百合ゲークラッシャーVS百合ゲーオタク〜百合豚JDは原作主人公に百合ハーレムを作らせたい〜 作:カオス箱
「う……ん……、ここは…………? 」
朝乃陽毬は、気がつくと保健室のベッドに寝かされていた。
一体何が起きたのか、よく思い出せない。
ぼんやりとする頭を無理やり働かせながら上体を起こすと、枕元に立っていた小金真知と目があった。
「目覚めたんやな、良かった」
「真知ちゃん…………? わたし、一体どうなって…………確か、入学式にいて……」
「覚えてねーのかよ。お前、入学式の最中に鼻血噴き出して貧血で倒れたんだぞ」
陽毬の疑問に答えたのは、もう一人の声———向かいのベッドに腰掛けているクリエス・マキナだった。
何故か彼は女子制服に身を包んでいた。
元々マキナが女顔で線が細いのも相まって、ぱっと見は普通に女子にしか見えないのが非常に腹立たしい。
「…………なんで制服まで女物なんだよお前は」
「趣味に決まってんだろ、カワイイだろ? 」
「変わった子と仲良しなんやなぁ」
真知がなんか勘違いしているようだが、突っ込むのがだるいのでそのまま放置することに。
「じゃあウチはこれで。この紙に新入生のクラス分けが書いてあるから、参考にしておきなーや」
陽毬は大丈夫そうだと判断した真知は、陽毬に一枚の紙を押し付けるようにして渡すと、保健室から去っていってしまった。
「なんか随分と慌てて出ていったような気がするなぁ」
「そりゃあそうだろ。オレ様達の邪魔をしないように配慮してくれたのさ———なぁ、そこのお嬢さん? 」
マキナはそう言うと、隣のベッドを仕切っていたカーテンを勢いよく開け放った。
彼が開け放ったカーテンの向こう側には、とある人物がいた。
そして、その人物を目にした陽毬は。
———弾けた。
「き、き、き、キオちゃんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんッ‼︎⁉︎ 」
そう。
そこに居たのは紛れもない、キオ・ハーメル・調。
先程新入生代表としてスピーチをしていた王子様系美少女にして、この『ツキノベ』世界におけるメインヒロインだ。
「おっと鼻栓ッ‼︎ 」
「ぬブッ」
歓喜のあまりフタ鼻血を噴き出しそうになる陽毬だが、すかさずマキナが陽毬の鼻の穴にティッシュを詰める事で、事なきを得る。
流石に2度も鼻血の噴水をやられたら陽毬の命に関わる。原作キャラに会えた喜びで鼻血出しすぎて失血死でもされたら、転生界隈に後世まで語り継がれる黒歴史間違いなしだ。
「ぼ、ボクのファンなのは嬉しいけど、ちょっと興奮は抑えてほしいかな。流石にファンに失血死されたら敵わないし」
「それはそうだよね……反省してます」
推しにやんわりと嗜められた陽毬は、床に蹲って自省タイムに突入する。
推しキャラに嗜められるとかオタクの恥にもほどがある。穴があったら入りたいくらいだ。
「何もそこまでしょぼくれなくても……ほら、何も怒ってる訳じゃないんだからさ」
度を超えた自省ムードに突入した陽毬を気にかけたキオは、陽毬の頭をそっと撫でる。
その姿に、陽毬は速攻で惚れてしまった。
(うわー、まじでキラキラして見える! さっすが王子様だぁ! )
結論:陽毬は単純だった。
さっきまでのしょんぼり具合はなんだったんだ、と言うかのような目線がマキナから向けられているが、推しの熱に浮かされてる陽毬は気づかない。
この調子では話が進まないので、マキナは陽毬を軽く小突いて我に返らせる。
「おい陽毬、これは絶好のチャンスなんじゃないのか。つーかオレ様が何のためにコイツを呼んだと思ってるんだ」
「えっ、マキナが呼んだの⁉︎ 」
「うん、ほらさっさと本題入れ馬鹿」
「ぬびゅっ⁉︎ 」
マキナに蹴り出され、キオの前に立たされる陽毬。
「……………………ぽっ」
「いや照れてる場合かよ。何のためにお前はこの学校に入学したんだ? 」
「わ、わかってるけどさぁ! 推し目の前にして緊張しないオタクがどこにいるよッ⁉︎ お前には人の心ないんか⁉︎ 」
「いーから本題入れよこの馬鹿ッ! 」
マキナに急かされるし、キオは不思議そうな目で見てくるしで、陽毬に逃げ場はなかった。
板挟みとなった彼女は、意を決して話し始める。
「私は———」
突然だが、『ツキノベ』のネタバレをしようと思う。
キオ・ハーメル・調。
彼女には、
キオの生まれたハーメル家は、代々時間操作の魔術を継承してきた。2000年近くにわたる継承と発展、その完成形がキオだ。
キオは生まれ持った魔術の才を最大限に活用し、加速に減速、壊れたモノの復元や時間停止、果てには時間跳躍。ありとあらゆる時間操作魔術をものにした。
『ツキノベ』本編において、主人公であるルカとその仲間達は
その未来を変えるために未来からやってきたのが、『ツキノベ』本編のキオだ。
そこでマキナは考えた。
原作の時点でタイムリープで幾度となく学園生活をやり直してきた彼女ならば、経験している可能性がある。
