!!」

 

答えは要らんとばかりに武闘家が俺に殴り掛かる。

危ねぇなこの脳筋女めッと内心悪態をつきながら迎撃する。腕に魔力を込めて拳を打ち出す。すると、水のエフェクトが宿り、まるで某鬼狩りの呼吸よろしく武闘家を吹き飛ばす。武闘家もすぐ様衝撃を全て受け流し仲間達の前に着地する。

 

そして次の瞬間に襲い掛かるのは魔法の雨。主に俺の弱点の雷属性が多い。

繰り出したのは大魔道士。普段は好々爺な初老の男は、仇を見るかのような激情を顔を向けている。俺はそれら全て魔法で防ぎつつ、上空に魔法を打ち出す。

 

「“水飴(みずあめ)”」

 

粘度の高い水が辺り一面に降り注ぐ。地へと落ちた直後、それは弾け辺り一面を水を撒き散らす。

これで容易に雷魔法を撃てば味方にも感電するため、雷魔法を撃ち辛い環境になる。

 

「“水風閃(みずふうせん)”」

 

辺り一面の水がボール状に変形する。そして次の瞬間には破裂し、水は針へと姿を変え勇者達へと襲い掛かる。

 

「甘いッ!!」

 

剣聖が高速で剣を振るい全て叩き落とし前進する。

後方では聖女が魔法で結界を張り全て防いでいる。

 

「“断空(だんくう)”!」

「“華水(はなみず)”」

 

剣聖の空をも裂く剣と、俺の魔法剣がぶつかり合う。凄まじい衝撃音と共に、俺は鍔迫り合いで負けて後ろに押し出させる。

だが、後ろに下がるのと同時に魔法剣を剣聖に投げる事で間合いを広げ、その隙に魔法を放つ。

 

「水「させねぇッ!!」ッ…!」

 

詠唱中に割入ったのは武闘家だった。気配を消して俺の死角から近付いて来ていたのだ。詠唱を中断した俺は直ぐに新たに魔法剣を創造し武闘家を迎撃する。

 

ここまでは余裕を持って捌いている。だが奇妙なのは勇者が動いていないことだ。奴は何をしている?何故戦いに参加しない?

 

そう思案していると、突如勇者は動き出した。右手を天に向けて魔法を放つ。

 

「“照らせ”」

 

たった一言。俺の魔法、水飴で出来た雲を一瞬で晴らし、更には擬似太陽まで創り出し、辺り一面の水気が乾燥し消えていく。

 

強い…当然だが、前に戦った時よりも強くなっている…チートめ、俺よりチートしやがって、許さんッ!俺も人間で勇者になりたかった…!

 

「皆、ここは私に任せて欲しい…」

「は?」

「何言ってんだよテラシア!」

「彼には私1人で勝ちたい…」

 

は?舐めてんのかコイツ!?これでも魔族最強ぞ?魔王にももう負けんぞ?あの頃とは違うぞ?

 

「“水族監(すいぞくかん)”」

 

水が俺と勇者を呑み込む。水族監は一種の結界であり、中は水で溢れており、凄まじい水圧を与える魔法である。

俺には勿論効かないため、更に水で鮫やイカを創造し突撃させる。

 

「“照らせ”」

 

勇者の魔力が爆発する。またしてもたった一言で俺の魔法が破られる。水の監獄は魔力の爆発に耐えきれず飛散し、俺と共に勇者も外へ弾き飛ばされる。

魔法は不利だと魔法で剣を創り出し、接近戦へと縺れ込む。

勇者の聖剣と俺の魔法剣が交差する。可愛らしい顔とは裏腹に凄まじい力で俺の剣が後ろに弾かれる。

その隙を突いて勇者が剣を高速で振り下ろすが、新しく魔法剣を創り出し、左手に装備し何とか防ぐ。

その後も幾度となく剣を交わすもずっと俺の劣勢だ。次第に身体中に切り傷が付けられていく。

戦っていく中で俺の心の中で敗北という文字が浮かび上がる。

 

ダメだこれは勝てない。おいおい死ぬわ俺。四天王辞めて正解だったわ。

多分これ魔王も勝てんぞこれ。

因みに魔法の属性は『虚無』。他の属性との相性は一切存在しない稀有な属性だ。戦いに関しては俺の方が上だが、政治面、カリスマ等は当然ながら俺の遥か上だ。

いや、1回負けたけどもう負けんし。

 

 

まぁ俺が勝てなきゃ魔族の中じゃ誰も勝ち目ないだろうなぁ…搦手使う奴も殆どいないし…

 

次々と迫り来る聖剣を弾き返す。

もう俺の身体が持たない。というかこいつ強くなりすぎだろ。前に戦ったの2ヶ月くらい前だぞ?インフレしすぎてないか?

いやまて、勇者は死ねばパワーアップして復活する。

つまり…やったなこの女…!

