「もう二日もこの海域で待機してるぜ。本当に足付きは出てくるのかよ」
ディアッカのぼやきが船室に響く。
ディアッカの呟きの通り、オーブへの潜入任務から早二日が経っていた。
ちなみにアスランからの説教は回避することができた。まぁサボってた訳じゃないからね。
「ぼやくなよディアッカ。足付きがオーブにいることは確定なんだ。今に出てくるさ」
「だと良いけどよ。・・・ていうかイザーク、お前さっきからゴリゴリ何やってんだよ?」
「これか?これはバルトフェルド隊長から貰ったコーヒー豆を挽いているんだ。どうせ足付きも来ないんだ。だったらこの時間を有意義に使うだけさ」
そう言ってディアッカに飲むか確認するが、手でいらないと返されてしまった。美味しいんだけどな。
「おや、いい匂いがしてますね」
甲板から戻ってきたニコルがコーヒーに興味を示す。しかも俺が飲むか聞く前に自分のカップを用意してる。
「海風は堪能できたかニコル?」
「えぇ、とっても。アスランに補給の指揮を任せてのんびりさせて貰っていることに罪悪感を感じますけどね。あ、砂糖とミルクは無しでお願いします」
ハイハイ了解しましたよっと。
俺は挽きたてのコーヒーをニコルのカップに注いでやる。注文通りブラックだ。
「しっかし、本当にいつ来るのかねぇ足付きは」
「出てくれば必ず北上するはずです。オーブの領海から出たところが足付きの最後ですよ」
オーブを出たアークエンジェルは確実にアラスカに向かうだろう。アラスカの哨戒エリアにアークエンジェルが入ってしまえばそれ以上の追撃は不可能になってしまう。
「まぁなんにせよ、足付き出現の報を待つだけだな」
そう言って俺は挽きたてのコーヒーに口を付ける。
うん、良い味だ。
「こんな所にいたのかイザーク」
「なんだアスラン?今のお前は仮眠時間だろ?」
夜に格納庫でデュエルの調整をしていたらアスランがやってきた。今の時間はアスランとニコルの仮眠時間なのだから寝ていて欲しいんだが。
「デュエル、直ってからまだ乗ってないんだろ?」
「あぁ、なんだったらグゥルも初めてだ。まぁ上手く扱ってみせるさ」
俺の返答に「頼もしいな」と笑うアスラン。しかしその表情には少し影が見える。
「・・・キラ・ヤマトのことか?」
「っ!?・・・どうして?」
「まぁ同期だからな。貴様の変化程度気が付くさ」
俺の言葉にアスランは身体を震わす。
「キラは・・・アイツは、俺が昔あげたロボットを大事に持っていてくれたんだ。大事な友達に貰った、大事な物って言ってたんだ。アイツは・・・アイツは・・・」
「・・・アスラン」
あの日友人を討つと言ったアスランの覚悟がオーブでキラに出会ったことによって揺らいでしまっている。
まぁ当然だろう。あんな至近距離で友人の顔を見てしまい、しかも言葉を交わしてしまったのだ。躊躇いが出るのも頷ける。
「アスラン、次の出撃の時、お前は母艦から指揮を取れ」
「イザーク、それは・・・」
「言った筈だぞアスラン。討つ覚悟がないのなら戦場に出るなと。迷いは死を招く。自分や・・・仲間のな」
俺の言葉に項垂れるアスラン。しかしここだけは譲れない。
「で、どうするアスラン?」
「俺は・・・俺はアイツを討たなきゃならない。足付きがアラスカに辿り着けば連合のMS開発が加速してしまう。そうなればプラントに再び戦火が、ユニウス7の悲劇がまた起きてしまう。だから、俺が今、アイツを、ストライクを討つ!」
「・・・良いんだな、それで?」
「・・・・・・・・・・・あぁ」
「わかった。・・・次でストライクを仕留めるぞアスラン」
宇宙で聞いたアスランの『討つ』という覚悟。オーブでその討つべき対象と遭遇し、自らの決意に葛藤したとしても、友人を討つという覚悟は変わらなかった。
アスランは俺の言葉に頷くと「少し寝てくる」と言い部屋へと戻って行った。きっとアスランは誰かに心の内を聞いて欲しかったのかもしれない。まぁ俺なんかに話を聞いてもらっただけでメンタルが安定するなら安いもんだ。それに次の戦闘はザラ隊のターニングポイントになるからだ。
