元星漿体のあの人の設定改変ものif   作:時村ニレ

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 当作品では、九十九由基・星漿体周り設定以外にもキャラクターの設定改変を行う予定です。
 少なくとも現時点では、夜蛾正道について、年齢を原作よりも5歳ほどズラす(楽厳寺由基子と同期にするため)・家族関係についても(バツイチ設定は原作同様のまま)元妻関係の独自設定をかなり盛り込むことを決めています。
 他にも原作とは異なる設定を盛り込む可能性が大いにあります。予め御承知おき下さい。


懐玉-壱-/2006年初夏

 

 2006年初夏、天内理子の天元への同化が4日前に迫ったタイミングで。

 1992年7月の例の会談の登場人物が、理子達が過ごすホテルを急に訪ねて来た。

 楽厳寺嘉伸と名乗る着物姿の細身のお爺さん。お髭の長いその人は、特級術師の楽厳寺由基子の養父(ちちおや)で、京都校の方の呪術高専学長を今も務めているのだ、……と自称した。

 厳密にいえば1992年7月の薨星宮(こうせいぐう)以来、二度目の邂逅。とはいえ理子にとっては限りなく初対面だった。生後3ヶ月未満の時期に会っただけという相手なのだから。

 小さなテーブルの向こう側、椅子に座した鋭い目つきの老人は、当時も今もかなり経験豊富で強い呪術師に違いない。理子が虚勢を張って口調を作っている事を完全に見抜いているようで、それでも彼は理子の背伸びした口調を咎めようとはしなかった。

 

「……養娘(むすめ)の由基子から当代の星漿体様に宛てた手紙です。同化の4日前辺りになったら(わし)の手で貴女様にお渡しするよう託されました。お納め下され」

 

 テーブルの上に差し出された白い封筒。

 表面には端正な字で、言われた通り『天内理子様 楽厳寺由基子より ※親展 同化4日前目途に受け渡しのこと』とある。更にその横に赤字で『(マルヒ)』の印鑑が押してあった。

 

「……た、確かに今受け取った、のじゃ」

 

 封筒を手に取ったは良いが、内容の予測がつかない。理子をフォローするように、真横に座る黒井美里が質問する。

 

「楽厳寺由基子術師は2年ほど前から海外に居られると伺っていました。いつ頃託された手紙なのですか? そちら様は内容をご存知なのですか?」

「一昨年の2月、まさしく由基子が日本を発つ前に儂に渡されたものですな。内容は『同化当日の事柄について』とだけ伺ってはおりますのぅ。……あぁ、儂が見て良いものかどうか判断がつかないようでしたら、儂だけ一旦席を外しましょうかの。部屋のすぐ外に(いぬ)るので、都合が付けば呼び戻して下され」

 

 理子は思わず黒井と顔を見合わせる。言われてみればそれもそうだ。星漿体同士でだけ秘密に伝えたい事項があるかもしれない。この学長が文面を知るべきではない。

 彼は当たり前のように席を立って部屋を出たので、黒井は頭を下げた。

 

「! ご配慮ありがとうございます。分かりました」

 

   ★      ★

 

『天内理子様

 

 はじめまして、と書いた方がいいでしょうか。元星漿体の楽厳寺由基子です。

 私からの初めてのお手紙が、かなり簡潔なものになることをお許しください。あなたにお伝えしたい事自体はとてもたくさんあるのですが、秘密を守る縛りのために、この手紙で教えられる内容はほぼ無いのです。ですから最低限のことだけ記します。

 

 あなたが天元様と同化する当日の16時に、薨星宮の本殿にて、天元様と私とあなたの3人でお話ししたいことがあります。その日その時でなければお話し出来ない縛りのある事項です。

 同化寸前の大切な時間帯に急に割り込む形となること大変申し訳ないのですが、この時間に間に合うように薨星宮の本殿に来て頂いてもよろしいでしょうか。私も同化の当日に、上記の時間には到着するようなスケジュールで日本に帰国する予定です。

 

 同化の2~3日前より当日まで、あなたとお世話係の方には東京高専派遣の護衛がつく見込みだと伺っています。ですから当日は、護衛を含めたあなた方一同と、私が、高専内のどこか(おそらく薨星宮内)で落ち合う形になるはずです。この手紙に私の顔写真を同封しておきます。お世話係と護衛の方にはこの手紙と写真を見せて下さい。私による上記の要請と、私の顔を、前もって知って頂きたいと思います。

 同化の前まで、あなたは好きなように日々を過ごしていいようです。どう過ごすのであれ、未練の残らない平穏な日々がありますように切に願っています。

 

  楽厳寺由基子 2004年2月記

 

 

