地面に頭を付けて微動だにしない男を、サクナ、カキサ、私の3人で見下ろす。
「サクナ。確認」
「はい」
「マイネンは、何をしている?」
頭を地面に付けて、両手を肩幅に広げて頭の横に、そして足は折りたたんで居る。そして、今までの拷問のせいで素っ裸。一見すれば、これはつまり。
「…謝罪です」
「謝罪」
サクナが言いづらそうにするのも判る。謝罪とは。
「何について」
「………」
「サクナ?」
むす、と。眉間にしわを寄せ、握りこぶしなんぞを作って。今にもマイネンを殴り倒そうな雰囲気だ。カキサも同様に、眉間にシワが寄り、こめかみには血管が浮かんでいる。
『すまぬ。全ては思い出せぬが、断片的に思い出した。すまぬ。すまぬ!』
『…信じられるか今更!おま、お前!忘れたとは言わせない!』
『然り!マイネン!お主がこのサクナ殿に命じて殺した我が父母の顔、未だに忘れておらんぞ!』
『すまぬ、すまぬ、すまぬ!』
猛烈に責め立てるサクナとカキサ。ただただ謝るマイネンと言った具合だろうか。…言葉が判らんが、まぁ、雰囲気。おそらくは、外れていない。
「…これは、つまり。とびきりの厄介事だ」
「ヴ」
そうだな、と、こちらを見守っていたクマに、小さく頷かれた。おそらくは、この手に持っている銀糸が諸悪の根源というところか。
…ひとまず、事の顛末を軽くまとめよう。銀糸を取り除かれ、そしてサクナにすがっていたあのマイネン。私が刀を持って近づくと、恐ろしい顔で此方を見た。
『ああ、やめ、やめろ。話す、話す!全て話す!ああ、思い、思い出してきた!ああ、私は、とんでも、とんでもない事を!』
『何を世迷言を!まだ言うのか!』
『違う、違う!剣姫。私は、私は、お前を抱きたいと思ったこともない!亜人を傷つけたりなどするものか!』
『何を根拠に!』
『我が家は亜人の加護により、300年前より繁栄した一族!私はその末裔ぞ!恩こそあれど、恨みなど!』
『ならばなぜ私や、この生き字引に酷い真似を!』
『わからん。わからん!ああ、だが、だが、私の意志ではない!ああ、クソっ。ああ、なんて、なんてことを私は!』
なにやら、その直後から押し問答が始まり、そして気づけばマイネンは地面に頭を付けていた。
「サクナ。落ち着け」
「姉様!?これが落ち着いていられますか!この男、今更、言うに事欠いて謝罪など!!!」
「いや、サクナ。落ち着け」
「止めるというのですか、姉様!それは、いくら姉様と言えど!」
違う。止めたいとかそういうのではなく。
「言葉、判らぬ」
「言葉ですか!?姉様なにを巫山戯て…あ」
気づいたか、サクナ。そうだ。お前と、カキサ、マイネン、そしてなぜかクマも現世の言葉は通じている。だが、ここに現世の言葉が判らぬ阿呆が一人いるのだ。
「…取り乱しました。申し訳有りません」
「良い。落ち着いてくれたなら、良い」
ぽん、と頭に手を置いてやる。サクナの一本角を軽く触ると、くすぐったそうに頬を緩めた。
「さて、サクナ。全部とは言わんが、かいつまんだ程度、現状を教えろ」
「もちろんです、姉様」
未だ、睨みを効かせるカキサと、縮こまるように地面に頭を付け続けるマイネンを横目に、サクナから話を聞いた。
「単刀直入に言えば、銀糸で操られていたと言っています。お望みの事は全て、話すと。そして、彼が王城に来てから行った私や他の亜人への行動、そして、15年前の騒動。それについても全て、悪かったと謝罪をしています」
「…ほお」
先程クマに確認した内容、おおかたそのまま、と言った所か。銀糸で操られていた、と。
「とはいえ、怪しさは」
「ええ」
残る。命乞い。その可能性も消えてはいない。もしかすれば、この場を切り抜け、外に逃げ出す気かもしれん。…と、考察はしたが。
『すまぬ。すまぬ。この通りだ。すまぬ!ああ、クソッ!ああ!』
『黙れいい加減に!』
カキサにブたれながらも、まだ、まだ謝り続けるマイネンを見ていると、どうも、怪しさは薄い気がする。根拠は無いが、直感だ。
「サクナ」
「はい」
「ひとまず、話を聞くとしよう」
「姉様!?この男から!?
