ヒーローな友人たちと向かい合う話 作:秘密のライダー好き
戦闘描写難しい……
コツ、コツ、コツ
靴の音を響かせながらシンは道を歩く。
コツ、コツ、コツ
日は差しているが道は暗く、足元も紙くずや鉄くずなどがあって良いとはいいがたい。
日陰市は日本防衛のために作られた最初の町ということもあり急造だったため、こういった路地が以外と多いのだ。
コツ、コツ、コツ
そんな暗い道のりだからか、シンの考えることもまた暗い。
(今日の感じ、アスミが実戦に出るのも近いかぁ。
全然だった魔力も最近はコントロールできてるし)
コツ、コツ、コツ
前だと不意打ち言霊なんてできなかったろうしな。
と、友人の成長を嬉しいような、悲しいような気持ちでシンは考える。
ヒーローである二人の友人を思いながら、シンは暗い道を歩いていく。
(二人とも命懸けの戦いかー。
友達がヒーローってのも嫌なもんだ)
悲しい意味で感慨深くシンが頷いた後に、小さな衝撃が襲う。
せいぜい道が揺れる程度だが、不意打ち気味だったこともあってシンは「おっと」なんて口にしながらバランスを取った。
次に、衝撃と共に流れてきた微弱な魔力からシンは思考を続ける。
(この感じは……ワニかな、あいつも長いよなー。
ワニ怪人。
日陰市にたびたび現れる怪人であり、コウが初陣で戦って倒した相手でもある。
その後もパワーアップして現れてはまたコウに倒されるというのを何度も繰り返している
最初こそ初陣のコウでも倒せたが、第2世代の特徴を利用して何度もパワーアップを繰り返した今のワニ怪人は強力だ。
それこそ、今では歴戦の戦士といえるコウが相手をする必要があるほどに。
(さて、今回のワニ怪人はどうなるかなーっと)
コツ、コツ、コツ
シンは歩き始める。
暗い路地を、足音を立てながら。
ゆくっくりと、でも確実に、一歩一歩
コツ、コツ、コツ
シンは歩き続ける。
―――――――――――――――――――
一方のコウは走っていた。
ヒーロービルの中で制服姿ではなく自身のヒーローとしての力を発揮するためインナースーツを纏って。
怪人の出現によって慌ただしく、しかし訓練されたとおりに動いている職員達を縫うように。
そして司令室と書かれたドアを開く。
「日野寺コウ、到着しました!!」
「来たか、フェニックス」
腰まで届く銀色の髪と、厳しさを表すような目つきの中に蒼い瞳を持つ女性司令官、
司令室の中は既に様々な報告が飛び交い、携帯の字面だけでは現実感がなかった怪人の出現を明確に感じさせる。
気を引き締めたコウがナギに状況を確認する。
「状況はどうなっていますか?」
「確認された怪人は1体、ワニだ。
出現した日陰北の人々には暗示での誘導避難を進めているが...」
言葉の後にナギが前面のモニターに目を移す。
モニターでは、ワニ怪人が日陰市北の大通りを歩いていた。
全身緑色の皮膚と強制ギプスのようなアーマーを纏った胴体、特徴的な人を喰らえるほどの大顎と大人の倍はあるであろう手足、そして体を支えている人の胴体ほどの尻尾。
そして腰に巻かれた第2世代怪人の証である逆三角形のバックルが妙に存在感を放っていた。
周りの建物なんて全く気にかけず、歩くたびに足跡を残してヒーロービルを目指している。
あまりに堂々と歩いているその姿には司令官であるナギも呆れ気味だ。
「奴め、他は見向きもせずにまっすぐこちらに向かっているよ。誘導のために二人出動したがこれでは無意味だな」
モニターの中では二人のヒーローが木の葉とイナズマのような魔力攻撃を行っているが、ワニ怪人は気にしていないのか歩みを止めることはない。
次の瞬間ワニ怪人の周りに突如土の壁が現れて囲う。
ワニ怪人が足を止めるが、ただの壁だと分かると目の前の壁を破壊して囲いから抜け出した。
