元星漿体のあの人の設定改変ものif   作:時村ニレ

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懐玉-陸-は前後編となりました。後編は本日20:31投稿予定です。


懐玉-陸(前)-/2006年初夏

 伏黒甚爾。はっきり言って、アンタを即刻生きたまま解剖(バラ)したいくらいには私はキレてる!!

 私とアンタとの縛りは『今日中にアンタを殺す』ということだけ。アンタを殺す方法については指定していなかったでしょう? 天元様はわざわざ『高専敷地内での襲撃犯の処刑』と『傷のない"亡骸"を薨星宮(こうせいぐう)に持ち込んで解剖すること』を望まれた。……天元様によるアンタの身体の分析には必要な事だから、って。だから、そういう生体解剖ができないのがとても残念よ。アンタは縛りの通りにここで死に、遺体は薨星宮で私の手で解剖される。私にはそういう筋書きしかできないのだから。

 

 ずっと、ずっと、私は夢を見てた。薨星宮の本殿で理子ちゃんに頭を下げながら説明する夢よ。あの子は、1992年7月にあった薨星宮でのやり取りを、最初から最後まで知っていたはずだもの。私が、楽厳寺由基子という特級呪術師が、天元様に勧誘されて研究中心の術師になったってこと、全部知っていたはずだもの!!

 だから私には、研究の成果を告げる義務があった! 私は、理子ちゃんに会って話さなきゃいけなかった!! ……『理子(あなた)の15歳上の先輩は、この程度の選択肢しか作れませんでした。それでも選ぶこと"だけ"はできます。どうしますか?』って!!

 『天内理子が同化を拒んだ場合、今後15年以内の未来において、14歳どころではなくずっと幼い子が同化するしかない』っていう構図。……そんなクソみたいな本気で最低の構図を知った時、あの子はどんな風に考えて行動したのかしらね? 同化を選んだのか、それとも、同化を拒否してヒトとして生きていく道を選んだのか。私を恨むか、私を許すか。……分からないから、今日にならないと分からないから! ずっと想像しながら夢だけを見てた!!

 本当にクソみたいな決断を『日没までに決めて下さい』って突き付ける責任が、私にはあったはずだったの……!! 

 

 アンタは壊した。理子ちゃんの人生だけじゃない、その後で続くはずの大事な大事な選択を、アンタは根こそぎ壊し尽くしたの!

 

 ……。繰り返すけど、私は、護衛の子達は責めてない。天与呪縛のアンタとの実力差はハッキリしていたから。『六眼と呪霊操術の子がいればまあ大丈夫だ』と思い込んでた、私達大人が悪い。

 関係者の実力を推し測って任務を選ぶのは、それこそ采配を振るう側だけの問題だから。直前で理子ちゃんの情報が漏れたことも、私が禪院家との揉め事を警戒して直前にこっそり帰国するっていう判断も、……何もかも、学生さん達じゃなく、私達大人の方の判断だったから。

 

 ――伏黒甚爾。最初に、貴方に、責任を取ってもらいます。貴方がまだ弱い呪術師である内に。根拠は呪術規定第5条及び呪術総監部・天元様の権限委任協定、それから私との縛り。執行人は私、特級術師楽厳寺由基子。……私の権限で、傷をつけないなりにそこそこ苦しむ呪具を使わせてもらうことになったわ。

 

   ★      ★

 

 この時、時刻は20:30前後。拘束部屋で秘匿死刑執行、……となるはずが、そうはいかなかった。ここから2時間ほど遅延した。

 外部の邪魔があった訳ではない。きっかけは甚爾の言葉と、ほかでもない天元の介入による。

 

   ★      ★

 

「なあ、()られる前に遺言を言ってもいいか」

「……。聞くだけ聞きましょう」

 

 この時はじめて、由基子は、尋問中でも遺言が話題にはならなかった事に思い至った。由基子にしてみれば無駄話をするつもりはなかったし、甚爾の方も言い出すことはなかったはずだ。

 

