おにぎり   作:灯火011

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だいしぜん

 日の下にカタナを曝す。太陽は、天高く舞い上がって、その熱を大地に降り注がせている。普段ならばすでに死合いの時であるが、クマも、大狼も今は昼餉。大きく口を開けて、私と同じものを喰っている。ああ、実に、今日は暇を持て余す。

 

「…旨い」

 

 炙った燻製と、蓮の実を喰いながら、一息をつく。びりびりと痺れながら、体の痛みがまた更に軽くなる。

 

「うむ」

 

 腕をぐりんぐりんと回してみれば、ほぼほぼ痛みは消えていた。腹に目を向ければ、空いていた大穴も殆ど塞がっている。きれいなモノだ。

 

「ヴ」

 

 と、奴から木の実を渡された。

 

「お、木の実」

「ヴヴ」

 

 そろそろ良いぞ。そう言わんばかりに頷かれた。ならばと、木の実を早速齧る。ジャリ、ジャリと良い食感を感じ取りながら、嚥下する。

 

「旨い」

 

 体が痺れ、少しの痛みを伴いながらも、瑞々しい食感を楽しむ。最後に残っていた違和感が消えていく。やはり、木の実の傷の治り方は最高だ。

 

「これならば」

 

 体が自由に動く。きっと、死合いを行っても問題ないであろう。さて、それならば昼餉を喰い終わったら死合いを、と思ったのだが。

 

「キャウ」

 

 もふ。大狼の前足に抱えられた。これでは、刀を取りに行けないではないか。と、クマもさり気なく刀を私から隠すように抱え込んでいた。

 

「何を」

 

 している。文句を言おうにも、なかなかの力でもふもふに押さえられてしまっているため、どうにも出来ないのがもどかしい。クマもまた、此方に目を合わせようとしない。

 

「死合い…」

「キャウ」

 

 大狼は『駄目だ』と言わんばかりに私の体を更に引き寄せる。クマは、刀を持ったまま一歩私から離れる素振りを見せる。…そこまで私に死合いをさせたくないか、貴様らは。

 

「…判った、判った。今日は死合は諦める」

「ヴ」

「キャウ!」

 

 それでいい。と、大狼は私を開放し、クマは刀を戻す。全く、と思わずため息を吐いてしまう。ざぁ、ざぁと木々が揺れる。パチ、パチと焚き火が燃える。

 

 …よくよく考えれば、このように刀を持たない日はいつぶりか。ああ、死地の森で、気を張らなくていいのは、おおよそ1000年ぶりか。

 

「狼」

「キャウ?」

「腹を貸せ。休む」

「キャウ!」

 

 せっかく、なぜか判らんが死地の森で私が知る最強格が私を守ってくれているのだ。こうなれば、覚悟を決めて休むとしよう。ゴロン、と大狼が腹を出した。

 

「もふもふ」

 

 大狼の腹に体を預けて、目を瞑る。柔らかい。温かい。久しぶりだ。こうも安心できるのは。

 

 

 王城から半日。休みも取らず行われた強行軍のお陰か、マイネン達ハイネケン王国の一団は、目的の古都へとたどり着いていた。

 

「拠点は旧聖堂に設ける!設営隊は荷物を運び込め。斥候部隊は周囲の探索を引き続き続行せよ。無人だとは思うが、賊が待ち伏せている可能性を潰せ」

「は!」

 

 マイネンは早速陣頭指揮を取りながら、拠点づくりを行っていた。旧聖堂と呼ばれた場所には、ハイネケン王国では見られない、赤い門のようなものがそびえ立ち、木で作られた聖堂がそびえ立っている。

 

「亜人達は外の小屋で待機せよ。…ああ、ここならば自由にしていて構わん。幸い他の貴族もおらんからな。積もる話もあるだろう」

「はい。感謝します。マイネン様」

「はい。感謝しますぞ。マイネン殿」

 

 マイネンは小屋というには少々巨大でありながら、床と屋根、そして柱しかない建物を指さしていた。そして、更に小言で付け加える。

 

