Shinji is reborn.(シンジ・イズ・リボーン)   作:朝陽晴空

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序:明日の見えなかった僕達

「もう僕達の負けだよ……」

「シンジ! 最後まで諦めちゃダメよ!」

「ツイン・エヴァンゲリオン、貴様を吸収すればこのエヴァンゲリオン・ゴッドは完全体となるのだ!」

「そうはさせません、キール議長」

「おのれ碇ゲンドウ! 吸収された上でまだ邪魔をするか!」

 

 

 L.C.L.の海が消えて、紫色の空と白い砂浜だけが視界に残る。

 そこに立っているのは僕とアスカが乗る銀色のボディを持つツイン・エヴァンゲリオン。

 対峙する敵は金色の体に黄金のオーラを纏うエヴァンゲリオン・ゴッド。

 吸い上げたL.C.L.の量は圧倒的に相手の方が多い。

 弱音を吐いてしまったけど、胸の中に抱いたアスカやエヴァのコアとなっている母さん達を守るためにも僕達は絶対に負けるわけにはいかない。

 今は父さんがゴッドの動きを止めてくれているけど、どうやって倒せば良いのか。

 策を考えながら僕は遥か過去へと思いを巡らせた……。

  

 

 

 僕は碇シンジ、13歳の中学2年生。

 学校の作文の課題で、将来の夢について書かされた。

 でも僕には何も書く事が出来なかった。

 幼い頃伯父の家に預けられた僕は、夢も希望もない人生を送っていたからだ。

 いつまでも白紙の原稿用紙に、先生はついに諦めた。

 何かの事故に巻き込まれて死んでしまっても別に構わないと思っていた。

 

 

 

 そんな鬱々とした日々を送っている僕の元に、実の父親から手紙が届いた。

 汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオンに乗って、使徒と呼ばれる正体不明の巨大戦闘兵器群と戦えと高圧的に書かれていた。

 戦いで命を落とすかもしれないから、命が惜しければ来るなとも添えられていた。

 

 10年前に僕と親子の縁を切って、伯父に養子縁組させた実の父。

 僕は幼い頃から伯父家族の輪に入る事も出来ず、孤独な人生を送っていた。

 このクソったれな人生からおさらばするためにも、僕は実父の召喚に応じた。

 

「あなたが、碇シンジ君ね?」

 

 車を運転して僕を迎えに来たのは、まるで女優の様な美人でスタイルの良い女性だった。

 難色を示したら色仕掛けで僕を落とせと命令されたのだろうか。

 妙齢の胸の大きな女性を餌にして僕を釣り出そうと父は考えている?

 でもこれから戦死する可能性が高い僕にとってはどうでもいい事だ。

 

「あれあれ? もしかしてお姉さんが美人だから固まっちゃったとか?」

 

 スーツを着こなしているものの、彼女が胸を寄せてかがみこむような姿勢になると胸の谷間が見える。

 健全な普通の中学生なら、顔を赤くして俯くかもしれない。

 でも僕にとって彼女は死地へ誘う妖魔に見えた。

 その女性は特務機関ネルフの葛城ミサト一尉、とその場に居た僕や伯父家族に軽く自己紹介をした。

 伯父は僕にこの家に留まっても良いと僕に声を掛けたけど、それは心からのものではないと分かっている。

 ここには僕を愛してくれる人は居ないと知っていた僕は、伯父の言葉を無視してミサトさんの車の助手席へと乗り込んだ。

 大きなため息をついたミサトさんは、伯父にシンジ君をお預かりしますと告げて運転席へと乗り込んだ。

 

 

 

 伯父の家のある松本市からネルフのある第三新東京市への移動中、ミサトさんは陽気に声を掛けて来るけど、僕は黙っていてもらいますか、と告げて窓の外に広がる景色を眺めた。

 小さい頃から孤独だった僕。

 伯父の実の子供達とは扱いが違うんだと分かってから、僕は泣くのを止めた。

 押し殺した感情は心の底に沈めた。

 学校でも暗い顔をしていたし、別れを告げたかった友達もいなかった。

 もうここへと帰ってくるつもりもない。

 

 

 

 第三新東京市に入ると、周囲が騒がしくなる。

 軍隊とこの世のものとは思えない巨大な怪獣が戦っていた。

 ミサトさんはあの怪獣のような生物が使徒だと説明した。

 僕が巨大兵器に乗って戦う事に動揺を見せないので、

 

