アクダマトライブ   作:二次創作者

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 カンサイ──そこは"アクダマ"と呼ばれる犯罪者たちが跋扈する土地。

 彼らの凶悪さや力を示す度合いとして課せられる懲役は、最早人間の寿命では足りない程のインフレが起きつつあった。その中でも選りすぐり──あるいは最底辺ともいえるアクダマがいる。

 推定懲役745年、運び屋。推定懲役348年、喧嘩屋。推定懲役432年、医者。

 そして今仮想ディスプレイと仮想キーボードを叩いて退屈しのぎをしている少年、推定懲役589年のハッカー。

 彼らはこの犯罪の土地カンサイにおける悪の象徴であり、恐怖の象徴であり──この土地に飽いている、ないしは嫌っている者達でもあった。

 

 そんな彼らの元に、一通のメールが届く。一億イェンで公開処刑予定の殺人鬼を救出しろ、との依頼が。

 

 けれど依頼主としては想定外に──もう一通、ハッカーに届いたメールがあった。

 

「──未来をひっくり返すゲーム?」

 

 これは、ある"一般人"と、あるハピエン厨……もとい"情報屋"の紡ぐクライムアクション──!

 

 

 

 

 さて、と彼は前置きを入れる。

 ここ──カンサイ警察に集いし五名のアクダマと、そして一人のピエロ。

 

 ピエロがさて、と前置いたのだ。

 

「皆さんお集まりいただきありがとうございまス。ま、呼んだのワタシじゃないんですケド」

「あぁ!? ンだてめェは!」

 

 早々に突っかかるのは喧嘩屋だ。今しがたカンサイ警察が迎撃用に敷いた警備ロボット二百機余りを壊し尽くし、扉を蹴破って来た喧嘩屋。

 

「依頼主じゃないなら、興味はない」

「だぁれ、アナタ」

「君が"情報屋"か。推定懲役777年。依頼主に見つからない形で僕にメールを届けて来た道化師は」

「はイ。初めましテ皆様方──運び屋、喧嘩屋、ハッカー、医者。そして」

 

 バイクに乗り、銃を向ける運び屋と、今しがた天井から落ちて来たハッカー、そして余裕そうな医者。

 情報屋が現れたのは運び屋とハッカーの丁度中間だった。

 そして丁度その手に一人の少女が落ちてくる。猫を抱えた桃色メッシュの少女。

 

「"詐欺師"」

「へ?」

 

 クラウンにぎょろりと覗き込まれる少女。彼女は決して詐欺師などではない。"一般人"だ。ただ、確かに今拘留中の身であったことは確かで、何よりここで一般人であるなどと名乗れば──その身に待つのは死のみ。

 ここに集いしはアクダマの中のアクダマ。元より一般人の死など気にするものではないし、目撃者であれば尚更に殺さんとする者達だから。

 

「二度目の前置きをさせていただきまショウ。喧嘩屋サン、早速仕事でス」

「あぁ?」

「ハッカー、詐欺師はエレベーターから離れてくださイ。自走式処刑戦車のご登場でス」

「戦車ぁ!?」

 

 チーン、と音が鳴り、エレベーターの扉が開く。そこにいたのは球体のボディに幾本ものアームを持つ戦車。

 真っ先に「うっひょー!」とか「こういうのを待ってたんだぜぇ!」とか言って突っ込んでいった喧嘩屋(馬鹿)を余所に、情報屋が医者と運び屋にハンドサインをする。

 下、と。

 

「割に合わない仕事ねぇ」

「おい、降りろ。勝手に乗るな」

 

 白衣のポケットから毒々しい液体を出す医者。彼女の手から放り投げられたそれは、瓶が割れ、空気に触れた途端に膨張し、ジュワジュワと床を溶かし尽くす酸となる。

 そこへ運び屋が自身のバイクよりレールガンを照射。酸は飛び散り──その真上に戦車がとびかかって来たために、彼らは戦車ごと地下へ落ちることになる。地下。カンサイ警察の地下牢獄に、だ。

 

「っ、情報屋! あのメールの内容は本当なんだろうね!」

「勿論でス。まぁ時が来れば全てわかりますヨ。アナタの願いも叶いまス」

「……わかった。やってやるさ!」

 

 落下しても尚、戦闘が止まることはない。数多の牢獄を破壊しても関係がない。その中に一人何かが混じっていて、その一人が逃げるでもなく金の匂いにつられて戦車を追いかけていくことなど誰も気にしない。

