勇者「寄り道してたら強くなっちゃった」   作:祐。

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「寄り道してた」

「勇者、来るの遅いっすね~」王宮の前で見張りをする兵士が呟くと、隣にいた兵士が反応を示してくる。

 

「まぁ、多少は仕方がないんじゃないか。如何せん、ここは最高峰『オリンポス』だ。今回、眠りについていた勇者が見つかったのが、雲よりも高い位置にあるオリンポスの山頂。目覚めたばかりの体力で、山の中腹にあるこの集落『サイショノ町』に辿り着くには、少しばかりもの時間を有することだろう」

 

「と言いながら、勇者の目覚めから既に数日は経過してるっすよ? 勇者が眠る祠に調査隊が踏み入って、それをキッカケに目覚めた彼は今どこにいるんっすかね?」

 

「そう言えば、勇者の動向については調査隊から全くうかがってないな。隊員からの報告によると、勇者である彼は調査隊に単独行動を申し出て、素っ裸の状態でひとり、サイショノ町を目指して山頂を下り始めたと聞いていたもんだったが……」

 

「山頂を、素っ裸で……? しかも1人で……? あの、あまりこういうことは言いたくないんっすけど、その……彼、遭難でもして野垂れ死んだんじゃないっすかね……?」

 

「いやいや、勇者であろう人間がまさか」ハハハッと笑い飛ばした兵士だが、直にも乾いた笑いと共に隣の兵士と見つめ合ったものだ。

 

 ……そんな、まさかな。

 よぎる不安に、2人は互いの顔色をうかがうような視線を向け合ってしまう。

 

 と、次の時にも踏みしめる力強い足音が響いてきたことで、兵士の2人は手前へと意識を投げ掛けたものだ。

 

 2人の前に現れた人物。それは、日焼けしたような褐色肌に筋肉質な体を持つ勇ましい顔つきの青年だった。

 

 ボサボサとした黒髪のロングに、力強い琥珀色の瞳。

 動物の毛皮と思われる質素な衣類を身に着け、風格には似合わない貧相な木の枝を携えた彼の姿に兵士らは呆然としてしまう。

 

 直にも、兵士の1人が喋り出す。

 

「あぁ、間違いない……! 調査隊から聞いていた外見と一致する……! 野性的な荒々しい風貌で、猛獣が如き鋭い眼光を持つ青年。名は、“アレウス”……! アレウスは300年前、魔王と死闘を繰り広げた伝説の勇者であり、この、本能から訴え掛けてくる危険信号と、さも血肉に飢えるかの如く鬼気迫るような存在感を以てして、戦場での狂乱と破壊をもたらす“戦神(いくさがみ)”と呼ばれていた人間だ……ッ!!」

 

 永き眠りを介してもなお、健在である覇気と肉体美。

 全身から放たれる猛者のオーラに、2人の兵士は怖気づくようにツバを飲み込んでいく。

 

 ……空耳であるのに、どことなく獣の唸り声が聞こえてくる眼力。

 それに睨まれる兵士らが様子をうかがっていくと、直にも青年は彼らを真っ直ぐ捉えながら喋り出してきた……ッ!

 

「あ、どうも。こんにちは」

 

 ポカーンッと呆気にとられる2人の兵士。

 彼らの反応に、青年は我に返るような表情を見せた。それから、やり直すように咳払いを挟み、外見通りの低く勇ましい声音で喋り続けていく。

 

「んん、ゴホンッ。……すまない、人間との会話は久しぶりなんだ。なんでも、俺は300年の眠りについていたと聞かされている。永く眠っていると、感覚を忘れてしまうものだからな。今はその感覚を取り戻す期間……とも言えるだろう。要は、一刻でも早く“この世界”に馴染むべく、手探りで試行錯誤を繰り返している最中だったんだ」

 

 こちらの弁解に、兵士は安堵したような調子で答えてくる。

 

「な、なるほどぉ……? とにかく、アレウス殿! 魔王を退けし伝説の勇者である貴方の来訪を心待ちにしておりましたぞ! 早速ではありますが、サイショノ町を治める町長エライヤーツがアレウス殿にひとつ頼み事があるのだそう。なんでも、この町の周辺に出没するようになった巨人サイクロプスの討伐を貴方にお願いしたいだとか……」

 

 兵士の何気無い言葉に、勇者アレウスも何気無く返答した。

 