俺は再びデュエルのコックピットへ戻る。そうして夜は更けていくのだった。
「オーブ艦隊より離脱艦あり。艦特定、足付きです!」
オペレーターがオーブ領海を離脱する足付きを報告する。とうとうこの日が来てしまった。
「出撃する!今日こそ足付きを落とすぞ!」
アスランの号令で俺達はそれぞれ自分の機体に乗り込んでいく。
≪イザーク、地球では初めてのアサルトシュラウドとグゥルですが、大丈夫ですか?≫
「舐めるなよニコル。グゥルの扱いはマニュアルを確認している。アサルトシュラウド共々何とかするさ」
≪おいおいニコル、心配しすぎだぞ。イザークなら大丈夫さ。なんたってアフリカでストライクとサシでやりあってんだからな≫
・・・恥ずかしいからあまり達磨にされた話をしないでほしい。
≪先ずはストライクを落とす。各機、ぬかるなよ!≫
「了解だアスラン。イザーク・ジュール、デュエル出るぞ!」
アスランの通信を聞いて各機が母艦から出撃していく。
俺も母艦から出撃し、上空でグゥルに載り足付きを目指す。
≪全機、足付きとストライクを分断する。先ずは足付きに取り付くぞ≫
モニターに映るアークエンジェルの船体は綺麗に直されていた。恐らく船員の休養や物資の補給も十全だろう。
「出たなストライク。今日こそ貴様をあの世に送ってやる」
アークエンジェルの甲板でビームライフルを構えるストライク。今回はエール装備のようだ。
≪各機散開。足付きに取り付きストライクを甲板から叩き落す≫
アスランの号令で散開するが、当然ながらアークエンジェルはそう簡単に俺達を取り付かせはしない。アークエンジェルに搭載された対空機銃が弾幕を張る。PS装甲で守られているMSはともかくMSを載せているグゥルに関しては通常装甲なのだ。実弾でも撃破されてしまう。
「ディアッカ、バスターの射撃で足付きの弾幕を黙らせろ!」
≪OKイザーク、こいつでっ・・・て、うわ!?≫
そんな攻めあぐねている俺達をストライクが見逃すはずもない。
エールストライカーの高い推進力で飛翔したストライクがバスターの載るグゥルをビームライフルで正確に撃ち抜いた。
「ディアッカ!・・・貴様ぁ!」
海面へ落下するバスターを確認しつつ飛び上がったストライクへ220㎜ミサイルとシヴァを放つ。しかしストライクは急降下で回避しつつ、俺とアスランにビームライフルを放つ。
俺はビームを回避することができたが、イージスのグゥルは破壊され、バスターと同じように海面に落下していってしまう。
≪アスラン!くそっ、ストライク!≫
再びアークエンジェル甲板に降り立ったストライクに対し、デュエルとブリッツの二機でビームライフルの射撃をおこなう。数発撃ったビームの内、ブリッツのビームがストライクのビームライフルを破壊する。
しかしストライクはブリッツに向かい飛翔するとブリッツをグゥルから蹴り落す。
「ニコル!クソッ、本当に同系機かよ。いくらエールを付けているからって機動性が違いすぎるだろ」
しかしブリッツを蹴り落したストライクはアークエンジェルへ戻れず下の島へと降りて行った。仲間達は撃墜されたがアークエンジェルと切り離す作戦は成功だ。イージスとバスターもグゥルが破壊されただけで機体自体は無傷だ。すぐに海中から合流できるだろう。ブリッツはストライクが降りた島に落されたからすぐに戦線復帰できる。
「落ちろ!」
降下するストライクに対しビームライフルを連射する。ストライクは降下しながらシールドを構えビームを防ぐが、放ったビームの一発がエールストライカーを撃ち抜く。
ストライクはすぐにエールストライカーをパージする。これでストライクの機動力を削ぐことができた。後は囲んで叩くだけだ。
そう思った瞬間、こちらに向かってビームが飛んでくるのが見えた。
「艦砲!?回避が間に合わない!」
咄嗟にスラスターを吹かしグゥルを踏み台に飛翔する。次の瞬間、太いビームがグゥルを飲み込んだ。アークエンジェルの艦砲だ。確かゴットフリートと言ったか?
