光秀血風録   作:猫祭雉虎

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壱 水の呼吸(中編)

 

 父はいなくなったが、義に篤い叔父がよくしてくれたし、同年代の従兄弟である左馬助とも同居することとなり、光秀はまるで寂しいとは思わなかった。それよりも、叔父もまた、水の呼吸を使う剣士であり、左馬助とともに、叔父に全集中の呼吸と剣技を学ぶ毎日は辛くとも、充実したものであった。

 ある日、光安は二人を呼び、語りかけた。

 「二人とも、心して聞け。この明智荘は、古来、何度となく、鬼に襲われてきた。鬼は凄まじい力で暴れ、人を喰らう。それだけではない。いくら斬られても突かれても、炎で焼かれても死なず、すぐに傷は治り、突かれることもない。しかし、夜明けが近づくと、どこかに逃げていった。ある時、兄上と儂は槍と刀を使って、鬼を戸板に打ちつけ、動けなくした。そうして、夜明けを待ったのだ。夜が明けて、陽の光が当たれば、鬼は灰のようになって崩れ落ちた。それで、鬼は日の光に弱いのだと分かった。爾来、我らはそのようにして、鬼に立ち向かうようにした」

 「しかし、それでも勝てない鬼が現れたのだ。凄まじい剛力で、戸板を背負ったまま立ち上がり、それどころか板を割って、再び暴れ始めた。もう駄目だと、その場にいた誰もが思ったその時、そのお方が現れたのだ」

 「そのお方は凄まじい速度で、鬼の頸を斬り、そのまま立ち去られた。鬼は、そのまま灰のようになって、崩れ去った。我らはその剣士にお礼を言いたかったが、鬼が崩れた頃には、もう見えなくなっていた。兄上と儂は、そのお方を探し出し、お礼を言い、教えを乞いたいと考えて、京(みやこ)に登った。」

 「儂らは鬼と戦う剣士のことを手当たり次第に聞いて回った。そんな儂らを、鬼殺隊の方から見つけてくれたのだ」

 「鬼殺隊?」

 光秀は尋ねた。うむ、と叔父は頷いた。

 「儂らは知らなんだが、我ら武士が台頭するよりも古くから人食い鬼は存在し、人知れず、鬼と戦ってきた集団があったのだ」

 光安の話によると、はるか昔、鬼舞辻無惨という貴族が最初の人食い鬼になり、その血を与えられた者は、死ぬか、自らも鬼になるかだった。鬼になった者は、人であったときの記憶もなくし、ただひたすら人を襲い、喰らった。

 そんな鬼を倒すべく、産屋敷家という貴族が中心となり、鬼を倒すための集団――鬼殺隊――が結成された。

 かつて、鬼は日の光に当たらぬかぎり死なないと思われていたが、猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石という陽光を吸収した鉄によって打たれた刀――日輪刀と名づけられた――で、急所である頸を斬ることで殺すことができると分かった。

 それでも、人間の力で鬼を倒すのは至難の業であったが、一人の剣士の出現が、鬼との戦いの様相を激変させた。

 ――継国縁壱。

 彼は、特殊な呼吸法を用いることで人知を超える力を発揮し、鬼と同等、或いはそれ以上の力で戦い、倒すことができた。その呼吸は「はじまりの呼吸」あるいは「日の呼吸」と呼ばれ、縁壱はその力を生かすための型をいくつも編み出したのだという。その継国縁壱こそ、明智荘の危機を救ってくれた剣士、その人であった。

 彼らは鬼殺隊と合流して、継国縁壱から直接、呼吸を学ぶことができたが、日の呼吸の型を身につけることは叶わなかったので、縁壱の指導に基づき、自らに合った呼吸法、水の呼吸を見いだした。

 不思議なことに、水の呼吸を身につけた彼らが日輪刀を握りしめると、その刀身が鮮やかな青い色に変わったのだ。

 また、同じ時期、同様の経緯で炎の呼吸の祖となった煉獄という剣士が握りしめた日輪刀は、烈火の如き赤い色に変わったという。

 そこまで話して、光安は、ぐいっと酒を呷った。そして、ふぅっ、と大きく息をついて、二人に言った。

 「二人とも、心して聞くがよい。こたび、鬼殺隊にて、最終選別が行われる。これに合格すれば、鬼殺隊士として認められ、日輪刀が支給されることとなる。里を守るためにも、お主らはこれに参加して、合格してまいれ。最終選別は、明日、行われる。お主らはそれに挑め。……そして、必ず生きて帰れ」

 

 

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