「あなた、状況の割には落ち着いているのね」

 

 とつぶやいた。

 僕は死んでも構わないと諦めの境地に達しているだけだ。

 

 

 

 ネルフの初号機ケージでの実父との10年振りの再会は、素っ気ないものだった。

 彼は僕の名前も呼ばなかった。

 初号機パイロットとネルフ総司令の立場を取るつもりのようだ。

 周りの大人達も初めての使徒の襲撃に慌てふためいて、僕と父のねじれた関係に気を払う余裕がない。

 大きなディスプレイには地上の様子が映し出されている。

 僕が乗る予定のエヴァンゲリオン初号機の同型である零号機が、使徒と死闘を繰り広げている。

 いや、零号機の方が使徒に圧されているようだ。

 ついに力尽きた零号機は膝を折って四つん這いになる。

 

「胸の縫合部より出血!」

「ルート58で回収しろ!」

「くっ、今のレイには荷が重すぎた……」

 

 傷を負った零号機がエレベータにより地下のケージへと回収される。

 その零号機を追いかけるように使徒がビームを放つと、僕達の居る初号機のケージは天井を中心に大きく揺れた。

 使徒の攻撃が止むと静まり返る初号機ケージ。

 僕を取り囲む大人達の視線が突き刺さる。

 従兄のお下がりである粗末な綿のシャツとくたびれたデニムのジーンズを着の身着のままやって来た僕。

 ここまで車で連れて来たミサトさんに手を引かれて、初号機の登場口へ足早に歩く。

 零号機の惨劇を目の当たりにしても恐怖は感じなかった。

 それも当然か、感情は当の昔に心の窓の向こうに置き去りにしてしまったのだから。 

 エントリープラグと言うものに乗せられて、シートに座った僕。

 足元からオレンジ色の液体が湧き上がって来る。

 このままプラグ内が液体で満たされれば、僕は溺れ死んでしまうのかと思った。

 

「落ち着いて、肺がL.C.L.で満たされれば直接酸素を取り込んでくれます」

 

 またまた美人の水着の上に白衣を羽織ったお姉さんからモニター通信が入った。

 職場でも美女を侍らせるのが父の趣味なのかとのんきにそんな事を考えてしまう。

 

 

 

 僕の身体が完全にL.C.L.と言うオレンジ色の液体の中に飲み込まれる。

 まるで満員電車に押し込められているような感覚になる。

 耳元で囁くようなたくさんの人達の声まで聞こえてくる気がした。

 

「シンジ君、まずは歩く事だけを考えて!」

 

 胸元がパツパツのスーツを着たミサトさんが僕にそう命令する。

 伯父達が好きな特撮ドラマに出て来る女優さんみたいだった。

 本当に作戦部長だったんだと僕は驚いた。

 

「動いた!」

 

 僕が乗った汎用人型何とか(面倒だからこれからはエヴァと呼ぼう)が歩き出すと歓声が上がった。

 動くかどうかわからない未完成に乗せられて、僕は怪獣みたいなものと戦わせられるのか。

 やっぱりここの大人達も伯父さん達と同じ、僕を小間使いだとしか思っていない。

 

「うぉぉぉぉっ!」

「シンジ君!? 止まりなさい!」

 

 破れかぶれになった僕は使徒に向かって駆け出した。

 使徒は慌ててビームを連射するけど、エヴァが纏う赤い半透明なバリアの様なものに弾かれた。

 僕はナイフを両手で突き出して使徒に真正面からぶつかった。

 そのままの勢いで使徒は後退りして、やがて大きな火柱をあげて爆発した。

 後であの白衣のお姉さんに聞いたけど使徒のコアと言うものを破壊したらしい。

 

 

 

 死に損なってしまった。

 戦いが終わってまず初めにそう思った。

 生きて帰った僕を待っていたのはミサトさんによるお説教だった。

 でもこの程度の小言は伯父の小言に比べればどこ吹く風。

 話が終わるとミサトさんは人懐っこい笑顔で同居しないかと提案して来た。

 僕が父の2号と同棲はしたくないと伝えると、ミサトさんはお腹を抱えて笑い出した。

 どうやらミサトさんが父の愛人だと言うのは僕の大きな勘違いだったみたいだ。

 

 

 