「サイクロプス? この町の周辺?」

 

「左様ですぞ。とにかく、詳しい内容は王宮の中で……」

 

「それなら既に倒してある」

 

「そうですか。もう既に倒して…………」手で入り口へと促していた兵士が、アレウスへと振り返っていく。

 

「もう既に倒してあるッ!!?」

 

「うん」

 

 アレウスはボトムスのポケットに手を突っ込み、がさごそと探ってから“それ”を取り出した。

 

 小さなポケットから、ボロンッと飛び出した大きな目玉。

 純真な目の輝きが余計に不気味であるそれが地面に転がり、兵士2人は跳び上がるようにビックリしたものだ。

 

「な、なんなんっすか!? もう調査隊から話聞いてたんすか!?」

 

「話は聞いてない。なんか歩いてたら見つけたから倒しただけ」

 

「で、でも、勇者様はまだ目覚めたばかりっすよね……? 勇者様がどんなに強くっても、やっぱり300年のブランクってもんがあるのでは……?」

 

「この体の動かし方がよく分からなかったから、慣れるために“寄り道”してたんだ」

 

「寄り道……?」

 

「そう、寄り道。オリンポスの谷底や洞窟で強い武器や素材を手に入れたり、オークやスライムと戦う中で何となく戦闘の感覚も掴めてきたから。それで力試しにサイクロプスとも戦って、倒してきた」

 

「やけにあっさりとした感想っすけど、特にサイクロプスは我々でも敵わない強敵なのはご存じっすかね……?」

 

「あ、ツノもあるよ」そう言って、ポケットからボロンッと丸みを帯びたツノを取り出したアレウス。

 

「う、うわあぁぁぁあ!!! なんかオマケのようにツノも出てきた!!」

 

「何なら、3体くらい倒してきたからまだあるよ」

 

 ボロボロ出てくる目玉とツノに、兵士らはあんぐりとした面持ちで眼前の光景を眺め遣っていた。

 

「そ、それにしましても、アレウス殿……よくそちらの武器でサイクロプスを撃破しましたな……」アレウスが背負っている木の枝を見つめる兵士に対して、青年は手に取りながら喋り出す。

 

「いや、さすがにこれでは心許なかったから、別の武器でサイクロプスを倒してきた」

 

「別の武器……?」

 

「これ」

 

 ズドンッ!!

 

 岩石のように重みのある両手剣が地面に突き刺さる。

 砂埃を撒き上げ、町の地面に刺さったそれを兵士は凝視していく。

 

「きょ、巨岩の剣……!!! バカな! それは確か、オリンポスの伝承でしか存在しない伝説の武器のはず……ッ!!」

 

「いや、なんか普通にあった」

 

「普通にあった、って……そんなことは断じてあり得ない!! 確かに、在処を示唆する歌は昔から伝わっていたものだがな!!」

 

「いや、だから普通にあった。寄り道した洞窟の中で突き刺さってた」

 

 と言いながら、アレウスは巨岩の剣を手に持って一振りしていく。

 

 その際に、付近の看板に刃の部分が接触した。

 瞬間、バリィンッ!! という破壊音と共に巨岩の剣は木っ端微塵になった。

 

 思わず目玉が飛び出る兵士。

 

「ギャアアアアアアアッ!!!? 巨岩の剣がァァァァア!!!?」

 

「あ、もう耐久値なかったっぽい」と言って、アレウスは木の枝を取り出していく。

 

「耐久値を節約したくて、これ装備してたんだよね」

 

「あぁ……伝説の武器が……なんとも儚く目の前で砕け散っていった……」

 

「たぶんそろそろ復活してそうだし、また取りに行こうかな」

 

 踵を返して歩き始めたアレウスの姿に、兵士は「え、えぇ!? えぇ……!? だってそれ伝説の……え、ええぇぇ……!?」と言葉にならない困惑を見せてきたものだ。

 

 そんな彼の隣にいるもう1人の兵士が、アレウスへと声を掛けていく。

 

「ゆ、勇者様! とりま、一旦でもいいっすから町長エライヤーツと会話してもらってもいいっすか!?」

 

「巨岩の剣を取りに行った後でもいい?」

 

「今お願いしまっす!! じゃないと話進まないんでッ!!」

 

「ん、分かった」

 

 渋々、そんな足取りで引き返したアレウス。彼はそのまま兵士らに連れられる形で、王宮の中へと進んだものであった。

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