おにぎり   作:灯火011

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ぎんのいと

『ッハァ!?』

 

 マイネンが飛び起きた。そして、キョロキョロと周囲を窺い、顔を驚愕させている。どうやら、意識もしっかりと有るようだ。と、サクナの顔を見たマイネンが、すがるように近づいていた。

 

『ここは、どこだ!?ああっ!?剣姫ではないか!?王の守護はどうされたのだ!?』

『何を言っているんですかマイネン。貴方に付き従えと、王より命ぜれたのですよ?』

『そんなはずは!?あ、いや、ここは何処なのだ』

『何処って、何を今更。ここは致死の森です』

『いや、いや、可笑しい。可笑しいぞ!?なぜ私は致死の森なんぞに!?王より、王城に呼び出されて領地から出向する馬車に乗った…はず』

『…はぁ!?』

 

 するとだ。私を見たマイネンが、私の顔を見ると一気に青ざめる。そして、指を指しながら、眉間に皺を寄せて何がしかを告げた。

 

『な、そちらのお方は…なんと、痛ましいお姿か。銀糸、輪が四肢と頭に…』

『マイネン?』

 

 サクナが何か戸惑っている。だが、マイネンの首根っこを掴んで、無理やり立たせ、そして、怒号を浴びせていた。

 

『マイネン貴様。今更何、何を知らん顔などしている!!銀糸、輪はお前等が我々を縛るために付けたものだろうが!好きでもないお前に抱かれた夜、忘れておらぬぞ!』

『いや、まて、まて、何か誤解だ。お前を抱いてなど居ない!』

『巫山戯るな貴様!銀糸で私を操って、あれほど精を注いだだろうが!覚えてないとは言わせん!』

『いや、いや、いや!覚えておらん!全く、覚えておらん!そもそも私は妻以外のモノを抱いたことがない!』

 

 何やら、サクナとマイネンの押し問答が始まったようだ。言葉が変わらず判らん。ただ、尋常では無いことが起きている事は、判る。

 

「クマ」

 

 私が声をかけると、再度、銀糸を此方によこしてくれた。

 

「ヴ」

 

 手を差し出すと、それをそっと、私の手の平に置いてくれる。器用なものだ。しかし…この銀糸。私の周りにまとわりつくそれと同じもの、だとは思うのだが。あまりにも短い。私の周りに漂うものが数メートルあるのであれば、コレは数サンチ。切れっ端といってもいいだろう。

 

「これが、あの男の頭に」

「ヴ」

 

 頷くクマ。…このクマ、何を知っているのやら。言葉が判り、私より強い。それでいて、事情も知っている。全く、それならば人間の言葉の1つぐらい話せというのだ。この銀糸だって、意味が判らん。

 

「整理」

「ヴ」

 

 クマがこちらを見た。ならば、思考を整理していこう。

 

「まず、銀糸は、同じもの」

「ヴ」

 

 頷く。

 

「しかし、短い。これには理由がある」

「ヴ」

 

 頷く。

 

「お前は、この銀糸がマイネンの頭に入っていたことを、最初から知っていた」

「ヴヴ」

 

 首を横に振る。どうやら、そういうわけではない。

 

「…途中で気づいた?」

「ヴ」

 

 頷く。途中で、この男の頭に、銀糸が入っていることが判った。となれば…心当たりは、ある。

 

「木の実の回復の痛み。口を割らぬマイネン」

「ヴ」

 

 そこだ、と頷く。確かに、私であっても、カキサのような亜人であっても悶え苦しむ痛み。それをただの人間が食らって、丈夫な訳がない。大丈夫じゃないが、大丈夫だった。しかも、何度も何度も昼夜問わずに行われていた拷問にも関わらず、マイネンは自我を保ちつづけ、口を一切割らない。

 

 …クマに、もう1つ聴いておくとしよう。

 

「銀糸について、確認。あれは、精神を操る、道具である」

「ヴ」

 

 頷く。そうか、やはり精神を操る物である。

 

「しかも、在り方を根本から変える呪物」

「ヴ」

 

 頷く。ああ。となれば、この場合。マイネンは、銀糸を仕込まれた、奴隷の人間と言える可能性がある?いや、だがその場合、サクナの説明と少し矛盾が出る。それは、どうだ?

 

「銀糸は亜人、だけに効くわけではない?」

「ヴ」

 

 深く、頷く。なるほど、亜人以外にも銀糸は通じるとクマは言う。…これは読めてきた。ダメ押しで、もういくつか。

 

「亜人を抑えるためには、私のような長さが必要」

「ヴ」

 

 頷く。なるほど。この長さの銀糸があれば、耳飾で奴隷に成り下がるということだ。となれば。

 

「人間ならば、少量で、良い」

「ヴ」

 

 頷く。ああ、ここまで来れば、大体の整理はできた。となれば、となれば…。

 

「可能性は、2つか」

「ヴ」

 

 クマが此方を見る。おそらくは、同じ考えであろうか。答え合わせにと、口を開く。

 

「マイネンが自ら望んであの精神を手に入れた」

 

 クマが頷く。つまりは、この耳飾の応用だ。王か、それとも他のマイネンと同じ重鎮。それに耳飾を渡し、銀糸を仕込まれ、このような強固な精神を作り上げた。滅私奉公。素晴らしい忠誠心。それかあるいは。

 

「マイネンが、誰かに銀糸を、仕込まれた」

 

 クマが頷く。そうなると話は変わる。つまり、ここで拷問を受けたマイネンは、本来の精神ではなかった。妹を甚振ったというのも、例えば、操る主の命であればそれが正義と映る、と考えていいのだろう。私と相対し、刀を抜いたサクナのように。

 

「どちらかは」

「ヴヴヴ」

 

 クマが首を横に振る。そこまでは、判らんと。まぁ、ココから先はどうにでもなろう。強靱な精神の元は、クマが断ち切った。

 

 口を割らせるには、もう、あと1つ。背中を押してやれば、その隠している秘密の扉は。

 

「すぐに、開く」

 

 カチャリと左手を刀にかける。―と、その前に1つ。

 

「クマ。私の銀糸、外せるか?」

「ヴヴ」

 

 それは無理。とばかりに首を振った。ふむ。

 

「どうしても?」

「ヴ」

 

 頷く。どうしても駄目らしい。マイネンの銀糸は外せる。しかし、私の銀糸は外せない。何某か、原因があるには違いないのだろうが。まぁ、ならば。手っ取り早く。マイネンから聞き出すのが。

 

「疾いか」

 

 ぬる、と刀を抜いて、マイネンに歩み寄る。

 

『知らぬ、知らぬぞそんなこと!?お前ほどの美人を抱けたのならどれだけいいかとは思うが!?』

『貴様、巫山戯るな!殺しもさせただろう!?』

『殺し!?私が命じたというのか!?』

『そうだ!知らぬとは!』

『し、知らぬぞ。知らぬぞ!?…いや、いや、まて。まて。何か、何か思い出せそうだ』

『何を思い出すというのだ、今更!』

 

 さて、サクナ。お前は一旦落ち着け。そして、おそらくとんでもない事態が起こっている事はわかるのだが。

 

「言葉が」

 

 判らん。故に、落ち着いて通訳をしてくれ。頼むぞ。

 

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