「姉様!」
サクナがそう叫び、私の肩を掴んで振り向かせた。視界に入ったのは、少々、恐ろしい形相のサクナの顔。眉間にシワなどよせて、ただ事ではない。
「どうした、サクナ?」
「どうしたもこうしたも!なんでこんな男に接吻など!」
私は首を傾げた。なぜ、と問われても拷問のためだと言う他無い。
「首を傾げて!姉様!接吻はそこらへんの雑魚にしてはなりません!」
「む」
そうか?まぁ、思えば顎を掻っ切って無理矢理食わせてもよかったが、それは後で使いたい。徐々に、徐々に。拷問とは、真綿で首を絞めるように、苦しみが増していかなければならん。
「序の口」
「序の口?」
「まずは、軽い拷問から。褒美、とも取れるような所から、徐々に重くして地獄にする。我が母より学んだ拷問術」
「母様から!?いえ、それでも、です!」
ふむ。ここまで強く言うのならば、接吻はコレっきりにしておこう。サクナに相対して、頷いておく。
『ヌウウウウウウウウウウ………。う、お、は』
「あ、姉様、傷が治りました」
「ふむ。ならば」
今度は聞かない。無言で、両の腕をぶった斬った。
『ンンギイイイイイイイイイイ!?』
「ヴ」
クマがウンザリとしている。ああ、そういえば、抑えているままだったか。
「クマ。切れぬ蔦か何か、あるか?」
「ヴ」
頷くクマ。ならば。
「それを持ってきてくれ。早めに」
「ヴ」
「替わりに、預かる。離して良い」
私の言葉に再び頷いたクマは、男から手を離した。そして、目にも止まらぬ速さで森へと消えていく。うむ。では。
「セ」
股間に、刀を突き刺し、地面に貼り付ける。
『イィイイイイイイイイイイイイ!?アアアアアアアアアア!?ウイイイイイイイイイ!!!!』
「まだ叫ぶなら、元気は有り余っているな」
「そのようです、姉様」
ならば、しばらくこのままでいいだろう。さて、まぁ、ひとまず、妹と気絶している男の亜人を操っていた耳飾は私の手の中。時間は有り余っている。少し、順序が逆になってしまったが。
「サクナ。久しい。壮健でなにより。美しく育ったな」
「…ありがとうございます。姉様も壮健でなによりと存じます。相変わらず、お美しいお姿で羨ましい限りです」
泣き叫ぶ男が横にいるのが締まらないが。まぁ、些細なことだ。改めて、姉妹の再会を喜ぶとしよう。
「世辞は不要。私は剣の道に生きている。しかし、本当に再会できたのは、嬉しい」
「私もです。まさか、こんな場所でお会いできるとは。その点においては、この国と、男に感謝しないといけません」
グリ、とマイネンに突き刺さっている私の刀を捻るサクナ。一層、煩くなるが、まぁ、言葉の端々に見える恨みつらみは、この程度では晴れるものではないだろう。接吻であれほど慌てる妹だ。操られているとはいえ、人間の夜に突合された事実は、しこりになるだろうな。
「しかし、その恨みよう。200年前から諸々が積み重なったか。察するに、夜伽か」
「…それも1つ。お察しの通り。この男だけと肌を重ねただけではありません。歴代の王、重鎮、貴族。様々に相手をして参りました。幸い、姉様が不在になって200年後、母上より房中術は心得ておりましたので、割り切りは、出来ますが」
マイネンの頭を軽く蹴りながら、苦い顔をしたサクナ。
「とはいえ、操られて、愛を植え付けられ、喜び相手をしていた。許せるものでもありません」
「そうか。まぁ、グチは、これからいくらでも聞こう」
「ありがとうございます」
正直、マイネンは殺しても良いのだが、妹への仕打ちを考えると、簡単に殺すわけにもいくまい。せめて、妹と夜伽をした回数以上は、傷を癒やすとしよう。
「しかしサクナ。他にも、恨みの原因が?」
「…はい。やはり、殺し、ですね」
「殺しか」
銀糸で操られていたとはいえ、おそらくは、喜び勇んで何者かを殺して回った、というのは容易に想像がつく。この、マイネンという男も、そして、この男が仕える王というのも、まぁ、俗物には変わりない。