「ああ、ただ判っているとは思うが、聞かれるなよ。亜人が自由に会話していた、などと知られては私の立場がない」

「無論です」

「安心なされよ」

 

 静かにその指示に従い、生き字引と剣姫は小屋の中に入る。2人からは、忙しく陣地を形成する人々がよく見て取れた。

 

「懐かしいですな」

「ええ。まさかまた、古都に足を踏み入れられるとは」

 

 しみじみと、小屋の床を撫でながら語る剣姫。どうやら、彼らにとっては、彼女らにとってはこの古都は懐かしいものであるらしい。

 

「剣姫様。そういえば、以前から気になっておったのですが」

「なんでしょう?」

「腰に2本の剣、我が亜人としては珍しく思いましてな?」

「ああ。そうですね」

 

 カチリ、と剣姫は剣に触る。同じ様な装飾をされた2本の剣。その片方を腰から引き抜くと、生き字引の前にコトリ、と置いた。

 

「こちらの剣、姉の忘れ形見なのです」

 

 生き字引は剣を受け取ると、鞘から刀身を少しだけ抜く。それだけでも、美しい波紋が見て取れ、思わずため息を吐いてしまう。

 

「ほう、これは美しい。剣姫殿の姉の対となれば相当な業物かとお見受けします。差し支えなければ詳しく伺っても?ああ、いや、気になってしまう性分でしてな?語りたくないのならば、断ってくれて構いませんぞ」

 

 剣姫は口角を少しだけあげて、首を横に振った。そして、生き字引の目を見ながら、口を開く。

 

「1000年前に行方知れずになりまして。ご明察の通り、この剣は本来、姉と対になるはずの剣でした。そして、当時の一族の技術の最高峰の一振りと言っても過言ではありませんでした。まず、切れない物は無かった、と言って良い業物です」

「ほほう!それはそれは…!」

「ただ、私では扱いきれないものでしたので、ここにあるのは打ち直したものにはなるのですが。ああ、どうぞ、鞘から完全に抜いてみてください」

 

 促させるように生き字引は、鞘からスルリと抜刀する。その刀身には、淡く、焔のような色が宿っていた。

 

「これはこれは、焔のような美しさ…ため息が出ますな。して、剣姫ともあろうお方が扱いきれぬ、剣であると?」

「ええ。切れ味に特化しすぎて耐久性が無いのです。私が振ると折れてしまったんですよ。姉はそんなことなかったんですが」

 

 思い出す。技こそ覚えられないという欠点があった姉であるが、しかし、据え切りにしろ、死合いにしろ、基本の型だけで一族の皆と対等以上に渡り合えていた、あの美しい剣筋を。

 

「剣姫様の姉となれば、さぞ優秀だったのでしょうなあ」

「ええ。対等に戦えるとなると、死地の森の魔獣ぐらいかなと」

「ほお!それはそれは、一度手合わせしたいものですな!」

 

 生き字引は剣を鞘に仕舞い、剣姫に手渡していた。受け取った剣姫はそれを腰に下げ直す。そして、少し微笑みを浮かべていた。

 

「まぁ、本人は才能が無いと嘆いていましたけどね。技の多さならば私のほうが上でしたから」

「ほほお。となれば、剣姫様の姉様は技術が優れていたということですかな?」

 

 剣姫は深く頷いた。

 

「ええ。切断する、という技術や感覚は間違いなく我が一族の中でも最高でした。ただ、それが、お伝えした通りに1000年前に行方知れず。今頃、何をしているのだか」

「ははは。案外、近くにいるかも知れませんぞ?」

「それならば、久しぶりの再開を祝して語りに語り合いたいものです。―まぁ、この銀糸が少々、邪魔ですが」

 

 鬱陶しそうに頭を掻き上げる剣姫。さらりと髪の毛が流れ、銀糸が手と髪を避けるようにふわりと広がった。

 

「仕方ありますまい。敗軍の将とは、こういうものですからな」

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