おにぎり   作:灯火011

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マイネン

 地面に頭を付けて微動だにしない男を、サクナ、カキサ、私の3人で見下ろす。

 

「サクナ。確認」

「はい」

「マイネンは、何をしている?」

 

 頭を地面に付けて、両手を肩幅に広げて頭の横に、そして足は折りたたんで居る。そして、今までの拷問のせいで素っ裸。一見すれば、これはつまり。

 

「…謝罪です」

「謝罪」

 

 サクナが言いづらそうにするのも判る。謝罪とは。

 

「何について」

「………」

「サクナ?」

 

 むす、と。眉間にしわを寄せ、握りこぶしなんぞを作って。今にもマイネンを殴り倒そうな雰囲気だ。カキサも同様に、眉間にシワが寄り、こめかみには血管が浮かんでいる。

 

『すまぬ。全ては思い出せぬが、断片的に思い出した。すまぬ。すまぬ!』

『…信じられるか今更!おま、お前!忘れたとは言わせない!』

『然り!マイネン!お主がこのサクナ殿に命じて殺した我が父母の顔、未だに忘れておらんぞ!』

『すまぬ、すまぬ、すまぬ!』

 

 猛烈に責め立てるサクナとカキサ。ただただ謝るマイネンと言った具合だろうか。…言葉が判らんが、まぁ、雰囲気。おそらくは、外れていない。

 

「…これは、つまり。とびきりの厄介事だ」

「ヴ」

 

 そうだな、と、こちらを見守っていたクマに、小さく頷かれた。おそらくは、この手に持っている銀糸が諸悪の根源というところか。

 

 …ひとまず、事の顛末を軽くまとめよう。銀糸を取り除かれ、そしてサクナにすがっていたあのマイネン。私が刀を持って近づくと、恐ろしい顔で此方を見た。

 

『ああ、やめ、やめろ。話す、話す!全て話す!ああ、思い、思い出してきた!ああ、私は、とんでも、とんでもない事を!』

『何を世迷言を!まだ言うのか!』

『違う、違う!剣姫。私は、私は、お前を抱きたいと思ったこともない!亜人を傷つけたりなどするものか!』

『何を根拠に!』

『我が家は亜人の加護により、300年前より繁栄した一族!私はその末裔ぞ!恩こそあれど、恨みなど!』

『ならばなぜ私や、この生き字引に酷い真似を!』

『わからん。わからん!ああ、だが、だが、私の意志ではない!ああ、クソっ。ああ、なんて、なんてことを私は!』

 

 なにやら、その直後から押し問答が始まり、そして気づけばマイネンは地面に頭を付けていた。

 

「サクナ。落ち着け」

「姉様!?これが落ち着いていられますか!この男、今更、言うに事欠いて謝罪など!!!」

「いや、サクナ。落ち着け」

「止めるというのですか、姉様!それは、いくら姉様と言えど!」

 

 違う。止めたいとかそういうのではなく。

 

「言葉、判らぬ」

「言葉ですか!?姉様なにを巫山戯て…あ」

 

 気づいたか、サクナ。そうだ。お前と、カキサ、マイネン、そしてなぜかクマも現世の言葉は通じている。だが、ここに現世の言葉が判らぬ阿呆が一人いるのだ。

 

「…取り乱しました。申し訳有りません」

「良い。落ち着いてくれたなら、良い」

 

 ぽん、と頭に手を置いてやる。サクナの一本角を軽く触ると、くすぐったそうに頬を緩めた。

 

「さて、サクナ。全部とは言わんが、かいつまんだ程度、現状を教えろ」

「もちろんです、姉様」

 

 未だ、睨みを効かせるカキサと、縮こまるように地面に頭を付け続けるマイネンを横目に、サクナから話を聞いた。

 

「単刀直入に言えば、銀糸で操られていたと言っています。お望みの事は全て、話すと。そして、彼が王城に来てから行った私や他の亜人への行動、そして、15年前の騒動。それについても全て、悪かったと謝罪をしています」

「…ほお」

 

 先程クマに確認した内容、おおかたそのまま、と言った所か。銀糸で操られていた、と。

 

「とはいえ、怪しさは」

「ええ」

 

 残る。命乞い。その可能性も消えてはいない。もしかすれば、この場を切り抜け、外に逃げ出す気かもしれん。…と、考察はしたが。

 

『すまぬ。すまぬ。この通りだ。すまぬ!ああ、クソッ!ああ!』

『黙れいい加減に!』

 

 カキサにブたれながらも、まだ、まだ謝り続けるマイネンを見ていると、どうも、怪しさは薄い気がする。根拠は無いが、直感だ。

 

「サクナ」

「はい」

「ひとまず、話を聞くとしよう」

「姉様!?この男から!?