 

 突っ込む。

 突っ込む。

 戦車が数多のアクダマを追いかけ、アクダマ達が戦車を蹴り飛ばすようにして突っ込んだのは、カンサイ警察署地下、通称"処刑場"。アクダマの公開処刑はカンサイ住民に鬱憤を晴らす娯楽であり、観客は万にも上る。

 これから人が死ぬというのに大熱狂。大熱狂の中で警察署長が高らかに声を上げて──いるところに突っ込んだのだ。

 

 戦車とアクダマが。

 

「な、ァ……!?」

「ホントに処刑場に直線コース。情報屋の名は伊達じゃないって?」

「これくらいはまぁ当然ですヨ。それより戦車、来ますヨ」

 

 ミサイルが射出される。対象をある程度追尾するそのミサイルは、しかし喧嘩屋の速度についていけていない。というより喧嘩屋がミサイルさえをも自らの足場にして戦車に突っ走って行っている現状だ。

 そして、当たらなかったミサイルの矛先は当然、処刑を今か今かと心待ちにしていた"一般人"達になる。

 

 もう一つ、運び屋を狙ったミサイルもまた速度で追いつけない。ホーミング性能が悪い。彼のバイクがアンカーを射出し、その回転運動からミサイルは運び屋ではなく天井の照明にぶち当たる。落ちる証明。それはもう、まさに今ギロチン台に括りつけられている"殺人鬼"と、それを奪いに来た医者、ハッカー、そして警察署長のもとに──。

 

「余計な消耗は無くて良イ。そう思いませんカ、チンピラ、詐欺師」

「ひぇぁ!?」

「じょ、情報屋さん……?」

 

 そこかしこでドッシャンガラガラが起きている中、"一般人"と"チンピラ"の元に歩いてくる道化師が一人。

 

「さテ、ここに一つ情報がありまス。この場を楽に切り抜ける方法でス」

「そ、そんなんがあるなら早くやってくれぇ!」

「代価を頂きましょウ。なんせワタシは情報屋。情報と金銭をやり取りするアクダマ」

「か、金なら無ぇよ! 俺ぁさっきまで牢獄の中にいたんだ!」

「わ……私は」

 

 何かを握りしめる一般人。

 けれどそれを手放す彼女ではない。

 

 だから、道化師はプチっとした。

 

()っ!?」

「ってェ!?」

「髪の毛一本ずツ。確かに代価は頂きましタ」

 

 瞬間、情報屋の姿が消える。現れた時と同じように、消えた。消えて。

 

 直後戦車がぶっ壊れる。

 

「あ!?」

「なんだ?」

「……へ?」

 

 今の今まで戦っていた二人と一般人が驚く最中、またもゆらりと現れた道化師が、その爪に一枚のチップを取り出した。

 

「あれのCPU(頭脳)でス。どんなに硬い外殻や強い装備を有していてモ、頭脳が無くなれば木偶の坊同然。ご安心くださイ、しっかりとお金は置いてきましタ。一イェン。アレのCPUの代金としては妥当なものでしょウ」

「随分と物理に偏った情報屋だね」

「どうでもいいけど、運び屋のアレで殺人鬼死んじゃってないでしょうね」

「ご安心くださイ。彼はもウ──」

 

 喚く声があった。「貴様らァ!」と。声の発声人は警察署長その人。何やら言っても仕方のないことをぎゃんぎゃんと喚いているが、それも束の間。

 すぱん、と切れるは首首首。ごろんと落ちるも首首首。

 

「捕まえたなら、ちゃんと殺してほしかったなぁ」

「鮮やかな仕事ですネ。流石は推定懲役967年」

 

 ゆらりと出てきたのは真っ白な青年。殺人鬼の名に恥じぬ鮮やかな手並みに、しかし臆さず近づく運び屋。彼にはそのトランクの中身を彼に届けろ、という依頼が為されていたのだ。

 けれど、トランクが彼の手に渡ったその瞬間だった。

 

 道化師がパチンと指を鳴らす。

 途端、この場にいる全員の首に"首輪"が嵌められた。

 

「な、なんで俺にまで!」

「丁度いいサンプルケースだからですヨ。ほラ」

 

 さっきまでチンピラたちの近くにいた道化師が、アクダマでないにもかかわらず首輪を嵌められてしまったカンサイ警察署員の背後に立つ。そしてその爪で彼の首輪をグイ、と引っ張った。

