私たちのBlueArchive   作:青影

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 箸休め回です。先生以外の視点で話が進みます。





幕間
胡蝶と彼岸花


 

 

 

 これは泡沫の記憶。本来存在しない世界。私はそんな夢を見たんだ、先生。あの結末よりも、より残酷で、より絶望的な話を聞いてくれるかい?

 

 ああ、勿論既に私から予知能力は失われている。だから所詮、只の夢さ。何も心配する事はない。それに、この世界では既に過ぎてしまった出来事だからね。

 

 では始めようか。陰鬱で目を背けたくなるような……されど、あり得たかもしれない物語を。

 

 

 

 あれはちょうど、こちらの世界では私がアズサと出会った時のことだ。その日、ミカが……いや、ベアトリーチェが仕向けた襲撃があったんだ。本来、私の部屋を訪れるのはアズサのはずだった。どうやら、夢の私もそう思っていたようだね。しかし、そこに現れたのはアリウススクワッドの錠前サオリだった。アズサも一応はアリウススクワッドの所属だったようだし、そのリーダーであるサオリが先に来たところで何も不思議ではない事だ。しかし、私の予知では彼女が来る未来は見えなかった。まぁ、そこは夢だからということにしておこうか。これは、ただ『もしも』の話をしているだけなのだから。

 

 

 

「……君が私のヘイローを壊しに来るとはね。予知が外れたようだ」

 

「……そうか」

 

「サオリ、君は私のヘイローを壊せるのかい?」

 

「このヘイローを破壊する爆弾があれば可能だ」

 

「違う、君の意思の問題だ。君は、人殺しになれるのか?と私は聞いているんだよ」

 

 流石の彼女も些か迷ったようだ。まさか今から自分に殺される人が、「本当に自分を殺せるのか」と説き始めたんだ。さぞかし恐ろしいだろうね。

 

「……それは命乞いか?」

 

「いや、君の心配をしただけだ。まだ君は、誰も手にかけていないのでは?」

 

「マダムは言った。「私たちは人を殺す手段を、そして恨みを持っている。だから、人殺しと同じなのだ」と。引き返すには今更遅いだろう」

 

「そうか、残念だ。それでは一思いにやってくれ」

 

「……足掻かないのか?」

 

「どちらにせよ、君がいる限り私はここから逃げることはできない。それに……それを教えるのは、私の役目ではないようだからね」

 

「……?まあいい、ではこれで終わりだ」

 

 

 

 すまないが、ここから先の記憶は不明瞭でね。おそらく、サオリはヘイローを壊す爆弾で私のヘイローを破壊したのだろう。ただ、この夢はここで終わりではなかった。その続きがあったのさ。おそらくそのしばらく後だろう、場面は補修授業部が発足してからしばらく経った頃だ。ハナコとアズサが五つ目の古則の話をしたことがあっただろう?しかし、アズサがこの世界では私と会っていなかったが為にハナコの中のアズサの内情の推理が滞ってしまった。まあ、結局は答えに辿り着き、ここは大きな分岐にはならなかったわけだがね。最終的に、アズサはアリウスの企みについて先生、ハナコ、ヒフミ、コハルに対して話した。そこから時は進み、アリウスの生徒率いるミカと先生らが対面した場面だね。ここは、本来私が生きていた事により大事に至らなかった場面のはずだった。しかし、この世界ではそうならなかった。

 

 

 

「まさか……」

 

「アリウススクワッド、現場に到着した。聖園ミカの援護及び桐藤ナギサの確保を行う」

 

「遅かったじゃん!危うく負けるところだったよ!」

 

「……ああ、済まなかったな。では、これより反撃開始だ」

 

"……君たちは?"

