二人は長すぎる刀をそれぞれ携え、鴉の後を追った。途中、鴉が必要な情報を叫ぶ。
「鬼ハ三体、元々ハ農夫デアッタト思ワレル!一体ハ鎌、二体ハ鍬ヲ振リ回シテイル」
「農夫だった?人間が鬼になるのか?」
それは知らなかった。父も叔父も、そんなことは言っていなかった。
「鬼舞辻無惨ガ人間ヲ鬼ニ変エル。鬼ニナッタ人間ハ元ニハ戻ラナイ」
さらに光秀が疑問を口にしかけたとき、イタゾ!と鴉が叫んだ。
「人食い鬼ども!成敗いたす!」
叫んだものの、光秀の心には迷いが生じていた。元にせよ、この鬼が人間であったというのなら、無闇に斬り捨ててよいものか…。
家屋を壊していた鬼が振り向きざま、鍬を振り上げ、光秀を襲った。
――しまった!
思った瞬間、鎹鴉が鍬を躱しながら飛び込み、鬼の左目に嘴を突き立てた。一瞬にも満たぬ隙であったが、光秀が鍬の柄を斬り落とし、再び鬼と対峙するには十分だった。鴉はそのまま、左目をほじくり出してしまったようだが、すでに目の再生は始まっていた。
――鬼とは、いったい何者なのだ?人であったというなら、本当に殺してよいのか?
その時、鴉の叫びが響き渡った。
「何ヲシテイル!ウヌラモ鬼狩リナラバ、鬼ヲ狩レ!鬼ヲ狩ラヌ鬼狩リナド、何ノ値打チモナイゾ!」
そのとき、背後から鬼の断末魔と思われる咆吼が聞こえた。左馬助はすでに一体の鬼を倒したようだ。ようやく、光秀の腹も決まった。ままよ、元人間であれ何であれ、今は人食い鬼に違いない。我が父が死んだときのように、今夜も誰かの家族が殺され、泣くのは火を見るより明らか!ならば斬り捨てねばならぬ!
光秀は、襲いくる鬼の腕を躱しながら、袈裟懸けに斬りつけた。血しぶきが飛び散ったが、またじわじわとくっつき始めた。やはり頸を刎ねねばならないようだ。光秀は飛び上がりざま、水面斬りを放った。首が地面に落ちると、鬼の体全体が灰のようにサラサラと崩れ落ちた。
左馬助の方を見ると、鍬を振り回す鬼に手こずっているようだ。すぐに駈けた。鬼の腰あたりを一刀両断した。しかし、下半身は塵のように消滅したが、上半身が、苦しみながらも二人の方に這いずってきた。両断された切り口が盛り上がり始めている。再生が始まっているのだ。光秀は、顔をそむけるようにしながら、その頸を斬った。
光秀付きの鴉が、彼の肩にとまった。しきりに何かをペッペと吐き出している。
「ヴー、鬼ノ目玉ハマズイ」
「喰っちまったのか?」
「誰ガアンナモノ喰ウカ!オ前ノ危機ヲ救ッタノダカラ、チョットハ感謝シロ!」
「うむ、助かった……かたじけない。しかし、お主の言っていたことは本当なのか?その……人間が鬼になるというのは」
「嘘ハ言ワヌ。鬼舞辻無惨ハ己ノ血ヲ分ケ与エルコトデ、人ヲ鬼ニ変エラレル。ダガ、鬼舞辻ノ血ハソモソモ毒デアリ、大抵ノ人間ハ鬼ニナルコトナク死ンデシマウ。一部ノ人間はソノ毒ニ耐エルコトガデキルガ、ソノカワリ鬼ニナル」
「元に戻す方法はないのか」
「ナイ」
鴉は言い切った。光秀は暗澹たる思いであった。それでは、鬼になってしまった者の家族は、恋人は、友人は救われない。鬼になってしまった者の家族や友人、恋人などは自分たちを恨むのではないか。そう考えると、鬼狩りとは、なんと報われぬものであろうか。ずっと長い間、鬼と戦ってきた者がいることは理解している。その間、誰もできなかったのであれば、鬼になった者を元に戻すことはできないのであろうが、それではあまりに辛すぎる。
「シカシナァ、誰カガヤラネバナラヌコトダ。ソシテ、ソレガデキル者ハ限ラレテイルノダ。ヤリタクナクテモ、オ主ラハデキルノダカラ、ヤラネバナラヌ。儂ノ見ルトコロ、オ主ラハ痛ミノ分カル人間ノヨウダ。オ主ラノヨウナ者ガ鬼狩リニナッテクレテ、ヨカッタト思ウテイルゾ」
光秀の表情を読み取ったのか、彼の鴉が言った。光秀は、え、鴉に慰められてるの?俺……と思い、泣きたい気分になったが、口には出さなかったし、泣きもしなかった。
それから二人は、たびたび鎹鴉を通して命令を受けることとなった。その度、二人は長すぎる日輪刀を携え、鴉の導きに従って走り、鬼を討った。大抵の鬼は、ただ暴れるだけだったが、中には、火球を操ったり、腕が伸びたりするような能力を持った鬼もいた。鎹鴉によれば、鬼舞辻の血が濃い一部の鬼は、そうした特殊な能力を持つことがあるという。また、鬼になった者は、人を喰うことで力をつけ、たくさん人を喰った鬼ほど強いのだとも言った。そして、最後にこうつけ加えた。
「厄介ナノハ、元々強イ人間ガ鬼ニナッタ場合ダ。人間ハ長イ時間ノ緊張ニハ耐エラレナイシ、疲レモスル。疲レレバ、普段、普通ニデキテイルコトデモ失敗モスル。ダガ、鬼ニハソレガナイ。何時間デモ何日デモ、倦ムコトモ疲レルコトモナク戦イ続ケラレル。元々強イ人間ナラ、最低限、ソノ強サヲ維持シ続ケナガラ戦エル」
このとき、二人はまだ、その本当の意味を理解できていなかった。