さて。刀に手を掛けて、マイネンと相対した。カチャと刀が音を立てれば、マイネンがビクリと体を震わす。
「さて、マイネンとやら。単刀直入に1つ。この銀糸の外し方は?」
サクナに目配せ。さて、マイネンとやらはどう出るか。
『な、何だ。亜人、その剣で私を切ろうとでも…!』
『銀糸の外し方を聞いています』
『は、外し方!?亜人なんぞに誰が教えるか!』
「誰が教えるか、だそうです」
ふむ。丁寧な受け答えが出来る奴かと思ったのだが、どうも野蛮。そちらがそのやり口ならば、合わせよう。ヌルリと、ゆっくり刀を抜く。そして。
『ああああ!?亜人がぁ!』
「やかましい」
肩口に、ヌルリと剣先を差し込んだ。クマが押さえているお陰で、全く刃先はブレず、肩口にヌルリ、ヌルリと入っていく。マイネンの顔が、苦痛に歪む。
「このまま心臓を切っても良いが」
『このまま心臓を切っても良いと言っています』
『な、私、私を殺す気か!』
『いえ、銀糸の外し方を教えて頂ければ良いと』
『教えるわけが、ないだろう!』
サクナは顔を横に振った。ふむ、刀の脅しも聞く耳持たず。か。しかし、肩口からは相当量の出血。股中、そして耳からもだ。
「なら、木の実を喰わせてやろう」
「木の実、ですか。姉様」
「これだ」
木の実をサクナに見せる。と、妹の目がひん剥かれた。…もしや、これも何某か謂れがある物なのか?
「ね、姉様、どこでこれを?」
「そこらへんだ。沢山あるから、主食にしている」
「…あの、姉様。その実は、サカキの雫と言いまして。その、王蓮の数珠よりも即効性の高い万能薬です」
ほう。これまた万能薬と来たか。
「その…私も、現物を見るのは初めての代物です」
「ほう」
「魔獣たちの主食で、食べるたびに、その力を伸ばすと言われています。ただ…」
「ただ?」
「猛毒を持つので、運が悪いと回復するよりも毒が勝り、死に至る可能性もあるものです。文献によると、薄めたり、加工したりすることによって、毒を薄める、とありますが…」
死。毒。木の実を凝視する。ふむ。毒。いや、しかし。
「私は喰って何も無かったが?」
「さ、左様ですか。もしかすると、文献が間違っていたのかも、知れませんね」
ふうむ。1000年、主食にしてきた木の実だ。猛毒など、有るわけがない、と言い切りたかったが。
「ヴ」
その通り、と頷く奴が一匹。クマだ。
「…毒?」
「ヴ」
「…私はずっと、喰っていたが」
「ヴ…?」
そういえば。そんな声が聞こえそうなほど、はっきりと首を傾げたクマ。なんであろうか。謎が1つ、増えてしまった。まぁ、ただ。
「そういうものなのであれば」
都合がいい。木の実を、男の眼前に差し出す。
「食え。回復薬」
『食え、と。回復薬だと』
『…は?』
『回復薬ですよ。聞いたことぐらいあるでしょう。サカキの雫の本物です』
『サカキ…あの、伝説の霊薬!?喰えば喰うほど寿命が伸びるという、あの!?』
『ええ。姉が貴方のために用意したものです。さぁ、どうぞ?』
何がしかを話し合ったマイネンとサクナ。すると、次の瞬間、マイネンが木の実にかぶりついた。ジャク、ジャクといい音をさせながら、嚥下する。
『これが、これが霊薬!はは、味も一級品だ!なんと美味なことか!』
『それはそれは。そして、その霊薬、傷も治ります。貴方の陰部も』
『はは。それは気が利く。またいずれ、耳飾を取り返した暁には抱いてやるぞ、剣姫』
『は。結構です。貴方に耳飾を取り返す機会、来ませんので』
『何を言っ…あ、あ!?は!?はへ!?あ、いだっ…あ、あー、あーーーーー!?』
ふむ、喰ったな。そして、効果がすぐに出始めたようだ。マイネンの口から、情けない音が響いてきた。
『あー!?あーーーー!あーーーーーー!はーーーー!?ああーーーー!?』
『情けない。我らを従えていた男がこの有様。国の未来が知れますね』
『あー!?ああーー!あー!はーうーーー!あーーー!?』
情けない音とは裏腹に、耳や股間、肩口。私の刀が通ったところが、徐々に徐々に盛り上がり、元の形を取り戻していく。そして、数分も経てば。
『あー、あー!?あー…はっ!?あ、あー!?くそ、クソッ!何をした、剣姫キサマァ!?』
『何も。自分の股間でも見てみては?』
『あ!?あ…ほほお!?戻っている!?』
マイネンはどこか嬉しそうに此方を眺めている。言葉にするならば、『味方だったか!こいつは』であろうか。それを察したサクナが、眉間に皺を寄せていた。
