おにぎり   作:灯火011

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にてん、さんてん。

 善は急げ。思い立ったが吉日。色々な諺があるが、ともかくとして、昔から速く行動することは良いとされる。のだが。

 

「ヴ」

 

 クマに挨拶に行ったところ、待て、と言わんばかりにむんずと捕らえられてしまった。左手で抱えて、どうにもこうにも。地に足もつかん。あれだ、まるで、幼子が抱く人形の様な有様だ。

 

「ふふ。おにんぎょさんみたいで可愛いですよ、姉様」

「嬉しくはないが」

 

 妹はなぜか捕まっていない。なぜだ。それにしても、私を連れてどこにいこうというのかこのクマは。先程から、私の拠点からずんずんと離れている。

 

『んんん!?』

『だまらっしゃい!』

 

 後ろからはあいも変わらず変わらぬうめき声。カキサが、マイネンを背負って私の後を付いてきている。無論、ただ背負っている訳では無い。

 

『ングッングウウウ!』

 

 カキサが歩くと、マイネンが呻く。背負い籠にはマイネンに突き刺さるようにササクレが立てられている。そこに肉体を引っ掛けられ、蔦で固定されてる。あれは地味だが地獄だろう。そして。

 

「キャウ」

 

 それを監視するように、白い大狼も付いてきている。マイネンは逃げも隠れも出来ないわけだ。ちなみに黒狼はどうやら、巣に戻っている様子だ。鴉も、姿を見せていない。

 

「ヴ」

 

 クマが足を止めた。それに合わせて、サクナも、カキサも、大狼も足を止めた。私は中にぶらりんと足が振られる。ふむ。

 

「泉か」

 

 蓮の実が採れる泉。清らかな水が湛えられたこの泉に連れてきて、このクマはどうしようと言うのだろうか?と、カキサの背中を指さした。

 

「クマ、あの男か」

「ヴ」

 

 ふむ。どうやら、あの男をどうにかしたいらしい。まぁ、ならば。

 

「殺しは?」

「ヴ」

 

 首を横に振った。なるほど、マイネンを殺しはしないと。クマの言う事ならまぁ、信じていいだろう。

 

「サクナ。カキサに言伝。マイネンをクマに」

「判りました。姉様」

 

 そっと、クマの腕が私を地面に降ろす。そして、今度はカキサの背中の背負い籠から、マイネンを右手で掴み上げた。

 

『んぬおおお!魔獣、魔獣!!!ああ、ああ!?』

 

 ふむ。大混乱といった具合であろうか。言葉が判らんので、喚いているようにしか聞こえん。と、クマはそのマイネンを掴んだまま、泉へと近寄る。そして。

 

『うおぉ!?沈める気か!魔獣!ああ、くそっ、ひと思いにやれえええ!だが、1つたりとも喋ってなるものか!』

 

 マイネンを抱えたまま、泉の中へずんずんと足を進めていく。そして、泉のど真ん中に来た時に。

 

「ヴ!」

 

 思いっきり、マイネンを、力の限り、湖の中に沈めた。大きな水しぶきが起こり、波が我々の足元に届く。

 

「…クマ、何を」

 

 しているんだ。そう、呆れそうになった時。不意に、月の光がクマと、マイネンが立っている場所を照らし上げた。

 

「ヴ」

 

 よしよし、と言わんばかりに頷くクマ。そして、沈め続けられるマイネン。すると。

 

「ヴ!」

 

 クマが気合を入れるように叫ぶ。そして、左手を少し掲げて、何かに狙いを定めるように、爪を鋭く、水面を眺めている。

 

「クマ?」

 

 何をしているのだろう。サクナや、カキサを見てみても、全く彼らもあっけに取られるばかり。唯一、大狼が静かにその光景を見守っている雰囲気を醸している。そして、刹那。

 

 ザバァ!とクマがその掲げた左腕を、マイネンの沈んでいる場所に鋭く突き刺した。

 

「クマ?」

『な!マイネン!?魔獣がトドメを!?クソっ、この程度で死なせてなるものか!』

 

 何かを叫びながら、カキサが木の実を取り出しつつ、クマの元へと駆け出したのだが。

 

「キャウ」

 

 大狼が飛びかかり、カキサを押さえる。ふむ。邪魔するな、と言わんばかりだ。アレは一体、何をやっているのか。

 

 そして、数分。泉の中でマイネンに何がしか、細工をしているようなクマを眺めていると。

 

「ヴ」

 

 クマが、マイネンを泉から引き上げ、そして此方に歩みを進めていた。そして、我々の足元にマイネンを投げる。ふむ。

 

「息は」

「あるようですね、姉様」

 

 数分沈められた割には、顔の血色も良い。そして、呼吸も安定している。これは一体、どういうことだろうか?

 

『大狼!離せ!マイネンにはまだ恨みがある!』

「キャウ」

 

 視界の端では、落ち着きなさいと言わんばかりに、大狼がカキサを押さえている。

 

「これはどういう」

 

 事なのだろうか。首を傾げる。するとクマが、左の腕をこちらに近づけた。

 

「ヴ」

 

 顎でそれを示すクマ。見てみろ、と言わんばかりだ。ならばと、左の腕をしげしげと眺めてみる。

 

「…ん?」

 

 そこには、キラリと光る糸のようなもの。まるでこれは。

 

「銀糸、ですかね?クマ殿」

「ヴ」

 

 サクナの言葉に、クマが頷く。んん?なぜ、クマが銀糸を持っている?その疑問に応えるように。

 

「ヴヴ」

 

 クマが指を指したのは、マイネンの頭。もしや。

 

「この銀糸、マイネンの頭から取り出した?」

「ヴ」

 

 その通り、と頷くクマ。む、どういうことだ?サクナを横目で見てみれば、信じられないと言った目で、マイネンと銀糸と、そしてクマを見比べていた。

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