「はい。15年前、亜人が我々を奪還しようとした、とお伝えしましたよね」
「ああ」
「その時、その首謀者を喜んで殺したのです。全く、我ながら、今思い出しても腸が煮えくり返る思いです」
「そうか」
妹の顔が般若に変わる。うむ、苦虫どころか、とんでもないものを噛み潰したようだ。
「…グチは、聞く」
とんでもない事だ。うむ。決めた。後で、この国の王にも数度は木の実を献上立て奉ろう。無論、膾切りを添えてやるが。まぁ、それは後でするとして、ともかくは、サクナの頭を撫でてやる。
「ともかくとして、苦労したのだな。よく、生きた」
「…ありがとうございます」
大人しく撫でられているサクナの顔からは、般若は消え、少しの微笑みが戻っていた。うむ、今はそれで良い。マイネンに拷を掛け、問い、その憂さを少しでも晴らせれば良い。
「この際は」
話を聴けなくてもいいだろう。何。サクナの記憶は無くなっていない。ならば、その王とやらの居場所も知っているだろう。
「所詮」
我ら亜人を使わねば、脅威から身を守れぬ程度の弱者。何も、問題は無い。私のような、刀を振る、刀を抜くことにしか脳がない女の亜人であっても、負ける道理はない。
「サクナ」
「はい」
「1つ、疑問」
「なんなりと」
そして、その王国とやらが、我が国を滅ぼしたのならば。一つの筋が通る。
「父、母。どこに居る?」
我が記憶の中で、一等、飛び抜けた存在。それが、我が里の王になり、そして負けたというのならば。
「…姉様の想像通りかと」
王国とやらに、居るに決まっている。そうか。ならば、より一層その王国とやらに足を運ばねばなるまい。
「別に」
助けようという気はさらさらない。負けたのは、己の未熟さ故。きっと、父も母も受け入れているはず。故に。
「…死合」
きっと、相対しさえすれば、叶うはず。私が知る最強との、最高の死合を。
「これは」
にやりと頬が動く。1000年の研鑽が超えるに値するのか。それとも、妹のように、200年でナマクラになっているのか。ただまぁ、どちらにしろ些細なこと。
「楽しみ」
「…姉様?」
怪訝な顔で此方を見つめるサクナ。気にするな、気にするな。この、刀に1000年を掛けた不出来な姉の独り言よ。まぁ、楽しみは後に取っておこう。では、そろそろ。
「喰わせるか」
木の実を取り出し、マイネンから刀を抜いた。そして、喉笛に刀を添え、引く。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!』
ひゅう、ひゅうと喉に空いた穴から、息が溢れる。なるほど、案外、人間も丈夫だ。では、治れ。
喉に空いた穴に、木の実をねじり込む。そして、胃に向けて無理やり指でぐちゃりと押し込んでいく。すると。
『』
声にならない悲鳴をあげ、全身が痙攣するマイネン。だが、やはり。
「これだけ刻み、潰しても、戻ろうとするか。凄まじい」
「本当にそう思います。この霊薬は並ではありませんね」
びくん、びくんと陸にあげられたような魚になったマイネンの首、腕、陰部の肉がもりもりと盛り上がり、元の形に成っていく。はたから見れば、これもまた、化け物のような出来だ。
『・・・・・・・エエアアアアアアアアアウブブブブブウアガウヴヴヴヴヴヴヴ!!!』
どうやら、喉笛が繋がったらしい。ふむ。ここまで来れば、また元通りになることは請け合いだ。
「サクナ。マイネンに聴け」
『さて、マイネン。どうです?話しますか?』
『…あ、ああ?あ、え?ああ?つ、剣姫?あ、何か、悪い夢を…』
「…なにやら、混乱しているようです」
「そうか。では、残念だ。もう一度、切る」
さてさて、では、では。次は、どこを削ごう。目か。足か、それとも陰部をナマスに切るか。私は別に恨みはないが…。やはり、サクナに手を出されたと成っては、存外に、怒りを覚えているらしい。
「我ながら未熟。だが」
この未熟さは、残しておいても良いものだろう。さてでは、お望みの通り、昼も夜も付きっきりで、相手をして進ぜよう。鳴いて喜べ、人間。