 

 爆発。

 ぶしゅうを飛び出るは真っ赤な噴水。

 

「わぁ! 綺麗な赤!」

「今からもっともっとたくさんの赤が見られますヨ。あちらの方はもっともっと育ちまス。興味、あるでしょウ?」

「うん! けど君は本気でどうでもいいね! 真っ白っていうか、透明!」

「ご明察でス」

 

 では、さて、と。

 三回目の前置きをする道化師。

 

「お話を聞きましょうカ、依頼主サン。ま、ワタシメール貰ってないんですケド」

 

 道化師──情報屋の視線の先にいるのは、少女。

 一気に皆の目線が彼女へ向かう。少女は「え? え?」とキョロキョロあたりを見回しているにもかかわらず。

 

「へぇ、アナタが依頼主だったの」

「ンだよ弱っちそうに見えて、つか、あぁ詐欺師っつったか? じゃあそのナリも納得か!」

「一億イェン。この場合は誰に振り込まれるんだ?」

 

 無論、一般人である少女に応えはない。

 だから頑張って振り絞って「私知らないです!」と叫ぼうとした──その声に合わせて、彼女の頭の上の猫がにゃあと鳴く。

 

『全員、揃ったようだね』

 

 わずかにノイズの走る声。

 その場の皆が腹話術かと疑う中で、引き攣った笑みを浮かべているのはハッカーだけだ。

 彼の視線は猫ではなく道化師に向いている。

 

「……ここまで全部情報通り、か」

 

 そう──ここまでの事は全てメールにあった通りだった。

 集まるアクダマは勿論、戦車のことや処刑場のこと、さらには警察署長が何を喚くのかまで全部。

 

 ならば次に明かされる情報は。

 

「無駄な説明も無駄な尺取りも止めましょウ、依頼主サン。私達をここに集めた理由はシンカンセンの襲撃──そしてその中にある金庫の奪還。これで相違ないですカ?」

『君を呼び寄せた覚えはないけれど、一言一句違わないよ。流石は情報屋といったところかな』

「普通に話しているけれど、何? その猫は」

「ロボットですヨ。カントウの技術で作られタ。製造元はカンサイですガ」

「……カントウ」

 

 この国はカントウとカンサイの二地区に二分されている。

 これら二つの間にはカントウ消毒ゾーンという汚染区域が存在し、カンサイのものは決してカントウに行くことができない。これら二つの地区には圧倒的なまでの科学技術格差があるとされ、カントウの技術であるならば、と猫型ロボットの存在にも全員が納得する。

 そしてシンカンセンの襲撃。これもまた、ここにアクダマ達が集められた理由に納得の行くものだった。何故ならシンカンセンはカンサイに住む者にとっては信仰の象徴。あらゆるアクダマ達が蔓延るカンサイにおいても、未だそれを成し遂げた者はいない。為そうとすらしない。

 襲撃し、中身を強奪するなど──無謀ともいえる所業だからだ。

 

「スマートに行きましょう皆さン。この依頼主サンの目的は今言った通りのもノ。既に報酬は支払われているはずでス。ま私は依頼されていないので報酬ナシですガ」

『情報屋。君がどこまで知っているのかはわからないけれど、まるで君が僕側の人間のように振る舞うのはやめてほしいかな。僕と君達はあくまで依頼と契約の関係だ』

「無論ですヨ、依頼主サン。それがわかっていない者などここにはおりませン。それで、お支払いは十億イェンでよろしかったでしょうカ?」

『……舌の根の乾かぬ内に』

「じゅ、十億ゥ!?」

 

 額に驚くチンピラ。

 シンカンセン襲撃に燃える喧嘩屋。冷静に依頼を見極めようとする運び屋と医者。

 

 そして──表情の見えない道化師をチラりと見るハッカー。

 

「そろそろ場所を移しましょうカ、依頼主サン。上から増援が来ていまス。外のバス停に手ごろなバスをチャーターしてあるのデ、それに乗って移動しましょウ」

「アンタ、流石に手回しが良すぎない? どこか……処刑課とかの差し金じゃないでしょうね」

「まさカ。アナタと違ってワタシは無駄が嫌いなんでス。特に無駄死にとかがネ」

「……ま、いいケド」

 

