くそつよユーリ 作:Shrennewosukuitai
鳥編の文と展開に満足できなかったので、削除しました、ごめんなさい。そのうち書き直します。
代わり三章を書いてみましたが、どちらが良いでしょうか。どちらにせよ駄文な気がします。
ダンテ一行との地獄紀行が終わり、私は平凡なフィクサー生活を取り戻しつつある。細々と依頼を受け、淡々と熟し、給料を得て、温かいベッドに包まれる。そんな日々だ。
一昨日はねじれである『泥人形』の処理、昨日はツヴァイ委託の定期治安維持。実績は積み重なり、7級フィクサーへの昇格も近いと考えていた。そんな時だった。
私は目を疑った。あれだけヴェルギリウスに警戒されているにも拘わらず、再びリンバス・カンパニーから業務協力依頼が舞い込んできたのだ。報酬は2000万アン。私は迷わず引き受けた。
そんなことをうつらうつらと思い返しながら、私は前回と同じように、裏路地、11区の粗末な建物に背を預け、地獄への急行バスを待っていた。瞳を閉じて、思考を塞ぎ、ただ感じる。
次第に地面を伝う鈍い振動と、風に混ざって運ばれてきた煙の匂いが、メフィストフェレスのありかを私に教えてくれる。瞼は閉じたまま、舗装路に足を踏み出し、左手を大袈裟に振り回した。
「ユーリ殿!お久しぶりで御座いまするっ!貴殿のような高貴なフィクサーに再びあ...。」
窓越しでも、彼女の声は路地に響き渡るほど大きかったが、バスの急停車により、最後まで聞き取ることは叶わなかった。湿気た面構えの囚人もいれば、活気良く私に挨拶する囚人もいる。ダンテ一行と共に居れば、退屈だけはしないだろう。
バスに悠々と乗り込むと、不機嫌な様子を隠そうとすらせずに、ヴェルギリウスから蛇のように睨まれている。私は蛙として縮こまる事しか出来なかったが、それでも囚人達との会話は弾んだ。
「あ?散々ヴェルギリウスにボコられたかと思いきや、案外平気そうじゃねぇか。まぁ、強ええヤツが増える分には構わねぇが。」
「ユーリさん、久しぶりだな。また会えて嬉しいよ。背中が任せられる人間ほど頼りになるものはないからな。」
嬉し泣きしそうなくらいに、囚人達は温かく接してくれた。バスの雰囲気が、私の奥底に眠る掠れきった遠き記憶よりも随分と心地良い空間になっていて、過ごしやすいとも思えた。
「ねね、ユーリぃ~私、前回の作戦でMVPだったのよ~華麗なる武勇伝を聞きたい?聞きたいでしょ!」
有無を言わさずロージャの武勇伝に付き合わされたが、どうやら私の記憶よりも誇張が混じっているようで、囚人達から苦い視線を向けられていた。それでも楽し気に語る彼女の嘘を暴こうとする気はカケラも生じなかった。
しかし、ヴェルギリウスの濁った瞳により、バスの中は一瞬で静寂を取り戻した。同時に、バスは再び行進を始めた。私は空席をウロウロと探すと、ホンルの刀置き場を陣取り、漸く腰を据えた。
ただ、一人だけ憂鬱と恐怖、そして怒りが入り混じった表情を窓越しに外へ向けているシンクレアの事が、私の気掛かりだった。ただ、彼の心に触れてあげるのは、私の心が締め付けられる選択でもあったから、私は彼を慰めようとしなかった。ただ自己愛故に。
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囚人達が戦いを数回繰り返し、検問所への障害を排除しきったころに、漸くバスは検問所へとたどり着いた。当然、私はリンバス・カンパニーとの業務提携ビザで入国する。ロボトミーのビザが生きていればどの巣でもフリーパス状態だったのだけれど、既に失効されていた。
「K社へお越しの皆様へ、歓迎の挨拶を申し上げます。」
ぞろぞろとひよこのようにバスを降りる囚人達に混じって、私もバスを降車した。検問所の厳かな雰囲気に臆したのか、囚人達は大人しくなった。私も何度か巣の検問所を通過した事があるが、厳正なる威圧感には未だになれない。
「あぁ、普段からこんな風に秩序を守ってくれればどれ程良いことか。」
呆れた様子でヴェルギリウスがバスから降りる姿が印象に残る、その姿にダンテとイシュメールは驚きを隠せないようだ。彼がバスから降りることは、珍しい部類に入るらしい。