再び壁が生まれるが、今度は囲いが出来上がる前に壁を破壊することで突破される。
ワニ怪人の歩みは止まらない。
「今の、木の葉とイナズマは見たことあります。土の壁は誰です?」
「ふむ、確かヒーロー候補が1人近くにいたから同行させたな。春日井アスミだ」
「アスミが!?」
「ああ、貴様の知り合いだったか? フフ……」
コウとの会話で含みがある笑みを浮かべるナギ。
いまだヒーロー候補であるはずの幼馴染が戦いの前線にいることに戸惑ってしまうコウ。
コウの戸惑いを見たナギは、現実を突きつけるために鋭く低い声で言葉を放つ。
「あの子もヒーローに……闇と戦う戦士になるんだ。
この程度で狼狽えるな、
「っ! はい...」
「とはいえ今回はお前が到着するまでの時間稼ぎだ。
お前が早く着けばその分負担は減る」
普段の声の調子に戻し、少しだけ彼女なりの優しさを含めたアドバイス。
その言葉でコウは戦うための理由を増やし、拳を強く握り締める。
その様子を確認したナギは手元のコンソールを操作する。
コウの目の前の床が開き、そこからカプセルが乗っているテーブルが現れた。
カプセルが割れ、その中にあるモノが姿を現す。
それは白を基調に、赤と黄色で炎の鳥が描かれた
「ドライバーは改良で安定度が5%上昇した。
カードにはお前の光因子と戦闘データの最新情報が記入されている。使え」
コウはドライバーを手に取った。
それと同時に自分の中の光の力が共鳴するのを感じる、熱く燃え滾る炎の熱のような感覚。
1度目を瞑ればそこに
目を開けばもうそこにいるのは学生ではない、炎の鳥の力を宿し戦いに向かう一人の戦士だ。
「問題無いようだな。
奴はもうすぐ北3番防衛ラインに到達する。
「はい!!」
コウは司令室から出て、右手の通路を進む。
その先にあるのは無数の物像。
全て始まりの光にあったとされる翼を模したそれの内、3と記された物の前に立つ。
そうして翼の像に魔力を込めるとコウを光が包み込む。
光が収まると、コウはヒーロービルではなく日陰市の北通りに立っていた。
それはヒーローたちが使う転送用装置。
日陰市にヒーローたちの防衛線に合わせて立ててある翼のオブジェクトと、対をなす翼の像に魔力を込めればその場所まで転送が可能なこの広い街でヒーローが戦う上で必須の装置だ。
コウの正面には自分の因縁の相手といえる怪人が、立っていた。
視線を横に向ければ誘導係の二人のヒーローと、学生服姿のアスミが走って通り抜けていく。
「(コウ、頑張って!!)」
声を出さずにコウに応援の言葉を告げて下がっていくアスミ。
それを見て薄く笑った後に、コウはワニ怪人と向き合った。
「よう、火の鳥」
「久しぶりだね、ワニ怪人」
お互いに軽く笑みを浮かべて挨拶をする。
もっとも、どちらも目は笑っておらずお互いを鋭く見据えている。
会話が成り立っている。
それだけでもこのワニ怪人が通常の怪人とは一線を画す第2世代怪人の証明となる。
通常の怪人ならば言葉を離さず唸り声しか上げないが、第2世代怪人は理性を持っているのだ。
「これでお前と会うのは何回目だっけか? 4回目か?」
「5回目だよ、覚えてないの?」
「ハハハ! 悪いな。
一度言葉を切って、ワニ怪人が目を閉じる。
ここまでの会話は容はともかくどこか気が良い人物のようにも思える話し方と声だった。
次の瞬間、その下に隠していた凶悪な殺意が広がる。
「――――もっとも、俺を殺したヤツのことは覚えてるがナァア!!」
そう叫んだワニ怪人の瞳の奥には憎悪が渦巻いている。
今すぐに目の前のガキを殺したい、ぶち殺したい、全身の骨をかみ砕いてしまいたい。
だがただそうするだけではスッキリしない、そうワニ怪人は考えている。
自分を倒した相手を正面から叩き潰して、確実な勝利を手に入れてから、奴に屈辱的な敗北を味合わせてから、そうじゃないと自分のプライドが許さない。
