光秀血風録   作:猫祭雉虎

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陸 暗闘 其の拾

 義昭は、光秀や細川藤孝らに会うたびに愚痴をこぼすようになった。信長が自分の頭越しに帝と交渉するのが面白くないのである。上洛するため仕方なく信長を頼ったが、性格的に合わないところが多すぎる。特に、元々、僧侶であった義昭にしてみれば、寺社と事を構えるなど、言語道断であった。しかし、それを阻止できぬまま、ずるずると現在まで来てしまった己の弱さにも、腹立たしさを感じる。分かっていながら、自分ではどうにもできない。決断が下せない。その苛立ちを、家臣にぶつける。自分で決断が下せないのだから、愚痴は終わりなく続く。光秀も含め、家臣団はいい加減、嫌気がさしていた。殊に光秀は――あの人は、どうしてこうなってしまわれたのだ?と思う。戦が続いて嘆く民衆を救うことに心をくだいていた公方様は、いつの間にか、己の面子や権威のことばかり考えるようになった、そういう不満がある。

 この人を上洛させ、将軍にしたのは自分と信長だという自負もある。それが結果的によかったのかどうか、今、答え合わせを迫られているような居心地の悪さがある。それ以上に――やはり間違っていたのか、という自責の念も湧いてくる。

 そんなある日、光秀はまた、信長から呼び出された。他の家臣らも皆一緒である。

 行ってみると、信長は目が据わっている。何か思い詰めているようにも見える。その口から出てきたのは、驚くべき計画であった。

 「儂らは、これから比叡山に打って出る。寺から、村から、すべて焼き尽くせ!女子どもといえども、容赦はいらぬ。皆、斬り捨てよ!」

 一同、水を打ったように静かになった。そこまでするのか――それが皆の思いであったろう。それは光秀も同じであった。

 しかし、光秀は、比叡山が朝倉をかばうのは朝倉が出した金の力だと踏んでいた。また、摂津晴門らが三好一派や浅井、朝倉と通じているのと同様に、比叡山ともつながっていると思っている。いずれも確証があるわけではない。とはいえ、朝倉家も加賀の一向一揆に長年苦しめられてきたことを、光秀は知っている。宗派が違うといえども、比叡山がおいそれと朝倉に味方するはずはないのだ。摂津らが浅井、朝倉とつながっているというのは、鴉からの情報である。鴉から聞きましたと人には言えぬが、確度の高い情報だと信じている。

 であれば、比叡山の腐敗こそ、たたくべき敵である、と光秀は思う。でないと、真面目に信仰し、なけなしの金でお布施をしている民衆が哀れでならない。悪を討ち、民に真実を知らせねばならない。光秀の心は高揚していた。

 

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