グゥルを失ったデュエルはストライクと同じ島に落下していく。これで高度というアドバンテージを失ってしまった。
≪ストライク・・・装備が!?≫
「換装システム、厄介だな」
俺のグゥルが破壊された隙にスカイグラスパーがストライクにソードストライカーを届ける。戦闘中に換装できるシステムとか、アニメではカッコいいけど敵にすると最悪だな。
≪装備を変えたところで!≫
ブリッツが着地したストライクにビームライフルを放つが回避されてしまう。それどころかソードストライクのビームブーメランがブリッツの左腕と脇腹を傷つけながら切り落とす。
「ニコル!」
俺はブリッツの背後から再び迫るビームブーメランをビームライフルで落ち落とす。しかし次の瞬間、ストライクの左腕のロケットアンカーがデュエルのビームライフルを掴み握り潰す。
「ブーメランとかアンカーとか、トリッキー過ぎるんだよストライク!」
ビームライフルの爆発をシールドで防ぎ、ビームサーベルを抜いてストライクに肉薄する。しかしストライクはバックステップで斬撃を躱すと、巨大な対艦刀を抜き、デュエル目掛け振り下ろす。
俺はシールドで防ぐも、巨大な対艦刀を受け止めることができず、シールドが両断されてしまった。
「舐めるな!」
俺はすぐに両断されたシールドを捨て、ストライクに斬りかかる。しかし左腕に装着したロケットアンカーで受け止められてしまう。そいつシールドなのかよ!
そのままデュエルの左腕を肩から切り落とされる。
「ぐっ、このぉ!」
しかし俺もタダではやられない。ストライクに体当たりしバランスを崩させる。その際ストライクは対艦刀を取り落した。
「貰った!」
俺はバランスを崩したストライクに斬りかかるも、ストライクはバランスが崩れた状態で回し蹴りをおこない、それをくらったデュエルは横に飛ばされてしまう。
「どんな操縦したらそんな機動ができるんだよ!?」
転倒したデュエルにストライクが接近する。マズい、ビームサーベルもシヴァも間に合わない。
≪イザーク!≫
その時、ニコルの声と共にストライクの背後からブリッツがビームサーベルで斬りかかる。
「止せ!ニコル!」
≪イザークはやらせません!≫
ストライクに対するブリッツの斬撃。横なぎに振られたブリッツのビームサーベルをストライクはしゃがんで躱す。そして腰部のアーマーシュナイダーを取り出し、ブリッツの腹部目掛け突く。
そう、ビームブーメランで傷つけられたブリッツの脇腹に向かって。
≪う、うわぁ!≫
「ニコル!?」
ストライクの突き出したアーマーシュナイダーがブリッツの脇腹に深く突き刺さる。本来であればPS装甲で守られた外装はビームブーメランで剝がされ、アーマーシュナイダーの侵入を阻むものは何もない。
≪イザーク・・・逃げて≫
次の瞬間、アーマーシュナイダーが突き刺さった個所から大きな爆発が起こる。そして電気系統をやられたのかブリッツのPS装甲がダウンし、そのまま仰向けに倒れる。
「ニ・・・・ニコルぅぅ!!」
仰向けに倒れ通信の切れたブリッツとそれを見下ろすストライク。
そんな惨劇の前に、俺はただ叫ぶことしかできなかった。