おにぎり   作:灯火011

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人との食事

 さてさて、何度かナマスにしてから木の実を食わして居る。のだが。

 

『はー…はー…』

『話す気になりましたか?マイネン』

『…だれ、が、話すか…』

 

 首を横に振りなら、こちらを睨むマイネン。どうやら、この男の精神とやらはなかなか驚異的であるらしい。

 

「こうなると短時間では難しそうですね、姉様」

「うむ」

 

 まぁ、もとより短時間で済ます気ははい。むしろ好都合、と言ったところだ。それに。

 

「ヴ」

 

 クマが蔦を持って帰ってきた。ならばと、クマから蔦を受け取って、適当な木に縛り付ける。

 

『ぐ、離せ、亜人』

「言葉が判らん。だが、言っていることは』

 

 判る。まぁ、概ね、離せといったところか。首を横に振りなら、蔦を締め上げる。

 

『ぐう』

 

 少し潰れるような声を出し、マイネンは此方を睨む。さて。ひとまずこれでこの男が逃げるということは無くなった。

 

「クマ、確認」

「ヴ?」

「この蔦、切れない?」

「ヴ」

 

 頷くクマ。そして、その爪でマイネンを結んでいる蔦の余りを切ろうとなぞる。だが。

 

「ヴ」

 

 どうよ、と言わんばかり。クマの爪でも、表面に傷が着くだけだ。ほうほう。

 

「頑丈」

「ヴ」

 

 ならば安心だろう。さて、では。

 

「サクナ、クマ。大狼。飯にしよう」

「はい」

「ヴ」

「キャウ」

 

 夜食。ちょうどクマが獲ってきた魚がまだ残っているし、再々に木の実や蓮の実はまだまだ蓄えがある。改めて、妹と、そして同種との再開を祝うとしよう。

 

 

「これは、硬いながらも旨味が溢れますな!いやはや、良いものを食わせて頂き恐悦至極!」

 

 同族の男。捻じれ一本角が特徴的で、見た目は歳老いているカキサが、嬉しそうに魚を喰らっている。パチ、パチと焚き火が燃え、天には光が瞬いている。

 

「姉様。美味しいです」

「そうか」

 

 サクナも満足している様子。ボリ、ボリと骨ごと喰らうあたり、気に入ったと見える。そして、無論。

 

「ヴ」

「キャウ」

「ガウ」

 

 クマや、白、黒大狼達もそれを食らっている。なにせ、今日の立役者たちだ。彼らがいたからこそ、妹に会えたと言ってもいい。

 

「感謝、感謝」

 

 私も魚を喰らいながら、告げる。彼らは総じて、首を横に振りなら、鳴く。かまわないよ。と言わんばかりだ。そして。

 

「ガ」

 

 あの怨敵の鴉も魚を啄んでいる。どうやら、クマらとは敵ではないが味方でもない、その程度の関係性らしい。

 

「カラス」

「ガ」

「腹の傷、忘れぬ」

「ガ…」

 

 少々気まずい感じが鴉から漂うのは、少々面白い。まぁ、それに、この会話で判った。この野生たちは総じて言葉が通じる。致死の森。死、どころか、面白く、生が溢れている。

 

「良い、良い」

 

 ガブリと魚を喰らい、蓮の実をジャグりとヤル。うむ。旨い。サクナ、カキサらも、ジャグ、ジャグと木の実や蓮の実を喰らう。

 

 最初こそ。

 

「姉様…?これ、本当に食べても?」

「剣姫のアネサマ、先程の激痛…」

「問題ない。数は有る。それに、傷が治れば痛みはない」

 

 と、説明が必要なほどにおどろおどろしいものを見る目で見ていたが、何、喰い始めればこの通りよ。

 

「しかしこの実達、痺れが来ますがな。癖になる。そして味は良い。いやはや、これは旨いですぞ」

「本当ですね。我々の王城での食事を考えると…天と地と言っても…」

「ははは、思えばそうですな。滓のような穀物、滓のようなスープ、我らがいくら頑丈とはいえ、なかなかの仕打ちでしたなぁ」

 

 言葉の端々に見える、差別の痕跡。1000年の年月は、人間と我々の関係を変えてしまっている。私の記憶にある人間は、笑顔であり、騙す気などさらさらない。酒を、食材を持ってくる替わりに、力を貸す。そんな関係だった。

