元星漿体のあの人の設定改変ものif   作:時村ニレ

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 同化2日前から当日まで、夏油傑が見聞きしたこと。


懐玉-参-/2006年初夏

 

「……て、起きて! 夏油傑術師!!」

 

 誰かがフルネームを呼びながら身体を揺すっていた。地面が痛い、石畳の床の、聞き覚えの無い声が、身体を揺すっていて……!!

 傑は両目を開けて飛び起きる。自分を揺すっていた長い茶髪で眼鏡の女性、髪の一部が血に染まっている、――

 

   ★      ★

 

 天内理子の同化2日前から当日までの出来事を、夏油傑は、おそらく一生忘れない。

 

   ★      ★

 

「理子様にご家族はおりません。星漿体に選ばれた時に御両親とは別れられました」

 

 同化2日前、廉直学院中等部のプールサイドにて。恐縮しきった黒井美里はとても言いにくそうに傑と悟に告げた。

 

「当時、楽厳寺学長先生が極秘にそうするように忠告を下さったそうなんです。それが、その、……『星漿体を産んだ身体に対して、変な意味で興味を持つ有象無象が絶対に湧いてくるし、襲ってくる。悪いことを言わないから、生みの親は身を隠した方がいい』という内容で……」

「あー、確かにありそーだな。そんな胸糞野郎の襲撃」

「……えぇ。それで御両親はお互いのために泣く泣く離れられたんです。それ以来、理子様が幼い頃は私の親が、次いで私がお世話して参りました。ですからせめてご友人とは少しでも――」

 

 とはいえ、理子の今日の登校が、護衛の傑と悟にとって負担になっている事の申し訳なさも本心なのだろう、彼女は深々と頭を下げる。傑は微笑んで言葉を返した。

 

「それじゃあアナタが家族だ」

「……はい」

「それで天内(アイツ)自身の情報もかなりの機密扱いだったのに、この時期に急に流失してるんだよな? ホテルでも言ったけど、正直ゆとり極まってると思うぞ、俺は」

「そう言うな。悟」

「……。すいません」

 

 悟は頬を掻きながら、話題を変えるように尋ねてきた。

 

「傑。監視に出してる呪霊は?」

「あぁ。冥さんみたいに視覚共有ができればいいんだけどね、それでも異常があればすぐに――、悟、急いで理子ちゃんのところに」

「あ?」

「2体祓われた」

 

   ★      ★

 

 それから、傑は呪霊を祓った呪詛師と応戦、捕縛に成功。この時捕えた呪詛師の情報により『呪詛師御用達の闇サイトにて天内理子に首に3000万の期限付き懸賞金が掛かっている』という情報を把握するに至った。

 直後、傑の判断ミスで黒井が拉致された。悟と天内理子を交えた交渉の末、翌朝、拉致犯との交渉の末に3人で沖縄に赴くことになる。

 黒井救出および拉致犯捕縛・尋問の詳細な経緯は割愛する。黒井を拉致したのは盤星教の非術師であった。

 

   ★      ★

 

 どこまでも青く広い沖縄の空の下、海辺のロッジにて。傑達と一緒にソーキそばを食べながら、理子は不意に言った。

 

「……そういえばお主ら、楽厳寺由基子術師の情報はどれだけ知ってたんじゃ? 会ったことはあるか?」

「会ったことは無いな。私が高専に入学する1年くらい前に海外に出た、っていう話だけは聞いていたけれど。そもそも元星漿体ってことも、天元様に術師を勧められた詳しい経緯も、きのう初めて理子ちゃんから教えてもらったからね。悟は?」

「ん―……。俺も、会ったことはない、はず。顔は写真を見せられる前から元々知ってたけどさ。何か禪院家とすげー揉めて揉めて、挙句の果てにお偉いさんに庇われる形で出国したとかどうとかいう話、聞いた気がすっけど」

「……? 何なんじゃそれ。ほとぼりが冷めるまで国を出された系の話なんじゃろうか?」

「そうかもしれませんねぇ……」

 

 しばしこの場の4人全員が思索する。言葉に出さずとも皆が同じことを考えているはずだった。

 ――由基子が楽厳寺学長に託していた手紙の意図。翌日、同化寸前のタイミングに薨星宮(こうせいぐう)の本殿で話したい事とは何か。

 

「勝手な推理をしてもいいかい? かなり見当外れな内容になるかもしれないけれど」

「!! 聞きたいのじゃ。頼む」

 