「そうだ。話すのだろう、全てを」

「そう、言っていますが…しかし、こちらを油断させて隙をみて逃げる気かもしれませんよ!?」

 

 冷静になれサクナ。まずは、言い分ぐらいは聴いていいだろう。すべて話すと言っているのだから。それに。

 

「もし、変わった仕草、変わった言の葉を言えば、全員で切る」

 

 ただの人間が逃げられる訳がない。野生と、亜人の包囲網。抜け出せるのは、そうそう思いつかん。

 

「…判りました。姉様。姉様の言う通り、話を聞くとします」

「ん。無理をさせる」

「いえ。冷静になれば、確かにそれが一番手っ取り早いです」

「言葉は、任せた」

「もちろんです」

 

 頷いたサクナが、マイネンへと歩み寄り、肩へと触れた。ビクリと体を震わせたマイネンだが、にさん言の葉をサクナと交わすと、よろよろと立ち上がり、私の目の前にやってきた。

 

『…お心遣い、感謝致します。2本角の麗しい、亜人殿』

『…姉様に下心を向けているなマイネン!』

『あ、いや、いや!?違う、違う。心の底から思ったまで!勘違なさらないで頂きたい剣姫殿!』

『勘違い!?何を勘違いだ!』

『いや、いや、落ち着いてくれ!…あ、いやまて』

『なんだ!』

『もしや、剣姫殿とこちらの2本角の亜人様…身内か?』

『は?』

『いや…今、徐々に思い出してきたのだが…。同じ味がした気がしてな…?』

『………貴様!すぐに忘れろ!ああっ!姉様もこんなやつに接吻などするからぁ!』

 

 …挨拶?かと思ったのだが、何やらサクナから非常に強い殺気を感じた。のだが、クマはどこか呆れ気味。ふむ。反射的に刀に掛けた右手を放し、マイネンへと顔を向ける。

 

「サクナ?」

「あ…いえ、ええと。お心遣い感謝と言っています」

「そうか。では、単刀直入に1つ。この銀糸の外し方を」

「畏まりました。姉様」

「ああ、それと」

 

 サクナに、木の実を1つ手渡す。

 

「銀糸の効果が同じならば、拷問の記憶も残っているはずだ」

「…なるほど。コレを見せて、聞くわけですね」

「頼んだ」

 

 頷いたサクナは、悪い顔をしてマイネンへと向き合った。

 

『マイネン。この銀糸の外し方を言え』

『銀糸…いや、それは…』

『記憶がないのか?』

『いや、そういう訳では無い。徐々に、思い出してきている。だが、銀糸の外し方というのは…』

 

 何か言いづらそうにしているマイネン。ふむ。ならばと目配せを行えば、頷くサクナが居た。

 

『マイネン。何でも話すんですよね?それとも、木の実の餌食になりたいですか?記憶はお有りなのでしょう?』

『あ、あ、それは、そんなものを出すな!あ、あ、あ』

 

 む。マイネンが急に小便を。これは、漏らした?いや、いきなり。どうしたというのか。

 

『…汚いですね。で、なぜ言わない?』

『あ、あ、あ、ああ!?あ、あ、ち、ちがう。いわない、じゃない』

『言わないじゃない?訳のわからないことを、素直に答えなさい』

『あ。あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああ、はず、せない』

『外せない?銀糸が、外せない?』

『あ、あ、あ、あ、い、い、いいか、げんに、その実を、しまって、くれぇ!!!』

 

 何やら大声を出して、マイネンが地面に蹲ってしまった。大の男が小便、大便、鼻水、涙。それこそ出せるものを全て出しながら、だ。ふむ…。これはどうやら。

 

「拷問、効果的だったか」

「はい、そう思います。姉様」

 

 銀糸は、操られこそすれど、その間の記憶は残っている。なれば、どっちにしろ、この強烈な痛みと、切断された痛みは、マイネンの中に残っている。その元凶たる木の実を見せられれば、それを想起するのも無理はない。

 

 なんせ、この7日。休まずに切られ、食わされ、切られ、食わされをやっていたのだから。

 

「…で?マイネンはなんと?」

「それが、はずせない、と辛うじて」

「ふむ」

 

 はずせない。これはやはり、詳しく話を聞く必要がありそうだ。そして、本来ならばクマにも話を聞きたいのだが…。

 

「ヴ?」

 

 私の視線に気づいて、首を傾げたクマ。お前、なんでこのマイネンから銀糸を取り出せたのだ。マイネンは外せぬと言ってるぞ。全く、訳のわからないことというのは、続くものだ。

 

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