「2~3年したら俺の息子を禪院家に売る話、当主と詰めていた。まだ小さいが、おそらく持ってる側だし見えてる側だ。今は婿入り先の何も知らねえ非術師の女が、連れ子の娘と一緒に育ててる。アンタも俺と同じで禪院家は嫌いだし、五条の家も禪院家とは仲悪いだろ? あのガキを横から攫ったら、あのジジイ悔しがると思うぜ。……アンタらの好きにしな」

「……そう。胡散臭いけど、その子の存在、……本当なら一瞬だけは気にしてあげる」

 

 由基子が禪院家を嫌っているのは広く知られた事実だ。が、由基子が禪院家への嫌がらせ目的でその息子を保護するのは無理だろう。明日になれば、由基子には天元への絶対服従の縛りが発動する。研究に邁進したり天元のために動くことのみが義務付けられるであろう日々に、禪院家の血を継いだ幼児との関わり合いが生じるとは思えない。

 この部屋の面々のうち、五条悟であれば、(それこそ禪院への嫌がらせためだけに)実家のために動くことがある、かもしれない。甚爾の喋り方も、おそらくはそういう動きを想定している。

 

「あのガキに『禪院家よりもまともな環境を寄こす』と縛るなら、生体解剖でも何でも笑って受けてやれるんだがなぁ。天元サマ子飼いになるアンタは立場上無理だろ? ……それなら、もう俺からは何も言うことねぇよ」

 

 皮肉げな笑みを浮かべた甚爾の、額の辺りを由基子は強く鷲掴みにした。呪具の首輪を広げて首に通そうとして、

 

「由基子。すまないがその執行待った! 傀儡操術の子と一緒に薨星宮にすぐ来てくれ。……今の話で、禪院甚爾に飲ませたくなった追加の死刑執行条件があるんだ!」

 

 念話は不意打ちだった。由基子は飛び退き、首輪を床に置いて立会人達の方へ振り返る。

 

「それは、……ちょっと待って、……天元様に確認しないといけないことができた! 正道君は一緒に来て、残り2人はゴメンこの部屋で見張りを。抵抗するならその場で()っちゃって! 傷とか気にしなくていい!!」

 

 天元様は結界を通して国内のあらゆる場所を知り得る立場にある。特に高専の敷地については、ありとあらゆる事象を全て把握されている。拘束部屋内のやり取りでさえ筒抜けになっているのは、仕組み上、自然な事。

 ――今の会話を聞いて、何をどう追加したいというのやら。由基子は訳が分かなかったし、念話が聞こえない皆はもっと展開が飲み込めていなかっただろう。

 

   ★      ★

 

「……。お前、理子ちゃんを殺しておきながら、自分は息子を気にするのか……」

 

 夏油傑の口から、硬く重い声で伏黒甚爾を責める声が出た。

 楽厳寺由基子術師と夜蛾先生があんな風に急に拘束部屋を出て行った理由は、傑の頭では全く見当がつかない。だが、目の前で椅子に座らされている男への憤りと怒りは、傑の心の中でふつふつと煮えたぎっている。

 由基子の悲痛な物語を聞いている間、傑は自分達のお気楽さがつくづく嫌になっていた。

 もしも、天内理子が16:00まで生き続けていたら、彼女はクソみたいな選択の中でどんな選択をしただろうか。あの子は、他の幼児を生贄にして良しとする性格だっただろうか。結局は同化する道を選ぶとしか思えない。……だとしたら、ああして『生きたい』という意思だけを芽生えさせたことは、却って残酷なことではなかっただろうか。

 そんな傑の空想も、全て仮定の空想物語。由基子の言葉だけが正論かつ結末となる。――天内理子は、ああいう風に撃たれて死ぬべき子では絶対になかった。

 

「傑、落ち着いて覚悟だけはしとけ。夜蛾センと楽厳寺術師が何を確認しに行くか知らねぇけど、お優しーい天元サマのお言葉で、このオッサンの死刑執行条件が変わる可能性がある。こういう時の約束事は胸糞と胸糞の引き換えなのがお決まりだ。傑がキレたくなるような展開に転ぶかもしれねーぞ」

 