 これからは楽な生活が出来る、とミサトさんに期待したのは彼女の住む汚部屋を見るまでだった。

 足の踏み場もないほど散乱する日用品、自炊の形跡の無いキッチン、冷蔵庫にはビールだけ。

 クリーニングに出しているアイロンの掛かったクローゼットの制服だけが何とか体裁を保っていた。

 これは人の住むところではないと思った僕は、散らばったゴミを片付けた。

 疲れ果てた後の夕食は味気ないコンビニ弁当。

 お風呂に入れと言われたけど、掃除してから湯船にお湯を張り直した。

 ミサトさんは僕に自分の布団を貸して、ソファで眠り込んだ。

 この布団も万年床らしく、陽の温かさも感じないものだった。

 

 

 

 翌日の朝食は自分で街のスーパーに出掛けて食材を買って自炊した。

 学校に通うように言われたけど、もちろんミサトさんは学食用のお金を渡してくれるだけだ。

 

「シンジ君、いいお嫁さんになれるわよ♪」

 

 ミサトさんは冗談めかしてそう言う。

 これでは伯父の家で家政婦まがいの事をされていた時と変わらない。

 

「せめて自分の身の回りの事だけは出来る大人になって下さい!」

 

 数日で堪忍袋の緒が切れた僕。

 ミサトさんとの同居を解消して、近くにあるネルフの職員寮の一つに住むことになった。

 寮に住んでいる子供はもちろん僕一人だった。

 でも寮母さんのキョウコさんが食事を作ってくれて、洗濯もしてくれる。

 それが何とも有り難かった事か。

 僕はキョウコさんに初めて母親と言うものを感じた。

 小さい頃、僕の目の前から消えた母さん。

 母さんが生きていたら、同じ事をしてくれた?

 僕を愛してくれた?

 

 

 

 それから僕はエヴァ零号機と組んで使徒と戦う事になった。

 パイロットは父さんの命令で戦わされる同い年の少女、綾波レイ。

 

「綾波はエヴァに乗っている時、他の人の声が聞こえる?」

「どうして、そう思うの?」

 

 思い切って聞いてみたけど、この綾波の反応から僕だけが感じている現象のようだ。

 

「リツコさん、L.C.Lって何ですか?」

「どうしてそんなに気になるのかしら?」

「エヴァに乗った時、人の声が聞こえた気がするんです。小さい声なので、何を言っているのか聞き取れませんけど」

「そう、あなたはアンテナの感度が高いのね」

「どう言う意味ですか?」

 

 リツコさんにL.C.L.の事について詳しく質問してみたけど、機密だと言われてそれ以上は教えてくれなかった。

 血のような匂いがする事も気になる。

 まさか人の体液を絞り出したものだったりして。

 安っぽいSF映画でもあるまいし、それはないか。

 

 

 

 次に現れた使徒との戦いで、僕は学校のクラスメイトをエントリープラグに入れる羽目になった。

 彼らは地下シェルターへの避難命令が出ていたはずなのに、物見遊山で地上に出て来てしまったからだ。

 最初の使徒との戦いでは小学生の女の子に怪我をさせてしまったとミサトさんから聞いた。

 今度は同級生を踏み潰してしまったとなったら僕も夢見が悪い。

 ミサトさんの指示で、僕はメガネの相田を、綾波はジャージの鈴原を乗せる事になった。

 異物を混入するとエヴァを思い通りに動かせなくなるらしい。

 エントリープラグの中に入った相田は、うるさくて仕方が無かった。

 使徒には零号機のパレットガンの攻撃が効果が通じなかった。

 初号機が使徒の背後から近づいてナイフで倒す作戦になった。

 正面の零号機に気を取られていた使徒を、僕は楽に倒すことが出来た。

 そして使徒を倒した後、今度は僕に代わって鈴原と相田の2人がミサトさんの説教を喰らう事になった。

 僕は鈴原と相田にL.C.L.の感覚について聞いてみたけど、あのパニック状態では覚えていないようだった。

 それどころか僕がエヴァのパイロットだと分かると、妹に怪我をさせたと鈴原に殴られた。

 どうして僕だけ、と思ったけど、綾波は女の子だから鈴原は手を出さないらしい。

 鈴原に嫌われたままでは学校で友達が出来るはずも無く、僕は同じように孤独を抱えている綾波を目で追うようになった。

 彼女に声を掛けるのは、頼み事をするクラスの委員長の女の子だけだった。

 どうして綾波は寮に入らず独り暮らしをしているのだろう。

 寮母のキョウコさんに理由を尋ねても父さんの命令だとしか分からなかった。

 僕みたいな不幸な子供を増やすのはいかにも父さんらしい。

 

