エルデの腋巫女~東方黄金樹~ 作:筋力99
◯◯◯
──異変だ。
霊夢はそう理解するも、未だに戸惑いを隠せない。試しにこういう事に関わってそうなスキマ妖怪、八雲紫の名を何度か呼んでみるが、応答は無し。相も変わらず呼んでない時には来るくせに、呼んだ時は一向に出てこない奴である。
そして……。
「何で飛べないのよッ!?」
そう、“主に空を飛ぶ程度の能力”が失われていたのだ。上空から外の様子を見渡そうとしたが、いくら力を込めても身体が宙に浮くことはなかった。
これは致命的な問題である。他の能力も使えないのではないかと危惧したが、霊力の操作やお払い棒に封魔針、陰陽術等は問題無く使用可能だった。勿論、切り札である陰陽玉もある。
使えなくなっているのは空を飛ぶことだけのようだが、霊夢としては自身の代名詞であるこの能力が失われているのはあまり良い気分ではなかった。
「ああもう……!」
昔のように亀に乗って飛ぶか。そう思いながら霊夢は苛立った様子で“王を待つ礼拝堂”というらしいこの場所を進み、ボロい木の吊り橋の上を歩く。
崩れるのでは? と少し警戒したが、何事も無く歩き切った。
「……何もないわね」
その先には、大きな磔の女性の石像が目を引く広場があった。女性の閉じた眼下には墓石らしきものがあり、礼拝堂という名からしても、そういうことなのだろう。
しかし、それ以外には何もないと判断し、霊夢は更に先へ歩みを進めようとし──何かが石像の裏から飛び出す。
「────!?」
咄嗟にバックステップして離れると、ソレは像の前に砂塵を散らして着地する。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」
「ッ……何こいつ、気持ち悪っ」
現れたのは、黄金の大盾と二本の直剣を携えた、無数の人間の手足が幾つも生え、蜘蛛のような形状を成した異形だった。
あまりにもグロテスクでおぞましい容姿であり、本体と思われる中心にある男はまだ幼く、端正な顔立ちであるのがその不気味さに拍車を掛けている。
脳内に浮かび上がる名前。まさか他者の手足を結合させるのを“接ぎ木”と表現しているのだろうか。だとしたらその名付け親のセンスには脱帽するも悪趣味なことこの上ない。
その眼は感情無く濁っていたが、それでも明確な敵意をこちらへ向けている。
「上等よ、どこの妖怪か知らないけど襲ってきたことを後悔させてやるわ」
そう言い、霊夢はお払い棒を構える。同時に、接ぎ木の貴公子が動く。
その巨躯からは考えられない俊敏さで距離を詰めてくると直剣による突きを放つ。霊夢がこれを最小限の動きで避ければ接がれた四肢を生かした多彩で素早い剣技を繰り出す。
しかし、その嵐のような猛攻を霊夢は平然とした様子で避け続ける。凡百の褪せ人ならば反応すら敵わず屠ったであろうが、彼女は数多もの魑魅魍魎を打倒してきた異変解決人。埋め尽くす程の弾幕やレーザーの大群と比べれば接ぎ木の貴公子の攻撃を避けることなど容易かった。
「──そこ!」
そして、僅かな隙を見つけるや否や霊夢は懐中へ回り込み、お払い棒でどてっ腹を思い切り殴り付ける。
──が、接ぎ木の貴公子は怯むこと無く、そのまま直剣を振り下ろす。
「ちっ──」
ギリギリで回避して霊夢は舌打ちする。生身にも拘わらずまるで鎧を着込んでいるような硬い感触。霊力で身体能力を強化して殴っても大したダメージは与えられない。
ならばと今度は札と針を宛ら“弾幕”のように投擲する。接ぎ木の貴公子はこちらへ向かっていたが、飛来した針がその身に命中すると僅かに怯んだ。
「こっちは有効みたいね……!」
更に追撃を加える。しかし、今度は黄金の大盾を構えられ、防がれてしまう。
そして、接ぎ木の貴公子はその口を大きく開け、甲高い咆哮をあげる。
「きゃっ!?」
とてつもない大音量。それは空間そのものを揺らす衝撃波となり、霊夢を吹っ飛ばした。
「ッ……やってくれたわね」
付着した土埃を払いながら霊夢は睨み付ける。対する接ぎ木の貴公子はその二本の直剣をクロスさせるように交差させ、その刃に黄金の輝きを纏わせた。