 そう言った悟は、伏黒甚爾から目線を外さずに、赫とも蒼とも違う掌印を組んでいた。どんな術式なのか傑には分からないが、見張りの役目をサボる気は無いらしく、不審な動きがあれば即座に対応する姿勢だ。

 

「……。悟は、どんな事を想像してる?」

「オッサンの言う通り生体解剖、代わりに、息子のまともな環境での養育。……違うかもしれねえけどな。でも、あのタイミングでああいう風に夜蛾セン達が動いたんなら、息子絡みか生体解剖絡みか、どっちかだろ?」

 

   ★      ★

 

「ああ、由基子。傀儡操術の子。たびたび手間をかけるね」

 

 由基子が夜蛾の腕を掴んで薨星宮の参道にワープすると、その場に天元の現身(うつしみ)が立っていた。天元は軽くいたわりながら頭を下げて、由基子達に向かい合う。

 

「禪院甚爾の死刑執行条件のことだが、……順を追って説明しよう。私が考えていた優先順位は、第1に『星漿体暗殺犯が、即ちに処断された前例を作る』こと。第2に『暗殺犯の亡骸の解析を行い、同じような事案が防げないか探る』こと。そこまで達成できれば良しだと思っていたんだ」

 

 それだけならば、どちらも達成できるはずだった。あの拘束部屋で秘匿死刑を執行すれば済む。天元は順序立てて指を立てながら続けた。

 

「切り捨てていた第3があってね、『亡骸が、天与呪縛が有効な状態で死んだものである』こと。襲撃時点の身体状態を再現できているのならば、それに越したことはない、という考えだ。……私の推測だが、右足に刺している呪具を抜いた後、本人が自分の意思で体内呪力をなくした場合は、『呪力完全0』が肝になっている彼の天与呪縛は復活するかもしれない。……とはいえ、禪院甚爾にそういう行動を取らせる『材料』が見当たらなかったんだ。先ほどまではね」

 

 念話での介入があったタイミングを踏まえると、『材料』が何を指すのか分かりやすい。夜蛾も同じことを思いついたのだろう、天元に確認する。

 

「つまり『息子の保護』と引き換えに『呪力を完全放出した後の死』を求めるという縛りを結ばせるということですか? 保護の方法と、保護後の待遇を保証すれば、……いけなくはないのか?」

「正道君。伏黒甚爾の婿入り先は、さいたま市の浦見東って言ってた。住所の番地まで把握済だから、……夏油術師の呪霊のうち空を飛ぶものと、私の『すり抜け』術式があれば、その子の保護はたぶん今夜中にできるはず。……必要経費を、今夜一晩だけ立て替えてくれると助かるんだけど。できれば数十万円単位でね」

「その額ならネックにはならないな、由基子ちゃん。私の自宅の非常用現金を使えばいい。残る問題は、保護先か。私から高専に働きかけるか、悟を使って五条家に委託してもらうか……」

 

 検討がそこまで進んだところで、天元が割って入った。

 

「そのどちらもいいだろう。だが、今、私には思うところがある。私には人の心は読めず、外形上の動きから推測するしかない。だから、全くの見当違いだったら言ってくれ。……由基子。今から突拍子もないことを言うよ」

 

 そんな、えらく慎重な前置きを置いてから、天元は言葉を続ける。

 

「由基子。君にその子の面倒を見るよう私が命じた場合、……養育するべき子どもとして禪院甚爾の息子を託した場合、君は喜んで受け入れてくれるだろうか」

「は? ……。意図は何です!?」

「表向きはね、『前代未聞の襲撃犯の子の成長を見て、薨星宮へ侵入できる要因の有無および遺伝の有無を天元直々に検討し、確認したい』ものとする。『虐待する必要も過保護にする必要もない。呪力に目覚めた場合は、高専で保護された子と同等の待遇を望む』と、私から総監部に要請を出そう」

 

 由基子は質問し直した。

 

「……。表向きではない理由は?」

オリ主のキャラ立ては自然だったでしょうか? 無理があったでしょうか?

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  • 普通だった
  • まあ不自然だった
  • 非常に不自然だった
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