自殺を何度も繰り返したというならばこの強さにも納得出来る。狂人か?その精神力化け物すぎ…(ドン引き)

 

聖剣が俺の魔法剣をへし折り、そのまま俺の体を袈裟斬り。血が大量に噴き出す。

 

「ゴフッ…!?」

「終わり…!」

 

迫る勇者の聖剣。

ここで…俺は死ぬのか?嫌だ死にたくない、俺は死にたくない…!

思い出す。俺は知っている。死の感覚を。俺は1度受けている。死がもたらす苦痛を。

身体から全てが奪われていくあの感覚を…もう受けたくないッ!!

 

「“水風閃”ッ!」

「ッ!?」

 

その為なら…この体が幾ら傷つこうと構わない。命あっての物種だ。

 

「アイツ!?自分諸共ッ!!」

 

痛い…だが耐えられぬ程ではない!

今あるほぼ全ての魔力を練り上げる。一点に集束、そして勇者へと解放する。

 

「“水妖貫(みずようかん)”ッ!!」

 

俺の魔力が巨大な水の槍へと変貌し、凄まじい速度で襲い掛かる。

 

「…クッ!!“聖照斬(せいしょうざん)”ッ!!」

 

勇者もこの魔法には必殺の一撃を使わねば防ぎ切れぬと判断し、闇を祓う聖の斬撃を繰り出す。だがそれは読めていた。

 

「何…!?」

 

自らが水妖貫と共に突撃する。姿勢は地面とスレスレに成程に平坦に、そして魔法にも劣らぬ速度で距離を詰める。

次の瞬間、大気が揺れる。魔法と聖剣が衝突したのだ。結果は…

 

 

「“水星変(すいせいぺん)”ッ!!」

 

技の撃ち合いでは俺の負け。水は全て蒸発し、聖剣は俺の腹に突き刺さっている。

だがまだだ、ここで終わるわけにはいかない。

 

空から巨大な隕石のような水の塊が堕ちる。体を貫いた剣をガッシリと掴む。逃がさない。

 

俺諸共喰らいやがれ勇者様よッ!!

 

そして水の塊に潰された俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ…危なかった…。まさかあれだけ強くなっているとは想定外だった。回復ポーションで身体の傷を癒しながらその場を離れる。

何故生きてるのか。それは俺の放った“水星変”の性質にある。あの技は攻撃に使うものでは無く、本質はあの魔法に組み合わされた幻影魔法と変質魔法だ。空から堕ちてきた水を見た者に幻影を、それに触れたモノに変質魔法を掛ける。

 

だから幻影であの場に尋常ではない被害を出したという幻影を、変質魔法で勇者に多大なダメージを受けたかのように装備を変質させる。

 

勇者も凄まじい魔法を受けたという幻影を受けているだろう。その間に俺は体を水に変質させ逃げ出したのだ。

 

そもそも俺の目的は勇者を倒す事ではなく生き残ること。魔王軍に所属していたのも魔王に敗れ強制的に働かされていただけに過ぎない。

そもそも勇者殺しても復活するしどうしようも無い。

 

さて、俺はこのままひっそりと田舎で暮らしていこうか。もうチート無双は飽き飽きだ。何かしたら勇者が来るだろうし。

 

チート魔族に転生した俺、戦いに疲れたので辺境でスローライフを送ります。

〜もうチート無双は飽き飽きだ〜

 

タイトルにするとこんな感じかな?面白くはなさそうだ。あ、やば魔力不足で死にそ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王が討たれた後、山奥に引き籠もり平穏に暮らしていたある日。

ドンドンドンッ。真夜中、扉が叩かれる。

こんな時間に一体誰だと扉を開けるとそこには…

 

「すまない、私はテラシアという。冒険者をしていて依頼でここに来たのだが道に迷ってしまってな。今晩だけでも泊めて……貴様はウォルボルクッ!?」

 

直ぐさま距離を取って剣を構える勇者テラシア。

 

どうして?

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

「“聖照斬”ッ!!」

「グォォオオオオオッ!!」

 

私の聖剣が魔王を斬り裂いた。それと同時に膨大な魔力が魔王の身体から溢れ出し、光の粒子となって消滅した。

 

「これで…全て終わった…」

 

振り返ればそこには短い間だったが苦難を共にした仲間達。

 

「長く、辛い闘いだった。これで…これでようやく終わる…」

 

剣聖フーベルト。王国騎士団団長であり、私が勇者として覚醒するまで人類最強と言われていた実力者。卓越した剣技には勇者の力をゴリ押さなければ敵わない。多くの魔族との戦争で仲間を失い続け、それがようやく浮かばれたことに涙を流している。

 

「やったなテラシア!」

 

武闘家ノーツ。素手ならば敵うものなしと呼ばれる覇者。可愛らしい顔とは裏腹に多少ガサツな面はあるが、豪快で頼りになる。私がここまで来れたのも彼女がここまで引っ張ってくれたからだ。

 

「ホッホッホ。これで妻の無念も晴れますわい。ありがとう、テラシア嬢」

 

