おにぎり   作:灯火011

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むかしがたり

 さて、取り敢えずは場を押さえた。これ以上の無用な闘いは必要がない。そしてなにより、あれだけ闘志を剥身にしていた亜人がら一切闘志が見えなくなった。

 

『マイネン、マイネン貴様ァ!』

『生き字引黙れぇ!役立たずがぁ!』

『巫山戯るな!銀糸を無理矢理宿らせた挙げ句にこの仕打ち!おのれ、おのれ!』

 

 代わりに殺意が人間の男に向けられている。ふむ。何を言っているかは終ぞ解らんが、鬼の形相の亜人からは恨み辛みの強さが滲み出ている。

 

「コレは相当」

 

 やらかしているな、人間。とはいえ、双方の言い分は聞かねばなるまいて。

 

「大狼、クマ」

「キャウ」

「ヴ」

『ガハアッ!?くそ、殺すならさっさと殺せ大狼!これ以上人間になど使われてたまるかぁ!』

『クソっああっ!剣姫助けッ、熊の魔獣がぁ!?』

 

 黙らせるように目配せ。大狼の前脚に力が籠もり、クマは大口を開けたようだ。まぁ、殺しはしない。安心して恐怖せい。

 

「さて、サクナ。改めて話を」

「は、はい。あの、姉様。この魔獣達は」

「腐れ縁」

 

 呆気に取られた妹が、呆然と口を開く。

 

「腐れ縁」

「ヴ」

 

 合わせるように、人間の肩をしっかり掴んだまま、クマは頷いた。改めて問われると、まさに命のやり取りをする腐れ縁。

 

「ついでに、私の指南役、先生」

「指南役、先生」

 

 剣の先生であり、命の恩人。ならばこう呼ぶのが一番だろう。さて、それはさておき。

 

「単刀直入。この装具は何だ?」

 

 いい加減、話を聞きたい。握った耳飾り、腕輪に足輪、そして銀糸。何のために存在し、誰が作り、誰が使ってるのか。

 

「一言で言い表せば、隷属の装具です」

「隷属か」

「はい。銀糸を頭に纏った者は、耳飾りの持ち主の意のままです。思考、記憶、好意、敵意含め、自由はありません」

「ほう」

「だから、姉様のお姿を拝見したにも関わらず、斬りかかる他の思考を持ち合わせていませんでした。言葉も、通じませんでした」

 

 ふむ。なるほど。隷属か。ただただ言いなりになる、冗談のような装具。1000年の前には無かった。年月の間に、とんでもない物が生み出された物だ。

 

 しかし、疑問は残る。

 

「なぜ、サクナが銀糸を?並の人間ではお前に触れることすら出来ないはず」

 

 人間と亜人ではその体の作りが違う。例え100人の人間に囲まれたとて、余裕を保って殺し切ることすら容易。ましてやこの妹、サクナならばその数倍であっても朝飯前のはず。

 

「姉様、覚えておられますか。我々亜人は、人間との交易があり、その矢面に立って戦うこともありましたよね」

「覚えている」

「その、交易の席です。200年ほど前、我らが父君が、我が里の長となった最初の交易の時に」

 

 サクナは一呼吸を置いた。あの父が里の長になっていたとは。

 

「父が搦手に嵌められ、銀糸を宿らされました。その場には人間と父君しかおらず、父君が操られていると気がついた時には、既に、里の9割の亜人が銀糸を纏っていたのです」

 

 ほう。

 

「搦手?」

「端的に言えば毒です。酒に亜人にのみ効く毒を入れられ、銀糸を宿らされました。そして、その後は操られた父君が、里の皆に銀糸を頭につけろ、と命じたのです」

「怪しむ者は?」

「最初こそいましたが、銀糸だけを見れば、急所を守る優秀な具足です。それに、我らが父君は人望も厚く…。それが災いして、長がそういうのならと、皆、挙って纏ってしまいました」

 

 心当たりはある。クマの斬撃を防ぐほどの強靭さ。そして、軽く、美しい。軽装を好む我らならば、まず纏うだろうな。

 