だからこそワニ怪人は今止まっている。
「ヘンシンしろヨ、火ノ鳥ィ!」
「ああ、そうさせてもらう」
冷静に言葉を返したコウは左手に持っていたドライバーを腰にかざした。
それと同時に、スーツの腰部分に接続用のジョイントが出現した。
『
機械音と共にドライバーが文字通り接続される。
コウは一瞬苦痛に顔を歪め、その後にドライバーと繋がるのを感じた。
ドライバーの右側面が展開する。
「ハァー...ッフ!!」
コウが息を吐いて、右手でカードを構える。
慣れた手つきでカードをドライバーに挿入した。
自動でドライバーが閉じる。
『
カードを認識した音声が流れると同時にドライバーが大気中の魔力を吸収し始める。
魔力を吸収する音が響き渡り、コウを中心に魔力が回転する。
数秒もたたずに必要な魔力の吸収を終えたドライバーが止まった。
ドライバーは待機状態に移行して主の
コウが息を整えて、叫ぶ。
「変身!!」
コウが両手でドライバーの側面を掴み、掛け声とともに力いっぱいドライバーを回した。
次の瞬間、ドライバーから炎が噴き出す。
先程までの現象の逆、吸収した時とは逆回転で魔力を炎として放出しつつ回転させ、炎がコウを包み込む。
やがて炎は鳥の姿になり、6枚の羽を広げた。
Cuiaaaaaa!!
炎の鳥は全ての翼で自身の中にあるモノを抱きかかえるように翼を閉じていく。
全ての炎が集まって―――
「ハァッ!!」
コウの声と共に弾け飛んだ。
そして現れたのは炎と鳥の力を宿した戦士――――――コードネーム:フェニックス
銀色のインナースーツに、炎の色である赤と黄色で鳥と炎をイメージした造形のアーマー。
特徴的なのは両手足と背面に左右2つある翼のような形の炎魔力ブースター、起動すれば炎の魔力によって発生する炎の翼が爆発的な加速を生む。
アーマー全身に魔力を送る筋にはマグマのように魔力が流れ、その全てはドライバーの直上、即ち胸部分の鳳凰が抱きかかえるように位置する蒼く輝く「コア」に集中する。
鳳凰の頭と羽を意識して設計された仮面が顔を覆い、コアと同じ蒼いツインアイが敵を捉えた。
「八ァ!! その姿を待ってタゼェ!!!」
「じゃあ、始めようか」
その姿を叩き潰すのを楽しみにしていたワニ怪人は、叫びと共に体に魔力を滾らせて両手を上げた構えを取る。
対して言葉の内に熱を秘めたコウ―――否、フェニックスもまた、右手を右半身ごと引き絞り左半身を前に出して左手で照準を付ける構えを取った。
戦いの始まりに合図はない、ただ何度も戦った影響か二人は同時に前に飛び出た。
フェニックスが足アーマーのブースターを起動させ、炎の羽を出現させながら加速する。
拳を振るう直前に腕部アーマーのブースターも起動し、限界まで加速をつけたフェニックスの拳。
持ち前のパワーと、魔力によってそれを底上げしたワニ怪人の拳。
二つの拳がぶつかり合い轟音が響く、その衝撃に道が耐えられずに沈み込んだ。
「ハッハハァ!!」
「クッ!」
拳の威力は互角、だがこの互角を維持するにはフェニックスはブースターで魔力を消費しなくてはならない。
フェニックスの拳は既に全力。逆にまだ余裕があるワニ怪人は自身がもう一段階力のギアを上げれば押し勝てる、そう判断して腕に込める力を増やした。
そしてワニ怪人は「オラァ!!」という掛け声と共に拳を振り切った。
「な、ニギィ!?」
見事なタイミングでの
驚愕したワニ怪人の体は腕を伸ばし切った状態であり、無防備だった。
当然フェニックスが隙を逃すはずがなく、首元に向けて左腕のブースターの加速を利用したアッパーを決める。
「ハアァ!!」
フェニックスがブースターの勢いのままにワニ怪人のアッパーで頭を打ち上げる。
以前のワニ怪人ならば頭の重さでひっくり返ったのだが...
