おにぎり   作:灯火011

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きのみきのまま

 王城の謁見室には、マイネンと筆頭に数名の貴族たちが跪いていた。

 

「これより、貴君たちには、国宝の奪還を命じる。必ずや、取り戻せ。その命を賭してでも」

『『『は!』』』

 

 声を合わせて、王の命に従う覚悟を見せる彼ら。そして、更に王が言葉を続けた。

 

「私の付き人も付ける。耳飾りはマイネンが預かれ」

「は!」

 

 金の耳飾りを外した王が、それを直にマイネンに手渡した。そして、手慣れた手付きでそれを耳へと取り付ける。マイネンの耳には、青と金の耳飾りが揺れている。

 

「付き人。一時的に奴が主だ。仕損じぬように」

「はい。問題ありません。この剣にかけて」

 

 頭に揺れる銀糸、手首足首にはめられた銀の腕輪、腰には、2本の剣を下げた亜人。そして、頭には一本の角が生えている、鬼という通称を持つ、剣の姫。

 

「王よ、感謝いたします。まさか、剣姫をお貸しいただけるとは」

「かまわん。我が手の内には同格が他に4人いる。潰しても構わん。好きに使え」

「は。では、剣姫。よろしく頼むぞ」

「はい。承知しましたよ。こちらこそ、よろしく頼みます」

 

 剣姫はマイネンへと跪いて、頭を垂れた。それを見届けた王は、頷く。

 

「では、良い知らせを待っているぞ。マイネン」

「は!」

 

 深く、深くマイネンは頭を王へと下げる。しかし、その心中では。

 

 ―2人分の耳飾り。王は本気だ。なんとか、国内でケリを付けなければ!―

 

 内心では強い焦りを感じていた。

 

 

 意識が戻る。目を開けてみれば、空には青い色が戻っていた。どうやら、私は生き延びているらしい。背中に感じるもふもふに、安心感を覚える。

 

「キャウ」

 

 ベロリ。頬を舐められた。目の前に現れたのは、白毛の大狼の顔。赤い目が宝石のように輝いている。

 

「おはよう」

 

 左手で撫でてやる。右手は、首に添えて毛皮を楽しむ。こうやっていると、こいつはただのデカい犬なんだがな。

 

「目、見事」

「キャウ」

 

 鼻息荒く、頷いた。実際に死合うと解る。こいつはタダの犬ではない。クマと並ぶ猛者である。今まで、クマとやりあって、この森で過ごして、目を持っていかれたのは初めてだ。

 

「今度は、私が貰う」 

「キャウ、キャウ」

 

 大狼が前脚を見せる。そこには、なかなか大きな切り傷。まるで、刀か何かで切られたような。

 

「私のか」

「キャウ」

 

 そうだ、と言わんばかりに頷く。となれば、この目は。

 

「お前に、貰われた」

「キャウ!」

 

 その通りと言われた気がする。目には目を。歯には歯を。傷には、傷を。先手は私が切っていたか。だが、いずれはその喉笛はクマのと合わせて頂く。

 

「まぁ、今は」

 

 この犬の毛皮を楽しもう。わしゃわしゃと両腕で頭をかいてやる。本来なら、すぐにでも死合いたい所なのだが、まだ体が痛む。それに、この大狼がどうも私の傍を離れない。

 

「お前、帰らないのか?」

 

 もふ。頭を毛皮が包んだ。ああ、なんだ。帰らないぞ、と言われている感じ。これは間違いなく、保護されている。…そういえば、クマは?

 

 覆いかぶさる毛布、奴の頭を退けて、周囲を見渡す。燻った焚き火、何もいない洞窟。木の実と蓮の実が数個に、燻製にされた魚が数匹…。

 

「燻製…?」

 

 作った記憶はない。もしや、クマか?そうだとすれば奴め、本当、どれだけ器用だと言うのだ。ああ、燻製を見たら腹が減った。ならばと、木の実に手を伸ばそうとすると、もふっと毛皮が覆いかぶさる。

 

「キャウ」

 

 ダメだよ?そんな声色だ。ふむ…ああ、そう言えば昨日の夜、やらためったら木の実を喰うなとやられたな。理由は…ああ、副作用か。寝起きのせいか、頭の回転が遅い。

 

「ならば、蓮の実」

「キャウ」

 

 袋をずいっと咥えて、私の前に置いた。なるほど、やはり、こちらの方は食って良し、か。ならばと1つを取り出し、齧る。

 

「旨い」

 

 痛みを感じる体に、瑞々しさが行き渡る。昨日の夜のような激しい痛みは無い。毒矢を食らった程度の痛みが走る。そして、痛みが収まれば、アバラあたりの痛みも一緒に消え去っていた。

 

「キャウ?」

 

 どう?そう聞こえた。心配性め。

 

「良い」

「キャウ」

 

 満足気にこちらに瞳を向けてくる。ならばと、もう一度両腕で、首元をもふもふとやってやる。うむ。良い。ああ、そう言えば、刀は…腰にある。

 