 

「先生にも紹介しないとだよね!この人達はアリウススクワッド、アリウスの最高戦力だよ。つまり……先生には、もう勝ち目がないってこと。だから諦めて大人しくナギちゃんを引き渡してもらうよ」

 

"それはできない相談かな。"

 

「はあ、なら仕方ないなぁ……。先生は知らないのかもしれないけど、セイアちゃんのヘイローを壊したのもアリウススクワッドなんだよ?だからもう無駄な抵抗はやめて欲しいんだけど」

 

"…………。"

 

「皆さん聞いてください。シスターフッドを増援として呼んだにも関わらず、既に壊滅状態です。どうにかここから逃げないとナギサさんの身が危険です」

 

「に、逃げるって言ったって出入り口は塞がってるわよ!?」

 

「うぅ……今の私たちだけでは突破するのは難しいような……」

 

「……サオリがいるなら尚更無理な話だ。例え先生の指揮があったところで私でも良くて相打ちだろう」

 

「あ、アズサちゃん!」

 

「あくまで一つの案だ。それだけで解決するとは私も思ってない」

 

"私が大人のカードを使えば足止めはできると思う。だからその間に逃げて。"

 

「先生はどうするんですか?」

 

"……私ならきっと大丈夫。今は信じて。"

 

「ほ、本当ですよね……?信じますよ?」

 

「……先生、頼んだ。また後で会おう」

 

「絶対無事で来てよね!」

 

「……先生」

 

"ハナコ、大丈夫。それよりも、今はナギサの身の方が大事だから。"

 

「……はい、分かりました」

 

「あはは、内緒話は終わった〜?それじゃ、もういいよね?」

 

「……了解。作戦を再開する」

 

 

 

 こうして補修授業部は出入り口に構えていたアリウス生を突破しようとしたのだが、残っていたシスターフッドの手を借りた上でも僅かに足りず、ナギサはアリウスの手に落ちた。先生も時間自体は稼げたが、互いに有効打がないまま時間が過ぎ、ナギサを奪われたという連絡をハナコから受け取ったタイミングでミカとアリウス生は撤収していった。つまり惨敗だ。私の推測にはなるが、私のヘイローは確実に壊されていたのをベアトリーチェは確認した。だからこちらよりも更に強気に行動できたのだろう。こちらの世界では死んだことになっていたものの、状況証拠的にそう判断せざるを得なかっただけだ。事実として私は生きていたわけだからね。あの時ミカが早々に諦めなければもっと苦戦していただろうし、このような最悪の結果が訪れても驚きはしないだろう?

 

 ひとまずは続きを話そうか。まだこの話には先がある。とはいえ、既に先生も大方予想がついているであろうが、全て悪い方向へ転がった。心して聞いてくれ。次は、ナギサが連れ去られてから2週間程経った頃の場面だ。既にミカはティパーティーのホストになり、裏から着々とアリウスをトリニティの武力とすべく工作をしていた。そして、エデン条約は破棄されたみたいだね。そのせいもあってか書類作業にも追われていたようだが。

 

 

 

「はぁ……まだこれで半分かぁ。疲れたなぁ……」

 

「失礼します、ミカ様。サオリ様がお待ちです」

 

「あぁ、もう会議の時間か。了解、すぐ行くね」

 

 

 

 場面は変わり、会議室。あのテラスではなく歴とした会議室だ。……え?他に話し合うような場所があったんだ、だって?それはもちろんあるさ、当然だろう?

 

「……遅かったな」

 

「ごめんごめん、書類作業に追われててさ〜」

 

「私には関係のないことだ。それより、重要な報告が二件ある」

 

「ん?大きな動きはしばらくなかったはずだけど、何?」

 

「まず一件目が桐藤ナギサの件だ」

 

「うん、今も軟禁状態でしょ?今更何か報告することとかある?」

 

「……桐藤ナギサのヘイローが壊れた」

 

「……は?何言ってるの?」

 

「訂正しよう。私がこの手で壊した」

 

 

 

 そう、私だけではなくナギサまでヘイローが破壊されたんだ。考えてみれば当然のことだ。アリウス生がナギサの部屋の監視を交代で行っていたわけだからね。ベアトリーチェなら、始末できる時に始末しておく方がいいと思うだろう。実際、誰の邪魔もなく安全に始末できたわけだからね。しかし、ミカも何故私を殺したのがアリウスと知っていながらナギサの監視まで任せてしまったのだろう?ミカはナギサに生きていて欲しかったはずだ。ただ、切羽詰まった状況だと人は論理的な判断力を失うものだ。それに、今ミカが自由に使える且つナギサの監視を任せられるのはアリウスしかいない事を鑑みれば当然の判断とも言える。どちらにせよ、ミカはまた過ちを犯した。

 

 ひとまずこの場面からは離れ、ナギサのヘイローが破壊される直前のサオリとの会話を見てみよう。……え?他人が死ぬところを盗み見るのは気分が悪い?何を今更。それは私もそうだ。

