「ケバブにはヨーグルトソースだろう!チリソースなどケバブに対する冒涜だ!」
ヨーグルトソースの素晴らしさを熱弁するバルトフェルド隊長の隣で俺のテンションはダダ下がりだった。
理由?そんなの俺の前にいる『特別ゲスト』の二人のせいに決まっているだろ!
「あの、イザークさん?・・・大丈夫ですか?」
「・・・うるさい」
目の前に座っている状況をまだよく呑み込めていない少年とバルトフェルド隊長にチリソースの良さを語る少女。
皆様ご存じのキラ・ヤマトとカガリ・ユラ・アスハだ。いや、今のカガリは『カガリ・ユラ』だったか。
何が妖艶な美女アイシャだよ。何が少年の心を忘れないだよ。マジでこのイベントを忘れていた数分前の俺を殴りたい気持ちで一杯だ。
「ヨーグルトソースこそ至上だ。イザーク君、君も言ってやりたまえ!」
「申し訳ありませんが自分はチリソース派ですので」
「よく言ったぞおかっぱアロハ!」
ソース論争はいいが俺を巻き込まないでくれ。ていうかおかっぱアロハって・・・もう少し良い呼び方があるだろ。
「失礼だよカガリ。イザークさん、髪型も服装も似合ってます。僕は好きですよ」
・・・こいつ助けない方が良かったんじゃないか?
「少年!ケバブにはヨーグルトソースだ!」
「いいやキラ!このチリソースをかけるんだ!」
このヨーグルト・チリソース戦争は最終的にキラが両方のソースをかけたミックスケバブを食べるということで終戦した。・・・可哀そうに。
「それで、どうしてイザークさんがこの街にいるんですか?」
「それはこっちのセリフなんだがなキラ・ヤマト。地球軍のパイロットがザフト勢力圏の街でケバブを食っていることに俺は驚きだ」
まぁ出会ってしまったものは仕様がない。俺は諦めながら手に持っているケバブを食べる。ソース?勿論チリソースだ。・・・だからヨーグルトソースを持ってこっちを見るな砂漠の虎。
「僕達はその・・・買い物というかなんというか」
キラとカガリが顔を見合わせ口籠る。
「ごまかすならもう少し上手くやれ下手くそ共」
「はっはっは。まぁいいじゃないかイザーク君。この慣れていない感じが初々しいな」
呆れる俺とは対照的に楽しそうなバルトフェルド隊長。優秀な指揮官兼パイロットであり、どこかつかみどころがない人物。何故バルトフェルド隊長はキラ達に接触したんだ?
「で、バルトフェルド隊長は彼らに何か用事があったのですか?」
「ん?いや、ただ興味があったのさ。敵のMS、ストライクってやつのパイロットにね」
・・・本当にわからない人だ。
「バルトフェルド?・・・お前が砂漠の虎か!?」
「カガリ?ってうわっ!?」
バルトフェルド隊長の名前を聞いてカガリが驚いたように立ち上がる。そういえばお互い自己紹介をしていなかったな。そんなことより今はキラの方が大変だ。カガリが突然立ち上がったことに驚いたキラが持っていたお茶を膝の上に零してしまった。
「わっ、やっちゃった。どうしよう!?」
突然の出来事で慌てるキラとカガリ。しかしタオルが無いのか慌てることしかできていない。・・・あぁもう!
「ズボンを見せろキラ・ヤマト」
「え、イザークさん?」
俺はキラの傍へ行き、ポケットからハンカチを出し濡れたズボンを拭く。
「ハンカチくらい持っておけ。マナーだぞ」
「あの、ありがとうございますイザークさん」
しかし結構な量を零したのかハンカチ程度では処置できなかった。
「うーん、少年をそんな姿では帰せないな。よし、僕の屋敷に行こう。そこなら少年に変わりの服を渡せるしな」
そんなこんなで俺達はバルトフェルド隊長が接収し使用している屋敷へ向かうことになった。・・・あれ?ブルーコスモスの襲撃は?
「イザーク君、悪いが少年の着替えを手伝ってあげてくれ」
というバルトフェルド隊長の命を受け、俺は今キラと一緒に更衣室にいる。
「貴様が着ていた衣服は一式クリーニングに出すそうだ。まぁ帰るころには綺麗になってるだろうさ」
「あの、ありがとうございますイザークさん」
キラが俺に向けて頭を下げ、お礼を言ってくる。
「礼は不要だ。これは命令でやっているからな。もし礼を言いたいのならバルトフェルド隊長に直接言うんだな」
「着替えの件だけじゃないです。・・・あの時、シャトルを護ってくれてありがとうございました。それから、僕のこともアークエンジェルに戻してくれましたよね。・・・ずっと、お礼が言いたかったんです」
そう言ってキラが再度頭を下げる。
「・・・礼は不要だと言ったはずだ。シャトルを助けたのは僚機が戦時国際法を犯そうとしていたのを防いだだけだし、貴様を助けたのは俺の気まぐれだ。だから貴様が気にする必要はない」
ヤバい、やりにく過ぎる。ていうか敵である俺に礼を言うとか連合軍の教育はどうなってるんだよ?まぁキラは元民間人だから軍の教育なんて受けてる筈ないよな。
「・・・着替え終わったか?」
「あ、はい」
「じゃあ行くぞ」
そこからはバルトフェルド隊長の執務室まで会話がない時間が続く。少々気まずいが仲良く談笑なんてできないし、今は耐える時間だ。
そんな苦痛な時間を耐え、バルトフェルド隊長の執務室に到着する。・・・長い戦いだった。
「お帰り少年。ほぅ、よく似合っているじゃないか」
執務室に入るとバルトフェルド隊長がキラを見て笑う。
そんなバルトフェルド隊長に対しキラがお礼を言うが、正直俺はキラが着ている黄色のスーツにセンスの欠片も感じられなかった。すまんキラ、正直言ってコメディアンにしか見えないわ。やっぱり俺のアロハもイジメじゃなくてバルトフェルド隊長のセンスだったのかな?