「(今回はダメか!!)」
「イッタイじゃ、ネぇえか!!」
ワニ怪人は倒れず、叫ぶ。
反撃が来る。そう理解したフェニックスは後ろに距離を取る。
持ち上げられた頭をそのまま振り落としての反撃。顎の長さがそのままリーチとなって後ろに跳んでいるフェニックスの前ギリギリを通過した。
叩きつけられた地面が窪んでひび割れる。
ワニ怪人は叩きつけたた顎をそのままに四つ足状態に移行する。
フェニックスを真正面に捉えて、突進。
突撃しながら顎を開いて魔力を纏わせた牙で喰らいついてかみ砕くことを目的とした突進攻撃。
ワニ怪人の代名詞のような攻撃だ。
「(距離が近い、なら!)」
フェニックスの回避、距離の近さゆえに通常の回避は不可能と判断。
そこでフェニックスが選んだのは上だ。
真上へのジャンプで突進を躱す。
ワニ怪人が腕の力で上半身を持ち上げて文字通り喰らいつこうとする。
フェニックスは背面のブースターを起動。
通常よりも多くの魔力を吸収して起動した背面ブースターは加速ではなく空を飛ぶための炎の翼を発生させる。
翼を羽ばたかせ空へと回避するフェニックス。
牙が届かなかったワニ怪人が舌打ちを一つ。
「行け!!」
空中で変身時とは逆回転にドライバーを回す。
音と共に大気の魔力を吸収するドライバー、そこから供給された魔力で炎の翼が大きくなる。
大きく開いた翼から無数の炎が発射される、それは1つ1つが炎の翼でありまさに翼の雨だった。
広範囲の遠距離攻撃。
だがワニ怪人は動じない。
自身の防御力に絶大な自信を持っているが故にほとんどの炎を正面から受けてみせた。
ワニ怪人が向かって来る一部の羽を魔力を纏った腕で払った。
フェニックスはその一部を見逃さなかった。
「ハアァ!!」
羽の幅を狭め攻撃をその一部が狙っていた部分、頭部に集中する。
いくら丈夫とはいえ生物の急所、即ち頭、特に敵を見失わないための大きな瞳は明確な弱点だ。
発射元の幅を狭めたことで炎の羽同士が繋がり、より大きな炎となる。
流石に弱点に向けられた強力な炎を受けるわけにはいかず、ワニ怪人は腕を交差して頭を守った。
「チィ、シャラくせぇ!!!」
『
ドライバーが無機質な音声を流すと共にワニ怪人の腕、特に爪部分に暗い魔力が纏わりつく。
そのまま腕を空中に振り回せば、魔力によって作られた巨大な爪痕が無数の炎から守る盾となる。
ワニ怪人は「フン」と得意げに鼻息を鳴らし、全ての炎が爪痕の前に敗れた。
直後にフェニックス本人が炎を纏った右足を突き出して、全てのブースターの加速も利用した飛び蹴りでワニ怪人の顔面目掛けて突っ込んできた。
「は? ガァア!!??」
「入った……!!」
弱点である頭部、それも緻密なコントロールによって目と目の間に突き刺さった飛び蹴りでフェニックスはダメージを与えたことを確信する。
そのまま倒れることを望んだが、現実は厳しい。
自慢のタフネスで攻撃を耐えきったワニ怪人がまだ魔力を纏っていた右拳を全力でフェニックスに叩きつけた。
「オッラァ!!」
「グァっ!!」
吹っ飛ばされるも、最後に残った背中の羽で体制を整えて着地するフェニックス。
ダメージを受けて一度ふらつくも、再び魔力を吸収して構える。
ワニ怪人もまたダメージを受けた頭を振った後、より血走った瞳でフェニックスを見据える。
「オラ、今度はこっちの番ダァ!!!」
再びの突進攻撃がフェニックスに向かう。
フェニックスは先程とは違い距離があるため、余裕をもって右へ回避を選択。
これは以前の戦いでワニ怪人の突進は曲がれないということを知っているための選択であり、フェニックスが知っている最善手だ。
だからこそ、
ワニ怪人が小さく嗤う。
「残念ダッタナァ!!」
ズドン! と重い音が鳴るほどにワニ怪人は強く両腕を叩きつけた。