 

 

 

「私のヘイローを壊しに来た……?」

 

「ああ。上からの命令だ」

 

「ミカさん、どうして……どうしてなんですか?」

 

「……」

 

「セイアさんのヘイローが破壊されたと聞いた時、次は私かもしれないと思いましたよ。確かに次は私でしたね。……でもどうしてその首謀者がよりにもよってミカさんなんですか……?」

 

「……」

 

「……せめて死ぬ前に教えてください。どうしてミカさんは私やセイアさんのヘイローを破壊しようなんてできるんですか?」

 

「……私は聖園ミカではないから分からないが、そうだな。これは聖園ミカの命令ではない」

 

「……え?」

 

「教えられるのはここまでだ。無駄口はそこまでにしろ」

 

「そう、だったんですか……良かったです」

 

「……」

 

 

 

 ナギサはそうして全てを諦め目を瞑り、緩やかな死を迎えた。ん?ああ、彼女の死因は薬を飲んだことによるもののようだね。かなりの少量で死に至ったように見える。それに、ヘイローが破壊されたというよりはヘイローが消えたと言ったほうが正確なようだ。せめてもの救いと言うべきか、その際に苦しみは伴わなかったようだね。それに、ミカが自ら望んでやっていたことではないと知ることができたのもナギサからすれば救いだったかもしれないな。とはいえ、死んでしまっては元も子もないが。それに、結局ミカからすれば最悪と云う他ないだろう。

 

 さて、場面を会議室に戻そう。サオリがミカにナギサの死を告げたところからだね。

 

 


 

 

「何言ってるの?どうしてナギちゃんのヘイローも破壊したの?」

 

「マダムの命令だ。これ以上生かしておいても意味はないと」

 

 どうして?

 

「でも私はヘイローを破壊していいなんて言ってない。セイアちゃんの時だってそうだった」

 

「私はお前の部下ではない。それを忘れるな」

 

 どうして?

 

「何なの?マダムだかの命令だからって、どうしてヘイローを破壊できるの?」

 

「私たちはそのための訓練を続けてきた。お前とは訳が違う」

 

 どうして?

 

「だから何?私はどうしてヘイローを壊したのかって聞いてるんだけど」

 

「先程も言っただろう、マダムの命令だからだと」

 

 どうして?

 

「ああそう、ああそう!つまり私がアリウスと手を組んだ事自体が間違いだったってことなんだ?」

 

「……」

 

 そうか、やっとわかった。

 

「私が悪いんだ。最初から和解なんて無理だったんだよ。なのにそんな幻想を信じ込んだ。そのせいでセイアちゃんもナギちゃんも死んだ」

 

「…………」

 

 なんだ、簡単なことじゃん。

 

「私のせいで死んだんだよ。アリウスと和解だなんて到底できっこなかったのに。騙してたんだね、最初からさぁ!」

 

「………………」

 

 全部私のせいだった。

 

「ねぇ、さっきから黙ってるけど何とか言ってみたらどうなの?錠前サオリ。さぞかし気持ち良かったでしょ、自分の思い通りに私は動くんだから」

 

「……それは、違う」

 

 私が余計な事をしたから。

 

「は?何が違うの?」

 

「結局は私も同じだ。マダムの掌の上でしかない」

 

 私が夢なんて見なければ。

 

「だから?何それ、言い訳?」

 

「……ああ、そうだ。悪いのは私だ」

 

 私が世間知らずだったから。

 

「ああ、そう。じゃああなたのヘイローを破壊すればこの怒りも少しは収まるかな?」

 

「……もう一つの要件だが」

 

 何も願わなければ。

 

「何?今の状況、分かって────」

 

「聖園ミカ、お前の始末だ」

 

 最初から救いなんてなかったのに。

 

 

 

 いつか、どこかで聞いたことのある話。アリウスには「vanitas vanitatum, et omnia vanitas」って言葉があるらしい。全ては虚しいだなんて、そんなことはないって思ってた。でも……実際にそういう状況になったら認めるしかない。全ては虚しくて、意味はないんだって。

 

 

 

「……はは」

 

「……?」

 