「その結果がこのとおりです。気づいた日には里は滅びました。しかも、記憶をいじられますので、人間に対して好意を持ち、敵対する事ない、そして最高の戦力という奴隷の出来上がりです。無論、殺しも、夜伽も自由自在と付け加えさせていただきます」

「左様か」

 

 これは、予想外に過ぎた厄介事だ。ふーむ。

 

「しかし、よく覚えているな。この類の装具ならば、記憶に抜けがあってもいいだろうに」

「ふふ。この銀糸、どうやら従えど記憶は残るのです。だから」

 

 サクナは耳を削がれた男を、睨む。

 

「このような男がいる国に200年も近い年月、好意を抱いていた。奉仕し、仕えていた。その事実に腹の底から虫唾が走る。この手で滅ぼして、いや、滅んだとてまだ恨み足りぬ」

 

 うむ。我が妹ながらなかなかの迫力だ。見てみろ、人間の男は小便など漏らしている。まぁ、とはいえ。

 

「戰に破れたか。我が一族は」

 

 これは変えられぬ事実。搦手だろうが、なんだろうが、人間との戰に負けた。まず、それは受けれるとしよう。

 

「ええ…真にお恥ずかしながら。姉様が1000年の研鑽を積む間、結果として我が一族は父君の失態により霧散。里は滅び、今では無人の古都として滅び行く運命です」

「そうか」

 

 あながち、予想は間違っていなかったか。里は滅びた。しかし、まぁ、奴隷としてではあるが、一族はまだ生き延びている様子。最悪ではない。

 

「サクナ、感謝。ある程度の理解は出来た。…して、あちらの亜人は?」

「カキサ。500歳の若造です。200年前の惨事を逃げ切った亜人です」

「逃げ切った。なら、なぜ奴も銀糸を?」

「15年前に、亜人を解放しようと企んだのです。実行前に露見してしまい、その折に」

 

 500歳か。確かに若造だ。だから動きが読みやすかったのか。納得、納得。

 

「しかし、気になる」

「何が、ですか?姉様」

「銀糸が隷属の装具であることは解った。経緯も解った。しかし、なぜ」

 

 私の手足、妹の手足を交互に見ながら、問いかけた。

 

「具足にも銀糸があるのか。そして、この腕輪は?」

「それは、頭の銀糸だけでは人間が抑えられないと判断した亜人が付けられる枷です。父上も付けられていましたよ」

 

 む、それはそれは。それはそれはそれは。綺麗な花には毒があるとは言うが。これはなかなか。枷であったか。となれば。

 

「…サクナ。私の具足、外せないものか」

「ううん…。それについては詳しくはありません。あちらの」

 

 クマに肩を掴まれて、白目を剥き始めた男を指さした。

 

「マイネン。ハイネケン王国の中枢の人間です。奴なら、詳しいかと」

「ふむ。ならば」

 

 話を聞くしかあるまい。まぁ、ひとまずは。

 

「治癒か」

 

 亜神の怪我も酷いし、人間の耳も治さねば話もできまい。治してやろう。

 

「ただ、まァ」

 

 この人間については、妹に碌でもない物を纏わせていたのだ。死に曝すぐらいの痛みを味わうぐらいで丁度良い。雑に傷を付けてやって、木の実を口に放り込んでやろうじゃあないか。

 

 それに。

 

「戰は負けた。しかし、今は」

 

 私の勝ちだからな。お前たちのやり方で、しかりとやり返すとしよう。踏み込んで、ヌルリと刀を抜く。そして。

 

『ぎゃ!?』

 

 マイネンと呼ばれた男の、股中を削いだ。白目が黒目に替わり、私を睨みつける。

 

『お前ぇ、お前えええええ!』

 

 ははは。股から赤い小便など垂らして。見っともない。なぁに、それも木の実で治るさ。なあ?クマよ。

 

「ヴ」

 

 目を逸らされた。やりすぎ。と言われた様な気もするが、まぁ、気の所為だ。それにお前も知ってるだろう?木の実と蓮の実を使えば、元通りだと。

 

 ただ単に、私でも悶絶するぐらいの痛みが走るだけだ。安いものだろうに。

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