 

 

 次に現れたのは大出力の陽電子ビームで超遠距離攻撃をしてくる使徒。

 ミサトさんは更に長距離から使徒を狙撃するウィリアム・テル作戦を立てた。

 使徒の正確な射程距離は未知数。

 2機のエヴァが射手と使徒の攻撃を盾で防ぐ役を分担する。

 

「この盾は、使徒の攻撃にも10秒間は耐えられるわ」

「もし、一撃で使徒を倒せなかったらどうするんですか?」

「2発目の攻撃の再充填に15秒は掛かるの。5秒間はエヴァだけで耐えてもらうしかないわね」

 

 リツコさんの答えを聞いて、僕は大きなため息を吐き出した。

 隣で涼しい顔をしている綾波は、何を思っているのだろう。

 

「零号機には射手、初号機には防御を担当してもらいます」

「この作戦には高度なオペレーションが必要なの」

 

 ミサトさんとリツコさんは冷静にそう言った。

 

「シンジ君。自分の命が惜しくないからって、手を抜くような事はしないで。レイの命も懸かっているのよ」

 

 でもミサトさんは僕の考えを見抜いたのか、睨みつけながら僕にそう告げた。

 確かに僕の身勝手な行動で、綾波を傷付けるわけにはいかない。

 

「碇君。危険を感じたらあなたは逃げて。私は死んでも代わりは居るから」

 

 この時の僕は、綾波の言葉の意味を分かっていなかった。

 自分の代わりにパイロット候補が居るという事だと思った。

 僕と同じ境遇の彼女に同情を感じる。

 いつでも命を捨ててやろうと思っていた僕が他人の命を惜しむなんて、皮肉なものだ。

 

 

 

 零号機の狙撃は、攻撃に気が付いた使徒の反撃により軌道が逸れた。

 つまり一撃で使徒を倒すのに失敗したわけだ。

 そして使徒は2秒ほどで第2撃を放って来た。

 僕の初号機は盾の無い状態で3秒ほど使徒の陽電子ビームに耐えなければならない。

 

「うわぁぁぁーっ!」

『うぉぉぉーっ!』

『きゃぁぁぁーっ!』

 

 エントリープラグの中のL.C.L.が煮えくり返ったかのように熱くなった。

 気のせいじゃない、僕以外の絶叫も頭に響いている。

 でも僕は直ぐに意識を手放してはいけない、零号機を守らないと!

 

「知らない天井だ……」

 

 僕が目を覚ますと、そこはネルフの病室だった。

 使徒の攻撃により全身に火傷を負ったのか、僕の身体は包帯でグルグル巻きにされていた。

 ずっと側についていてくれたのか、椅子に座っていた綾波は黙って僕を赤い瞳で見つめる。

 

「別れ際に、自分が死んでも代わりが居るなんて悲しいこと言わないでよ」

 

 自分の命を軽く見ていた自分が言うには白々しい言葉だったけど、言わずにはいられなかった。

 

「ありがとう……」

 

 綾波は少し顔を赤らめてそう答えた。

 今まで他の人と心を通わせた事はなかったけれど、綾波となら仲良くやっていける気がする。

 生きる意味を見い出した僕は新しい人生を送るんだ。

 

 

 

 そう思っていた矢先に事件は起きた。

 ネルフの中の長いエスカレーターで綾波と隣り合って乗っていた時の事だ。

 最初は読書が好きなのかとか取り留めの無い話をしていたけど、父の事が話題になった。

 

「綾波は父さんの命令にならなんでも従うの? 嫌じゃないの?」

「あなた、碇司令の子供でしょう? お父さんの事が信頼できないの?」

「あんな父親なんて! 綾波は父さんが死ねと命令すれば死ぬの!?」

「ええ」

「それじゃあ父さんの操り人形じゃないか!」

 

 興奮してつい口から出てしまった僕の言葉を聞いた綾波は激高した。

 綾波は僕の頬を平手打ちすると駆け足でエスカレーターを昇って行ってしまった。

 それから綾波は僕と距離を取るようになって、2人で話す機会が無くなった。

 また伯父の家にいた頃のように気持ちは振り出しに戻ってしまった。

 僕は生まれ変わる事に失敗したんだ。

 

「もっと笑いなさいよ、バカシンジ! 楽しいから笑うじゃない、笑うから楽しいのよ!」

 

 心の殻を打ち破ってくれたあのアスカに会うまでは。

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