 それでいいかどうかを迷っている暇はなかった。

 またぞろ大勢が雪崩れ込んでくる前に、アクダマ達は処刑場を出る。そして、運転手のいないバスに乗り込んだ。

 バス。バス停を定期的に回遊する飛行船の名であり、基本は一般人を運ぶためのものだが、今はまるで無人。さらに言えばこれほど巨大な機体が、誰の目にも止まっていない。

 

「視覚情報も取り扱っておりますヨ、ワタシ」

「なんでもいいだろ。早く行こうぜシンカンセン!」

『待って。まずは僕の用意した廃工場に』

「それはやめた方がよろしいかト。バスの航行路は先読みがしやすいたメ、どこへ向かイ、どこで降りるかの予想は簡単についてしまいまス。そこでなのですガ──七つ星ビル、サンシャでマイコの最上階へ突入しまショウ。一般人の多くいるビルですかラ、警察や処刑課が辿り着くまでの時間が稼げまス」

『君の情報操作で僕たちの行く先をかく乱することはできないのかい』

「構いませんガ、代価をいただきますヨ。──それは困るのでハ?」

『……まぁ、いい。わかった。突っ込もう』

 

 依頼主の納得が得られたので、全員がバスに乗り込み、そのまま急速旋回。

 

「それでは皆さン、快適な空の旅ヲ──一瞬だけお楽しみくださイ」

 

 視覚情報の取り扱い──つまり迷彩フィールドが解けた時には、バスは既にサンシャでマイコの真ん前だった。

 突っ込む。またも突っ込む。二番煎じだし、芸術性の欠片も無い突入は、けれど効果的だった。

 

「あ、喧嘩屋サン。警備ロボットと警備兵は初めから配置されているのデ」

「突っ込んだ瞬間ぶっ潰せばいいんだろ!」

「話の早い方は好感が持てますヨ」

 

 カチコミだった。

 

 

 

 警備兵、警備ロボットを片付けて、スイートルーム。

 

「さて、ここでも説明役を預からせてもらってモ?」

『……止めても話すんだろう。止めはしないよ。間違っていたら都度訂正させてもらうけれど』

「ありがとうございまス。それでは皆さン、こちらをご覧くださイ」

 

 スイートルームの大型モニターに別のウィンドウが表示される。

 明らかなハッキングだが、ハッカーのそれとは毛色が違う。

 

「シンカンセンがカンサイステーションに停車する時間はニ十分。その間にシンカンセンの中に入リ、中にある金庫を強奪すル。これが今回我々に課されたミッションでス」

 

 ウィンドウがいくつか開く。

 

「まずこれがシンカンセンの全容でス。侵入口は荷物の搬入口ただ一ツ。ただしこの搬入口は登録貨物以外を光子力シールドで焼き尽くしてしまうセンサーとなっていテ、侵入は容易ではありませン。たダ、中の物を確認するシステムではないのデ、中身が入れ替わっていても機械には気付けませン。此度依頼主サンが用意した空の貨物。それに入ることができるのはハッカーと詐欺師のみでス。小柄で体重が軽い必要があるのデ、喧嘩屋、運び屋、医者、チンピラ、殺し屋、そしてワタシは入ることができないわけですネ」

「私か、ハッカーさん……ですか」

「そうでス。ハッカー、あるいは詐欺師の手で光子力シールドを解除し次第、全員で中へ入りまス。たダ、依頼主サンは一時的にカンサイ中の動力を落とすつもりのようですかラ、ハッカーより詐欺師が適任でしょウ」

『……どこまで』

「その反応を見るに、またも一言一句違わず、って? 流石に怪しさが爆発してるわね」

 

 全員が理解しているかの確認は求めない。

 ただ道化師は一般人を見るだけ見て、こくりと頷いた。一般人はぶんぶんと首を振っているにもかかわらず、だ。

 

「話を続けまス。カンサイステーションにはシンカンセンへ直通するエレベーターがありましテ、これは地上から天上までをぶち抜いて作られていまス。そしてそれらエレベーターを起動させるには上階と下階のスイッチを同時に押す必要があリ、さらにはスイッチを守る防壁まである始末。ただこれは割と簡単に壊せるのでご安心ヲ」

『待った。カンサイステーションの内部セキュリティまでは僕も知らない事実だ。情報源は?』

「情報屋に情報源を求めると高くつきますヨ?」

『……』

「話を続けろ、情報屋。そろそろ来るぞ」

「はイ。防壁は防壁発生装置が発生させているに過ぎません。鳥居の形をしたその防壁は、鳥居そのものを破壊することで解除可能でス。よって下階のスイッチは喧嘩屋、チンピラ、医者に、上階は詐欺師、殺人鬼、ハッカー、そしてワタシが向かいまス。運び屋ハ」

