「先生がキヴォトスに来た日に、何故七囚人が脱獄したのか……ですか?」
"うん。確か、その時に矯正局から脱獄した七人が七囚人って呼ばれてるんだよね?"
「そうなの、部長?」
「はい、確かそうですね。実際に脱獄した人数はもっと多かったはずですが、あれ以降も逃げ続け、現在も指名手配されている七人が七囚人と呼ばれている……というようなお話だったのではないかと」
"うん、そうそう。それで、すごく気になっている事があって。連邦生徒会長が行方不明になってから私がキヴォトスに来るまでの数週間の間にどうして脱獄をしなかったのか。そして、どうしてよりにもよって私がキヴォトスに来た日に脱獄をしたのか。偶然の出来事として片付けるのは難しいと思うんだ。"
「なるほど……先生はそこに何らかの因果関係があると睨んでいるわけですね」
"そういうことになるね。あと、実はその日シャーレで直接ワカモと会ったんだ。その時の出会いがなかったら、その後のワカモ関連の出来事は別の方向に転がってたかもしれない。……これは深く考えすぎかもしれないけど、『私とワカモをあの場で出会わせておくため』とか、他にも『シャーレの存在をキヴォトス中に認知させるため』にわざと私がキヴォトスに来る日に脱獄するように仕向けたと考えると辻褄が合う。それを仕組める人、ってなると連邦生徒会長以外にはあり得ない。それに、私見だけど連邦生徒会長はそういうことをしそうな人物みたいだからね。"
私渾身の推理を披露すると、ヒマリもエイミも驚いていた。……良かった、これで的外れな推理をしていたらすごく恥ずかしいところだった。
「先生……探偵になってみてはいかがですか?」
"先生兼探偵か……悪くないかもね。"
「今のはジョークです。ですが、なるほど。確かにその仮説には整合性と説得力があります。しかし具体的な証拠がないことに悩んでいた、ということですね?」
"そういうこと。この【電子の箱庭】なら、過去の状況を知ることもできるんだよね?"
「もちろんです。エイミ、起動準備をお願いできますか?」
「了解。パラメーターは全部『自動』、日付だけ変えればいいんだよね?」
「はい。先生が来た日は……昨年の2月4日ですね」
"……なんだか緊張してきたよ。"
「ふふ……はい、私もです」
遂に、【電子の箱庭】の初起動の時が来た。そして、ようやくキヴォトスに来た当初からの疑問が解決されようとしている。
「部長、先生……始めるよ」
「ええ。準備は万端です」
"うん。私も準備はバッチリだよ。"
「それじゃ……」
この空間には三人しかおらず元から静かだったが、より一層静かになる。機械の駆動音だけが辺りに響き渡る中……意を決したエイミがボタンを押す。
『演算が開始されました。しばらくお待ちください』
【電子の箱庭】の演算開始され、アナウンスが聞こえた。その声は────
「ひとまず問題なく始まったみたいだけど、今の声って誰の声?」
「誰なのでしょうか……?そもそも、システムは殆どクラフトチェンバーに一任していましたからね。私もアナウンス音声があることに驚きましたよ」
"今の声は……"
あの声は、アロナによく似た声で……というか、アロナの声そのものに聞こえた。
「先生、何か思い当たる節でもありましたか?」
"ああ、いや。ただ可愛い声だと思っただけだよ。"
「そうですか?先生はああいった声が好みなのですね……覚えておきましょう」
『あの、先生……普段からそんな風に思っていたんですか?』
唐突にシッテムの箱から声が聞こえた。当然、その相手はアロナだ。
"うん、でも口に出すとアロナは調子に乗りそうだったから……。"
『うぐぐ……確かに否定できませんが……たまには褒めてくれてもいいじゃないですか!?』
"そうだね。いつも助かってるよ。"
『むー……そうやってすーぐ調子のいいことばかり言うんですから……』
"あはは……。それで、さっきのはアロナの声だったの?"
『【電子の箱庭】から聞こえた声ですよね?特に私は何もしていませんが……』
"そっか。となると、やっぱり考えられるのは────"
『演算が完了しました。スクリーンに情報を表示します』
アロナとの話を中断して、【電子の箱庭】の方に目を向ける。そこには莫大な量の情報と、現実のものと見間違う程精巧に作られたシミュレーション世界内の映像が流れていた。