「あははははははは!そう、そうだったんだ!全て、全てが虚しい!もう笑うしかないよ。全部やってきた事が無意味だった!どう足掻いても救いなんてなかったのにその中でも救いを求めるなんて……惨めすぎると思わない?錠前サオリ!」

 

 片手で銃を取り、そのままの勢いで引き金を引く。ああ、スッキリする。でも、モヤモヤする。

 

「くっ……!」

 

「り、リーダー、大丈夫ですか!?」

 

「……ああ、問題ない」

 

「あの女、ついに壊れたみたいだけど」

 

「……どちらにせよ始末するんだ、関係ないだろう」

 

「なになになに?誰と話してるの?味方かな?本当に最初から私を始末するつもりだったんだ!でも大丈夫、アンタはここで死ぬんだから、さぁ!」

 

「……っ」

 

「はぁ……どうしたの?もしかしてやる気ないの?それとも私が首を差し出すとでも思ってた?そんなわけないじゃん」

 

「はぁ……はぁ……いや、お前をどうすれば倒せるか考えていただけだ」

 

「本気?馬鹿じゃないの?脳みそ入ってる?そんなんじゃ日常生活大変じゃない?」

 

「…………」

 

 撃った。殴った。叩いた。蹴った。折った。捻った。刺した。壊した。あらゆる手を尽くしてこの女に苦痛を与えた。気が付いた時には、既にサオリは地面に伏せていた。

 

「……あれ?もう終わりなの?」

 

「ミサキ、ヒヨリ、アツコ、よく聞け。こちらへは……絶対に来るな」

 

「でもそれじゃリーダーが……!」

 

「ヒヨリ、逃げよう。私たちがどう動いてもリーダーはもう助からない」

 

「ミサキちゃん……それでいいんですか!?」

 

「……そんなの、いいわけがないでしょ!でも逃げるしかないの!サオリと姫を死なせるわけにはいかないの、私は」

 

「ミサキちゃん……」

 

「ああ、ミサキ。……これからはお前がリーダーだ、頼んだぞ」

 

「ちょ、ちょっと待っ────」

 

 煩い。煩い。煩い。怒りのままにサオリの持っていた通信機を壊す。私の前で喋らないでよ。これじゃまるで私が悪者みたいじゃん。別に否定はしないけどさ。

 

「ねぇ、話が長いんだけど?私は二人の最期に立ち会えすらしなかったのにアンタだけそんないい思い出来るとでも思った?」

 

「……好きにするといい」

 

「それじゃ遠慮なく」

 

 私は容赦無くサオリの顔面に銃弾を撃つ。ヘイローが無くなるまで。撃つ。装填する。撃つ。装填する。撃つ。装填する。そんな工程を何度繰り返した頃かよく覚えてないけど、ようやくヘイローがなくなった。だけど、まだ足りない。今までの恨みを晴らすには全然足りない。撃つ。装填する。撃つ。装填する。撃つ。装填する。……流石に飽きたし、もういいや。

 

 それにしても、これからどうしよう。私も死んだらセイアちゃんとナギちゃんに会えるかな。でも自分のヘイローを壊した人になんて会いたくないか。それに、私はどうせ同じところにはいけないし。それじゃ、どうしよう。

 

 ……………………。

 

 

 

 まあ、いっか。

 

 


 

 

 と、こんな感じだったんだ。そこからは簡単だ。ミカは色彩に飲み込まれ反転し、【色彩の教導者】となった。特に抗う様子もなく、すんなりと受け入れたようだ。かのプレナパテスの世界では砂狼シロコが反転し、先生が【色彩の教導者】になったようだからこの部分は明確に相違があるが、おおよそ流れは同じだろう。

 

 只の夢にしては出来過ぎていると思わないかい?ああ、そうだ。だからこうして先生に話しておいた。あまり考えたくはない事だが、もしかすると反転したミカがこちらの世界に来るかもしれないからね。ん?夢の真偽?さあ、私には判断のしようもない。ただ、少し話しておこうと思っただけさ。

 

 

 







 ただの幕間の物語だと思っていた方には申し訳ないですが、【電子の箱庭】を使えばどんなIFでも作れるじゃん!ってなったので書きました。後悔はしてない。今後も箸休めもとい本編を書く気晴らしに書いていこうと思います。

 今回のは【電子の箱庭】関係なくないか、って?その辺はお好みに解釈してください。

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