「俺は線路からバイクで侵入し、金庫を強奪する」

「そういうことでス。そして同時押しについてはお任せヲ」

「……だそうだけど?」

『いうことは特に無いよ。僕の言いたいことも、僕の知らないことも知っている情報屋が一気に怪しくなった程度だね』

「アクダマなんだ、怪しさなんざ当然にあるだろうよ」

 

 さて、と。

 道化師は何度目かもわからぬ前置きをした。

 

「話は一旦ここまででス。処刑課のご到着ですヨ、喧嘩屋」

「お! 来たか!」

「……本当だ。到着したみたいだね」

「依頼主サン、ハッカー、詐欺師、チンピラは先に行っていてくださイ。邪魔なのデ」

「ちょい待てよ情報屋ァ。俺の兄弟を邪魔者扱いとは良い度胸だなてめェ」

「言葉を間違えましタ。チンピラの実力はこんなところで公に晒すものではないのデ、ここはどうか引いていただけますカ?」

「ぉ……お、おう! ったく、しょうがねぇなぁ。つ、つーわけだ兄弟! ここはお前に任せるぜ!」

「そういうことなら、良いぜ!」

 

 バチンと掌に拳を当て、来るより前にこちらから、と言わんばかりに廊下へ出ていく喧嘩屋。ハッカーは猫型ロボットを小脇に抱え、二機のドローンに詐欺師とチンピラを引っかけるようにして浮遊する。

 

「じゃあ、また後で!」

「ちょっと、私は置いてけぼりなの?」

「アナタは十二分に戦えるでショウ」

「……ま、いいケド。そう言うってことは、残ったメンバーは戦えるって?」

「自信がないのなら逃げてどうゾ。正直ワタシ一人でも十分ですのデ」

「へぇ、言ってくれるじゃない」

 

 轟音と破砕音。

 廊下からだ。

 

「処刑課の武装は光子力十手。大体のものは焼き切ル……所謂ビームサーベル、あるいはフォースですネ」

「どっちもピンと来ないけど?」

「戦争前の作品ですかラ、致し方のないことかト」

 

 道化師の姿が消える。

 直後、壁に青髪の女性が蹴りつけられていた。

 

「ぐっ……!?」

「処刑課は何人?」

「二人でス。この方ト、この方の師匠」

「じゃああのドレッドゴリラが苦戦してるのはその師匠の方ってことね」

「運び屋と協力してくれたら楽なんですガ、喧嘩屋にそういう連携とかはないでしょうネ」

「──い、つまでも、調子に、っ!?」

 

 バックステップでも宙返りでもない。

 消えて、医者の横に現れる道化師。

 

「それ、どういう原理?」

「言ったでショウ。視覚情報も取り扱っているト」

「……推定懲役777年、情報屋。推定懲役432年、医者。貴様らをここで処刑する」

「それは怖イ。……医者」

「はいはい。馬鹿な男二人の回収ね」

「えエ、思っていたよりも使えなイ……と、情報が足りなかっタ、というべきですネ。情報屋の名が廃りまス」

「行かせる、カ──っは」

 

 蹴りが入る。突然現れ、突然消える。

 まるで視界をジャックされているかのように。道化師は、処刑課の女性の前から消えたり現れたりを繰り返し──。

 

「馬鹿に、するな!」

 

 その単調な出現パターンを見切った女性が光子十手で道化師を切り裂いた時には、サンシャでマイコの中から全アクダマが消え去っていた。

 今まで相手にしていた情報屋もいなければ、彼女の師匠が戦っていたはずの喧嘩屋、運び屋、そして一切の姿を現さなかった殺人鬼までもがいない。

 

「……師匠!」

「喚くな。こちらは傷一つ負っていない。そちらは?」

「狐に包まれたかのような気分です。戦っていたはずなのに……いつの間にか消えていました。どころか」

 

 弟子が腹を摩る。

 蹴り飛ばされ、確実に内臓へダメージの入ったはずのあの蹴り。それが嘘のように痛みが無い。

 

「……負けました」

「ああ。帰って報告だ」

 

 その日、処刑課はアクダマに大敗を喫したのであった。

 

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