時系列的には本編の前に位置するのと、本編中に入れることが難しいと判断したため全体のプロローグ的位置として先に話を進めます。一段落したら本編に戻ります。
1.【クラフトチェンバー】
「これが例の【クラフトチェンバー】ですか?」
"うん、そうだよ。"
「ふむ……外見からはあまり想像がつかないですね。これが本当にどんなものも想像できるオーパーツだなんて……」
久しぶりにクラフトチェンバーで製造をしようと思って倉庫でキーストーンを集めていたところ、その日たまたま当番だったヒマリが「私も見てみたいです」と言い出した。特異現象捜査部の部長のヒマリにならクラフトチェンバーのことについて何か分かるんじゃないか、という淡い希望を抱いて見てもらったものの、ヒマリもあまりピンと来るものがなかったみたいだ。クラフトチェンバーの噂はキヴォトスにいれば一度は耳にする程の物のようだけど、私があまりにも使わないせいで実在すら疑われ、遂にはシャーレ七不思議の一つになっているとかなっていないとか。
"クラフトチェンバーにこのキーストーンを入れてしばらく待てば何かが作られる。ある程度は指定できるけど、ランダム要素が大きいね。もう片方の機能はあんまり使ってないけど、いくつかのオーパーツを別の1つのオーパーツに変換したりとかもできるよ。そっちはテイラーストーンが必要なんだけど、これが中々手に入らなくてね……"
「やはり噂はあまりアテにはなりませんね。もっとこう……どんなものでも作れる、万能な製造機だと思っていましたよ」
"私が正しい使い方を知らないだけかもしれないけどね。そもそも今登録されてる製造レシピも、多分連邦生徒会長が私の為に事前に登録しておいたものとかだろうし。私は一切レシピの追加はしてないよ。"
「おや、それはどうして?」
"そこに費やす時間も資源もお金もあんまりなくて……。ヒマリも試しに使ってみる?もしかしたら新しいことが分かるかもしれないし。"
正直なところ、連邦生徒会長が用意したらしいオーパーツの中でもクラフトチェンバーはかなり異質だと思う。シッテムの箱にはお世話になってるし、その他の細々としたものも時々ではあるものの役には立ってる。ただ、クラフトチェンバーは役に立つ、役に立たない以前に本来の用途とは別の用途で使っているような気がする。そもそも、どうしてクラフトチェンバーからサンクトゥムタワーの行政制御権が確保できたのかもよく分かっていないし。もしかすると全部連邦生徒会長の仕込みなのかもしれないけど、だとすると余計に噂でしか知らない連邦生徒会長の存在が気になる。
「ふむふむ……ここを押すとレシピの管理ができると。それで、ここから設計図の登録を……」
"何か分かった?"
「ええ、レシピや設計図の登録方法などは。ただ、やはり製造方法は全くの不明。どんな原理で物質を変換するのかも、どういう理屈でレシピ通りに製造しているのかも分かりません。やはりオーパーツ、というわけですね」
"ヒマリが楽しそうで良かった。"
「そんなに楽しそうな顔をしていましたか?」
"うん、すごく楽しそうだよ。……話は変わるけど、さっき設計図の登録ができるって言ってたよね?ヒマリは何か作ってみたいものはある?"
「そうですねぇ……作りたいものは沢山ありますよ。例えば、あの壊れてしまったウトナピシュティムの本船を再現するですとか、アリスの光の剣:アトラハシースのスーパーノヴァを作るのも面白そうですね。あとは……クラフトチェンバーでクラフトチェンバーを作れるのかも気になりますし……そういう意味なら、小さなキヴォトスを作ってみるなんていうのはどうです?」
"小さなキヴォトス?"
「いわゆるシミュレーションというものです。ふふ、もし本当に作れてしまったら、私たちの住むキヴォトスすらもシミュレーションだと疑わなければならなくなります。面白いと思いませんか?」
"この世界がシミュレーションかぁ……。"
「そんな冗談は抜きにしても、もし本当に作れるのなら欲しいですね。キヴォトスのシミュレーションができれば、特異現象の解明にもまた一歩近づけるわけですし……どうですか?もし本当に作ってもよろしいのでしたら、また準備をして製造をしてみたいのですが」
"いい考えだと思うよ。私もクラフトチェンバーで新しいものが作れるところを見てみたいし、キヴォトスのシミュレーションにも興味が湧いてきたよ。"
「それは良かったです。ではまた後日、ここを訪れることにしましょうか」
その日以降、エイミやトキの他にもエンジニア部、ヴェリタス、ノアなどの協力を得て、なんとかキヴォトスのシミュレーションをする機械……もはやオーパーツと言っても差し支えないような物の設計図を作り出した。それをクラフトチェンバーに登録したところ、やはりと言うべきか大量の素材を要求されたが、なんとか材料もみんなと共に集め、元の設計図以上の形で生成することができた。