大魔道士ゲルデ。基本属性と呼ばれる炎、水、風、雷、土の魔法を扱うことの出来る、【ペンタゴン】の称号を得ている。長年の勘で色々と支えてくれた。様々な魔法で臨機応変で対応する彼には尊敬しかない。

 

「これで子供達が笑って暮らせる未来になるのでしょうか…いえ、笑って暮らせる未来にしなければなりません」

 

聖女ティアラ。白い法服を見に纏った儚げな少女。女神メラシーに身を捧げる教団に所属しており、普段は教会で孤児になってしまった子供達の面倒を見ている。回復魔法に長けており、この戦いでは彼女に頼りきりだった。頭が上がらない。

 

「テラシア…」

「テラシアッ!」

「テラシア嬢」

「テラシアさん」

 

あぁ、こんなことってあんまりだ。でも仕方ない。

そもそも私はあの時死んだのだ。こうしてここに皆と共に過ごしたという奇跡に感謝をしなければならない。

 

「さようなら」

 

辺り一面を光が包み込む。

光が世界を包み込む。

これが私の、村で魔物に殺された時に女神メラシーから授かった力の代償。魔王を倒した時、私に関しての記憶がこの世の生物全てから消え失せる。パーティメンバーとて例外では無い。この世で私の事を覚えている者はもう居ない。

 

糸が切れたように倒れ込む仲間たちを背に私はこの場を立ち去った。

聖剣の返却を伴って、全てが終わった。天に返ったのだ。

 

もう…、皆とはもう会うことは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから私は冒険者として様々な場所を放浪し続けた。

私を知る者はもう誰もいない。

行きつけだった店も、友も、馬さえも。

写真すらも全て無くなっていた。私がいたという痕跡が綺麗さっぱり消え果てていた。

魔王討伐も私を除いた仲間たちで行われたものとなっており、少し物寂しさを感じた。

宿敵でもあった魔族であればと、人間と友好的な魔族の国に行ったものの、私を知る者は誰もいない。

 

孤独感に苛まれながらも世界を旅した。

 

目的はないと言えば嘘になる。私を覚えている者が居ないか、半ば諦めながらも探している。

家族すらも私の事を覚えていない。故に、私に帰る場所は無い。

 

 

 

 

偶然立ち寄った村にて、近くの山にグリベアーが出たと聞き、村長から依頼を受けて調査と討伐に山に入った。

グリベアーは雑食の魔物。基本的には木の実やキノコを主食にしているが、肉の味を覚えたグリベアーは他の魔物を、更には人間すらも捕食してしまう。気性は荒く、一般人では対処出来ない。村の家畜や人を襲うこともあるため、肉を食べるグリベアーは早急に討伐しなければならない。

 

夜になるとグリベアーは姿を現した。私を餌として見ているのが分かる。ヨダレを垂らしたグリベアーを背負っていた大剣で一刀両断。聖剣が無くとも腕に一点の陰りなし。

死体の処理をして下山する。

 

そこで問題が起きた。簡単に言うと遭難した。

ちょっとしたアクシデントだが、幸いな事に光の点いた小屋を発見した。周りには羊や牛、豚や鶏といった家畜に少し広めの畑があり、生活感に溢れている。

 

ひとまず今日だけでも泊めてもらおうと小屋に近づく。最悪、下山する道だけでも教えてもらおうとドアを叩く。

 

直ぐに扉は開かれた。

 

「すまない、私はテラシアという。冒険者をしていて依頼でここに来たのだが道に迷ってしまってな。今晩だけでも泊めて……貴様はウォルボルクッ!?」

 

出て来たのは青髪の平凡な青年。いや、違う。これは幻術魔法で姿を変えている。そしてこの雰囲気、気配。私は知っている。あの時倒したはずの魔王軍四天王、水のウォルボルク。

 

「何故貴様がここに…!?」

 

剣を構える。女神の恩寵が消えたこの体に聖剣ではないこの大剣。これで倒せる程奴は甘くない。

かつての仲間でさえ一蹴する彼の実力は本物だ。

それでも彼を倒せるのは私しか居ない。僅かに残った聖の魔力を放ち奴を威嚇する。

 

「……何故ここに勇者テラシアがいる」

 

今…彼はなんと言った?

 

「…………俺はお前と争う気は無い。そも、ここで争えば近くの村も巻き込みかねない。それでも…戦うつもりか?」

「分かった」

「…………」

 

やけに物分かりがいいな…といったような困惑した表情で私に訝しげな視線を送っている。

 

だがそんなことよりも彼に聞きたい。

彼は私の聞き間違いでなければ確かに私の事を勇者テラシアと言った。もう誰も知らないはずのその称号と名を。

この世の全ての生物は私の事を覚えていない。それは魔族でも例外では無かった。

では何故、何故なのか。

 

「その代わりに答えてもらう。貴様はどうして私を知っている?」

「………俺を倒した勇者を忘れるわけなかろうが」

 

彼は困惑した表情を浮かべながら首を傾げた。

技名にルビを付けて欲しいと意見があったので皆さんの意見を聞きたいです。

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