百合ゲークラッシャーVS百合ゲーオタク〜百合豚JDは原作主人公に百合ハーレムを作らせたい〜 作:カオス箱
ルカ編のラストとなります。
上府魔術高専・野外演習場
「………………………………はっ⁉ 」
陽毬が目を覚ました時には、すでに日は傾き、野外演習場の人影はまばらとなっていた。
少し前にも同じような流れがあったような気がするが、たぶんデジャウとかでは無いはずだ。
「………………マキナ」
「なんだ? 」
上体を起こした陽毬は、制服についた土埃を払いながら、傍らに居たマキナに訊く。
「勝負はついたんだよね? 」
「ああ、バッチリと。お前の負けでな」
その言葉を聞いた陽毬は、敗北したというのに、どこか安堵したかのように微笑を浮かべる。
彼女の視線の先では、
「え、じゃああの人は恋敵でもなんでもないってこと⁉ 」
「だからそう言ってるじゃん……ったく、相変わらずの早とちりっぷりだ。ボクよりも大きくなったはずなのに、危なっかしくてほっとけないのは昔と変わらないな」
「ほっとけないって……キオだって、カッコよさに磨きがかかってるし……まさしく王子様って感じじゃん! 入学初日だってのに何あの王子様オーラ⁉ 5年間会っていなかったのに一目でキオだってわかっちゃったよ⁉ 」
「はいはい、再会を喜びたいのは分かるけど落ち着いて。ここ公衆の面前だから。抱き着くとかはお預けだよ」
「むう………………あれ? 抱き着くこと自体はオッケーってことだよね、それって」
「………………………………今の発言は忘れてくれないか」
………………なんかキオが赤面してらっしゃる。というか完全にアレなムードに突入しかかっていた。
完全に2人だけの世界に入ってしまった彼女達を、マキナは冷めた目で見つめていた。色々と言ってやりたい気持ちはあるにはあるのだが、なんとなくいい雰囲気そうだし、これを邪魔してやるのは野暮というものだろう。マキナは空気が読めるのだ。
「何あれ、なんかオレ様達放置していい感じの雰囲気になってるとかマジで解せないんだけど」
「まあまあ、いいってことよ。あれこそがわたしが見たかったもの。そしてこの
「……お前ってもしかして、かなり面倒くさいタイプのオタクだったりしない? 」
呆れたようにマキナが言う。
陽毬は否定しなかった。ただ、にんまりとした笑みを浮かべながら、キオとルカのイチャイチャを眺めていた。滅茶苦茶気持ち悪いです。後方彼女面やめろ。
「いやあ、キオ×ルカがリアルで見られるなんて幸せ者だなあ! わたし、この世界に転移してきて本当に良かった! 」
「煩い黙れ静かにしてろこの変態っ‼ 」
なんか煩くなりだした陽毬に、マキナの鉄拳が炸裂する。
というか、ナチュラルに女装してる変態に変態呼ばわりされている時点でだいぶアレな気がする。まともな奴がいやしねえ。
そうこうしているうちに、キオとルカが一通り話を終えて陽毬の元へとやってきた。どうやらもうイチャつきはひと段落着いたらしい。
「あ、こっち来た」
「あの………………ごめんなさい! 私、また早とちりでやらかしちゃって……! 」
2人の元に来るなり、ルカが陽毬に頭を下げてきた。
「あーいいよ、もう過ぎたことだし。それに、ちょっとおっちょこちょいなところこそ、ルカらしいところだととわたしは思うな」
「それ褒めてないよね? どっちかというとやんわりと馬鹿にしてるよね? 」
「陽毬はね、欠点も含めて君のことが好きだって言ってるのさ」
「なんで翻訳できるんだお前」
陽毬の気持ち悪い後方彼女面ムーブを完璧に日本語訳したキオに、マキナはドン引きせざるを得なかった。君達今日で会ったばかりのはずだよね? いつの間にそこまで以心伝心しちゃってんの?
