ハチナイ短編集   作:ゾネサー

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水原初登場シナリオに感化されて。


廻り出した運命の輪

「ふぅ……」

 

 望んでやっていることとはいえ、本格的な練習による疲労は中学生の頃とは段違いだ。それでも入部して数週間経ち、逢坂先輩のように余裕とは言えないものの、ようやく身体が慣れてきた。体力作りの自転車通学を認めてもらえて良かったな。

 

「つ、疲れたー!」

 

「はぁ……はぁ……。スタミナゲージを飲み物で回復しましょうぞー」

 

「うん。條島さんのとこ行こっか」

 

 定例になりつつある喫茶ももでの反省会。反省するかしないかはその日のみんなの気分次第だけど、今日は前者の日だった。

 

「失投した時には『!』って頭の上に出して欲しいですなー」

 

「あははっ。相手もこっちも急すぎてビックリしちゃうよね」

 

「分かる。甘いと思って打ちにいくんだけど、なんか打てないんだよね。何がいけないのかなー」

 

「相手が投げ損じるタイミングは分からないから、こっちのタイミングが崩れないようにするのがいいかな。えーと……」

 

 紙ナプキンを取り出して三つのタイミングを図にしてみた。足を上げる一段階目、バックスイングの始動に入る二段階目、足を踏み込んで打つ三段階目の順番。

 

「いち、にの、さん! で打てば良いってこと?」

 

「そうそう! 見てた限りだと、焦って二と三の間の溜めが作れてなかったんだ」

 

「言われてみれば打たなきゃ! ってなって前のめりになってたかも……」

 

「うん。そうすると足が開いて力が逃げちゃうんだ。バッティングは下半身の力を上半身に伝えてるから」

 

「おお! 絵にされると分かりやすいですな」

 

「良かった。だからまずは素振りでスイングを固める時に、同じ間隔で振れるようにしたら失投にも崩れずに済むと思うよ」

 

「なるほど! 気を付けてみるよ!」

 

 こういう時、経験者で良かったと思う。自分がやってきた失敗が誰かの助けになれたんだ。

 

「変化球とかも打てるようになりたいなー。水原ちゃんみたいに!」

 

「……それはまだ早い」

 

「あっ、草刈先輩。今からシフトなんですね。お邪魔してます」

 

「気にせんで楽にしてよかよー」

 

「いや、アンタの家だから間違ってはないけどさ……。てか引っ付かないで」

 

 草刈先輩が颯爽と現れると抱きつく條島さんを跳ね除けて何かを書き出す。クールでカッコいいと評判の先輩の登場で私達は大盛り上がりだ。私にとっても意思をストイックに貫き通す先輩の姿は憧れで、思わず気分が上がった。

 

「水原はいち、にの……の、さん。この再度の溜めが作れてるから打てるの。アンタ達はまず基本ができてない。変化球のことなんてまだ考える段階じゃない」

 

「そっかー。そうなんですね! 分かりました!」

 

 その言葉が戦力として認められているようで嬉しかった。以前した話……偉大な姉を持つ先輩が、同じ界皇に所属する運命にはならなかったと。この学校に流れた運命の意味を絶対に自分で見つけるのだと。私も特別な一枠の推薦に選ばれたからには、その意味を自分で見出したいと思った。そして先輩と共に、このチームが目指す場所へ一緒に行きたいと……。

 そんな理由もあって休日はもっぱら体力作りに励んでいる。通学のような軽い程度のものではなく、本格的なサイクリング。ライトとしても、ピッチャーとしても必要とされたい私にとって下半身を強化する意味合いも強かった。

 

「オメーも飽きねえなあ」

 

「一二三さんこそ」

 

「アタシは元から趣味なんだよ」

 

「ふふっ。何度聞いても意外です」

 

「喧嘩なら買うぜ?」

 

 今日も一二三さんが頂上に着いていた。彼女はサイクリングを通して知り合った人。奇遇にも野球部に入っており、最近ピッチャーを再開させたらしく、来る頻度が上がっているのだとか。

 

「そういや西宮から聞いたぜ。オメー、ボーイズの全国大会出てたんだってな」

 

「はい。出てました」

 

「出てましたってなあ……。そんなおいそれと出れるもんじゃねえだろ」

 

「ふふっ、そうですね。私なりに頑張りました。でもそれを言うと西宮さんって優勝チームで活躍していた……」

 

「……みてーだな。とんでもねーやつだよ」

 

 よく覚えている……。眩いばかりに輝いていた彼女の姿を。彼女のように私も……頂に立って見てもらいたいと思ったことを。

 

「ま、それでも一年に負けるわきゃいかねーよなぁ」

 

「逆に私は一年だからといって、負けたくないですね」

 

「はっ。お互い様だな」

 

「ですね」

 

 一二三さんと顔を見合わせて笑い合った。彼女の詳しい事情は知らないけど、譲れないものがあるのだと分かった。それだけで良かった。

 心地良いひとときが終わり、私は再び自転車に跨った。気迫の込もった先輩達の姿を過らせながら、気合と共に力を入れる。車輪は、勢いよく回り出した。

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