百合ゲークラッシャーVS百合ゲーオタク〜百合豚JDは原作主人公に百合ハーレムを作らせたい〜 作:カオス箱
順調にキャラが増えてるなぁ
第5話
香愛ルカが去った後の保健室。
そこでは、朝乃陽毬が絶望していた。
「原作主人公の百合ハーレムを守るつもりが、まさか原作主人公と戦う羽目になるなんてぇ…………これじゃ本末転倒っつーかあのクソ間男と同類じゃんかあ……! 」
保健室の床にガンガンと頭を打ちつけながら、わんわんと泣き喚く陽毬。
あまりの煩さに、マキナは耳を塞ぐ事しかできなかった。
「ルカ……昔から結構思い込み激しい所があったけど、変わらない様で何よりだ」
「このタイミングで惚気るとか馬鹿なのかお前? 」
その様子を眺めながら、明後日の方向に惚気出すキオ。ひょっとしてこの王子様、天然入ってるんじゃないだろうか?
とはいえ、キオとしても、幼馴染みが誰かと喧嘩するというのはいただけない。
「どうする? じゃいきなりゲームオーバーみたいなもんだけど」
「……いや、これはチャンスだ」
キオが声をかけた途端、陽毬はぴたりと泣き止んだ。
その顔には、不敵な笑みが浮かべられている。
「陽毬…………? 」
その時だった。
壁に備え付けられていたスピーカーから、馬鹿でかい音で校内放送が鳴り出した。
あまりの煩さに思わず耳を塞ぐ一同。
鼓膜破る気満々の馬鹿でかい呼び出し音の後、一同の鼓膜に追い打ちをかけるように、ハイテンション過ぎて若干音割れ気味の声が校内に響き渡る。
『
有無を言わさない強引な呼び出しだった。
放送が終わると同時に、陽毬はすたすたと無言で歩き出す。
「ちょ、ちょっと! まさかキミ、ルカと決闘を———」
「まあ止めなさんな」
陽毬を止めようとするキオだが、その行動はマキナに止められてしまう。
「
「アイツの目を見てみろよ」
マキナはそう言いながら、無理矢理キオの顔を陽毬の方に向けさせる。
キオの視界に映り込むのは、保健室を出て行こうとする陽毬の横顔。
その目は、闘志に満ち溢れていた。
それは、私立
端的に言えば、魔術や魔道具を用いた決闘だ。
もちろん、命を奪わない様に術式の威力はディチューンするし、教員や生徒の中から選ばれた監督役による決闘の監視もある。
そして今。
今年度最初となる
学校の敷地の端にある野外魔術演習場のひとつ。
そこには、多くのギャラリーが集まっていた。
「入学式当日に
「あの子達…………鼻血噴いて保健室送りになった子と、入学式に遅刻してきた子よね? 」
多数のギャラリーに見守られる中、ルカと陽毬は相対する。
入学式当日というのもあり、生徒や教員以外にも、保護者や来賓までもが興味本位で覗きにきている。ここまでくると、雰囲気はもはや運動会だ。
「やっぱり新年度の頭だから、ギャラリーが多いな……前のループではこんな事なかったから、なんだか新鮮だな」
観客席の最前列に腰掛けながら、キオはそう呟く。
時間魔術によって幾度となくタイムリープをしてきたキオだが、このような展開は未経験だ。
そうなったのは、異物である陽毬の存在のせいに他ならない。
果たして彼女がどう動くのか、まずは見定める。先程は半ば雰囲気に流されて手を組んだようなものだから、あの最悪な未来を回避する為にも、ここで改めて陽毬の人間性を測らなくてはならない。
キオは気合いを入れて、目の前の試合の行く末を見守ることにした。
そして、その隣では。
「ふたりともバチバチに睨み合ってるなぁ。やる気は充分みたいやで」
「……さっきぶりだな」
「さっきぶりやで」
真知とマキナが、なんだか無駄にワイワイしながら陽毬達を見ていた。キオとはえらい温度差だ。
そして、肝心の陽毬とルカ。