そして次の瞬間勢いを殺さず、むしろより加速して回避したはずのフェニックスに向かって突撃してきた。
「何!?」
ワニ怪人の急な方向転換に驚いて止まってしまったフェニックス。
そのまま大きく開かれた、敵を仕留めるために閉じようとする大顎をすべてのブースターを起動した両腕で抑える。
回避できなかった動揺とこのままでは食われるという焦りからフェニックスの魔力操作が乱れ、ブースターの勢いが弱くなる。
そんなフェニックスに後ろから声がかけられた。
「尻尾よ!! コ……じゃないフェニックス!! そいつ尻尾を使って曲がったの!!」
声の主はもしものために二人のヒーローとフェニックスの後ろで待機していたアスミだ。
フェニックスからは急に曲がったように見えたが、後ろで見ていたアスミは仕掛けが見えていた。
両腕を地面に叩きつけると共に尻尾を顎と同時に振り回すことでドリフト走行のような方向転換。
さらに向きが定まった後に両手で前に出ると同時に尻尾を地面に叩きつけてスピードをつける。
これによって加速して突進攻撃のスピードを上げながら曲がることを可能にしたのだ。
「なる、ほど……!!」
フェニックスは攻撃の謎を解いて一先ずは顎を閉じさせないことに集中することができるようになってブースターの勢いが増した。
だがワニという噛む力では現状最強の生物の特徴を持つワニ怪人の顎を抑えるというのはそれでも中々に、いやかなり辛い。
「オラァ!!」
「ウ、オォ!?」
そこからワニ怪人が横に転がった、ワニが食らいついた獲物を噛みちぎるために使うデスロールという技の再現。
これによってフェニックスのバランスは崩され、上半身が口の中に入ってしまう。
ワニ怪人が勝利を確信し、フェニックスをかみ砕くために顎を閉じようとする。
「舐、め、る、なアァァ!!!」
「オ、グガアアアァァァァ!!??」
が、顎が閉じる直前に、フェニックスは両腕と背面のブースターからありったけの魔力を回して炎を吹き出した。
口内を炎で焼かれたワニ怪人はのたうち回り、そのさなかにフェニックスは吐き出され距離を取る。
「ガアアアアア!! 熱い! アチィヨォ!!」
「フー...フー...」
暴れるワニ怪人を捉えながら、フェニックスは息を整え戦況を冷静に分析する。
ワニ怪人のタフネスは強力だが、無限ではない。確実にダメージは蓄積している。
が、このままダメージレースを続ければ体力、魔力、集中力、全てでフェニックスが不利。
決着をつけるためには一撃、強力な一撃をぶつける必要がある。
そしてフェニックスに
問題はそれを当てるための隙が無いことだ。
態勢を崩す必要がある、さらに先程の曲がる突進……
と、そこまで考えた所でフェニックスは一つ閃いた。
「(
マスクの中だけで呟いて自身の閃きを吟味する。
考えうる限り最速、成功した場合の勝率は高く、技量は必要だが自分ならできると信じる。
重要なのはタイミング、恐れてしまえば失敗して喰われる。
後は成功しても自分の体への負荷は重いだろう。
一旦息を吐く。
「(恐れたら詰み、いつも通りか)」
思わずマスクの中で苦笑いを零す。
やることは決まった、覚悟も決めた。
だから後は実行するのみ。
ドライバーを回転させフェニックスは魔力を補給する。
ワニ怪人も落ち着いたようで、再び突進の体制でフェニックスを睨みつけている。
「火の鳥ィ……今の隙になんで攻撃しなかった?」
「お前を倒す方法を考えてたから」
「ハッ、ホントムカつくなァオ前!!」
ワニ怪人は叫びと共に尻尾を地面に叩きつけ、前へ飛び出す突進攻撃。初速が増えた分、先ほどの前2回よりもスピードがある。
仮面の中で一瞬の驚愕、それでもフェニックスは決めたことを突き通す。
フェニックスは
「コウ!?」
「ナニ!? グラァ!!」
