ねぇ、僕との子供がほしいんでしょ   作:みゆ379980

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嘘つき

 

 

 

 これは、僕の学生時代の記憶。

 

 

 

 彼女に会ったのは、高校一年生の春だった。

 

 彼女は手芸部で、彼女が編む編み物は、柔らかくて、マイルドで、僕の好きなデザインだった。

 

 彼女は僕に、その編んだものをよくプレゼントしてくれて、僕は彼女がくれたものを見るたびに、少し浮き浮きした気分になった。

 

 彼女には、少しの白髪があった。その白髪を見ていると、僕は懐かしい気持ちになった。

 

 彼女は、頬がろうのようにすべすべしていたけれど、少し顔色が悪かった。でも、その顔色の悪さに、僕はなぜだか釘付けになった。

 

 絶世の美人と言うわけではなかった。

 それでも、本当に彼女のことを大切に思っていた。

 

 彼女となら僕は…………。本当に、そう思っていた。

 

 

 

 8月の終わり、冷たくなった砂浜を僕の足は進む。

 

 テトラポッドが波を浴びている。波のしぶきはほぐれるように、海の中へと消えていった。

 

 僕の目は夕闇の中に一人のかわいらしい女性を写した。

 彼女は微笑を浮かべながら僕を見つめて言った。

 

「ごめんね。急に呼び出して」

 

「話って、なに?」

 

 嫌な予感がした。

 

「私たち、別れましょう」

 

 波の音が遠くなった。

 

「……どうして?」

 

「あなたの目に写っているのは、私じゃないでしょ」

 

 そんなことないと僕は言いたかった。

 

 それなのに、言葉が出なかった。

 

 僕は、なんとか声を絞り出して、

 

「……そんなことないよ」

 

 とってつけたようだった。

 

 僕は、彼女に全てを見透かされそうで、今すぐにでもこの場を逃げ出したかった。

 

 何も、言葉が出なかった。

 

 僕は、この時間が平穏に終わるようにと、この時間が彼女をこれ以上傷つけることがないようにと、ただ、願った。

 

 僕らは黙っている。時間は刻々と過ぎて、僕はどうしたらいいかわからなくて、心細くなって、全身の力が抜けていくような感じがしていた。

 

 僕は確かに、彼女を誰かと重ねていた。

 でも、それでも、彼女のことは大切にしているつもりだった。

 

 しかし、彼女の物憂げな表情を見ていると、僕のやっていることは偽善で、彼女のことを考えているつもりでも、それは実は全て自分のためで、僕が普通に生きようとしていることに、彼女を巻き込んでいるように思えて、自分のことが、とてもとても恥ずかしくなった。

 

 そう思うと、彼女に本当のことを告げねばという気持ちに刈られて、僕は、他人には絶対に言わないと決めていたことを、口走った。

 

「僕、前世に好きな人がいたんだ」

 

 僕は何を言っているんだろう。こんなこと、信じてもらえるわけがないのに。

 

「何度も、何度も、その人の夢を見るんだ。ごめんね。僕はまだその人のことが好きみたい。」

 

 彼女は、振り向いて、黙ったまま遠ざかっていく。

 少し離れた場所で、これが最後よ、と言うように、彼女は振り向いて言った。

 

「ねえ、私のこと、好き?」

 

 僕は自分の言葉が真実になることを願った。

 

「好きだよ」

 

 彼女ははっきりと言った。

 

「嘘つき」

 

 彼女の顔は黄昏の暗闇でよく見えなかった。

 

 波の響きが、微かに聞こえていた。

 

 そうして、浜辺には、一人の嘘つきが残った。

 

 

 

 僕はただ、石のようにじっとして、はかなく何かを待っていた。

 

 

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