 ヌルリと刀を抜き取る。ああ、やはり。刃毀れしている。

 

「…これでは」

 

 切れん。切れば、昨日の猪の二の舞いだ。幸い、雲ひとつ無い空。抜き身で置いておけば、刃毀れぐらいならば簡単に治ることだろう。

 

「それならば」

 

 今日ぐらいは鍛錬を休んでも良い。それに、もふもふは、良い。

 

「ヴ」

 

 お、この声は、奴か。視線を向けようとすると、頭にもふりと、毛皮を感じた。少し固めで、大狼とは違うものだ。

 

「クマ」

「ヴ」

 

 ぐりぐりと力が強い。まるで、クマじゃあない。と言いたげだ。お前はどう見てもクマだろうに。と、不意にクマの毛皮が離れて、焚き火の向かいへと座った。その手には、大きく太った魚が数匹携えられている。

 そして、手慣れた手付きで木を爪でささくれ立たせると、爪をカチリと合わせて、火花を散らして火種を作る。

 

「…火起こし、上手いな」

「ヴヴ」

 

 燻った火種に、枯れ草なんかをかけながら、火を大きくするクマ。いや、何かが可笑しい。お前クマか?と告げたいが。

 

「その魚」

「ヴ」

 

 指を刺された。お前の朝餉。と言わんばかり。…やはり世話をされている。世話をされているというのに、文句を言うのは、違う。

 

「感謝」

「ヴ」

 

 頭を下げる。いや、構わんと、腕を振るクマ。そして、ベロリと顔を舐めてくる大狼。ああ、なんだろうか。やはり、心地よいと言うか。安心感が、強い。だが、そうは言っても。

 

「死合いは」

「ヴ」

「キャン」

 

 2つの毛皮で頭を押さえられる。世迷言を言ってんじゃねぇ。と言わんばかり。…仕方ない。ならば、やうやうしく世話をされよう。

 

 

「生き字引殿、お久しぶりに存じ上げます。こうして話すのは15年ぶりですね」

「ですな。しかし、殿などという敬称は不要ですぞ。剣姫のほうが年上ですからな。ははは」

 

 マイネンの私室では、改めて戦略会議が行われていた。親しげに話し合う亜人に、マイネンは咳払いで注意を促せば、2人はぴしりと背筋が伸びる。

 

「失礼しました。マイネン様。王からある程度は聞き及んでおりますが、改めてご説明いただけますか?」

「うむ。まずは、こちらの地図を見てくれ」

 

 そう言って広げられた地図。国内の大まかな道と街が描かれたものだ。

 

「最後に賊の報告があったのは、ワカミヤだ」

「ああ、理解いたしました。この先の古都に賊は逃げたということ。つまり死地の森ですね」

「そうだ。ただ、幸いにしてまだ1日しか経っていない。今から騎士団の早馬で追えば、半日で古都までたどり着ける」

「なるほど。そこから更に死地の森の探索に、というわけですか」

 

 マイネンは頷いた。そして、あらかたの作戦の説明を行うマイネン。

 

 曰く、騎士団は貴族から借り受け、その指揮はマイネンが直々に行い、古都まで王城から半日で到着させる。拠点をそこに作り、死地の森の探索は少数精鋭、亜人とマイネン、そして数名の護衛で行われるということだ。

 

「死地の森を少数精鋭で。人選は?」

「それは生き字引が行っている。話せ」

「はい。まず生き字引、そして剣姫、マイネン様、ルドネル様、マッケイ様、ドネル様。この6名で死地の森の探索を行う手はずですな。亜人の我々はまぁ、亜人であるがゆえに切り込み、護衛といったところでしょう」

 

 マイネンは頷き、剣姫も頷いた。

 

「そしてマイネン様、ルドネル様、マッケイ様、ドネル様は、賊の確保を行っていただこうかと」

「と、いうところだ。剣姫、納得したか?」

「はい。納得いたしました。…しかし、死地の森は広大です。探す範囲などは」

「そこはお前達に任せる。剣姫、生き字引。詳しいのだろう?」

 

 ギロリと、マイネンは亜人の2人を見つめた。

 

「はい。微力を尽くします」

「はい。ほほ、心当たりはありますからな」

 

 頷いて、微笑みを返す生き字引と剣姫。と、その時だ。マイネンの私室の扉が叩かれた。

 

「入っていいぞ」

「は!騎士団、300名の準備整いました!ご命令があれば、いつでも出立可能です!」

「あい判った。では、即座に出撃だ。先頭とシンガリには亜人を付ける。安心して行軍せよ!」

「は!承知しました!では、即座に!」

 

 いそいそと伝令は扉を締めて、部屋を後にする。

 

「さて、生き字引、剣姫。お前たちの働き、期待するぞ」

「はい。大船に乗ったおつもりで居てください」

「はい。では、参りましょうぞ」

 

 マイネンを先頭に、生き字引と剣姫は、私室を後にする。そして、マイネンの背中に付き従いながら、剣姫はどこか懐かしそうな、柔らかな笑顔を浮かべながら一本の剣を撫でていた。

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