ハチナイ短編集   作:ゾネサー

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アメリカで文化祭を

 五月下旬のある日、東雲がランチタイムに食堂へ出向いた時のことだった。

 

「リョー! メイドになって!」

 

「…………は?」

 

 アメリアから開口一番放たれた言葉に東雲は呆れるより前に理解が追いつかないといった様相。事の発端は宇喜多との通話だった。

 

「ブンカサイ……カルチュラルフェスティバル! 知ってるわ! アニメで見たの!」

 

「あれっ。もしかしてアメリカだと文化祭って無い……?」

 

 明條学園にて文化祭を堪能してきた宇喜多。本格的な出し物に大満足した彼女は満足のお裾分けをしていたのだが、その折に意外な事実が判明していた。

 

「あったら楽しそうなのにね。やっぱり文化祭は日本の青春なのね!」

 

「そうかも? あかねも、良い思い出になったし……」

 

「いいなー! アカネ達の学校もこの時期に文化祭があるの?」

 

「ううん。ちょうど半年後くらいだよ」

 

「そっかあ。ね! ね! 今まではどんなことをやったの!?」

 

「えっとね……」

 

 そして東雲がメイドをしている写真を見せてもらったアメリアは目を輝かせ、今に至っていた。

 

「——というわけでやりましょう! 文化祭inアメリカ!」

 

「馬鹿馬鹿しい……。あんなこと二度とやらないわよ」

 

「そんなこと言わないで……ね! リョーも去年は出来なかったんでしょ?」

 

「そのこと自体は正直安心したのだけど……。手に持ってるメイド服はわざわざ?」

 

「クロエに頼んで作ってもらったの!」

 

「うん。リョーに着て欲しいから、頑張った!」

 

「着るとも言ってないのにどうしてそこまで……?」

 

「その答えはフードカバーの下にあるよ! 開けてみて!」

 

「……ケーキ?」

 

 この場に似つかわしくないと思える存在に意表を突かれて驚きを見せる東雲。そんな彼女を見てアメリアとクロエは手を合わせて喜んでいた。

 

「ふふっ。これはワタシが作ったよ!」

 

「誕生日ではないのだけれど……」

 

「そうじゃないよ。リョーの送迎会!」

 

「ああ……そういうこと」

 

(あまり日本では昼にするイメージはないけれど……。家族を大事にする風潮からか日が暮れてからの付き合いは少ないし、アメリカでは普通なのかしらね)

 

「サプライズというわけね。これだけのケーキ、作るのも大変だったでしょう?」

 

「ちょっとね。でもリョーのゴホーシのためなら頑張れたよ!」

 

「え?」

 

「ケーキを運んで、ご主人様って言って欲しいの!」

 

「何故私の送迎会で私が接待する側に……?」

 

「リョーとはもう一つの家族だから。日本に帰っちゃう前に、文化祭で最高の思い出を作りたいなって! ね、みんな!」

 

「「イエス!」」

 

「……家族、ね」

 

(日本から単身乗り込んだ私を、このチームは受け入れてくれた。それこそ家族同然に。おかげで強さを追い求めることができた。送迎会だからこそ、私の方から感謝を伝える機会なのかもしれないわね。……気は進まないけれど)

 

 みんなから向けられる期待の視線。溜め息を吐きつつも、それを無碍にするほど東雲という人物は薄情ではなかった。

 

「ティンクル、ティンクル、萌え萌えビームッ! まじかるポップでキュートな魔法でケーキよ美味しくなーれっ!」

 

「「きゃっきゃっ」」

 

 メイド服を着た東雲はやけくそで言い放ち、ポーズを取る。日本語で言ったことで恥ずかしさを軽減してはいるものの、おおよそ甘いセリフを言っている雰囲気は伝わっていたため、かなり盛り上がっていた。

 

「プッ……クク……。似合ってるぞ……」

 

「フリーダ……馬鹿にしているわよね……」

 

「いや……クク……。嫌味だが本心でもあるぞ。貴様にそのようなヤマトナデシコらしい格好が似合うとはな」

 

「もう好きに言ってちょうだい……」

 

「ハハハ……! そう機嫌を悪くするな。……貴様は愛嬌はないが、こうして好かれている。何故だか分かるか?」

 

「さあね……自分では分からないわ」

 

「分かっておけ。一途だからだ。ここにいる全員がそのことを分かっている」

 

「……そんなの、当然のことだと思うのだけど」

 

「かもな。だがその当然のことを、ここで貫けるやつなどそうはいない。だからこそ……リスペクトしているんだ。全員が、な」

 

「フリーダ……」

 

 アメリカでは送迎会に強制性はなく、あくまで参加を希望するのであればという部分がある。東雲は自分のためにフリーダを含めた全員が集まってくれたことが改めて身に染みていた。

 

「送迎会と宣っているが……一途であるなら、こんなもの一時の別れだ。さよならなどと言うつもりはない」

 

「ええ……私もよ」

 

「フッ。再び会えたならば、その時は——」

 

「な!?」

 

 パシャリ。響くシャッター音に呆気に取られた東雲だったが、慌てて手を伸ばす。

 

「こ、こらっ! 今すぐ消しなさい!」

 

「——笑いながら消してやるさ。あくまで今度、な。アミィ、メイドさんがお逃げのようだぞ」

 

「むむっ。まだ文化祭は終わってないよ! ゴホーシしてー!」

 

「ちょっ。あ、待ちなさい!」

 

「ハッハッハ……!」

 

 こうして東雲にとって二度目の文化祭も黒歴史となるメイド姿をバッチリ写真に保存され、幕を閉じたのだった。

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