無論、今の世界がキオにとっての“一周目”である可能性も否めないが、陽毬達は賭けた。
タイムリープで間男エンドを経験している可能性がある彼女は、他の原作キャラよりかは、陽毬達の話を受け入れてくれる可能性が高い。
これは一種の賭けだった。
そして。
「…………そうだ。今はボクにとっては“二周目”だ」
「! 」
陽毬は、賭けに勝った。
彼女達の話——転生者云々や、この世界がゲームの世界であること——などを一通り聞いたキオは、しばらく脳内で話を咀嚼した後、ゆっくりと口を開いた。
「この世界がゲームとして伝わっている世界から来た転生者……か。まあ、あり得ない話ではないかな」
「あれ、案外あっさりと受け入れるんだな」
「この世界にだって異世界転生を題材にした作品はある。なら、ボクの世界がそうじゃないとどうして言い切れるだろうか? 事実は小説よりも奇なり、とはよく言うもんだろう? 」
「…………驚いてないの? ショックを受けたりしないの? 」
「驚いてはいるよ。でも、納得が先に来てしまったんだからしょうがない」
陽毬の言葉に、キオは首を横に振りながらそう答える。
自分の生きる世界がゲームの世界だと知らされたら、普通は鼻で笑うか否定するものなのだろうが、キオはそうしなかった。
元よりタイムリープを経験しているせいで、色々とその辺りに耐性ができてしまっているのかもしれない。
「あの男……狭間峡一郎にボクは一度殺されている。皆が正気を失ったように彼に惚れ込み、ボクの言葉には耳を貸さなかった。あれははっきり言って異常だった」
「……キオ」
間男・狭間峡一郎。
彼に殺された時の話をするキオだが、その身体は僅かながら震えていた。
「あの未来を変えるためならば、ボクはなんだってしてみせる。キミ達をいくらでも使い潰すし、ボクだっていくらでも使い潰される覚悟は決めてるよ」
「覚悟は充分みたいだな。なら話は決まりだ」
マキナはニヤリと笑いながらそう言うと、陽毬とキオの手を取って近づけさせる。
どうやら握手をさせるつもりらしい。
互いに見つめ合うキオと陽毬。
しばしの沈黙の後、先にキオが口を開いた。
「…………最後に聞くけど、君は何のためにボク達を救おうとするんだい? 」
「皆が幸せになって欲しいからだよ。もちろん、キオちゃん自身もね」
「………真っ直ぐな目をしているね。ひとまず、その言葉には嘘はなさそうだ」
緊張しながら握手を交わす陽毬とキオ。
その時だった。
「な、な、な、な、何してるの2人とも…………っ⁉︎ 」
ガラリと保健室の扉を開け放たれると同時に、ひどく動揺したような声があがった。
陽毬とキオは咄嗟に扉の方を向く。
そして、凍りついた。
「る、ルカッ…………⁉︎ 」
「キオ……………」
そこにいたのは、香愛ルカ。
『ツキノベ』の原作主人公にして、キオの幼馴染み。
此方を見て固まっているルカの姿を目にした陽毬は思った。
———
(なんでッ……よりによってこのタイミングで出会しちゃったのかなぁ………‼︎⁉︎ )
焦る陽毬。
理由は、ルカのとある欠点に由来する。
『ツキノベ』原作主人公・香愛ルカ最大の欠点。
それは、
些細な勘違いをきっかけに明後日の方向に暴走してしまうのだ。
というか、『ツキノベ』のストーリーの3割くらいは、ルカのはやとちりが原因で面倒臭いことになっている。まあ、作中ではそれがきっかけで事態の突破口を開いたり、ヒロインと心を通わせるきっかけになったりしているので、欠点であると同時に長所でもあると言えるだろう。
が。
この時ばかりは、そんな甘いことは言ってられなかった。
「私の名前呼びながら鼻血噴いてた子だよね? なんでキオと一緒にいるのかな」
「あー、えっと……」
言葉に詰まる陽毬。
陽毬はルカを勘違いさせないようにと、必死に言葉を選ぼうとするが、そんな猶予は与えられない。
ぐいっ、とルカの顔が陽毬に近づいてくる。
怖い、めちゃくちゃ怖い。
画面越しに愛でていたはずの原作主人公が、今はめちゃくちゃ怖く見える。
「キオは昔から女の子にモテモテだったから、よーく分かるよ…………キミ、キオを狙ってるんだよね? 」
「‼︎ 」
瞬間、ルカからの視線が冷たいモノに変わった。
ぞくりとする陽毬と、困惑するキオ。
「私っ、キオを追いかけて必死の思いで入学したのに……ッ‼︎ 6年間ずっと文通してたのにっ……‼︎ ずっと思ってたのにっ……! それなのに、それなのにっ……‼︎ 」
(あ、マズイ。やってしまった)
みるみるうちに敵意に染まってゆくルカの視線を浴びながら、陽毬は絶望した。
彼女の目的は、原作主人公である香愛ルカに百合ハーレムを無事に作らせること。
だというのに、キオと接触してしまったばかりに、ルカを的に回すハメになってしまった。
これでは本末転倒だ。
(どうする……わたしはどうすりゃいいんだ…………ッ⁉︎ )
ダラダラと冷や汗が溢れ出る。
朝乃陽毬の受難は、始まったばかりだ。
ちょいとわかりづらい気がする。
後々補足回を追加します。