 

「まぁ」

 

 現は移ろうもの。私より腕の立ったサクナは弱く、しかし美しくなった。私は研鑽を積み、それよりも強くなった。知らぬ同族の男、カキサが産まれた。そして良好だった人間との関係は、奴隷と主人という関係にまで落ちぶれた。

 

「別に」

 

 同族を助けるという気はまぁ、多少はあるが。騙すも騙されぬも亜人の度量によるもの。しかもこの結果を招いたのは我が父だという。ならば。やはり。この結果は受け入れて然るべき物だろう。

 

「なにより」

 

 もし、滅ぼす気ならば今頃このサクナは亡き者。だが、生きているということは、何がしかに亜人が役に立っているこということであろう。例えばそれは犬のように。

 

「姉様?」

 

 などと堂々と巡らせているとサクナが心配そうに顔を覗き込んでいた。首を振って、頭を撫でてやる。

 

「気にするな。私事だ」

「さようですか」

 

 まぁ、ただ、やはり。この愛しい妹と共に夜を明かした奴らにはお礼参りはせねばなるまいて。決意を新たにしながら、ふと、1つ気になった。

 

「サクナ」

「はい、何でしょう、姉様」

「耳飾、付けてみろ」

 

 それは、マイネンから奪った耳飾。金色のものがおそらくサクナ、青色のものがおそらくカキサ。

 

「私は見ての通り全部、付けた」

「はい。だから、正直驚いています。それ、もしかして賊…が盗んだもの、ですかね?」

「…おそらく、あれは賊だろう。なんだ、サクナ、事情を知っている?」

「はい」

 

 サクナ曰く、私のこの具足は国から盗まれたものだという。国宝らしい。

 

「ほう」

 

 関心のため息が出た。国が厳重に保管していた、亜人を己が物に出来る呪物か。となれば、この国はまだまだ亜人が見つかれば奴隷に落とすつもりだった、のかもしれない。それともこれ以上奴隷を作らないために保管していた、とも考えたが。

 

「あの男」

 

 マイネンが居るような国だ。その線は薄い。まぁ、今はその話は片隅に置いておこう。妹の目を見る。

 

「始末として、私はこの呪物を全部付けた」

「ですね」

「するとどうだ。クマや、大狼達と渡り合う際、力が増した」

「え」

 

 驚くサクナ。私が差し出した耳飾と、私の装具を交互に見る。

 

「つまり、この具足と、この耳飾。別体でつければ奴隷に落ちる。だが、もしかすると、同時に取り付ければ」

 

 耳飾とサクナの手に置いた。

 

「力が上がる、かもしれぬ」

「はは、まさか」

 

 受け取りながら、サクナは耳飾と改めてじいっと見つめる。カキサにも同じ様に耳飾を渡すと、豆鉄砲を食らった鳩のように、目をぱちくりとさせていた。

 

「しかし、剣姫のアネサマ。その話が本当だとして、アネサマはこう、何か可笑しい所はないのですかね?」

「おかしい?」

「ええ。我らはどうも、好き嫌いの感情を操られたりだとかしていたわけですな。となれば、何がしか、変わったことと言うか」

「ふうむ?」

 

 首を傾げる。変わったこと。思いつかぬ。強いて言えばクマと良い感じに死合えたこと。

 

「…刀を上手く扱えた?」

「そういうものではないですよ、姉様。もっとこう、感情的なところ、と言いますか」

 

 サクナもそんな事を。ふむ。どうだろうか、私は何か変わっただろうか?なぁ、クマ。

 

「ヴ?」

 

 ガリガリと魚を喰らいながら、私の視線に気づいたクマの首が横に振られた。どうやら、私は私のままらしい。

 

「やはり、変わりなし」

「…左様ですか。そうですねぇ…」

 

 サクナは何か考えるように耳飾を見つめ、そして、天を仰ぐ。

 

「まぁ、また誰かに操られるよりは」

 

 そう言って、こちらに顔を向けた。同時に、その耳に、耳飾を無理やり突き刺していた。滴る血に耳飾が濡れる。ふむ、無茶をする。

 

「どうです?姉様。似合いますか?」

「…うむ。よく似合う。お前らしい色だ」

 

 金色と、そして流れる赤が美しい耳飾。そして、漂う銀糸。はたから見れば妖精のように儚げに美しい。

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