「姉様、なぜ、この男の傷を治したのです?禄でもないですよ、この男は」
「拷問」
「拷問?であれば、あのままナマスにしてやればよかったではありませんか」
「甘い」
それでは唯の拷問だ。唯の拷問程度ならば、国の中枢に近い人物なのであれば、簡単に口は割らないだろう。
「セッ!」
刀をヌルリ抜いて、その勢いのまま、今度はマイネンの膝から下をぶった斬る。そして大袈裟に左の肩から右の脇腹に掛けて、骨を断たない程度に肉をそぎ取る。
『あ、あ!?ギャアアアアアアア!?足、足!?お前、お前ええええええ!』
マイネンの表情は一転、絶望に包まれる。
「サクナ。もう一度。銀糸の外し方を聴け」
「あ、はい」
いそいそと、サクナはマイネンへと近寄り、そして。
『マイネン。もう一度問います。銀糸の外し方は?』
『誰が、誰が言うか!』
「誰が言うか、だそうです」
「そうか」
木の実を口に叩き込み、閉じさせる。シャク、シャクと嚥下するマイネン。そして次の瞬間。
『ンギイイイイイイイイイイイイ!?アウホアアアアアアアアアアア!?イィイイイイイイイイイイイイイ!!!!!』
先程とは比べ物にならないようなうめき声。そして、全身の痙攣。小便は垂れ、鼻水、涙が吹き出していた。そして、切った足、そして削がれた肉がモリモリとその形を戻していく。
『ギュアホガアガガガガガイヒイイイイウハハハオカハアアアイィイイイイイイ!?』
「これは、これは」
「これは…」
サクナと二人、人間らしからぬ呻きをあげ続けるマイネンを眺める。なるほど、これが木の実の副作用ということか。もし、鴉に襲われた私が木の実を喰っていたら、と考えると恐ろしい。
「クマ、改めて、感謝」
「ヴ」
『ンイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!…は、あ。は』
おお、どうやら回復を終えたようだ。全身から汗が吹き出し、鼻血が出ている。だがまぁ、傷は全て癒えている。問題はないな。
「サクナ。聴け」
『マイネン。銀糸の外し方を教えなさい』
『は、は、は』
『教えなさい』
『だ、誰が、亜人、などに』
マイネンには敵意が見える。と、なれば、答えは。
「教えない、だそうです」
「そうか」
木の実を1つ取り出し、マイネンの顔の前に突き出す。それと同時に、わざと、刀が音を立つように左手を添えた。
『や、やめろ。それは、それは傷は治るが、激痛が、やめろ、亜人、やめろ!?』
私の狙いに気づいたのか、マイネンが判りやすく慌てだした。無論、やめてもいいのだ。話せばな。
「…やめろ、だそうです。姉様」
「教えぬ限り、永久に続く。―伝えろ」
耳打ちをするように、サクナが、マイネンに小さく囁いた。青ざめ、此方を見たマイネン。私が笑顔を浮かべて頷くと、真っ青な顔でマイネンは首を横に振ってみせた。関係ないと、刀を抜いて今度は腹を横一線に断ち切る。
『ギャアアアアア!』
劈く悲鳴。背骨までは切っていないが、内臓がごぽりと零れ出る。そして、木の実を口に含ませたのだが。
『ブハッ!…こんな物、喰ってたまるか!私とて王国の貴族。拷問など、されぬ。潔く、死を、選ぶ!』
「…姉様、マイネンは、拷問が続いても、答えず、死を選ぶと」
「ふむ」
木の実を吐いて、何を言うかと思えば。己等は我ら亜人の同胞を、洗脳まがいの道具で奴隷として扱っておきながら虫の良い。もう一度、木の実を近づけたが、意地でも口を開けないつもりだ。
ならばこうしよう。木の実を齧る。ジャリ、ジャリと、いい音が耳に伝わる。口の中でそれをすり潰しながら、マイネンの近くに歩み寄る。
『な、なんだ。何をしようと言うのだ。私は、情報は喋らんぞ!』
何かを言っている。だが、関係ない。マイネンの顔を右手で持ち、左手で鼻を塞いでやる。そして、その口に、私の口を引っ付ける。
『むぶっ!?』
「姉様!?」
そして、舌でマイネンの歯をこじ開け、すり潰した木の実を喉奥に無理やり流し込んだ。
『ぶはっ!?貴様、貴様正気か!?あ、あ!?イ、ギャ、ヌウウウンンンンンンンンン!!!!!????』
どういう苦しみ方だそれは。聴いていて、少々愉快だ。さてさて、ひとまずは、喋る気になるまではこのまま。何度でも傷をつけ、癒やしてやろう。
なんせ、こちとら1000年は刀を振り続けた亜人だ。単純作業を繰り返すことには、慣れている。