おにぎり   作:灯火011

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姉と妹、時々外野

「姉様!」

 

 サクナがそう叫び、私の肩を掴んで振り向かせた。視界に入ったのは、少々、恐ろしい形相のサクナの顔。眉間にシワなどよせて、ただ事ではない。

 

「どうした、サクナ?」

「どうしたもこうしたも!なんでこんな男に接吻など!」

 

 私は首を傾げた。なぜ、と問われても拷問のためだと言う他無い。

 

「首を傾げて!姉様!接吻はそこらへんの雑魚にしてはなりません!」

「む」

 

 そうか?まぁ、思えば顎を掻っ切って無理矢理食わせてもよかったが、それは後で使いたい。徐々に、徐々に。拷問とは、真綿で首を絞めるように、苦しみが増していかなければならん。

 

「序の口」

「序の口?」

「まずは、軽い拷問から。褒美、とも取れるような所から、徐々に重くして地獄にする。我が母より学んだ拷問術」

「母様から!?いえ、それでも、です!」

 

 ふむ。ここまで強く言うのならば、接吻はコレっきりにしておこう。サクナに相対して、頷いておく。

 

『ヌウウウウウウウウウウ………。う、お、は』

「あ、姉様、傷が治りました」

「ふむ。ならば」

 

 今度は聞かない。無言で、両の腕をぶった斬った。

 

『ンンギイイイイイイイイイイ!?』

「ヴ」

 

 クマがウンザリとしている。ああ、そういえば、抑えているままだったか。

 

「クマ。切れぬ蔦か何か、あるか?」

「ヴ」

 

 頷くクマ。ならば。

 

「それを持ってきてくれ。早めに」

「ヴ」

「替わりに、預かる。離して良い」

 

 私の言葉に再び頷いたクマは、男から手を離した。そして、目にも止まらぬ速さで森へと消えていく。うむ。では。

 

「セ」

 

 股間に、刀を突き刺し、地面に貼り付ける。

 

『イィイイイイイイイイイイイイ!?アアアアアアアアアア!?ウイイイイイイイイイ!!!!』

「まだ叫ぶなら、元気は有り余っているな」

「そのようです、姉様」

 

 ならば、しばらくこのままでいいだろう。さて、まぁ、ひとまず、妹と気絶している男の亜人を操っていた耳飾は私の手の中。時間は有り余っている。少し、順序が逆になってしまったが。

 

「サクナ。久しい。壮健でなにより。美しく育ったな」

「…ありがとうございます。姉様も壮健でなによりと存じます。相変わらず、お美しいお姿で羨ましい限りです」

 

 泣き叫ぶ男が横にいるのが締まらないが。まぁ、些細なことだ。改めて、姉妹の再会を喜ぶとしよう。

 

「世辞は不要。私は剣の道に生きている。しかし、本当に再会できたのは、嬉しい」

「私もです。まさか、こんな場所でお会いできるとは。その点においては、この国と、男に感謝しないといけません」

 

 グリ、とマイネンに突き刺さっている私の刀を捻るサクナ。一層、煩くなるが、まぁ、言葉の端々に見える恨みつらみは、この程度では晴れるものではないだろう。接吻であれほど慌てる妹だ。操られているとはいえ、人間の夜に突合された事実は、しこりになるだろうな。

 

「しかし、その恨みよう。200年前から諸々が積み重なったか。察するに、夜伽か」

「…それも1つ。お察しの通り。この男だけと肌を重ねただけではありません。歴代の王、重鎮、貴族。様々に相手をして参りました。幸い、姉様が不在になって200年後、母上より房中術は心得ておりましたので、割り切りは、出来ますが」

 

 マイネンの頭を軽く蹴りながら、苦い顔をしたサクナ。

 

「とはいえ、操られて、愛を植え付けられ、喜び相手をしていた。許せるものでもありません」

「そうか。まぁ、グチは、これからいくらでも聞こう」

「ありがとうございます」

 

 正直、マイネンは殺しても良いのだが、妹への仕打ちを考えると、簡単に殺すわけにもいくまい。せめて、妹と夜伽をした回数以上は、傷を癒やすとしよう。

 

「しかしサクナ。他にも、恨みの原因が?」

「…はい。やはり、殺し、ですね」

「殺しか」

 

 銀糸で操られていたとはいえ、おそらくは、喜び勇んで何者かを殺して回った、というのは容易に想像がつく。この、マイネンという男も、そして、この男が仕える王というのも、まぁ、俗物には変わりない。