 理子の食い付きは予想外に激しい。それもそうか。人生で最も重要な事項だ。

 

「まず前提として、2年前の2004年2月の時点で、同化の日時は決まっていた。高専派遣の護衛が付くことも、楽厳寺由基子術師がこっそりと帰国することも。……少なくとも総監部全員に事前に根回しするような形の帰国ではないよね、悟? 今の日本では唯一の特級術師なのに」

「そうだな。手紙を渡された経緯といい、時期といい、明らかに秘密にしたい感じくせえぞ」

「うん、だからね。日本に戻ってこられることを大勢には知られたくない事情があるように、私は感じた。薨星宮本殿で理子ちゃんと落ち合うことどころか、帰国自体を秘密にしたい、……っていう意味だよ?」

「そうまでして話したいことが何なのか、予想はつくかの?」

 

 明日の本殿で、16時にならなければ話せない縛りのある事項。

 

「うーん、分からないなぁ」

 

 傑は言葉を濁した。思いつくことはあるが、思いつきで話してはいけない気がする。責任が持てない。

 

「……。オマエを星漿体にしたくなくて、『禪院家と揉めたついでに海外に拠点を移してまで2年間研究に専念していたけれど、やっぱりダメでした、星漿体として同化してくださいねゴメンナサイ』とか。いかにもウチの業界なストーリーな気がするぞ」

「へっ!? あー、そーじゃのー……」

「えげつない話がゴロゴロあるような世界だぞ。ハードル高めに夢見すぎてるとショックがきつい。覚悟はしとけ」

 

 悟の言い分も完全な正論。今回ばかりは傑もたしなめはしない。

 

「じゃあ、それでも、もしかしたらのショックを前提に、それでも夢を見るのは自由じゃろうか? あの人は(わらわ)が赤ん坊の頃に、天元様の目の前で『こんな子を生贄に突き出す仕組みはクソだ』と確かに言って下さったそうじゃから。だから」

「それならそれで勝手にしとけ。俺達は責任持てねえけどな」

 

   ★      ★

 

 事の経緯のクソ具合とえげつなさは、傑達の想定の遥か上を行く。

 

   ★      ★

 

 短いなりに一泊の沖縄観光を楽しんで迎えた、同化当日。

 理子の生命を狙う懸賞金の期限はこの日の11:00で、東京行きの飛行機の中で無事に過ぎ去った。その4時間後の15:00、傑達一行は東京高専のある筵山(むしろやま)麓に到着する。

 

「予定通りの到着だね。私達の方が30分くらい早かった」

「待ち合わせには余裕で間に合いそうじゃな!」

 

 楽厳寺由基子術師は関西から新幹線で上京し、今は車に乗って高専に向かっているという。元々あちらが手紙で指定した時刻は『薨星宮本殿で16:00』の待ち合わせ。理子の言う通り、今から薨星宮に向かったとして、余裕で間に合う。

 

「だな。でも二度とごめんだ。ガキのお守りは」

「お?」

 

 そんな会話をした次の瞬間、――悟の胴体を謎の男の白刃が貫いた。

 

「……アンタ、どっかで会ったか?」

 

 刀に刺されたまま問う悟に対して、明らかに手練れらしい男は答える。

 

「気にすんな。俺も苦手だ。男の名前を覚えんのは」

 

   ★      ★

 

 悟が男に対応し、傑の方は理子と黒井を連れて薨星宮へ向かうという分担。決まれば各々の動きは早かった。

 傑達3人で、残穢を残さないように気をつけながら薨星宮へ駆け入る、昇降機で全員が最下層に降りた。ついに石畳の参道に到着した時になって、黒井が深々と頭を下げる。この時、15:10少し前だった。

 

「理子様。私はここまでです。ここでいらっしゃるはずの楽厳寺術師をお出迎えします。本殿でどんなお話があるか分かりませんが……」

「……。ここで私が一緒に待っちゃだめ? 由基子さんは20分後くらいに来るんでしょ? ……。一緒にいたいよ、黒井」

 

 今生の別れになるかもしれないのに、急かして引き離すのは酷だ、と傑は思った。理子の言う通り時間には余裕がある、が。

 

「構わないけれど、その前に本殿への行き方は確認しておこうか。楽厳寺術師もご存知の道のりだろうけど、一応私から理子ちゃんにも教えるように指示されてるんだ。理子ちゃんだけ私についておいで」

「あ、うん……」

 