「連れの女がいないようですが?」
「あぁ、彼女ならアイシャに頼んでお色直し中だ。少年が着飾っているのに彼女が普段着なのはおかしいだろう?」
・・・よくわからない理由だがアイシャさんがついているなら大丈夫だろう。
俺は執務室のソファーに座りバルトフェルド隊長が用意してくれていたコーヒーを飲む。
キラは警戒しているからかソファーには座らなかったが、コーヒーは飲んでいた。普通逆だろ。
その後もバルトフェルド隊長はキラに対しコーヒーのウンチクを語っているのを眺めながらただコーヒーを飲む。拘束する様子も何もないことから本当にキラに興味があって接触したのだろう。
そんなコーヒーウンチクはノックの音と共に終わりを迎える。
アイシャさんと共に執務室に入室するドレス姿の女性。その女性を見たキラが目を丸くしていた。
「女・・・の子?」
「くっ、お前!」
「ご、ごめん!だったんだよねって言おうと思って」
「同じだろうがそれじゃあ!」
なんだ?夫婦漫才でも見せられているのか?
しかしボーイッシュなカガリがドレスに身を包み、まるでお伽噺のお姫様のようだ。まぁ実際にお姫様なんだがな。
「はっはっは。流石に失礼だよ少年」
「ふふふっ。そうよ、カガリちゃんが可哀そうじゃない」
キラの反応に笑うバルトフェルド隊長とアイシャさん。執務室が和やかな空気に包まれるが、俺は知っている。原作で1、2位を争う名シーンが今から始まることを。
「ドレス姿がよく似合うねぇ。というか、そういう姿が実に板に付いている感じだ。後は、喋らなきゃ完璧だな」
「そう言うお前こそ、本当に砂漠の虎か?何で人にこんなドレスやスーツを着せたりする?これも毎度のお遊びの一つか!」
バルトフェルド隊長とカガリの口論。いや、カガリが一方的に憤慨しているだけか。
「いい目だねぇ。真っ直ぐで、実にいい目だ。君はどうかね少年。いや、ストライクのパイロット君?」
バルトフェルド隊長の視線がキラに向く。
突然名前を呼ばれたキラは戸惑いながらも身構える。
「どうなったらこの戦争は終わると思う?戦争にはスポーツの試合のような制限時間も得点もない。ならどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?」
「どこ…で…?」
「敵である者を、全て滅ぼして・・・かね?」
はい来ました!SEED屈指の名シーン頂きましたぁ!
・・・なんて考えているのを悟られないように、ただひたすらにコーヒーを飲みながら空気に徹する。
「君がコーディネーターであることはイザーク君から報告を受けている。そんな君が何故同胞と敵対する道を選んだかは知らんが、あのMSのパイロットである以上、私と君は敵同士だと言うことだな?」
「・・・それは」
「やはり、どちらかが滅びなくてはならんのかねぇ」
バルトフェルド隊長の問いに沈黙するキラ。無理もない、ついこの間まで平和なヘリオポリスで学生をやっていたんだ。こんな答えのない問いに答えられるはずがない。
「まぁ、ここは戦場でない。・・・さぁ、帰りたまえ。話せて楽しかったよ。良かったかどうかはわからんがね」
帰るよう言われたキラの腕をカガリが引っ張り執務室の扉へと向かう。
そんな二人にバルトフェルド隊長は「少年・・・また戦場でな」と声を掛けた。
そんなバルトフェルド隊長の言葉を聞いたキラの表情はとても暗く、悲しげなものだった。
「さて、放っておいてしまって申し訳なかったねイザーク君」
「いえ、バルトフェルド隊長の目的が果たせたのなら何よりです」
それに名シーンも見せてもらったしね。
「ところでイザーク君、君はどう思う?どうすればこの戦争は終わると考えるかな?」
俺がそんな名シーンの余韻に浸っているとバルトフェルド隊長が問いを投げてくる。さっきキラにしたものと同じ内容の問いだ。
「・・・先程バルトフェルド隊長が仰っていたでしょう。敵である者を全て滅ぼせば、争いは無くなります」
「対話は無理だと?」
「問答無用で核を撃ってくる相手との対話など、自分は不可能だと思います」
俺の答えにバルトフェルド隊長とアイシャさんは少し悲しそうな表情を見せた。
だが俺の答えは変わらない。原作という正史を知っているからこそ対話は不可能だとわかるのだ。
「今日はありがとうございました。ケバブとコーヒー、とても美味しかったです」
そうバルトフェルド隊長に伝え執務室の扉に手を掛ける。
「・・・次は別の豆でコーヒーを入れてあげよう。ヨーグルトソースのケバブも付けてな」
振り返るとバルトフェルド隊長とアイシャさんが微笑みながら俺を見ている。
・・・羨ましい程、お似合いのカップルだ。
「ありがとうございます。次の機会を・・・楽しみにしています」
二人にそう返し執務室を出る。キラとカガリはもう屋敷を出たようだ。
「・・・また戦場で・・・か」
休暇は終わりだ。明日からはおかっぱアロハではなくザフトの赤服イザーク・ジュールに戻る。
俺はパナマハットをかぶり、デュエルの様子を確認するためにバナディーヤ近くに停めてあるレセップスへ向かうのだった。