 追伸 護衛の方へ

 

 私と面識がある方ならいいのですが、ない場合は東京高専に(できれば教員を務める夜蛾正道一級術師に)問い合わせて、私の顔写真の真偽を確認してください。

 2004年2月の時点で、夜蛾術師は、護衛と天元様の間で連絡役を務める見込みと伺っています。この人は今のところ唯一現役を続行している私の高専同期です。私の顔を知っています』

 

   ★      ★

 

「ねえ黒井、この手紙って京都校の学長には見せない方が良いのかな」

「そうですねぇ。見せろとも見せるなとも書いていませんが、……みだりに触れ回らない方がいいのかもしれませんね。お礼だけ言って帰って頂きましょうか」

「うん」

 

   ★      ★

 

 翌々日、天内と黒井は揃ってホテルで謎の呪詛師の襲撃を受け、東京高専から派遣された護衛の術師2人組に救われた。

 襲撃犯は呪詛師の集団『Q』。天元様の暴走による現呪術界の転覆を目論む集団、……だったらしい。集団内最高戦力だった呪詛師があっけなく撃退されて組織が壊滅したのだから、護衛の術師にとっても理子達にとってもひどくどうでもいいことだった。

 護衛に楽厳寺由基子の手紙と写真を見せた後、発覚した問題の方がはるかに重大だったのだ。

 

「俺達これまで聞いてねぇよそんな指示。『好きなように日々を過ごしていい』って、初耳なんだけど」

 

 避難先にした別のホテルのテーブルの上、護衛のうち、白髪とグラサンの方、――五条悟という高専の術師の携帯電話が置かれている。電話の通話先の表示は『夜蛾セン』。手紙の追伸部分で例示された『夜蛾正道一級術師』は偶然にも2人組の担当教員だったらしく、手紙と写真の照会は速やかに果たされた。

 高専にいるらしい渋い中年声の返答は、五条の携帯がスピーカー設定だから、部屋の全員に聞こえる音量だ。

 

「……今確認して指示が出た、初耳なのは当然だろう。だが天元様のご指示は間違いなく下されたぞ、由基子ちゃんの手紙の通り、『天内理子の要望には可能な限り全て(こた)えろ』というのが命令だ」

「じゃあ、今から学校に行っていいんじゃな!!」

「……ええ」

「高専に戻った方が安全じゃん。極秘にしてた天内の情報、何でか急に流出して、あの『Q』とかいう奴等(やつら)に襲われてんだろ? 危なっかしくてやってらんねえよ」

「それを何とかするのがお主ら護衛の仕事じゃろ? 学校に行くったら行くのじゃ!!」

「守られるなら守られやすく過ごしやがれよ、ゆとりヤロー」

「何じゃと!?」

 

 電話そっちのけの言い争いになる前に、もう一人の護衛の術師が割って入った。前髪の方、――夏油傑という術師だ。

 

「言い過ぎだ悟。未練の残らない日々を過ごすようにって、天元様のお優しい御意向なんだろう? 理子ちゃんの言う通りにさせてあげよう」

「ちぇっ。……分かったよ」

「!! よく言った! 褒めて遣わす!!」

「「はいはい」」

 

 そこでスピーカー状態の夜蛾の声が差し込まれた。

 

「よろしいでしょうか、星漿体様。言うまでもないことですが念のために確認しておきたいことがあります」

「うん?」

「そちらの2人は学生の割に強いですが、護衛の任はあくまで貴女様が星漿体として役目を果たすためのものです。あってほしくはないですが、万が一未練を残しかねないような心理状態になっても、時が来れば、極端な話、……無理矢理引き摺ってでも貴女様を薨星宮にお連れすることになりましょう。そのことをお忘れなきように」

 

 雰囲気が一変する。ただ言われていることは残酷だが当たり前のこと。理子は強く頷く。

 

「まさか、今更になって(わらわ)が怖気づくはずが無かろう? 薨星宮には必ず参上する、その覚悟が揺らぐことは無いのじゃ。……楽厳寺由基子術師が当日に話したい事も気になるしのう?」

 

 テーブルに置かれた五条の携帯電話の真横、例の手紙と顔写真が広げられている。

 写真の方は、身分証か何かに使う証明写真のようだった。長い茶髪に黒縁眼鏡の下、意志の強そうな眼差しの女性の顔。この顔の彼女が天元様と一緒に何を話したいのか、確かに非常に気になっている。理子のその感情には嘘は無かった。





当作の楽厳寺由基子の顔の造りは、原作の九十九由基とほぼ同じです。ただし髪は茶髪で黒縁眼鏡を着用しており、身体のガッチリ具合が多少弱いという設定。

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