思わずコードネームを忘れて叫ぶアスミ。
ワニ怪人も驚愕したが、目の前にやってくるフェニックスをかみ砕くために大顎を開ける。
フェニックスは大顎の先端が降れるかどうかの直前に背面左ブースターのみを起動し飛び上がる。
これによって大顎は空を噛んだ。
回避された/回避できた。
ワニ怪人とアスミが驚く一瞬の中でフェニックスは動き続ける。
攻撃に使う右背面と右手は最大で、姿勢制御のために残りの手足のブースターを起動、これによって空中に上がると同時に直下――――ワニ怪人の尻尾に向けて拳を叩きつける。
無茶な軌道で体が悲鳴を上げる、それでもフェニックスは拳を振り切った。
結果は――――
「ハ、ハハハ!! 残念ダッタナァ火の鳥ィ!! オレ方がウワテダッタナァ!!!」
「嘘、……?」
フェニックスの拳は、ワニ怪人の尻尾ではなく地面に命中し小さなくぼみを作っただけだった。
狙いに気づいたワニ怪人がほんの少しだけ尻尾を動かし、その結果ギリギリの攻防を勝ち切ったワニ怪人は興奮気味に嗤う。
自分の生死がかかっていたと理解しているが故に、生を勝ち取ったという興奮と快楽が止まらなかった。
そして何よりも何度も自分を殺した相手の最後の策を潰したと、勝てると確信していた。
興奮気味のワニ怪人に対してアスミは驚愕の後の疑問が残った。
アスミの疑問を取り残して、戦いは続く。
「クッ……」
負荷による痛みに耐えながら、フェニックスは距離を取る。
それを見てワニ怪人は再び突進の用意を始める、勝利を確信して嗤い、いたぶってやろうと考えながら。
尻尾を叩きつけての突進、フェニックスが今度は横に転がるように回避する。
「無駄ダァ!!!」
ワニ怪人は腕を突き立て、顎と尻尾を振ることで曲がろうとして――――
ボギブチィとあまり聞きたくない音と共にワニ怪人の尻尾が千切れ飛んだ。
「ハ?」
一瞬呆けるワニ怪人。
「ギ、ギグアアァァァ!!??」
「ッそういうことね」
「正直、本気で失敗したかと思ったよ」
ワニ怪人が千切れた尻尾から血を吹き出し痛みでもだえる中、フェニックスは冷静にアスミの言葉に返す。
フェニックスの閃きは、目の前の光景そのものだった。
ワニ怪人が勝利したかに見えた瞬間の攻防に実際に勝利したのはフェニックスであり、その本来の目的は尻尾に
あの振り切った拳の用途、それは右手ブースターの
尻尾を動かされたことで目的よりも浅くしか切れなかったが、目の前の結果が全てだった。
目の前で悲鳴を上げるワニ怪人は無防備で、拳を受けて耐えようにも尻尾が無ければそれも不可能。
勝敗は、すでに決まっているようなものだった。
「さあ、終わらせようか」
『
フェニックスがドライバー右側面を叩くことで、ライトドライバーが一時限界を超え自壊ギリギリまで魔力を吸収する。
蒼かった胸部のコアとツインアイが赤く染まり、肩部、腰、胸部の装甲が展開して炎が溢れ出す。
全てのブースターからも限界を超える炎が噴き出し、全ての炎は一体となってフェニックスの体を包む翼となった。
「ハァー...」
『
そのまま飛び上がったフェニックスは、ドライバーの左側面を叩いてその炎のほとんどを右手一点に集中させる。
そうして出来上がった炎のかぎ爪をワニ怪人に向け、残った翼で加速する。
「ガ、アアァ―――!!??」
「これで……終わり、だ!!!!」
かぎ爪でワニ怪人の頭部を捉えながら焼き焦がし、拳がぶつかった瞬間、炎の魔力の塊であるかぎ爪が爆発した。
ワニ怪人の最後の悲鳴は爆発音に紛れ、その頭は燃やされ灰すら残らず。
展開していた装甲から限界を越える負荷によって生まれた圧力が解放され、コアとツインアイが一瞬輝きを失った後に蒼い光を灯し、爆炎の中でその蒼い輝きだけが見える。
爆炎の後に立っていたのはフェニックスただ一人だけだった。