『そろそろ僕以外の人は見つかった? 』
またこの話。
お前は私と会うたびに、散歩に私を連れていき、同じ場所で、同じことを聞いてくる。
『……ねぇ、聞いてる? 』
ちゃんと聞いている。横目でお前の目を見る。お前は私の腕を取り、
『聞いてるなら、返事ぐらいしたらどうだい。そんなんだから友達すらいないんだぜ』
お前は私の手を引っ張り、小走りで木々の間を駆ける。私たちは夕日が見える丘に出た。
『なんなら、僕と一緒に夜の街に遊びに行こうか。初心でかわいらしい君を、素敵な大人へと成長させてあげるよ。』
私たちは、丘を上っていって、一歩先に上っていくお前が、こちらをチラリとみるものだから、あんまりにも我慢できなくて、私はお前にキスをした。
お前は唇を固く閉じたまま、それを受けた。
二人で丘の頂上に座り、にぶく赤い黄昏を眺める。
『ねえ、僕ってもうすぐ死ぬんだよ』
お前は何でもないことのように言う。私はそうだな、と返すことしかできない。
夕日がお前の顔に当たって、目がキラキラと輝いている。
その目があまりにも純粋で、とても同じ人間とは思えず、じゃあ何かしらと考えたら、あぁそうか、猫に似ている。
そう思ったら、人馴れしていそうな猫が木陰から出てきた。
お前は猫とじゃれている。
その無邪気な様子に見とれていると 、私はお前が猫になって遠くに行ってしまわないか心配になって、 お前の手を絶対に離さない。そう誓うように私はお前の手を握った。
恋だよ愛だよと言い過ぎれば、想いが軽くなる?
そんなことは知らない。止められない。恋してる。愛してる。お前の全てに恋い焦がれる。お前がどうしようもなくいとおしい。
ああ、もっと話したい。でも言葉がでない。話せない。せめて手を離したくない。離したくない、離したくない。
夕日が私たちを照らしている。この夕日は絶対に沈ませやしない。
いまの私なら、時間だって止められる。
なぜだか、なぜだか、そんな気がした。
『ねえ、僕ってもうすぐ死ぬんだよ』
僕はなんでもないことのように言う。
『……そうだな』
君の声はかすれていた。僕たちの手はふれあい、距離の近さに息が詰まる。
僕たちは黙って、夕日を眺める。ふと横を見ると、木の影から、猫が出てきた。
猫は、こちらを見ると、私たちの方に寄ってきた。
『よくここにいる猫なんだ。地域猫らしいよ。人馴れしてるね。かわいい、ほらこっちおいで、にゃーん』
君は僕と猫をじっと見つめ、
『昼寝好きのお前は、猫と共にいるのがよく似合う』
それだけいって、黙り込む。君の憂いを帯びた顔に夕日が当たる。君は言う。
『お前と猫はよく似ている。特にこちらから近づくと去るところがな』
夕日が沈んでいく。君は僕の手を強く握った。僕は言う。
『ねえ、生きてればさ、辛いこともあるけどさ、きっと、きっと、生きていればさ、いいことがあるから。』
不器用なこの人に僕は後、何ができるだろうか。
『幸せになってね。』
あんまりにも悲しそうな君の姿に、僕はそう言うことしかできなかった。