 夜蛾の指示通りの振る舞いということに嘘はない、こう言って引き離すの事には確かに酷な面もあるにせよ。ただ、傑としては、理子と2人きりになって確認しておきたい事があるのも事実だ。

 石のトンネルを通って、理子を導く。

 

「ごめん、手短に言うね。階段を降りて門をくぐって、あの大樹の根本。そこは高専とは違う特別な結界の内側で、招かれた者しか入ることはできない。同化まで天元様が守って下さる場所だ。それか、……黒井さんと家に帰りたいのなら、一緒に楽厳寺由基子術師にそう言おう?」

「……。え?」

 

 理子は目を見開いて、傑に聞き返した。

 

「意外かもしれないけれど、君と会う前に悟との話し合いは済んでる。私達は最強なんだ。理子ちゃんがどんな選択をしようと、君の未来は私達が保障する。

 ……それに、楽厳寺術師も、きっと理子ちゃんの選択に反対はしないはずだ。君の同化という選択だけを支持するような人柄なら、そもそもあんな手紙を2年前に託してくるとは思えないんだ。星漿体の辛さを理子ちゃん以外にただ一人知っている人のはずなのにね。あくまで私の勘だけど、根拠のない夢だけを君に被せるようなことはしない気がするよ」

 

 目の前の少女は泣いていた。

 

「……私は、生まれた時から星漿体で、皆と違うって言われ続けて、私にとっては星漿体(とくべつ)が普通で、危ないことはなるべく避けてこの日のために生きてきた。でもね、『クソみたいな仕組み』だって、あの人が言った言葉は正しいんだと思うの。必要な仕組みかもしれないけど、でもクソみたいなのも本当のことで……」

 

 泣いていた。号泣していた。心の底からの叫び声だった。

 

「でも、でもやっぱりもっと皆と、一緒にいたい。もっと、色んな所に行って、色んな物を見て、……もっと!!」

「黒井さんのところに戻ろうか、理子ちゃん」

「……うん!!」

 

 タン!!

 横から少女の頭が打ち抜かれ、傑の目の前で血が爆ぜた。

 よく分からないまま頭を打ち抜かれたであろう、さっきまで生きて泣いていた彼女は、血を噴きながら石畳の上に倒れ込む。傑の目がとっさの理解を拒んだ。即死体。頭、銃撃、横からの。つまり。

 

「ハイお疲れ、解散解散」

 

 男。さっき悟を襲ってきた襲撃犯だった。右手の拳銃が煙を吹いていた。

 

「なんで、オマエがここにいる」

「なんでって、あぁそういう意味ね。五条悟は俺が殺した」

「そうか。死ね」

 

 言いながら、虹龍を繰り出す。男を殺すだけの戦いが始まった、この男を殺す、――そのはずだった。

 

   ★      ★

 

「……て、起きて! 夏油傑術師!!」

 

 誰かがフルネームを呼びながら身体を揺すっていた。地面が痛い、石畳の床の、聞き覚えの無い声が、身体を揺すっていて……!!

 傑は両目を開けて飛び起きる。自分を揺すっていた長い茶髪で眼鏡の女性、髪の一部が血に染まっている、その正体は――

 

「楽厳寺由基子特級術師……!! ……そうだ、ここで男が理子ちゃんを射殺してっ!! あの男はどこです!?」

「落ち着いて。私もここであのヤローと交戦したの、あなたが倒れた後で。私の方が負けて意識を落とされたけども」

「そんな」

「あのヤロー、理子ちゃんの遺体を持って逃げやがってる。天元様からは、今さっき、遺体の回収とあのヤローの捕縛要請を頂きました。『高専忌庫の呪具は必要なだけ使って良い』っていう前提ですって。私は今から正道くんと合流して作戦を練ります。……あなたはどうしたい?」

 

 傑は即答した。

 

「同行させて下さい」






2023/06/09 8:52 時系列に関わる誤字を修正しました。(夏油の台詞ミス)
2004年2月は、夏油の高専入学の1年くらい前です。入学直前ではありません。2006年初夏に夏油と五条が高専2年生(=2005年4月入学)なので……。

ぶっちゃけ、伏黒甚爾を生体解剖したいレベルでブチ切れてる系のオリ主ってありだと思いますか?(描写は全年齢作品相当にぼかす前提で)

  • 生体解剖したい発言:あり、解剖実行:あり
  • 生体解剖したい発言:あり、解剖実行:なし
  • 生体解剖したい発言:なし、解剖実行:あり
  • 生体解剖したい発言:なし、解剖実行:なし
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