元星漿体のあの人の設定改変ものif   作:時村ニレ

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作品内でオリジナル呪具がたくさん登場します。作者の命名スキルに自信がないため、呪具に名前を付けずにこういう書き方になりました。ご意見頂けたら幸いです。


懐玉-肆-/2006年初夏

 天内理子の遺体を盤星教本部の園田という男に納めた後、伏黒甚爾は仲介人の孔時雨(コンシウ)と軽口を叩きながら歩いていた。

 

「しかし日本で唯一の特級術師の女が襲ってきた、とはねえ。帰国してたのか」

「ああ。おそらくギッリギリで現場に駆け付けて来てんだ。最初から高専の敷地にいたら天内を撃ち殺す前に割って入ってただろうよ。護衛のガキ共と一緒に襲ってきたらヤバかったはずだぜ」

「じゃあお前の仕事運は良かったんだな、そういう意味ではな。次に仕事をこなせるのはどれくらい後になりそうだ? まず腰の傷に対処するんだろう?」

 

 甚爾は傷の辺りを軽く撫でた。履いているズボンの下、式神に突き刺された傷口には簡易的にガーゼと包帯を巻いている。フィジカルギフテッドゆえ立ち歩きに支障をきたしているというわけではないが、明日から普段通りに動けるほど軽いとも言えなかった。

 

「治るのにそう時間がかかるとは思えねぇけどな。ボチボチかかるとしか言えねえよ。……そうだ、この仕事の金で飯食いに行かねえか? 当分治るまで暇になるだろーし」

「嫌だよ。オマエ男に奢んねぇじゃん。オマエと関わるのはな、仕事か地獄でだけって決めてるんだよ」

 

 そう言われて別れたのが、孔との最後のやり取りだった。

 無駄に重厚感溢れる宗教団体らしい大仰な建造物を離れ、甚爾は外の道をひとり進んでいく。

 しばらく歩んだ後で足を止めた。知らない誰かの声が聞きたくもないフレーズを(ささ)いている。――「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え」。空のある一点から闇色の(とばり)が降りて、辺りを包んだ。同時に、どこか(・・・)で何かが落ちる音。

 黒色のカーテンのような帳の向こう側から、甚爾の方へ潜って来た男がいる。ガタイがよく顔の厳つい黒い服装の男、顔の下半分を何かしらの布地で隠している。鍛えているらしく拳を握るこの男は一見するとパワータイプ、殴り技主体だ。顔の布地はいかにも何か呪術的効果がありそうだが。

 

「禪院甚爾だな。私は呪術高専の夜蛾という者だ。星漿体の一件でお前を拘束しに来た。即座の投降を勧めるが、……する気は無いのだろうな」

「当たり前だろ!」

 

 武器庫の呪霊から天逆鉾を取り出しつつ、甚爾は(わら)った。

 

   ★      ★

 

 甚爾捕縛に赴いたのは、もちろん、夜蛾正道1人だけではなかった。

 

   ★      ★

 

「由基子。起きなさい。由基子」

 

 懐かしい女声は念話ではない肉声だった。血の匂いを脳が認識し、目を開くと視界の先に血だらけの石畳。そこで先の戦いの記憶を取り戻した由基子は慌てて身を起こした。和服姿の女性が由基子を心配そうにのぞき込んでいる。――薨星宮(こうせいぐう)の主、天元その人。500年前の星漿体の姿を現身(うつしみ)としている。

 

「天元様。……私どれくらい失神してました!?」

「10分ほどだね。天内理子の遺体はあの襲撃犯に、……禪院甚爾に持って行かれたよ。遺体と暗殺依頼の報酬を引き換えるんだろう」

「クソ、やらかした!!」

 

 頭の中を激しい怒りと後悔が渦巻く。

 由基子は、元々より反転術式を習得済の術師である。……ただし、引き換えの莫大な呪力量を節約するため、行使の条件として『腹か頭部を激しく攻撃された場合のみ』かつ『行使時に意識が自動で落ちる』ように己自身を縛っていたのだ。これは、『戦闘で著しく負傷した際にのみ、一時的に安全な場所に緊急離脱してから反転術式を使う』という想定であったため。表向きの生得術式が『すり抜け』ということになっているため、万が一の場合は、戦場からの離脱は比較的たやすいという大前提があった。