「ここが巣だからです、ダンテェ。もしここで予期せぬ事故を起こしたのなら、ダンテ、貴方が全ての責任を負うことは難しくなるでしょうから。」
ヴェルギリウスが責任を取ってくれるとのことで、私は悠々自適に、肩の荷が下りた感覚を覚える。私は囚人ではないので、流石に庇ってくれると信じたい。職務には忠実な人だから。K社職員と争って無事でいられるほど私は強くないだろう。
朝に飲んだコーヒーが抜けたのか、急に眠気が増して来た。検問所でただ待つことに疲れたのか、それとも囚人達の億劫な会話に飽きたからか。
「...リンバス・カンパニーの業務で来ました。業務ビザを確認してください。と答えれば良い。一言一句洩れなく覚えろ。」
何時にもまして、囚人は真剣だった。私は何度か欠伸を繰り返すと、耳に通る会話が漸く回ってきた。模範生の役目を決心したイシュメールがヴェルにいくつも質問をぶつけ、暫くして、質問タイムが始まった。
念の為聞きたいことがあったので、私も手を挙げた。
「業務目的だから武器は持ってってもいいんだよね~?」
「そうだ。次。」
「じゃあ、グレッグの奇々怪々とした腕やダンテの凄い時計頭も大丈夫ってことね?」
「まさしく。」
ヴェルギリウスは一息置くと、鈍い藍色の瞳を輝かせて、口を開いた。
「ユーリさん、質問を。」
「私の業務提携ビザの有効期限についてですが、一か月の間にリンバス・カンパニーが黄金の枝を回収できなかったら、私は依頼の途中で裏路地に帰ることになるんですか。」
少し迷ったようで、彼は胸元のポケットに仕込まれたメモ帳を一ページ、また一ページと開くと、質問に答えた。
「適宜再契約により延長される。確認していると思うが、依頼を達成出来なかった場合、報酬は振り込まれない。」
単純明快かつ明瞭な返答により、私は右腕を下げた。ヴェルギリウスは何もなかったかのように沈黙を貫いて、黄髪の彼女が力一杯真っ直ぐ立てる腕を見ないように努めていたが、やがて我慢比べに負けたのか、口を開いてしまった。
「ああ、ドンキホーテ。なんだ?」
「あの硝子の壁は如何なる用途で置かれているのだ?」
これから起こる惨劇には、私は目を瞑る予定だった。彼女の正義感を止める権利もなく、止めてしまったら、私はそれはそれで後悔してしまうだろうから。心苦しくとも、目を瞑らなければ都市の人は生きていけない。きっと私はねじれるだろうけど、今の所は心に折り合いをギリギリでつけている。
それからは、私の耳には何も音が入ってこなかった。囚人達の会話も、検問所に響き渡る靴の音も、硝子越しの非道もだ。一人一人、順番に列に並び、ビザを見せて、通過する。初めは何も問題は発生しなかったが、ドンキホーテの正義の器は遂に満杯となり、不義を正す為の槍を突き出した。
予想通りの紫の光が検問所に満ち、非常事態を知らせるサイレンがけたたましく鼓膜を貫く。
「お知らせします。コードパープル、コードパープル。循環二棟、検問所14番。トロンボサイト、ルーコサイト。」
厚い鉄門が恐ろしい勢いで閉じられ、何と喚いているのか聞き取れない言葉が検問所を支配した。
「トロンボ、ルーコ。血小板、白血球を意味するようなり。」
すぐに夥しい数の武装警護員が検問所に集まってくるだろう。まあ、ヴェルギリウスを盾にしていれば何とかなるはずだ。淡い期待が儚く消し飛んだヴェルギリウスは瞳を真っ赤に染めて、高みの見物を決め込んだのか、悠々と警備員達をすり抜けると、壁を背もたれにして腕まで組み始めた。
当然後についていこうとしたのだが、警備員達はお構いなしに私を殺しにかかってきた。
「ちょっと!ヴェルギリウスさん!冗談ですよね!私囚人じゃないのに!死にますよ普通に!」
容赦の欠片も感じられない苛烈な集団攻撃に晒され、私はギリギリのところで攻撃を躱し続けていた。あまり気は乗らないが、武器を手に取らなければ、やられるのは明白だったので、渋々赤い警棒を握りしめた。
警備員達は集団として高い統率を誇っていた。隙が見えず、包囲を突破するのは困難。それ故に、私は囚人達と協力する必要があった。そして、ダンテの卓越した指揮に従い、マッチした。