 

「はい。15年前、亜人が我々を奪還しようとした、とお伝えしましたよね」

「ああ」

「その時、その首謀者を喜んで殺したのです。全く、我ながら、今思い出しても腸が煮えくり返る思いです」

「そうか」

 

 妹の顔が般若に変わる。うむ、苦虫どころか、とんでもないものを噛み潰したようだ。

 

「…グチは、聞く」

 

 とんでもない事だ。うむ。決めた。後で、この国の王にも数度は木の実を献上立て奉ろう。無論、膾切りを添えてやるが。まぁ、それは後でするとして、ともかくは、サクナの頭を撫でてやる。

 

「ともかくとして、苦労したのだな。よく、生きた」

「…ありがとうございます」

 

 大人しく撫でられているサクナの顔からは、般若は消え、少しの微笑みが戻っていた。うむ、今はそれで良い。マイネンに拷を掛け、問い、その憂さを少しでも晴らせれば良い。

 

「この際は」

 

 話を聴けなくてもいいだろう。何。サクナの記憶は無くなっていない。ならば、その王とやらの居場所も知っているだろう。

 

「所詮」

 

 我ら亜人を使わねば、脅威から身を守れぬ程度の弱者。何も、問題は無い。私のような、刀を振る、刀を抜くことにしか脳がない女の亜人であっても、負ける道理はない。

 

「サクナ」

「はい」

「1つ、疑問」

「なんなりと」

 

 そして、その王国とやらが、我が国を滅ぼしたのならば。一つの筋が通る。

 

「父、母。どこに居る?」

 

 我が記憶の中で、一等、飛び抜けた存在。それが、我が里の王になり、そして負けたというのならば。

 

「…姉様の想像通りかと」

 

 王国とやらに、居るに決まっている。そうか。ならば、より一層その王国とやらに足を運ばねばなるまい。

 

「別に」

 

 助けようという気はさらさらない。負けたのは、己の未熟さ故。きっと、父も母も受け入れているはず。故に。

 

「…死合」

 

 きっと、相対しさえすれば、叶うはず。私が知る最強との、最高の死合を。

 

「これは」

 

 にやりと頬が動く。1000年の研鑽が超えるに値するのか。それとも、妹のように、200年でナマクラになっているのか。ただまぁ、どちらにしろ些細なこと。

 

「楽しみ」

「…姉様?」

 

 怪訝な顔で此方を見つめるサクナ。気にするな、気にするな。この、刀に1000年を掛けた不出来な姉の独り言よ。まぁ、楽しみは後に取っておこう。では、そろそろ。

 

「喰わせるか」

 

 木の実を取り出し、マイネンから刀を抜いた。そして、喉笛に刀を添え、引く。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!』

 

 ひゅう、ひゅうと喉に空いた穴から、息が溢れる。なるほど、案外、人間も丈夫だ。では、治れ。

 

 喉に空いた穴に、木の実をねじり込む。そして、胃に向けて無理やり指でぐちゃりと押し込んでいく。すると。

 

『』

 

 声にならない悲鳴をあげ、全身が痙攣するマイネン。だが、やはり。

 

「これだけ刻み、潰しても、戻ろうとするか。凄まじい」

「本当にそう思います。この霊薬は並ではありませんね」

 

 びくん、びくんと陸にあげられたような魚になったマイネンの首、腕、陰部の肉がもりもりと盛り上がり、元の形に成っていく。はたから見れば、これもまた、化け物のような出来だ。

 

『・・・・・・・エエアアアアアアアアアウブブブブブウアガウヴヴヴヴヴヴヴ!!!』

 

 どうやら、喉笛が繋がったらしい。ふむ。ここまで来れば、また元通りになることは請け合いだ。

 

「サクナ。マイネンに聴け」

『さて、マイネン。どうです?話しますか?』

『…あ、ああ?あ、え?ああ?つ、剣姫?あ、何か、悪い夢を…』

「…なにやら、混乱しているようです」

「そうか。では、残念だ。もう一度、切る」

 

 さてさて、では、では。次は、どこを削ごう。目か。足か、それとも陰部をナマスに切るか。私は別に恨みはないが…。やはり、サクナに手を出されたと成っては、存外に、怒りを覚えているらしい。

 

「我ながら未熟。だが」

 

 この未熟さは、残しておいても良いものだろう。さてでは、お望みの通り、昼も夜も付きっきりで、相手をして進ぜよう。鳴いて喜べ、人間。

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