 先ほどの戦闘では、呪具で刺されたその瞬間に『自己透過』が使えなくなった。勘で反転術式を回したのはいいものの、縛り通りに意識不明となってこの有様(ありさま)である。『2年ぶりの戦闘で勘が鈍っていた』というのは甘えだろう。

 

「他の被害としては、天内理子の世話役のメイドがそこの昇降機の手前で重症だ。……護衛の子達は、呪霊操術の子の方がそこで斬り付けられて血を流しているが、私の見立てでは呼べば起きるよ。六眼の子の方は外のグラウンドで倒れている。どうやらこの戦いで反転術式に目覚めたらしい。じきに君のように勝手に復調するはずだ」

 

 天元は結界を通して国内のあらゆる場所を知り得る立場にある。高専内の敷地に関しても、その様子を調べるのは訳もない話だった。―—とはいえ、全ての事柄を他者に打ち明けられるはずもなく、『縛り』として話せる内容に制限があるとのことだが。

 天元は膝を付き、由基子に真っ直ぐ目線を合わせた。

 

「さて。……天元の名において、呪術高専東京校所属、楽厳寺由基子特級術師に要請を行う」

 

 由基子もまた石畳の上に膝を付いて向き直り、(かしこ)まる。天元は続けた。

 

「天内理子の遺体の回収、および、襲撃犯禪院甚爾の捕縛を、……可能な限りにおいて今日中の生け捕りを望む。その目標の限りにおいて、高専忌庫の呪具は必要なだけ使って構わない。協力者としては夜蛾正道一級術師を指定しよう。また護衛の子達2人にも声を掛けて行きなさい」

「謹んで承りました。天元様」

「それから、禪院甚爾の持っていた特級呪具だが、――」

 

   ★      ★

 

 高専の忌庫には見張り番はいるが、中を盗聴する者は居ない。作戦会議を練るには適している部類の場所で、夏油、五条、夜蛾、由基子の4人は向かい合う。夏油は家入の治癒を受け、由基子と五条は自分自身の反転術式により傷はとうに癒えていた。

 

「術式を強制的に解除する特級呪具、ですって。名前は確か『あまのさかほこ』? だから五条術師の『無限』も私の『すり抜け』も破られたし、式神も消されたというわけ」

「楽厳寺術師の式神との相性が最悪だったなら、夜蛾先生の呪骸も同じでしょうか」

「一撃当てるどころか、あっけなく綿と布の残骸に分解されるのでしょうね。正道君の呪骸自体が傀儡操術で動く性質ですもの」

 

 夜蛾が無言で頷き、やや高揚状態の五条が続ける。

 

「アイツ完全に殺してよければ、たぶん俺の隠し玉でソッコー倒せると思うぞ。今までできたことねーことができて、呪力の核心掴んでできるようになった技があるんだよなあー!!」

 

 その台詞にケタケタという笑い声が続いた。夏油と夜蛾と由基子の目が合い、言葉に出さずとも3人の意思が一致する。――ややどころではなくとんでもなくハイになってやがる、今のコイツに連携前提の作戦は無理だ。

 

「五条術師、天元様が生け捕り希望だから初手でそれは無いわ。本当に切羽詰まっていたらそうなるかもしれないけれど……」

「悟、ちょっといいか」

「んー?」

 

 夜蛾が伸ばした指の先で、呪力が五条の額に注がれた。速攻で後ろに倒れ込む五条の身体を夏油が支えて、由基子が次いで触れた。

 

「医務室に叩き込んでくる。この状態で来られても私達が却って困りそうだから」

「すまない。由基子ちゃん」

 

 五条を抱き直して由基子は小さく会釈した。彼女の拡張術式は東京高専敷地内限定の自由自在のワープ。触った相手も同時に術式対象にできるのだ。

 

   ★      ★

 

 こんな経緯で、五条抜きの3人による作戦は練られた。

 

   ★      ★

 