ヒースクリフ、イシュメール、ホンル、イサン、ファウスト。全員が鏡の人格を装着していなかったが、打撃、貫通に強い囚人で構成されており、K社職員の攻撃でも堪えていなさそうだ。未来が見えているのではないかと疑えるほどに、ダンテの先見の明、そして指揮は卓越していた。彼の声はかち、こちと時を刻むだけで、意味不明だ。しかし、心を通じて聞いてみれば、多少は意識を通じ合える。
K社職員の動きを見るに、単調で隙が多いことは否めないが、その隙を再生アンプルで補い、突撃や乱舞などを振り回す躊躇のなさが、最も脅威に思えた。
眼前の職員が警棒を縦に振りかざす動きが、スローモーションとなり、まじまじと観察できる。私を叩き潰し、肉塊へ変えるつもりだろう。
後ろへ僅かにステップし寸前で躱すと、地面と警棒がキスをし、隙だらけの職員となった。殺さない程度に、しかし混乱する程度に頭を叩き潰さねばならない。
適度に力を込めて、愛用の赤い警棒を首筋に打ち付けた。ドスン、と力なく一人倒れ伏したが、まだまだK社職員は山積みだった。
<ユーリ、右側に展開した職員を仕留めてくれ、今なら気絶させられる。>
指示通りに、砕けんばかりの勢いで床を踏みしめて、私は標的目掛け疾走した。あの職員は腕にHPアンプルを注入しようと、明確な隙を晒していた。首筋へと、思い切り警棒を打ち付け、骨が折れる嫌な感触が手に伝わる。これで二人目だ。
しかし、囚人達は苦戦を強いられているようだった。切れども肉満ち、叩けど復旧する存在がどれ程厄介かをその身で存分に味わっている。案の定、ギリギリ耐えていたヒースクリフの堪忍袋の緒がブチ切れる音が聞こえてきた。
「やってらんねぇ!オレたちゃぁ、この世でいっちばん意味のないことしてんだぞ!分かってっか?」
「言ったじゃないですか、翼と絡むのは無意味だと。」
「切れば切りざまに肉が満ちる。戦闘をまともに持続することが難しい。」
底力といったところか、何とか下級職員達を退けて、息も絶え絶えで囚人達が会話していた。良秀の顔が極限まで歪み、しかめっ面で鞘を狂ったように振り回している。彼女にとってこれほど辛い戦闘はないだろう。
<何か方法はないのか...?>
ファウストまでもが頭を横に振り、管理人に諦めを促しているときに、とても軽快で高らかな、まさしくヒーローといった風貌のものが混乱を掻き分け登場した。
「ワーッハッハッハッハ!!!混乱の中、やっと俺様の登場だ!!」
快活すぎる笑い声が響き、同時にK社職員全てが安心した表情で撤退を開始してゆく。つまり、例の一級フィクサーのご登場ということだ。流石に、流石に、ヴェルギリウスも庇ってくれる筈だ。
黄昏があるなら兎も角、警棒と低級の仕立て屋の服のみでは、間違いなく殺されてしまう。
「あぁ、やっぱりお出ましか、K社の大スター。」
狂った獣が襲い掛かってくるような錯覚を呼び起こす程に、恐ろしい迫力の持ち主である彼、ジークフリートがヴェルギリウスと話し合っている。旧友といった雰囲気だが、しかしヴェルはジークのことを間違いなく軽蔑していた。
「皆さんご機嫌いかがかい!目撃談はいくらでも話して良いが、写真撮影からはK社の公式的な許可が必要だ!」
皮肉るような内容で、二人は会話を続けている。ジークフリート、尊大な言葉使いと誇示するかのような動きとは裏腹に、全く動きに無駄がない。左腕の光線射出機、一体どれ位のお金が費やされたのだろうか、きっと眩暈がするほどだろう。
腕から放たれる嫌な煙と光量を感じて、即座に横転してみれば、熱々の精神改造レーザーを囚人達が味わっていた。しかも、自撮りを取る余裕すらある。こいつ、無茶苦茶だ。一時期戦ったタブーハンターどもと遜色ない動き。
パフォーマンスを欠かさず、しかしきっちり50秒以内に囚人全員を仕留めている。流れ弾を避けるだけで私は精一杯だった。
囚人全員が同様に地に伏せたころ、漸くヴェルギリウスは満足した様子でダンテに語り掛けた。
「巣で身の程を弁えず動けばどういう結果を齎すか、気付きが必要だ。」
散々彼に叱られてきたからか、ダンテはそこまで怯えている様子もなさそうだ。巣を敵に回して命があるなんて、幸運というべきなのだろうか。
コードパープルの終了を知らせる放送が流れ、私達は再び手続きを得て、何とかK社の巣に入場する事ができた。あまりにも億劫で、ヴェルギリウスがうんざりすることも理解できるほどに。