「そうだ。話すのだろう、全てを」
「そう、言っていますが…しかし、こちらを油断させて隙をみて逃げる気かもしれませんよ!?」
冷静になれサクナ。まずは、言い分ぐらいは聴いていいだろう。すべて話すと言っているのだから。それに。
「もし、変わった仕草、変わった言の葉を言えば、全員で切る」
ただの人間が逃げられる訳がない。野生と、亜人の包囲網。抜け出せるのは、そうそう思いつかん。
「…判りました。姉様。姉様の言う通り、話を聞くとします」
「ん。無理をさせる」
「いえ。冷静になれば、確かにそれが一番手っ取り早いです」
「言葉は、任せた」
「もちろんです」
頷いたサクナが、マイネンへと歩み寄り、肩へと触れた。ビクリと体を震わせたマイネンだが、にさん言の葉をサクナと交わすと、よろよろと立ち上がり、私の目の前にやってきた。
『…お心遣い、感謝致します。2本角の麗しい、亜人殿』
『…姉様に下心を向けているなマイネン!』
『あ、いや、いや!?違う、違う。心の底から思ったまで!勘違なさらないで頂きたい剣姫殿!』
『勘違い!?何を勘違いだ!』
『いや、いや、落ち着いてくれ!…あ、いやまて』
『なんだ!』
『もしや、剣姫殿とこちらの2本角の亜人様…身内か?』
『は?』
『いや…今、徐々に思い出してきたのだが…。同じ味がした気がしてな…?』
『………貴様!すぐに忘れろ!ああっ!姉様もこんなやつに接吻などするからぁ!』
…挨拶?かと思ったのだが、何やらサクナから非常に強い殺気を感じた。のだが、クマはどこか呆れ気味。ふむ。反射的に刀に掛けた右手を放し、マイネンへと顔を向ける。
「サクナ?」
「あ…いえ、ええと。お心遣い感謝と言っています」
「そうか。では、単刀直入に1つ。この銀糸の外し方を」
「畏まりました。姉様」
「ああ、それと」
サクナに、木の実を1つ手渡す。
「銀糸の効果が同じならば、拷問の記憶も残っているはずだ」
「…なるほど。コレを見せて、聞くわけですね」
「頼んだ」
頷いたサクナは、悪い顔をしてマイネンへと向き合った。
『マイネン。この銀糸の外し方を言え』
『銀糸…いや、それは…』
『記憶がないのか?』
『いや、そういう訳では無い。徐々に、思い出してきている。だが、銀糸の外し方というのは…』
何か言いづらそうにしているマイネン。ふむ。ならばと目配せを行えば、頷くサクナが居た。
『マイネン。何でも話すんですよね?それとも、木の実の餌食になりたいですか?記憶はお有りなのでしょう?』
『あ、あ、それは、そんなものを出すな!あ、あ、あ』
む。マイネンが急に小便を。これは、漏らした?いや、いきなり。どうしたというのか。
『…汚いですね。で、なぜ言わない?』
『あ、あ、あ、ああ!?あ、あ、ち、ちがう。いわない、じゃない』
『言わないじゃない?訳のわからないことを、素直に答えなさい』
『あ。あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああ、はず、せない』
『外せない?銀糸が、外せない?』
『あ、あ、あ、あ、い、い、いいか、げんに、その実を、しまって、くれぇ!!!』
何やら大声を出して、マイネンが地面に蹲ってしまった。大の男が小便、大便、鼻水、涙。それこそ出せるものを全て出しながら、だ。ふむ…。これはどうやら。
「拷問、効果的だったか」
「はい、そう思います。姉様」
銀糸は、操られこそすれど、その間の記憶は残っている。なれば、どっちにしろ、この強烈な痛みと、切断された痛みは、マイネンの中に残っている。その元凶たる木の実を見せられれば、それを想起するのも無理はない。
なんせ、この7日。休まずに切られ、食わされ、切られ、食わされをやっていたのだから。
「…で?マイネンはなんと?」
「それが、はずせない、と辛うじて」
「ふむ」
はずせない。これはやはり、詳しく話を聞く必要がありそうだ。そして、本来ならばクマにも話を聞きたいのだが…。
「ヴ?」
私の視線に気づいて、首を傾げたクマ。お前、なんでこのマイネンから銀糸を取り出せたのだ。マイネンは外せぬと言ってるぞ。全く、訳のわからないことというのは、続くものだ。