おにぎり   作:灯火011

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蓮の実

 木の実、そして蓮の実を蓄えている我が拠点。ここ1000年、私とクマぐらいしか来なかったこの場所に、妹、そして亜人、マイネンと呼ばれる人間が集っている。経緯は厄介だが、まぁ、それでも人の形をした者が集まっているというのは、少し、感慨深いものがある。そして。

 

「ご苦労」

「ヴ」

「キャウ」

 

 マイネン、そして亜人を運んだ大狼とクマを撫でてやる。特にクマなどは、マイネンの肩を掴んだまま二足歩行で此処まで歩いた。器用なものだ。大狼は咥えてきたので、まぁ、順当であろう。

 

「さて、ともかく」

 

 亜人には蓮の実を食わせるとしよう。クマに蓮の実を掲げ、亜人を指さしてみれば。

 

「ヴ」

 

 頷かれた。与えてもいいぞ、ということだろう。雑に大狼に転がされた亜人の口元に、蓮の実を近づけてやる。…と、そうだな。確かこの亜人は言葉が通じないのだったか?

 

「言葉、判る?」

『耳飾り、銀糸、腕輪…ああ、なんと酷いことをしたのだ、人間は…!』

「うーむ」

 

 やはり、言葉は通じて居ない様子。ならば。

 

「サクナ、通訳。頼めるか?」

「あ、はい、姉様!」

「ならば、この実を食えと。傷、治る」

「お安い御用です」

 

 サクナが亜人の近くに寄った。すると、亜人の顔が少し、安心したように緩む。

 

『おお、剣姫殿。ご無事で』

『はい。姉のお陰で呪縛から解き放たれました。貴方も無事、意識を取り戻したようでなによりですよ』

『ああ、やはり、どなたかが呪縛を解いてくれたのですな。…しかし、そちらの亜人、なかなか酷い。呪具が全て纏われているではありませんか』

『そう思います。ですが、この方が何を隠そう、我々を正気に戻してくれたお方です。そして、その。私の姉です』

『剣姫の姉様ですと!?おお…』

 

 うーむ。何やら積もる話。内容は全く判らんが。それはともかくとして、そろそろコレを喰ってくれないか?

 

「サクナ。実…」

「あ、申し訳有りません姉様。すぐに!」

『カキサ殿、積もる話はまだまだございますが、ひとまずはこの実を』

『実…姉様が持つ、この実、でございますか?』

『ええ。話には聞いたことが有るでしょう?これが、王蓮の数珠です』

『…なんと!?あの、伝承上にのみ見ることの出来た、あの!?』

 

 何やら、蓮の実を見て驚いている様子。ふむ?なんだ?

 

「サクナ、この亜人、なぜ驚いている?」

「あ、ええと。王蓮の数珠のせいですよ。姉様」

「…王蓮の数珠?」

 

 なんだそれは。聞いたことのない名前だが。この、蓮の実のことか。

 

「はい、その、姉様が手にしているものです。死地の森から流れてくる川、そこに、数百年に一度流れてくる万能薬です。って、姉様に説明する必要はありませんでしたか」

「…万能…」

 

 首を傾げる。全く記憶にない。この蓮の実がそんな妙薬だったのか?

 

「ええ。ほら、姉様がいなくなる少し前、里がお祭り騒ぎだったじゃないですか。あの時、川から流れてきたんですが…姉様?」

「知らぬ。あの時…剣を振っていた」

「ああ…。そう言えば、姉様は昔から剣が好きでしたものね。と、いうことは、もしや、王蓮の数珠とは知らずにお持ちだったので?」

 

 頷く。うむ。なるほど、ただ、それならば私の怪我が治ったのも納得は行く。

 

「知らん。ただ、喰い物として食べていた」

「あはは。姉様らしいです。本当に、お変わりない」

 

 なんだか、少し呆れられたような気もするが。ともかくだ。

 

「喰わせろ」

「あ、そうですね」

 

 サクナに蓮の実を手渡した。そして、それを亜人がガリガリと口に含む。そして、嚥下した。

 

『これは、なかなか妙な味っ…!?が、痺れ…うがあああ!?』

『カキサ殿!?』

 

 ふむ、始まったか。どうやら、やはり。

 

「蓮の実ですらこの作用か」

「姉様!?カキサ殿のこの苦しみ方は異様です!これは一体!?」

「傷が大きいほど、治る時に大きく苦しむ」

 

 私だけのことでは無かったようだ。となれば、木の実はやはり、喰わなくて良かった。

 

「そんな。里で使った時はそんなことは無かったはずなのに」

「私も知らなかった。最近、命に関わる怪我をしてな。その時に」

「左様ですか。しかし、その」

『がああああああああ!?』

「異様な苦しみ方なのですが、どうにかならないものですか!?」

 

 ふむ。どうにもならないのだが。ああ、まぁ。

 

「大狼」

「キャウ」

 

 声を掛けてやれば、亜人を囲うように、丸く座る。そして、その頭を腹に乗せてやってくれた。もふもふだ。

 

「これで少しは、気が休まる」

「はぁ…左様ですか」

 

 苦しむ亜人。まだまだ叫んでいるが、大狼にくわれてボロボロだったはずのその手先を見れば、大まかな傷は癒えてきているようだった。やはり、蓮の実は頼りがいがある。それに。

 

「銀糸」

 

 亜人が苦しむたびに、その銀糸が体から抜けていく。そして、抜けていくと同時に、亜人の体が化け物から人間に戻っていく。

 

「…すごいですね。流石、王蓮の数珠」

「うむ」

 

 サクナの言葉に続けて、頷く。まさか、蓮の実がここまで万能の回復薬だとは思わなかった。普段は水分補給のために喰っていたというのに。

 

「変わらず、未熟か」

 

 自らを鼻で笑う。1000年経っても、まだまだ道半ば。学ぶことは、多い。

 

「さて。では、マイネンだったか」

 

 クマが抱えている人間に歩み寄る。今度は、木の実を手に抱えて。

 

「サクナ、通訳」

「はい。姉様!」

 

 なんとか意識を保っているマイネンという男。まだまだ私を睨みつける気力は有るらしい。

 

『この、亜人風情が!私に手を出してタダで済むと思うなよ!』

「…碌でもないことを言われた気がするが、なんと?」

「姉様の耳に入れるほどでは」

 

 首を振るサクナ。いや、それでは困る。

 

「サクナ。正確に、通訳。お前の忖度は不要」

「…承知しました」

 

 さて、では対話と行こうか。ここで、なるべく情報を聞き出したい。なんせ、木の実を喰わせてしまえば、まず、会話など不可能だからだ。

 

 それが証拠に、クマに、木の実を掲げてマイネンを指差す。

 

「ヴ、ヴ、ヴ」

 

 首を素早く振った。それはやめたほうがいいぞ、と言わんばかり。だがまぁ。

 

「仕置だ」

「ヴ」

 

 それならば、と頷くクマ。ふふ、私を助けたクマですらが、止めるほどの木の実。さぁ、マイネン。この銀糸のこと、妹のこと、里のこと。知る限り、色々、話してもらおうか。

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