そして、直剣を構えるとクルクルとまるでベイゴマのように高速回転しながら突進して敵を八つ裂きにせんとする。
それに対し、霊夢も切り札を切る。幾つもの色とりどりの光弾が放たされ、ホーミングしながら接ぎ木の貴公子へと炸裂した。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……」
呻き声をあげ、地にひれ伏す接ぎ木の貴公子。そのまま霧散するように消滅していく。
──霊夢の勝利だ。
「ふぅ……意外と手強かった」
額の汗を拭う。あのしぶとさから普通にやれば時間が掛かると見て夢想封印を使ったが、仮にあれを耐えられた場合、かなり危なかった。
そう易々と連発できるような技ではない。撃てて残り三発くらいだろう。
「……なんか武器だけ残ってるわね。拾えってこと?」
消滅した場所に転がる直剣と大盾。接ぎ木の貴公子が持っていたものと外観は同じだが、サイズが若干小さくなっているような気がする。
何となしに触れてみると、それは金色の光の粒子となって霊夢の身体へと吸い込まれていく。
「えっ!?」
驚き、思わず自身の身体をまさぐる霊夢。しかし、何の異常は見られず、代わりに脳内に情報が流れ込んでくる。
『儀杖の直剣』
古い儀仗を模した細身の直剣
卓越した剣士は、これを二刀で用いる
黄金の一族の末裔たちは
没落の後、古きに力と縁を求めたのだ
戦技「黄金の剣技」
二つの剣を交差させ、聖属性の攻撃力を付与する戦技
効果中、強攻撃が二刀の連撃となる
『獣紋の大盾』
獣の紋章を刻んだ、鈍い黄金の盾
大盾の中では軽く、扱いやすい
その獣は、黄金の一族の導きの老賢
セローシュであろう
戦技「なし」
「は……?」
黄金の一族? セローシュ? 全く聞き覚えの無い単語と意味不明な情報が濁流の如く、しかしごく自然に流入される現象に戸惑いを隠せない。
それだけではない。彼女は理解した、入手した
試しに掌を見つめ、念じれば先程吸収した黄金の直剣が出現した。
「……どうなってんのよ、一体」
もう訳が分からなかった。驚くべきことに、自分はこの直剣の扱い方を理解してしまっている。あの辻斬りや天人崩れとは違い、生まれてこのかた剣と縁などこれっぽちもないはずなのに。
まさか、これが“空を飛ぶ程度の能力”を失った代わりに得た能力だとでも言うのだろうか。
「とりあえず、先へ進むしかないか」
唯一分かっていることは、このまま停滞していても何も変わりはしないということ。故に、霊夢は一先ず心を落ち着かせ、接ぎ木の貴公子が現れる前から“黄金の霧”に覆われて見えなかった門へと向かう。
「……何もないじゃない」
その先は断崖絶壁。他に道らしきものもなく、ふざけるなと霊夢は舌打ちする。接ぎ木の貴公子を倒したのは完全に無駄骨だった。
「ん?」
すると地面にこれまた見慣れぬ輝く文字が刻まれていることに気付く。それはあの女性の死体の傍にあったものと同じ物であり、崖までの道に幾つも不規則に存在していた。
“俺はやった! ”
“この先、エルデンリングがあるぞ”
“草おぉ草”
“しかし穴”
「何かの“メッセージ”かしら……? それに、“エルデンリング”ですって?」
聞き覚えはない。──けれど、妙に印象に残る響きだ。
メッセージを見るに、先へ行けということであろうが、肝心の道がなかった。まさか、空を飛べとは言うまい。この最悪のタイミングで。
「……蝶?」
崖の一番奥に見たことの無い色柄をした蝶が何匹か飛んでいる。それはどういう訳かその周囲をくるくると飛び回っており、離れようとしない。
もしかすると……霊夢は駄目元ながら蝶を調べようと近付いて──。
「は?」
崖が、崩れた。
「なぁっ!? ちょっとっ!?」
嘘でしょ、と霊夢は愕然とする。咄嗟に陸地へ手を伸ばすも、届かず、そのまま真っ逆さまに落ちていく。
いつもなら飛べば良いだけの話。しかし、今の彼女はその能力を失っており、ただ重力に従うのみ。
(やば──)
グシャリ、と嫌な音と共に霊夢の意識は途切れた。
技量と理力、信仰のステータスは初期からかなり高い。