 盤星教本部前。

 口元を呪布で覆った由基子は、『自己透過』の術式を作動させ、更に認識阻害の呪符やら呪具やら呪布やらをフル装備した状態で禪院甚爾を見つめていた。認識阻害は特に由基子の声に作用していた。由基子以外の誰にも『喋っている情報だけが概念として聞こえる状態で、声の主は分からない』状態となっている。

 

「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え」

 

 下ろした帳の効果は『禪院甚爾を通さないが、それ以外の全てを通す帳』というもの。作戦を実行する3人のうち、結界術に一番長けた由基子しか下ろせない。もっとも、天逆鉾による術式無効化の効果が、(術式ではないはずの)結界術を破る効果もあるのかは不明瞭のため、ひょっとしたらこの帳も即座に破られるかもしれない。……それでも、由基子の姿が夜蛾にも夏油にも認識できない以上、この帳を下ろすことが作戦開始の合図ということになっていた。

 追加の呪具である香炉の準備も万端で、これにまた認識阻害の符を貼って帳の中へ投げ入れる。『結界内限定で五感と思考力を鈍らせる香と香炉』。もちろん、作用前に気づかれる恐れはある。

 香を吸わないように呪布で口元を覆った夜蛾が、帳の中へ入って行く。

 

「禪院甚爾だな。私は呪術高専の夜蛾という者だ。星漿体の一件でお前を拘束しに来た。即座の投降を勧めるが、……する気は無いのだろうな」

「当たり前だろ!」

 

 夜蛾が拳を握ってファイティングポーズを取り、禪院甚爾が武器庫の呪霊から天逆鉾を取り出してにやつく。

 ――同時に、甚爾の真後ろに不意打ち狙いの如く呪霊が出現した。夜蛾と同様に口元で呪布を覆った夏油はいかにも悔しそうな顔で、帳に飛び込んで叫ぶ。由基子が見る限り中々の演技力で。

 

「お前、理子ちゃんを返せ!! 悟と由基子さんもだ!!」

「ねぇ、わた、わタ、わたし、キレイ?」

「まーたお前かよ、芸が()ぇなあ!! 簡易領域のバリエーションそんだけなのかよ!?」

 

 薨星宮でも戦ったはずの口裂け女の呪霊。甚爾はハサミの攻撃をそつなく天逆鉾でいなしつつ、前方の間合いのギリギリ外側に立っている夜蛾への警戒を絶やさない。

 夏油はそこで口裂け女を引っ込めて、呪霊を出し直した。簡易領域がまたも展開される。

 

「ねぇ、わた、わタ、わたし、キレイ?」

「?」

 

 さすがに甚爾が不審な顔をしたその時。

 

 ドスッ!!

 脇腹に小刀が深く刺さった。由基子が簡易領域を『すり抜け』て刺したその刃物の効能は、『一時的に体力を大幅に減衰させる代償に、一時的に呪力を増加させる』というもの。魂そのものに干渉可能という、紛れもなくとんでもなく物騒な特級呪具である。

 6割減った体力を代償として、僅かながらの呪力が体内を巡った。呪力完全ゼロという天秤で成り立っていた天与呪縛が、一時的であるが根本的に崩れる。甚爾が急激に重くなる身体に反射的に動揺したその時、3人で一斉に飛びかかって組み敷いた。

 

 ――『高専忌庫の呪具をいくらでも使用可能』という、普段なら有り得ない前提条件だからこそ成り立った捕縛劇。どこまでも呪具ありきでごり押しの生け捕りだった。





作者所用のため、次話の投稿が6/10(土)に行えるかどうか不明です。この日に投稿できなかった場合は、6/11(日)19:31に投稿を行います。
次回は夜蛾&夏油の盤星教訪問、由基子による甚爾尋問回の予定です。アンケートに御協力頂けますと幸いです。

ぶっちゃけ、伏黒甚爾を生体解剖したいレベルでブチ切れてる系のオリ主ってありだと思いますか?(描写は全年齢作品相当にぼかす前提で)

  • 生体解剖したい発言:あり、解剖実行:あり
  • 生体解剖したい発言:あり、解剖実行:なし
  • 生体解剖したい発言:なし、解剖実行:あり
  • 生体解剖したい発言:なし、解剖実行:なし
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