2人は外野の喧騒に包まれながら、無言で相対している。
両者の間には言葉は交わされない。その必要はない。
沈黙を貫く2人。
そして、しばらく経って。
同時に、口を開いた。
「「…………魔術使えねえ‼︎ 」」
そう。
陽毬とルカは、魔術については全くの素人だった。
『ツキノベ』世界においては、魔術は専門技術のひとつであり、それなりの修練を積まなければ使いこなせない。
ルカは幼い頃は身体が弱かった為に、親から魔術に触れる事を禁じられていた。対して陽毬は、魔術の存在しない現実世界からの転移者であるが故に、今まで魔術に触れた事がない。
つまり———
「ならわたしは……拳で抵抗するッ! 」
「喧嘩ならまけないよっ! 」
2人は拳で語り合うことにした。
魔術云々はおらか、乙女の恥じらいすらかなぐり捨てた殴り合いにグレードダウンするのは、自明の理であった。
そうして衆人環境の中、少女達の決闘が幕を開けようとする。
が、ある人物がソレを許さなかった。
「血気盛んすぎだろお前達。気持ちはわかるがおちつけっての」
臨戦態勢の2人の間に割り込む声。
その直後、どこからか不思議な光を放つ2本の剣が飛んできて、ルカと陽毬の前の地面に突き刺さる。
2人が剣の飛んできた方を見ると、そこには、車椅子に乗った紫髪の少女がいた。
「ここは魔術を学ぶ場所だぞ? それだってのにステゴロ騒ぎ起こされたら、魔術高専の名が廃るってもんよ。ほら、戦うんならその魔法剣を使えよ」
車椅子の肘置きに肘を立てながら、気怠げそうにそう言う少女。
その姿を目にしたキオとマキナは、思わず目を丸くする。
「あいつは…………
「オレ様も知ってる。アイツも“原作ヒロイン”のひとりだ」
小家楼那。
彼女もまた『ツキノベ』のヒロインの一人であり、ルカやキオの先輩にあたる。
極度の面倒くさがりだが、魔道具製作に関しては校内では右に出るものはいないといわれている、天才魔道具デザイナーだ。
普段は学生寮の自室に篭りっぱなしの筈の楼那がこの場に姿を現したという事実を目の当たりにし、上級生達にどよめきが走り出す。
「珍しいな……彼女が出てくるなんて」
「いや、あの人は単に、決闘にこじつけて自作魔道具の試供を目論んでるだけだよ。目がイってるし」
「流石“堕落の傀儡師“……怖いからどっか行ってほしいかも」
容赦ない畏怖の感情をぶつけられながらも、気怠げな態度を崩さない楼那。
その視線の先では、ルカと陽毬が投げ入れられた魔法剣を手に取っていた。
「あたし特製の魔法剣さ。魔力を流し込むだけで使えるはずだ。一応切れ味はディチューンしてあるから安心して振るうといいさ」
「そっか、なら怪我させなくて済むかも」
「……わたしは本気で行くけどね」
楼那の言葉に安堵する陽毬と、それでもなお敵意を抑えないルカ。
両者ともに魔法剣を構え、体内を流れる魔力を注ぎ込む。体内の魔力の流れを操作する技術は、素人でもできる初歩中の初歩。魔術についてはルカ以上の素人である陽毬でさえも、マキナからの一週間のレクチャーで身につけられるくらいだ。
「お、等身が光った……? 」
「ゲーミングPCみたいだ」
魔力の充填された魔法剣は、その等身を七色に輝かさせる。
これで準備は整った。
再び演習場全体を、張り詰めた空気が覆う。
「それにしても……陽毬はなんで笑っていたんだろうか? 」
「いや単純な事だぞ? ……まあ、この戦いを見れば嫌でも理解するだろうよ」
キオの疑問に、マキナは愚問だとでもいうかのように、鼻で演習場内を指す。
マイクを持った監督役の教員が、楼那の隣に立つ。
そして、告げる。
「では、
その瞬間。
戦いの火蓋が、切って落とされた。
次回、ようやく原作主人公ちゃんとの戦いになります。