ルカはルカで、完璧に陽毬の通訳を成し遂げたキオに黄色い声をあげている。やっぱり全員馬鹿ばっかじゃねえか。
そういう感じでアホみたいな空気に包まれていた中、キオが一気にそれをぶち壊した。
「でも、だ。一つ不自然な点がある」
「不自然な……? それってどういう……? 」
「決闘開始までの流れがスムーズ過ぎる。いくら制度、伝統として成立しているとはいえ、入学したばかりのルカがその制度を十全に使いこなせるかといわれたら難しいだろう。それにしては、
それにも関わらず、ルカVS陽毬の試合が実現したということは、そこからひとつの可能性が導き出される。
「キオ、つまりお前はこう言いたいんだな。“誰かがルカに入れ知恵したのではないか”ってな」
マキナの言葉に、キオはこくりと頷く。
そして、ルカの方を向いて、彼女に問いかける。
「ルカ、ひとついいかな」
「ん? 」
「
キオの目は真面目そのものだった。彼女の金色の瞳が、ルカを見つめている。
キオの眼差しを一身に受けて赤面しながらも、ルカはぽつぽつと話し始めた。
「う、うん。なんか親切な男の子に教えてもらったんだ。同じ新入生だったんだけど、すっごい詳しく
「っ!! その人の名前は⁉ どんな人だった⁉ 」
「うおうおうおっ⁉ 陽毬ちゃんどうしたのそんなに食いついてきて⁉ ちょ、ちょっとタンマタンマァッ! 」
ルカの発言に反応した陽毬が、ぐわんとルカの肩を掴んで揺さぶり始めるたので、マキナが慌てて彼女を引きはがした。
陽毬の食い付き様に若干委縮しながらも、ルカは
「えっと、名前は確か………………
「――――!!!!」
ルカの口から出たその単語を耳にした瞬間、陽毬の全身が身の毛がよだった。
———
それは陽毬達の最大の敵にして、『ツキノベ』のゲームを滅茶苦茶にした憎き間男。
(なんで……そいつの名前がここで出てくる⁉ )
唐突に出てきた宿敵の名前に、陽毬の精神は大いにかき乱される。
ルカやキオが何かを言っているようだったが、動揺した陽毬の耳には、何も聞こえはしなかった。
その頃。
「ふ、はははは………………」
上府魔術高専の敷地の端に併設された学生寮。
その一室。
羽間峡太郎は備え付けのベッドに腰掛けながら、不気味に笑っていた。
「ついに学園に入ることができた……! これから俺のハーレムライフがはじまるんだ……! 」
峡太郎は、わなわなと握りこぶしを震わせる。それは歓喜の震えだ。
人が見れば、誰もが彼を危なそうな人だと判断するだろう。それほど、彼の様子は不気味なものだった。
「何が百合だ。あんな非生産的で気持ち悪いものがもてはやされている理由が分からねえ。時代はノーマルだよノーマル。お前らは少数派なんだ、人前に出てくるんじゃねえっての! 」
誰も聞いちゃいないにもかかわらず、峡太郎は百合を否定する言葉を吐き連ねる。それは、必死に自己正当化をしているかのようだった。
昼間、入学式で鼻血噴き出して保健室送りになった女と原作主人公がいざこざを起こした時、峡太郎はすかさず原作主人公につけこんだ。
理由は単純。
彼女が現実世界からの来訪者であることは一目でわかった。入学式の最中、周囲を見る目が明らかに普通じゃなかった。まるでテーマパークにでも来たかのように目を輝かせながら、ありとあらゆるものを見つめていた。
故に、峡太郎は朝乃陽毬を排除しようとした。
そんな彼にとって、ルカが陽毬と対決することになったのは行幸だった。
原作主人公を利用することで、自らの手を汚すことなく邪魔者を排除する――算段だった。
結果的に排除には失敗してしまったが、峡太郎はその程度では狼狽しなかった。
「大丈夫だ、一度の失敗くらいどうってことない。ハーレムライフの為ならば、俺は何だってやってやる」
そう口にしながら、峡太郎は顔を上げる。
その顔には、身の毛のよだつような笑みが浮かべられていた。
邪悪極まりない漆黒の意思が、人知れず百合の花園に産み落とされていた。
これより始まるのは、傍迷惑極まりないエゴとエゴの正面衝突。
それを止めるものは、ない。
次回からは新章突入だよ!
遅くとも来週中には公開する予定です。